クリフトとアリーナの想いは @ wiki

2007.02.10

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kuriari

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クリフトのアリーナへの想いはPart6
917 :828ペギー ◆XJ3Ut0uuQQ :2007/02/10(土) 12:01:21 ID:x91RMrEZ0

ここは、モンバーバラの劇場。
パノンをスタンシアラ王のところに連れて行きたいと頼む一行に、座長は、ある条件を出した。
その条件とは。
勇者一行のうち、地元であるマーニャ・ミネア以外の誰かが、劇場で拍手喝采を浴びたら、パノンを連れて行っても良い、というのだ。

「しかし、あのおやっさんの考えてることは分かんないよなぁ。
素人の俺らに芸をさせて、どうしようってんだ?」
楽屋で首をかしげる勇者に、マーニャはひらひらと手を振った。
「いつものことよ。新しい才能の発掘が座長の道楽なのよ。」
そして、にんまりと楽しそうに皆を見回した。
「…で?誰が芸をやるわけ?」
「はいはいはーーい!」
アリーナが元気良く手を上げた。
「私が、大岩を空手で割ってみせると良いと思う~!!」
「お、それいいな!」
身を乗り出す勇者に、クリフトが慌てて叫ぶ。
「だめです!姫様にこのようなみだらなところで芸をさせるなど!」
「ちょっと!今の言葉は聞き捨てならないわね。」
目を三角にしたマーニャに、トルネコがおずおずと声をかけた。

「マーニャさん、私に駄洒落ショーをさせていただけませんか?」
「…は?」
「私の駄洒落、スタンシアラ王には通じませんでしたが、ここならばっ!」
「…。」
無言のマーニャに代わってクリフトが答えた。
「いいですね。トルネコさんの駄洒落は面白いですから、きっと受けますよ。」
「…面白がってたのはお前だけだ、クリフト。」
勇者が小さい声でつぶやいた。

案の条、トルネコの駄洒落は全く受けなかった。
「皆さん、私のお腹のことばっかり言って、聞いてくれやしない…。
ねえ、私って、みんなが言うほど太って見えますかね。」
うなだれて戻ってきたトルネコの肩を、ブライがぽんぽんと叩いた。
「気にされるなトルネコ殿。かくなる上は、わしが高等魔法で客をあっと言わせてみせようぞ!」
「…どうしてこう、オヤジ連中ばかりが出たがるのかしら…。」
胸を張ったブライに、マーニャはひそかにため息をついた。

ブライは運が悪かった。
最前列に酔っ払いの集団がいて、舞台に出たブライにブーイングの嵐をかませたのだ。
「かえれ!かえれ!」「ブーブー!」
「…っこの、無礼者!」
ブライの杖の先から氷の柱がほとばしった。

「何考えてるのよ、じーさん!ヒャドでお客さんなぎ倒すなんて、この劇場が閉鎖になっちゃったらどうすんのよ!」
怒り心頭、といった感じのマーニャだったが、ブライは全く聞いていなかった。
「このブライ、こんなはずかしめを受けたのは、初めてですぞ!」
「ちょっと、人の話しを聞きなさいよー!!」
「姉さん落ち着いて!ここでドラゴラムはだめよ!!」

うなだれるトルネコ、怒りに体を震わすブライを遠くから見守る若者3人組。
「ねえ、クリフト、やっぱり私が大岩割を・・・。」
「だよなあ、アリーナ。」
「だめですったら、だめです!」
そこへ、先ほどから部屋の隅で静かに座っていたライアンが声をかけた。
「どうだろう、クリフト殿。我々2人で剣舞を踊るというのは。」
「けんまい…?何それ?」
はてなマークを顔に貼り付けた勇者に、クリフトが説明した。
「剣を使って行なう舞のことですよ。『けんぶ』とも言います。
…そうですね…私の剣舞は、本来、神に捧げるものですが…。」
クリフトは、顎に手をあてて考えんでいたが、ややするとライアンに向き直った。
「…神学的な解釈の部分を除けば、こちらで踊っても許されるかと思います。」
よし、とライアンが、腰を上げながら言った。
「拙者の方は、宮廷の典礼用のものだが、何、基本は変わらん。
拙者とクリフト殿なら、ぶっつけ本番でも大丈夫だろう。」

