|新しいページ|検索|ページ一覧|RSS|@ウィキご利用ガイド | 管理者にお問合せ
|ログイン|

2007.04.10

    
クリフトとアリーナの想いはPart7
253 :ザオラル1/5 ◆XJ3Ut0uuQQ :2007/04/10(火) 12:29:29 ID:9hWYl6470

クリフトの一日が、祈祷で始まり祈祷で終わるのは昔からのことだ。
しかし、ここ最近のクリフトの打ち込みようは、普通ではなかった。
まだ暗いうちに起き出して、不寝番の者に馬車に戻るよう伝えると、
東の空に向かって一心に祈りの言葉を唱え始める。
神への感謝を捧げ、祈りを終えて腰を上げるころには、
だいたい、東の地平線に朝日が指し染め、壮大な朝焼けが始まっていた。
クリフトは、目を細めてその光景をしばらく眺めると、
ようやく起き出してきた面々と共に、朝食の準備を始めるのだった。
それ以外にも、毎回食事の前には感謝の祈りを欠かさなかったし、
また、日の入りと就寝前にもそれぞれ長い祈りを捧げていた。

「ねえ、なんでクリフト最近そんなにお祈りしてるの?」
朝食の席でアリーナがクリフトに尋ねた。
「なんでと言われましても…私は神官ですから。」
クリフトは何でもないようにさらりと流したが、アリーナは食い下がった。
「だって、旅に出たばっかりの頃は、こんなに、いつもいつもお祈りしてなかったじゃない。」
これは、ごまかせそうにないなとクリフトは苦笑すると、小さい声で答えた。
「…実は、ザオラルを覚えることができないものかと思いまして。」
「ザオラル?」
アリーナは首をかしげた。
勇者が、はっとクリフトの方を見たが、クリフトは気づかない振りをしていた。

「ザオラルって蘇生呪文だっけ?それって禁呪じゃないの?」
サラダをつついていたマーニャが不審そうな顔をする。
「確かに、許可された教会の神父以外の者が、みだりに蘇生呪文を扱うことは
禁止されていますが……私に禁呪なんて、今さら、ですから。」
即死の禁断呪文を操る神官は、こともなげに肩をすくめて見せた。
「あんたも不良神官になったわね…まあ、でも、ザオラルが遣えれば一大戦力よ。
せいぜい頑張って覚えてちょうだい。」
「はい、頑張ります。」
マーニャの言葉に頷くクリフトに、アリーナが横から釘を刺した。
「でも!無理はしちゃダメだからね!クリフト!」

朝食の後、案の定クリフトの後を勇者が追ってきた。
「クリフト!」
「なんですか?ソロさん。」
「お前、ザオラルって…、ホントなのか?」
クリフトの左手を見ながら勇者は口ごもる。
クリフトは、勇者に正面から向き直ると、ため息をついて見せた。
「あなたには、随分みっともない姿をさらしてきましたが…
 もう、禁呪でオロオロするようなマネはいたしません。
 それに、蘇生呪文は、禁呪といっても、人を癒し、回復するという、
神官系呪文の究極の形と考えても良いですし…。」
ただ、と左手を上げて、苦く笑う。
「これがあるせいか、ザオラルを唱えるのに必要なだけの、聖なる気が、
どうにもうまく集まらないんですよ。」
それで、毎日祈祷をして身を清めることに精を出してるんです、
と空を見上げるクリフトを、勇者はじっと見ていたが、やがて、ポツリといった。

「俺も、ザオラル、学べないかな…?」
「ソロさんが?」
クリフトは驚いて勇者を見た。
「そうですね…。聖職者以外の人間が蘇生呪文を使う、というのは
聞いたことはありませんが…ソロさんだったら、あるいは。」
清浄なオーラを放ち、時として天空から雷を呼び寄せさえする不思議な少年。
彼ならば、たとえ前例はなくとも、蘇生呪文を扱って見せるかもしれない。
むしろ、闇を飼っている自分などよりもよほど…。
「…でも、ザオラルは禁呪ですよ?」
からかい気味に問うと、
「俺に禁呪なんて今さら、だろ?」
勇者は、先ほどのクリフトの言葉をなぞって、不遜な笑いをして見せた。
その勇者の表情を見て、クリフトはからかい顔を改めた。
聖なる雷を呼び寄せ、天空の兜を身にまといながらも、この少年は神を信じていない。
―――神に祈ったって、神様は、何もしてくれやしない。
以前、彼が呟いた言葉。
彼は神を信じない、恐れない。
彼が恐れているのは、神でも魔物でもなく、唯一つ、仲間が欠けること。
―――自分のせいで失われる命を、これ以上見たくない。
クリフトには、蘇生呪文を学びたいという勇者の言葉に隠された、
勇者の、孤独に対する恐怖が、手に取るように分かった。

クリフトは、小さく吐息をつくと、悲しげな瞳で勇者を見つめた。
どうしたら、この少年に分かってもらえるのだろう。
自分とは違って、彼には、神に愛される資格がある。
辛い試練を課そうとも、神は、勇者を愛し見守っているのだ、ということを。
クリフトは、心の中で、勇者に呼びかけた。
―――神様だけじゃない、私も、姫様も、皆、あなたと一緒にいます。
―――だから、あなたは1人じゃない…1人だけで頑張ろうとしないで下さい。
自分は、辛いとき彼に助けられた。
だから、今度は、自分が彼を助けたい、とクリフトは強く思う。
例え微力であっても、彼の力になりたい。
この命は―――愛する姫のものだけれど。
でも、もし、自分が彼と一緒にいることが、少しでも彼の救いになるのならば、
自分は最後の闘いの場まで、彼と歩みを共にしよう。
そして全てが終わったとき、彼がまた神の愛を信じることができるよう、心から祈ろう。

しかし、それを言葉にする代わりに、クリフトは勇者に向かって頷いた。
「分かりました、ソロさん。…一緒に、ザオラルの修行をしましょう。」
そして、勇者を軽く睨んだ。
「そうとなったら、今までみたいな寝坊は許しませんよ。容赦なく叩き起こします。
朝晩みっちりと、精進のためのお祈りをしてもらいますからね。」
「…俺、早起きもお祈りも、苦手なんだけどな…。」
勇者は、口を尖らせながらも、どこかほっとしたような顔をした。

「へーっ、で、結局、あんた達2人ともザオラル使えるようになったわけ?」
「すごいことだわ…。ひとつのパーティにザオラル遣いが2名もいるなんて。」
数ヵ月後、夕食の席で誇らしげに報告する勇者に、マーニャとミネアは感心の声を上げた。
あっけらかんとアリーナが言う。
「そっか、じゃ、これからは戦闘中に死んでも安心ねっ。」
「「冗談じゃない!」」
2人の蘇生呪文の術者は、アリーナの言葉に声をそろえて目をむいた。
「このクリフト、命に代えても姫様のお命に危険が及ぶようなマネはさせません!
姫様に蘇生呪文なんて、考えただけでもぞっとします!」
「安心して死んだりなんかしたら、絶対に蘇生呪文なんかかけてやらないからな!」
まくしたてる2人に、アリーナがたじたじとなった。
「なによう…それじゃ、蘇生呪文覚えた意味がないじゃない…。」
ミネアがアリーナの頭をなでながら言った。
「蘇生呪文なんてお守りみたいなもので、使わないに越したことはないのよ。」
マーニャが片目をつぶって言った。
「そうそう、どんなときにも、いのちだいじに、が肝心ね!」
それを聞いた勇者は、少し目を見張ると、次の瞬間、心からうれしそうに笑った。