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2007.01.28

    
クリフトのアリーナへの想いはPart6
843 :828(1/6):2007/01/28(日) 01:03:59 ID:Fv+Qc1d60

宿で会った老人に案内され、病人が寝ている部屋に入った瞬間、
その禍々しい空気に息が止まりそうになった。
ベッドに力なく横たわる、神官だと言う青い髪の青年。俺より、少し年上かな。
そいつの周りを、黒々とした霧が取り巻いている。
その霧は悪意に満ちて、青年を食らい尽くそうとしているように見えた。
俺の背後で、ミネアが、小さな悲鳴を上げた。
―――ミネアにも、見えるんだな。
「ソ、ソロさん…近づくと、うつるかもしれません…。」
ミネアが「うつる」って言っているのは病気のことじゃないって分かっている。
でも…。
「ひ、めさ、ま…」
そのとき、青年が何かをつぶやいた。
「私…お、守りします…。ひめ…。」
何を言っているのかは良く分からなかったけれど、その言葉の切実な響きは、
俺の心の中の何かに触れた。
―――こいつを、助けたい。
何故だか、強烈にそう思ってしまった。
他の皆に聞こえないよう、小さい声で、ミネアにささやく。
「あの黒いの、どうやったら追っ払えるんだ?」
「本人の体力と気力次第…。でも、あの方は、病で弱っているようですね…。
もう、あの闇を払う体力は残ってないのではないかと思います…。」
痛ましそうにミネアがつぶやく。
「てことは、病気が治れば、あいつが自力で黒い奴を追っ払えるってことか?」
「本人の、気力次第ですけど…。」
「よし。」
俺は、皆の方を向いて叫んだ。
「俺たちも、ソレッタにパデキアを探しに行くぞ!」

その後、いろいろあったが、俺たちは万病に効くというパデキアの根っこを持ち帰った。
その神官…クリフトが、パデキアの根っこを煎じた薬を飲み干した次の瞬間に、
奴の周囲を取り巻いていた黒い霧は文字通り霧散した。

クリフトが回復し、クリフト、ブライ、アリーナの3人が、導かれし者達だって分かり、
彼らがパーティに加わることになり、そんなてんやわんやの翌日。
俺達が朝食を食べていると、二階から足音が聞こえてきて、クリフトが下りてきた。
へえ。こいつの神官服姿、初めて見た。
さらさらの青い髪、整った顔、すらりと伸びた背筋。
それらを神官服に包んだクリフトの姿は、どこから見ても、「神官です!」って感じで、
俺は何だかおかしくなってしまった。
ミネアが、気遣わしげに尋ねた。
「クリフトさん。もうお加減はよろしいんですか?」
「ええ、まだ少しふらふらしますが、大丈夫です。本当にお世話をおかけいたしました。」
「ダメだよー、クリフト、まだ寝てなきゃ。」
アリーナが口を尖らしてクリフトに駆け寄る。
「大丈夫ですよ、姫様。ご心配をおかけして申し訳ありません。
皆さんを長く足止めするわけにも行きませんし、少しずつ体を慣らさなければ。」
アリーナの頭を愛しそうになでながら、クリフトが微笑む。
…なんだか、これって、ただの主人と臣下、って感じじゃねえよなぁ…。
2人の姿をぼんやり眺めていたとき、ふと、クリフトの左手に違和感を感じた。
―――黒い霧が…まだ、残っている?

結局、俺達はクリフトの体力回復を待って、1週間ほどミントスで過ごすことにした。
その間、俺は注意深くクリフトを観察していた。
ミネアに聞いたところによれば、そもそも、あの黒い霧は、闇の力によるものらしい。
人が取り付かれた場合、払わなければ、そのうち取り込まれて殺されるんだそうだ。
闇を、障りなくその身の内に飼うことができるのは、魔の物だけ…。