ライアンとクリフトは、多少の打ち合わせを行なったのみで、舞台に上がった。
筋骨隆々の堂々たる戦士と、すらりと端正な神官の取り合わせに観客は沸いた。
「おお!新顔だー!」「なんかやれー!」「とりあえず脱いどけ!」
盛り上がる観客の声援とやじに、ライアンは顔をしかめた。
「男に向かって脱げとは、今日の客は趣味が悪すぎる。」
「仕方ありません、はじめましょう、ライアンさん。」
2人は剣を抜くと、切っ先を合わせた。

演技が始まると、観客は、2人の息のあった舞に釘付けになった。
ライアンは猛々しく直線的な動きで、迫力のある太刀筋を残し、クリフトの優美で繊細な剣の動きが、柔らかくそれに絡む。
「わー、クリフト達、かっこいいね!ソロ!」
舞台裾でこれを見ていたアリーナは、隣の勇者に囁いた。
勇者は目を輝かせて2人の演技に見入っていたが、次第にそわそわし始め、とうとう、「俺もやりたーーい!」と、剣をひっつかむと舞台に飛び出した。

クリフトは、いきなり飛び出てきた勇者に、ぎょっと目を見張った。
一瞬注意が逸れたところに、ライアンの剣が斜め上から舞い降りてきた。
クリフトは、はっと体をそらせたが、間に合わない。
ライアンの剣の切っ先が、神官服を斜めに切り裂いた。
ざすっ。
アリーナの悲鳴が上がった。

ライアンは、剣を振り下ろした格好のまま、固まっていた。
クリフトも、体をのけぞらせた姿勢のまま、動かない。
勇者は、蒼白な顔で凍りついたように棒立ちになっていた。
観客席は静まり返り、咳一つ聞こえてこない。

そのとき。
ばさ。
クリフトの肩から神官服が滑り落ちた。

クリフトは、ぎりぎりのところでライアンの刀をかわしていた。
並みの人間であれば、完全に袈裟切りになっていたところだ。
しかし、体さえ傷つかなかったものの、ライアンの鋭い剣先は、クリフトの服を右肩から左裾にかけて、アンダーシャツに届くまで、ざっくりと切り破っていた。
神官服は重い。
切られた神官服は、その重みに耐えかね、アンダーシャツもろともクリフトの体を滑り落ち、クリフトは、片肌脱ぎの状態になった。

「!!!!」
観客席はどよめいた。

「なななっ!」
クリフトはパニックになって服をかき集めようとしたが、そのとき、アリーナの心配そうな声が耳に入った。
「クリフト、大丈夫!?」
振り向くと、アリーナが今にも舞台裾から飛び出しそうにしている。
それを見て、クリフトの頭は一瞬にして冷えた。
このまま、クリフト達が演技途中で引っ込めば、一行の目ぼしい演し物は、あとはアリーナの大岩割くらいしか残っていない。
クリフトは、ぐっと歯を食いしばると、ライアンに言った。
「ライアンさん、このまま続けましょう!」
…勇者はこっそり舞台裏に消えていた。

「…なーんか、客が前よりエキサイトしてない?」
再開した演技を、客席の後方で見ていたマーニャがミネアに尋ねた。
「そりゃあやっぱり、ストイックな神官服からのチラ見せっていうのは万人共通のそそるコンセプトですもの♪」
クリフトさんお肌も綺麗だし、と嬉しそうに言うミネアに
「…ミネア、あんたって一体…。」
マーニャは呆れた視線を向けたのだった。

2人の演技が終わった後は、拍手喝采、アンコールの嵐が鳴り止まなかった。
座長は2人を絶賛し、クリフトとライアンに対し、旅が終わったら是非戻ってきて劇団に参加して欲しいと言ったが、
毛布を体に巻きつけたクリフトは、涙目で答えた。
「二度とゴメンですっ。私は人前で踊ったり脱いだりするのはイヤですよ。」

この後しばらくは、勇者はクリフトに口を聞いてもらえなかったらしい。
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