personal note内検索 / 「文春文庫」で検索した結果

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  • ゲルマニウムの夜
    ...20ページ 文春文庫 エロテイシズムは他者にしか発動しない 暴力に対して嫌悪を感じ呆れさせ、笑わせてくれ「さえ」するのが中原昌也の小説だとしたら、花村萬月のそれは笑えない。徹底的に痛めつけ、読んでいてその痛みや吐き気が実感されそうなほどリアルである。ただ人間の本質と言われるものの中に、暴力的な面があり、それを目の当たりにさせてくれるという意味で、ある種「清々しく」もあった。もちろん、中途半端でいやらしい暴力とこの清々しいという感触自体に、価値判断はともなえるはずもないが。 例えば先日読んだ、「美と共同体と東大闘争」(三島由紀夫・東大全共闘/角川文庫)において三島由紀夫はサルトルの「存在と無」を引用し、エロテイシズムは他者にしか発動しないと述べていた。つまり相手が主体的な動作を起こせない、意思を封鎖された状況こそが、エロテイシズムに訴...
  • ヴェネツィアの宿
    「ヴェネツィアの宿」 文春文庫 1998 須賀敦子 エッセイ、旅行、 関連リンク イタリア文学者。デビュー作からたった8年、69歳で病死されました。没後に刊行されたものを入れても著作は10冊に満たないのですが、静かでしなやかな筆使いでつづられた作品に、惹かれていくファンは多いようです。またしても、猛暑のなか心安らぐ思いをさせてもらったエッセイ小説。 自分探しの旅にでる若者は今日でこそ多いのだと思いますが、はたしてそこで見つかったのものは何なのでしょうか。日本のそれも生まれ育った土地からほとんど出たことのない人にも、しっかりと自分というものを持っている方は大勢います。 あの時代、海外での生活を送ることにどれほどの勇気と決断が必要だったのかは、先日まで海外にへ行ったことのなかった自分には想...
  • 保坂和志
    保坂 和志 (ほさか かずし) #ref error :ご指定のページがありません。ページ名を確認して再度指定してください。 1956年生まれ。 早稲田大学卒業後、西武コミュニティ・カレッジで講座企画を担当。 93年に脱サラし、本格的著作活動に入る。小説家になることにしようと決めたのは、高校3年生の夏休み。30歳を目前にして尻に火がつき、本気で小説を書くことに。 90年『プレーンソング』(中公文庫)でデビュー。『季節の記憶』(中公文庫)『世界を肯定する哲学』(ちくま新書)『カンバセーション・ピース』(新潮社)   保坂さんのHP:http //www.k-hosaka.com/   関連リンク この人の閾 カンバセイション・ピース プレーンソング 季節の記憶 <私>という演算 コメントをぜひ...
  • なしくずしの死
    なしくずしの死 河出文庫 L‐F.セリーヌ著 高坂 和彦訳 河出書房新社 セリーヌを読んだ。5年前くらい大江健三郎の小説で知って以来、「夜の果ての旅」が気になりながら、なかなか手を出せずにいた。なんたって、パラ見だけでも罵倒やら誹謗やら激しい言葉と、その長さに気が滅入りそうで。 それでいて、いつか読んでみたいと言う興味は尽きず最近になってまた探していたら、中央文庫の「夜の果ての旅」は近所でも取り寄せられないほど手に入りにくくなっていた。かといって箱に入った黒くて大きな「全集」は大きいし、必要以上におぞましい演出がほどこされ、電車で読んでいたら怪しまされそうなくらいだ。そんなとき本屋の新刊で河出書房の文庫「なしくずしの死」を発見した。 なんたって長いのは苦手。上下合...
