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クリフトのアリーナの想いはPart12.5 419 名前: 1/2 Mail: sage 投稿日: 2012/07/13(金) 02:05:38.75 ID: 08o7PFcp0 昨夜までご機嫌斜めだった姫が、父であるサントハイム王に呼びつけられ、謁見の間を出ててからやけに足取りが軽い。 なんでも、公務である他国との晩餐会が先方の都合によって中止になったというのだ。 じっとしているのが性に合わないこの姫、先日のドレスの試着では始終むくれっぱなしで、 仕舞いには暴れだしてヒールを折る始末だったので、それはそれは嬉しいのだろう。 朝の祈祷を済ませた神官が、城内で浮き足立った姫を見かけた。 姫様、と声を掛けるより先に、突進とも言える勢いで走り寄って来る。 「クリフト! クリフト――――!!」 その猛進は城内に疾風を起こし、カーペットを乱れさせた。 「姫様っ、お城の中で走ってはなりませんとあれほど…!」 その場に居合わせた頭頂の禿げた教育係の爺が咎めるのも聞かず、 姫は顔を輝かせて若い神官に掛け寄ると両手を広げて力一杯抱きついた。 その勢いと言ったら、神官が姫を受けとめたまま、どこまでも後方にずり下がり、 背中で太い石柱を一本大破させ、更には大理石の壁をも抉らせたほどだった。 頑丈な石が崩れ去る重低音が、城内に響き渡る。 この若き神官が幾多の戦闘で肉体を鍛えていなかったら、命も危うかったに違いない。 ブーツに火が点く程の摩擦熱と、首元にしっかりと絡みつかせた姫の細腕、体温、果てには胸元の柔らかな感触……。 神官の全神経は一瞬にして研ぎ澄まされ、反射的にその身体を腕を回す。 埋め込まれたような形で激突した壁からずり落ちると、二人は身を重ねる形でようやく動きを止めた。 「クリフト、聞いて! 明日中止になったのよ! 私もう嫌で嫌で仕方無かったの!」 目を覆いたくなる程の酷い破壊行為をよそに、心底嬉しそうにアリーナが報告する。 全ての体重を任せられたまま輝くような姫の笑顔にクリフトは笑みが漏れそうになるが、 背中がひどく痛むのと、立場上、共に喜ぶわけにもいかないので、苦虫を噛み潰したような顔をしてただ頷いて見せた。 二人の目が合う。さすがの姫もやりすぎたと思ったのか、小さく舌を出して「あっ、ごめんねクリフト!」 と一言だけ詫びて、首元から細い腕を外して起き上がろうとした。 「えっ…」 姫が小さく、声を立てる。 神官の腕がその力を抜かないので、身を起こせないのだ。 甘い拘束。今しがた抱きついた男の胸は広く、力強い鼓動を感じる。 姫の額が、神官の頬に触れた。 「クリフト?」 ただ名前を問いかけると、神官は慌てた様子ですぐさま姫を解放したが、 頬を赤くしたままで目を合わせられないらしく、ただ俯いていた。 「ご…ごめんねクリフト、痛かったでしょ?」 アリーナは取り繕うように言葉をかけ、手首を掴んで立たせた。 「いえ…私のほうこそ…申し訳…ありません、姫様」 長い帽子を直しながらしどろもどろに謝罪の言葉が告げられる。 姫が見上げると、二人の身長差がかなりある事に気付かされた。 「姫様! いつになったらおしとやかに振舞って頂けるのか……!」 ブライが怒りに声を震わせていた。 「ブライったら、そんなに怒ってばかりいると毛が全部無くなっちゃうよ」 悪戯っぽく笑うと、姫は持ち前のすばやさでその場をいとも容易く立ち去り、 残されたクリフトが姫の代わりに説教を受ける羽目になった。 姫が何かやらかした時は大抵このパターンである。 「クリフト…弱そうに見えて、あんなに体大きかったんだ……」 ブライのお叱りを逃れ、自室のベッドに寝転がりながら、姫はぼんやり考えている。 その腕には上質のクッションが抱かれたまま……。 「姫様……あれほどの力を持ちながらお身体は華奢でいらっしゃる……」 アリーナの身代わりとなり、爺の説教を上の空で受けながら、 神官は姫の体温を思い出し、己の手をただ見つめていた。 -END- //
