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2008.05.21

    

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クリフトとアリーナへの想いはPart9
145 名前: 歩兵  Mail: sage 投稿日: 2008/05/21(水) 21:37:04 ID: v6HI/LT90

牢獄の花 1

「クリフト様、お茶をおもちしました」
クリフトは眉をあげる。そこには小柄なで垢抜けしていない、いかにも
純朴そうな娘がいた。ほんのりと頬を染めている。
「ありがとう、リンダ。そこへ置いておいてください」
リンダと呼ばれた娘は肯き、カップをテーブルに置く。
「寒くありませんか。他に何か必要ありませんか。何なりとおっしゃって
下さい」
「そんなに気を使わないで下さい。私は賓客ではないのだから」
「いいえ。クリフト様は、ここにいるべきお方ではないと信じてます」
リンダは迷いもなく言い切る。クリフトは苦笑する。
ここはガーデンブルクの地下牢。勇者達一行は二日前、この城にたどりついた。
ところが首飾りを盗んだとの言いがかりをつけられ、女王の裁きを受けた。
クリフトの見たところ、女王は彼らが犯人だとは思っていないようだった。
にもかかわらず、彼女は勇者にこう命じた。
「自分達が犯人でないというなら、あなたがたの手で真犯人を見つけ
なさい。ただし、逃亡しないように、一人人質として預からせてもらいます」
勇者は仕方なくそれを受け入れた。そして誰を人質にするかについて、
「全員必要なメンバーだ。誰か一人をなんて選べない。くじで決めよう」
となり、くび引きが行われた。そして見事当たりを引いたのが、われらが
神官クリフトだった、という経緯である。
「すまない、クリフト。調査が一段落したら戻ってくる。そうしたらまた
くじ引きして交代するから」
勇者は本当にすまなそうにクリフトにわびたが、アリーナは
「クリフト、せっかくだからずっとここで暮らしたら? 女ばっかりでハーレムじゃん」
などとはしゃいだものだった。
かくてクリフトは一人地下牢にて過ごすこととなった。
若く健康な男にとって、ろくに日もあたらぬ地下牢に終日閉じ込められる
というのは拷問でしかない。ましてや、愛するアリーナと離れ離れに
なって過ごさなくてはならないなんて、とても耐えられない。

「ああ、もどかしい。俺も一緒に冒険したい」
「俺のいない間に、姫が勇者あたりといい仲になったりしたら…」
あげくには、
「そもそも、どうして俺なんだ。回復役で剣も使える俺よりも、人質に
ふさわしい人はいるだろうに」
などと、平素なら絶対にしない思考までがクリフトの脳裏をよぎった。
そのクリフトのところへ、ガーデンブルクの女性兵士が入れ代わり立ち代わり
に訪れる。
最初は、よほど逃亡を警戒されているのか、と思った。しかし彼女たちは
そんなそぶりも見せず、ただクリフトの様子をうかがい、遠巻きにして
見守っているだけだった。
クリフトには理由はわからなかったが、城の中ではクリフトは一躍アイドル
となっていたのだった。もともと男が滅多に訪れない女の園、そこへ
現れたのは知的な容貌と頑健な肉体をあわせもつクリフトである。興味を
ひかない方がおかしかった。
と言っても、彼女たちがクリフトと直接口をきくことはない。その役目は、
もっぱらリンダという純朴な娘が担当だった。彼女は女王に命じられて、
クリフトの世話をすることになっているらしい。
「女王様だって、クリフト様たちが犯人ではないとおわかりのはずです。
でも、訴えがあった以上無条件で釈放するわけにもいかないんです。
すいません、クリフト様をこんな所に閉じ込めたりして」
「別にあなたのせいじゃないですよ、リンダ」
クリフトは穏やかに言った。リンダがさらに頬を染める。
リンダは最初からクリフトに好意的だった。寒くないようにと毛布や
布団を運び込み、クリフトの希望を知って聖書を差し入れたり、そして
お茶やお菓子と細々と世話を焼く。
リンダはどうもクリフトに好意を持ち始めたらしい。クリフトは正直喜ぶ
よりも当惑していた。俺は勇者とともに世界を救うという使命があるし、
何よりも愛する人がいる…。
そう考えて、クリフトはため息をつく。

今日で3日目。勇者たちはまだ戻って来ない。何をしているのやら。
そのクリフトのため息を耳にし、リンダはあわてた。
「あの、クリフト様、何か私お気にさわりました?」
「え、いや、何もないけど」
クリフトは自分のため息がリンダを誤解させたと知り、慌てて言った。
「すまない、リンダ。ただ勇者達はまだ戻って来ないのかなと思って、
ついため息をついてしまいました。あなたのせいじゃありません」
「そうですか…でも」
「でも?」
「勇者様達が真犯人を見つけてお戻りになられたら、クリフト様もここを
出ていかれるのですね」
そう独り言のようにつぶやくと、はっと我に返って言った。
「やだ、私何を言って…ク、クリフト様、これで失礼します」
リンダは大きな足音を立てて出ていった。鍵を開けっ放しにして、である。
やれやれ、と思いつつもクリフトは門番を読んで鍵を締めさせた。
勇者達は今日も戻らなかった。