  • 多重化するリアル
    多重化するリアル 心と社会の解離論 (ちくま文庫) (文庫) 香山 リカ (著) 著者は「リアリティ喪失」の問題を考えるきっかけとして、離人症性障害を取り上げる。以下、定義を引用。 1)自分の精神過程または身体から遊離して、あたかも自分が外部の傍観者であるかのように感じている持続的または反復的な体験。 2)離人体験の間、現実吟味は正常に保たれている。 3)離人症状は臨床的に著しい苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。 4)離人体験は、精神分裂病、パニック障害、急性ストレス障害、またはその他の解離性障害のような、他の精神疾患の経過中にのみ起こるものではなく、物質(例:乱用薬物、投薬)またはその他の一般身体疾患(例:側頭葉てんかん)の直接的な生理学的作用によるものでもない。 上記の症例は解離性障害...
  • 俘虜記
    「なぜ自分は米兵を殺さなかったか」 大岡昇平 新潮文庫 629円 思えば「戦争小説」というものをほとんど読んだことはなかった。それは余り興味がなかったのと同時に、戦争という極限状態に参加し、その最前線で描かれるドラマへ、なにも共感を得られないだろうと諦めに近い感情をもってしまうからだった。空襲が背景にあった小説は幾つか読んだし、爆撃に打ちのめされて行き、街にうごめく人間の退廃的な姿への描写へは、深く心を奪われて来た。俘虜記がどうやら「いちれん」の戦争小説とは違うらしい、と言う読書人ならみんな知っているような批評を目にして、読んでみることにした。 冒頭の「捉まるまで」を読み、その余りにも緻密で分析的な文体へ、まったく新鮮な感覚を覚えた(どうやらこれも発売当時からの評判らしいが)。今までに読んだ小説とは明らかに違った文体で、どちらかと...
  • ジョン・レノン対火星人
    ジョン・レノン対火星人 高橋源一郎 新潮文庫 280円 1985年 「ジョン・レノン対火星人」復刊コメント(てきとうに抜粋:復刊ドットコム ) 高橋源一郎の最高傑作との声もある本著を読めないのはつらい。 さようなら、ギャングたちにハマった。 タイトルだけで買いたくなる。 未読ですが高橋作品の最高傑作と位置付ける方が多いようなので是非読んでみたいです。 この本が絶版だなんて、やれやれ、ほんとに幻滅するね。 ある雑誌でこの本が名作だと知り、それ以来読みたいなあと思っていました。私のような新しい読者のためにもぜひ復刊をお願いします。 高橋文学において最重要とも言える作品だから。 高橋源一郎全作品中、もっとも「ふつうな」小説と言えるでしょう。 とてもよいです。 こ...
  • ニッポニアニッポン
    ニッポニアニッポン 阿部和重 新潮社 1200円 「関係性の悲劇」 個人的には単行本で小説を読むのはあまり好きではない。高いし大きいし、何よりハードカバーというのは電車では読みづらい。元々あまり多く読まないのだから、困らないのだけれど、どうしても新しいのを読みたいときにはしょうがない。今回もそれに近い。阿部和重に興味を持ったのは、文庫化された「インディビジュアル・プロジェクション」を読んでからだけど、恐らく「アメリカの夜」と合わせてまだ2冊しか文庫化されていない作者なので、彼のを読むことは、単行本への「葛藤」とは切り離せない状況にある。おまけに今回の本は、先日パルコブックセンターにて「サイン会」があり、たまたまの「ついで」にのぞいた場で、もう誰もサインしに並んでいるモノがいなくて、そばで見ている僕らへ当然のように声を掛けて...
  • スティル・ライフ
    スティル・ライフ 中公文庫 池澤 夏樹 (著) なるべくものを考えない。意味を追ってはいけない。山の形には何の意味もない。意味のない単なる形だから、ぼくはこういう写真を見るんだ。意味ではなく、形だけ。 この部分、とても写真を見る姿勢として共感した。その後も写真談義がちょっとつづくのだけど、とても興味深いし参考になった。 さらりとして、それでいてとても広い。まるで主人公が希薄で拡大された存在として佐々井を感じたように、この小説にも不思議な広がりを覚えた。 希薄さとは気配が薄れていくことでその人の印象がなくなってしまうのではなく、無限に広がって行き空気のようにそこかしこを占めていくもののようだ。 語り手が「言葉そのもの」となって、意識の奥に浸透されていくようなものだろうか。ロードムービーの過ぎ去るカットみないな...
