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クリフトとアリーナの想いはPart10 66 名前: くちぶえ 1/4  Mail: sage 投稿日: 2009/06/14(日) 23:43:56 ID: Pc3ZinwL0 「うーん……、次の町に向かうには時間的に中途半端だな。  よし、あとは夕方まで適当に敵と戦ってお金でも稼ぐか」 とある平原で勇者一行は戦陣を立て、ずっと戦闘に励んでいた。 「全員作戦変更!『ガンガンいこうぜ』!!」 勇者(男)の声が草原に響きわたる。 そんな勇者達の様子を馬車の中から不機嫌そうな表情で 恨めしそうに眺めている少女がいた。 「……いいなぁ、全員で『ガンガンいこうぜ』だなんて」 サントハイムの王女アリーナである。 「まぁまぁ、イメージトレーニングも立派なトレーニングの内の一つですよ」 同じく馬車の中で待機中のクリフトがアリーナを優しくなだめた。 アリーナはぷーっと頬をふくらます。 「戦闘に関しては、実戦に勝るものはないわよ」 馬車の中にいるのはアリーナ、クリフト、ブライ、それに恒例のトルネコである。 ブライは隅の方で横たわって昼寝をし、トルネコは道具の手入れをしていた。 アリーナはすくっと立ち上がる。 「あぁっもう!何で今日に限って私が馬車なのかしら!?  今日はずっと実戦だったのに!!腕がなまっちゃうじゃないっ」 アリーナは狭い馬車内でパンチやキックの素振りを始めた。 華麗な回し蹴りを披露すると、 足先が所狭しと立てかけてある武器に当たってしまった。 「あっ」 ドミノ式に次々と武器が倒れていく。 最後に、眠っているブライの頭をめがけてバトルアックスが豪快に倒れていった。 「ぶぎゃっ!!」 ブライは潰されたような、情けない悲鳴をあげた。 「なっ、なっ!?何事ですじゃ!!」 事態を把握しようと慌ててバトルアックスを跳ね除け、身体を起こす。 アリーナとクリフトは罰の悪そうな、強張った表情でブライを見つめていた。 「じ、じい………その、大丈夫?」 「ブライ様、良かったですね。刃の部分でなくて」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 気まずい沈黙。 ブライは鋭い眼力でアリーナを睨みつけた。 「……姫様の仕業じゃな?」 安眠を妨害されたブライは酷く不機嫌であった。 アリーナはブライにくどくど説教を受けていた。 クリフトはただ黙ってその様子を見ている。 よほど理不尽な時でないと、クリフトは仲裁に入ってくれないのだ。 (…………今日は厄日だわ) 「あっ、勇者!」 馬車の外から手を伸ばして道具袋からアイテムを取り出そうとする勇者に アリーナはすかさず声をかけた。 「姫!まだ話は終わっておりませぬぞ!!」 ブライを無視してアリーナは小声で勇者に詰め寄る。 「「ねえ、よりによってどうしてこのメンツで馬車なのよ!?」」 「「なんで?たまにはいいだろ。チーム・サントハイムIN馬車!  まぁ、トルネコもいるけど……」」 「「ちっともよくないわよ!!  ブライにお小言 言われるし、クリフトは助けてくれないし……」」 「「まぁそれも修行の一貫だろ。がんばれ」」 勇者は笑顔でさらりとかわした。 アリーナが異議を申し立てようとすると、勇者の声で遮られた。 「あ、そうだ。トルネコ!“くちぶえ”でモンスター呼んでくれない?」 「はいはい、いいですよ」 トルネコは立ち上がり、荷台の先頭に立って口笛を吹いた。 なんとも奇妙な音色である。 すると、どこからともなくモンスターが現れた。 「ありがとう、トルネコ!  よし、みんな敵だぞー!」 勇者は戦闘に出て行った。 「………いいわね、それ。」 アリーナは目を光らせる。 「自分から出向かなくても敵が来てくれるなんて最高じゃない!  ねえトルネコ、私にもそれ教えて!!」 「いいですよ」 「コラ!!このむさくるしいメタボが!姫様に余計なことを教えるでない!!」 ブライの怒号が飛ぶ。 「も~~うるさいわね。ブライは黙ってなさい!!」 アリーナは目下に転がっていたまどろみの剣を手に取り、くるくると回す。 ブライはころっと眠りについてしまった。 