4日目。
リンダは今日もやってきて、自分が焼いたというケーキとお茶をもって
かいがいしくクリフトの世話を焼く。
「クリフト様、外の話を聞かせていただけませんか。私、生まれたときから
ずっとガーデンブルクで過ごしたので、外の国を知らないんです」
リンダが目を輝かせる。クリフトも退屈していたことであり、望まれるまま
話をした。サントハイムのこと。エンドールの武術大会のこと。勇者たちと
ともに今まであちこち冒険してきたこと。
どの話になっても、クリフトはいつも最後はアリーナの話題になった。
リンダは黙って聞いていた。クリフトが話し終わると、リンダは寂しそうに
「クリフト様は、本当にアリーナ様を愛していらっしゃるんですね」
そう言い、そして去っていった。
後にはクリフトが一人残された。
いつしか夜になっていた。今日も勇者達は戻らなかった。
俺は必要ないのか? 俺なしでこれから冒険するつもりなのか?
クリフトはそんな思いにとらわれ、激しく落ち込んでいた。

5日目。
今日もリンダはクリフトの元に来ていた。
俺はいつまでここに閉じ込められているんだ。クリフトの苛立ちは頂点
だった。温和なクリフトとしては珍しいことだった。
リンダは懸命にクリフトをなだめ、気を紛らわそうといろんな話をした。
「大丈夫ですよ、勇者様もアリーナ様もきっとすぐお戻りになります」
何度もリンダはそう言い聞かせた。クリフトはこの無関係な少女に
慰められる自分を恥じた。
「リンダ、すいません。あなたに当たったりして」
「いいえ、全然気にしません。でも、もし本当に勇者様たちがお戻りに
ならなかったら、ここで私と…」
「…」
「ごめんなさい。忘れて下さい。私、どうかしてるんです」
「リンダ…」
クリフトはリンダを見つめる。
そう、ここでリンダと暮らして何が悪いというのだろう。勇者達が自分を
必要としていないなら、俺は自分を必要としてくれる女と一緒に暮らしても
誰からも文句を言われる筋合いはない…。
そう考えて、あわててクリフトはその思いを振り払った。
いけない、自分は何を考えているのだろう。
リンダは去っていった。今日も勇者たちは戻らなかった。

6日目。
昼を大きく過ぎたというのに、今日はリンダが来ていない。どうしたんだろう。
いつしかリンダは、クリフトにとって大きな存在になっていった。
門番に聞いてみる勇気もなく、ただクリフトは落ち着きをなくし、そんな
自分が情けなくて、聖書を読んで懸命に心を落ち着かせていた。
「クリフト殿、出られよ。勇者殿がお戻りだ」
クリフトの前に現れたのはリンダではなく、門番だった。
クリフトはあわてて身を起こし、一路牢の外へと駆け出した。

「遅くなってすまなかった、クリフト。洞窟が想像した以上に大きくて、
戻ろうにも戻れずに、結局最深部まで行って盗賊を倒してきたんだ」
勇者がクリフトに詫びる。
「いいえ、疑いがはれて助かりました」
クリフトは答える。彼らは王女に再びまみえ、最後の鍵や天空の防具を
受け取り、城を後にすることになったのだった。
「クリフトは女に囲まれて楽しくやってるだろうから、放っておいて
あげようかって私勇者に言ったんだけどね」
アリーナがクリフトに笑いながら言う。さすがのクリフトもムッとする。
見送りの人々に挨拶しながら、クリフトはその中にリンダの顔を見つめた。
遠目にでもすぐわかった。懸命に涙をこらえているようだった。
「俺がここでリンダと暮らして、何が悪いんだろう」
再びクリフトにその思いがよぎった。クリフトは振り返り、勇者を見た。
「俺、ここに残ります」
まさにその言葉を発しようとした瞬間、アリーナの言葉が先に届いた。
「ほらクリフト、何してるの。ここで休んでた分、これからあなたには倍も
頑張ってもらうんだからね。早く来てよ」
クリフトはアリーナを見た。アリーナは悪戯っぽい笑みを浮かべている。
その笑顔に、クリフトは一瞬で身も心も吸い込まれる思いを感じた。
ごめん、リンダ。やはり、俺はこの人にはかなわない。
「はい、姫さま。今まいります」
クリフトはそう言うと、振り返ることなくアリーナの元へ駆けていった。

fin