  • きょうのできごと
    きょうのできごと 河出文庫 柴崎友香 とても「なごんだ」。この感じは「癒し系」と言ってしまうほど簡単なものではないようだ。保坂和志の解説を読んでそんな気がした。けれど「なごみ」に向かわせる構造がどうのと分析できるほど小説を「分かって」いないし、むしろ「単純な感激」をもうちょっと「複雑な関心」にさせられる程度だった。 保坂さんの小説が「どう良いか」を説明する困難さにも通じていて、「そんな意味で」同列の作家ともなるのだろうか。だから解説している、とも納得できるし。「次の町まで、きみはどんな歌をうたうの?」を読んだときの感想を見直してみると、やはり「どう良いか」を迷っている。 自分の中に幾つも響くシーンがあって、それら記憶の網を「ある組み合わせ」でもって引っぱり出してくれる作用を小説が持っているからではないか そんな風に...
  • 偶然の祝福
    偶然の祝福 角川文庫 小川洋子 定価 500円 朝一番で寄るところがあったが、時間的に余裕が出来たのでカフェでこの本を読んでいた。通勤途中に寄り、テイクアウトしていく客ばかりだった。この時間に落ち着いて本を読める満足と、時間を気にする気持ちとが混ざり合っていた。 一日のスタートへ心を落ち着けるべくこの小説には独特のリズム感があった。主人公の遭遇するさまざまな偶然はどれも静かに訪れ、その後精神的な支えとなったりする。しかし偶然をつかむ姿勢にはどこか強かさを感じた。 それは不幸を抱える主人公が、そのような現実を了解しつつ生きていることに現れている。どんな境遇に置かれていても、日々の小さな出来事から生まれてくる積み重ねを執拗に書き留めていく姿勢は、小説という形式を利用した生きる知恵の実践ではないか。入れ子になった構成だ。 語りようはとても繊細で、少しの激しさ...
  • 中国を知る
    中国を知る ビジネスのための新しい常識 日経文庫 遊川 和郎 (著) 今年は北京オリンピックで、注目を浴びている中国。先日の餃子問題でも食の安全が問われている。そんな国について興味は尽きないけれど、ビジネスとして関わっているわけでもないのでまとまった情報に触れたい。そんな動機で幾つか手に入れた本の一つ。 共産党体制における資本主義経済。そんな矛盾を感じる国家戦略の実態を知りたい。前段は改革開放政策など経済の話からはじまって、そのあたりに詳しく触れている。後半は著者自身の経験から比較文化論が展開されていて興味深い。 それにしても、毎日これだけ新聞を賑わしている国はないのでは。日本人にとって、気になってしょうがない存在なのだろう。果たしてマスクをしたアスリート達をTVで見ることになるのだろうか。二酸化炭素の排出量で世界第2位の国だが、一人当たりに換算すると世...
  • ペンと剣
    ペンと剣 エドワード・W.サイード/著  D.バーサミアン/インタヴュアー  中野真紀子/訳 ちくま学芸文庫 先日読んだ『まんがパレスチナ問題』によって、ある程度自分の中で中東問題が明快になったと思ったのが嘘のように、サイードの苦悩に満ちた発言からつたわって来る実状は複雑で痛ましい。 これはインタビュー集なので、『オリエンタリズム』のように難解ではない。けれど語られる問題はあまりにも複雑に絡み合っている。それは何十年もの間、一方的な観念で縛られてしまったそ世界認識の一つ一つを解して行くような難解さだ。 サイードの発言はとてもソフトで力強く、理知的でこちら側へ入り込んでくる。だからとても読んでいて痛ましくもなる。息が詰まりそうな感じ。これこそは、書くことで抗うことなんだろう。西欧社会で育んだ彼には、ある意味で...