「………目覚めた後で余計に叱られませんか?」 クリフトが心配そうに声をかける。 「大丈夫よ。絶対逃げ切るから」 トルネコの妙技“くちぶえ”講座が始まった。 「ええと、まず、  アリーナさんは口笛吹けます?」 アリーナは黙って首を横に振った。 「ありゃりゃ。じゃあまずはそれからですね」 と、その時 馬車の外から勇者の声がした。 「トルネコー!もう一回頼むー!」 「はい、ただいまー!」 トルネコが外でくちぶえを吹いている間、アリーナはクリフトに声をかけた。 「クリフトは口笛吹ける?」 「はい。一応は」 「ずるい!ぬけがけじゃない」 「ぬけがけだなんて、そんな」 「私が口笛練習しようとすると、お城のみんなが怒って止めたのよ。  『そんなの出来るようになる必要ない』って……  クリフトが良くて私がダメなんておかしいわ」 「それは私と姫様では……………」 (身分が違いますから) そう言おうとしたが、なんとなくこの旅の最中だけは 『身分』ということを意識したくなくて言葉を途中で切ってしまった。 「まぁいいわ。ね、クリフト吹いてみて!」 クリフトは口笛を吹いた。 昔一緒に歌った、賛美歌のメロディだ。 あの頃はクリフトの声も高くて、同じパートを歌っていた。 二人の脳内には同じ情景が甦っていた。 アリーナも一緒に口笛を吹こうと 唇を突き立ててみる。 「……………プッ」クリフトは吹き出した。 「ちょっと!なんで笑うの!」 アリーナの不器用に唇を突き出す姿があまりにも 可愛らしくて、いじらしくて、思わず笑みがこぼれてしまった。 「いえ、申し訳ありません……」 クリフトは口笛を続けた。 アリーナもクリフトのメロディに合わせようと 何度も挑戦するが、フーフーとしか音が出ない。 「全然音が出ないわ」アリーナは落胆する。 「姫様、口の形が違うんですよ。  こうするんです」 「え、こう?」 「違います。もっと、こうです」 「こう?」 「いえ、こうです」 アリーナの大きな瞳にクリフトが映る。 クリフトの瞳にもアリーナが映っている。 二人は、向かい合って見つめ合って、それなりの至近距離で 唇を突き出しあっていた。なんとも奇妙な絵図である。 「んーー、こう?」 二人の距離がさらに近づいた時に、クリフトの後頭部に衝撃が走った。 「クリフトっ!!このアホーめがっ!!  我がサントハイムの姫君に一体何をしとるんじゃ!!」 ブライが杖で殴ったのだった。 無理もない。 まどろみの剣の効果が切れ、たった今 目を覚ましたブライには 前後経緯が分かるはずもなく、二人のその様子はただの不純異性行為に見て取れたのだ。 クリフトは一瞬よろめいたが気は失わなかった。 「ご、誤解ですブライ様!私はただ、  姫様に口笛の仕方を教えていただけで………っ!!」 顔を真っ赤にしてクリフトは弁解する。 「おぬしら二人は最近、他の若い連中に感化され過ぎなんじゃ!!  特にクリフト!色気づきおってからに!!」 先のものを遥かに凌駕したブライの怒号に 外のメンバーも気づいて、馬車の中を覗き込む。 アリーナとクリフトは正座をさせられ、ブライの説教を受けていた。 「クリフトさんまで怒られるなんて珍しいですねぇ」 トルネコが目を丸くさせ、口髭をいじりながら呟いた。 「うーん……チーム・サントハイムは身近というか身内すぎて、  狭い空間でずっと待機とかは難しいのかもな」 勇者が腕を組んで思索する。 「確かに。あまり親し過ぎない方がお互いに気を遣いますな」 と、ライアン。モンバーバラの姉妹も彼に続く。 「私の占いだと、このお説教は日没まで続くわ」 「あらら、可哀相ー。このマーニャちゃんが助け舟をだしてあげよっかな。  ねぇ勇者。あたしとブライでメンバーチェンジなんてどう?」 「却下。マーニャはただ自分が休みたいだけだろ」 「チッ、バレたか」 マーニャは小さく舌打ちした。 ―――結局、ブライのお説教は日没まで続いたのだった。 終わる頃には二人の足は痺れきってしまい、しばらく馬車から動けなかった。 宿への戻りが遅れたのをマーニャに意味深に捉えられて ひやかされてしまったのは言うまでもない。 おわり //

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