クリフトのアリーナの想いはPart12.5 419 名前: 1/2 Mail: sage 投稿日: 2012/07/13(金) 02:05:38.75 ID: 08o7PFcp0 昨夜までご機嫌斜めだった姫が、父であるサントハイム王に呼びつけられ、謁見の間を出ててからやけに足取りが軽い。 なんでも、公務である他国との晩餐会が先方の都合によって中止になったというのだ。 じっとしているのが性に合わないこの姫、先日のドレスの試着では始終むくれっぱなしで、 仕舞いには暴れだしてヒールを折る始末だったので、それはそれは嬉しいのだろう。 朝の祈祷を済ませた神官が、城内で浮き足立った姫を見かけた。 姫様、と声を掛けるより先に、突進とも言える勢いで走り寄って来る。 「クリフト! クリフト――――!!」 その猛進は城内に疾風を起こし、カーペットを乱れさせた。 「姫様っ、お城の中で走ってはなりませんとあれほど…!」 その場に居合わせた頭頂の禿げた教育係の爺が咎めるのも聞かず、 姫は顔を輝かせて若い神官に掛け寄ると両手を広げて力一杯抱きついた。 その勢いと言ったら、神官が姫を受けとめたまま、どこまでも後方にずり下がり、 背中で太い石柱を一本大破させ、更には大理石の壁をも抉らせたほどだった。 頑丈な石が崩れ去る重低音が、城内に響き渡る。 この若き神官が幾多の戦闘で肉体を鍛えていなかったら、命も危うかったに違いない。 ブーツに火が点く程の摩擦熱と、首元にしっかりと絡みつかせた姫の細腕、体温、果てには胸元の柔らかな感触……。 神官の全神経は一瞬にして研ぎ澄まされ、反射的にその身体を腕を回す。 埋め込まれたような形で激突した壁からずり落ちると、二人は身を重ねる形でようやく動きを止めた。 「クリフト、聞いて! 明日中止になったのよ! 私もう嫌で嫌で仕方無かったの!」 目を覆いたくなる程の酷い破壊行為をよそに、心底嬉しそうにアリーナが報告する。 全ての体重を任せられたまま輝くような姫の笑顔にクリフトは笑みが漏れそうになるが、 背中がひどく痛むのと、立場上、共に喜ぶわけにもいかないので、苦虫を噛み潰したような顔をしてただ頷いて見せた。 二人の目が合う。さすがの姫もやりすぎたと思ったのか、小さく舌を出して「あっ、ごめんねクリフト!」 と一言だけ詫びて、首元から細い腕を外して起き上がろうとした。 「えっ…」 姫が小さく、声を立てる。 神官の腕がその力を抜かないので、身を起こせないのだ。 甘い拘束。今しがた抱きついた男の胸は広く、力強い鼓動を感じる。 姫の額が、神官の頬に触れた。 「クリフト?」 ただ名前を問いかけると、神官は慌てた様子ですぐさま姫を解放したが、 頬を赤くしたままで目を合わせられないらしく、ただ俯いていた。 「ご…ごめんねクリフト、痛かったでしょ?」 アリーナは取り繕うように言葉をかけ、手首を掴んで立たせた。 「いえ…私のほうこそ…申し訳…ありません、姫様」 長い帽子を直しながらしどろもどろに謝罪の言葉が告げられる。 姫が見上げると、二人の身長差がかなりある事に気付かされた。 「姫様! いつになったらおしとやかに振舞って頂けるのか……!」 ブライが怒りに声を震わせていた。 「ブライったら、そんなに怒ってばかりいると毛が全部無くなっちゃうよ」 悪戯っぽく笑うと、姫は持ち前のすばやさでその場をいとも容易く立ち去り、 残されたクリフトが姫の代わりに説教を受ける羽目になった。 姫が何かやらかした時は大抵このパターンである。 「クリフト…弱そうに見えて、あんなに体大きかったんだ……」 ブライのお叱りを逃れ、自室のベッドに寝転がりながら、姫はぼんやり考えている。 その腕には上質のクッションが抱かれたまま……。 「姫様……あれほどの力を持ちながらお身体は華奢でいらっしゃる……」 アリーナの身代わりとなり、爺の説教を上の空で受けながら、 神官は姫の体温を思い出し、己の手をただ見つめていた。 -END-

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