でも、クリフトからは、魔物の気配はしない。どっちかっていうと、教会のぼーさん臭い。
どういうことなんだ?これは。

クリフトの体力もすっかり回復し、翌日、ミントスを離れるという日の夕方。
俺は、クリフトを外に呼び出した。
道々、どう話を切り出すか悩んだが、回りくどいことは得意じゃない。
結局、港の上の小高い丘の上に着くと、単刀直入に聞くことにした。
「あのさ、クリフト。あんたの左手。なんかおかしくねぇ?」
クリフトは、この質問を予想していたんだろう。ため息をつくと、小さく笑った。
「やはり、ソロさんは、気づいてらっしゃったんですね…。」
そして、クリフトはぽつりぽつりと語り始めた。
「ザキ」という禁呪のこと。それを習得するためには闇の力の召還が必要なこと。
「私の場合、焦る余りに、体力が低下しているところに無理に大きな力を召還して
しまったようで、あのようなことになりましたが、…もう大丈夫です。」
「って、今回みたいに、また、あんたが病気や怪我になったときは?大丈夫なのか?」
俺の言葉に、クリフトは右手で、左手首を握りこむ。
「もはや、この闇の力は私の体の一部。私が弱ったり死んだりすれば、それに応じて
闇の力も弱くなり、消滅します。…皆さんに、危険が及ぶようなことはありません。
私が、させません。」
「でも。じゃあ、なんで、左手で触らないようにしてるんだ?」
 クリフトの顔がこわばった。

俺は気づいていた。
クリフトは、決して左手で人に触れようとしない。
何かのはずみで触れそうになったときも、ごく自然な動作で左手を後ろに隠していた。

こわばった表情のまま、クリフトは、俺から目をそらすと、搾り出すように言った。
「私の、左手は…穢れています。だから…その手で、人に触れるわけにはいかないんです。」
俺は、息を呑んだ。
そうか、こいつは根っからの神官だ。
人生を神様に捧げて生きようとした奴が、神の教えに背いて闇をその身に飼う…。
それは、きっと、ものすごく辛いことなんだろう。

無言で立ち尽くす俺たちの足元を風が通り抜けて、草を揺らす。
夕陽は、既に水平線にわずかな光のかけらを残すのみになっていた。

「あんたが、そこまでするのは、姫さんのためか?」
クリフトの肩が小さく跳ねた。
「姫さんのためなら、神様にも背くのか。」
クリフトがゆっくり俺の方を向いた。
真摯な目。
そこには、迷いはなかった。
そして、クリフトは、はっきりと、短く、一言だけ答えた。
「ええ。」
―――あの方のためならば、私は地獄の業火に焼かれてもかまわない。
その目が語っていた。
同じ目だ。
あの日の、シンシアの目。
―――あなたを、殺させはしないわ。
俺は、気がつくとクリフトの左手をつかんでいた。

「な?」
驚愕したクリフトが、慌てて手を引っ込めようとするが、許さず左腕ごと抱え込むと、
クリフトの左手の手袋をむしりとった。
「な、何をするんですか、ソロさん、やめて下さい…!」
クリフトがかすれた声で叫ぶ。
俺は聞く耳を持たずに、手袋を脱いだクリフトの左手を、両手でがっしりと握った。
「穢れてなんかいねえよ。」
俺から左手をもぎ離そうとしていたクリフトの動きが止まった。
「あんた、守りたいから、この呪文を身に付けたんだろ。姫さんを守るためには、
必要だったんだろ。それが、何で穢れてるんだよ!」
クリフトは、呆然と俺を見ている。
クリフトの思いは、多分、シンシアと同じ、思い。
それは、とっても身勝手な思いで、今でも納得できないけれど。
それでも、それは、決して邪な、穢れたものなんかじゃない。
「この左手は、姫さんを守る、…姫さんだけじゃなくて、俺達全員を、
守ってくれる手じゃねえか。」
クリフトが震え始めた。
「俺は、頼りにしてるぜ、この左手。」
ニヤリと笑ってクリフトを見ると、クリフトは顔をくしゃくしゃに歪めていた。
―――あーあ。きれいな顔が台無しだ。
俺は、クリフトの肩に手をかけると、促した。
「ほら。帰るぞ。泣くなって。そんな顔してたら、姫さんに振られるぞ。」
「泣い、てなんか…。大体、私と、姫様は、そん、なんじゃ…。」
…そんなに声詰まらせながら泣いてないって言われたってなぁ…。
ふーん、でも、違うのか?
クリフトの片想いなのか?
そんなことを考えながら歩いていた俺の背中に、クリフトが小さい声で呼びかけた。

「…ソロさん。」
「ん?」
振り向くと、クリフトの目元はまだ赤かったが、涙は消えていた。
「…ありがとうございます。」
晴れ晴れとしたクリフトの笑顔と、「ありがとう」の言葉が胸に染み入るようで、
俺は急に照れくさくなって、慌てて前を向いた。
…今度、こいつに、アリーナが口移しでパデキア飲ませたこと言ってみようかな。
どんな反応するんだろうな。
俺は、星が輝き始めた空を眺めながら、再びニヤリと笑った。