  • 静かなヴェロニカの誘惑
    静かなヴェロニカの誘惑 愛の完成・静かなヴェロニカの誘惑 (岩波文庫) ムージル/作 古井由吉/訳 その一文一文へ惹かれ、そして言葉が流れるように運ぶため、読むリズムが出来てしまうのだけど、気がつくと1ページも自覚的に読めていないことになっている。つまり数行読んでいるともう何が何だか分からなくなってしまうのだ。 こんなに美しい文章なのに(それだけはしっかりと感じる)、何でだろうと悔しくなる。それでもと、再び読み進んでいくうち確実に気持ちは遠くへ行ってしまう。 視野が・・息で満たされる、空気が・・体臭を帯びはじめた、想像が・・・冷たくつかんだ、思いは・・ぬかるむ地面に落ちたように、その声が・・どんな音をたてるのか、独特なふうに心を苦しめる魅惑、どこまでも埒を知らぬ頭脳の快楽だった・・。 こんなふうに主語が入れ替わり立ち代るので、追いかけようと...
  • 何がどうして
    何がどうして 何がどうして 角川文庫 ナンシー関〔著〕 \457 2002.12 著者の本を読んだのは今回が初めて。実は昨年の訃報を見るまで、ナンシーさんがあんなにも太っている人だと思わなかった。なのでそのこと自体にもショックであった。 何故か辛らつな文章を、「本人の人格」のような「イメージ」として既にインプットしていたが、実際にまとまって読んでみるとやはり面白い。この面白さは僕がどこかで避けていた形式のものでもあって、今すんなり読んでしまったことへ「そのこだわり」の優柔不断さと「もろさ」加減にちょっとウンザリしている所だ。 避けていた理由は、所謂ゴシップオンリーの批評であろうと思っていたこと。そして、そこにツキマトウものがあのワイドショーを見ているときの気持ち悪さへ通じるのではないかという「先読み...
  • 大竹昭子
    大竹昭子(おおたけ・あきこ) imageプラグインエラー ご指定のURLはサポートしていません。png, jpg, gif などの画像URLを指定してください。 1950年東京生れ。上智大学文学部社会学科卒業。 1979年からニューヨークに滞在。 82年に帰国し、本格的に文筆活動を開始。 さまざまな分野についてルポ、批評、エッセイ、ショートストーリーを執筆中。写真も撮る。 『バリの魂、バリの心』(講談社文庫)紀行的バリ島ガイド  『踊る島バリ』(共著・パルコ出版)バリ島の音楽舞踊家の聞書き  『熱帯の旅人』(訳書・河出書房新社)バリに暮らしたアメリカ人音楽家の生活誌  『透きとおった魚』(文芸春秋)沖縄についての紀行エッセイ  『アスファルトの犬』(住まいの図書館)ニューヨークと東京の嗅覚的都市探検  『眼の狩人』(新潮社)日本の戦後写真家の活動の軌跡をたどりつつ、写真とはな...
  • ラジオデイズ
    ラジオデイズ 河出文庫 鈴木清剛 J文学という括りがあるようだ。Jポップ、Jリーグ。やや使い古された時代の刻印の一つだと思う。この小説はそのただ中にあり、渋谷発といった言い方もされているようだ。何が渋谷発なのかは全然分からないのだけど、この世代を表徴する街の代表が渋谷と言うことなのだろうか。 著者は僕と一つ違いだ。同年代の小説家も活躍する時代が自分にも来てしまったことに対する、漠然とした焦りを感じた。それはアイドルの年代を通り越し、むしろ「若手お笑い」と呼ばれて、活躍している世代が全く同じ年齢層だという焦りとは少し違う。どちらにしろ、大人社会への参加が、本格的な段階に到達しつつあることは確かなようだ。そこら当たりを考えさせられる作家達の活動なので、ちょっと興味がある。 やはり物語のなさを今の社会の問題としている、そんな大人...
  • 陰翳礼讃
    陰翳礼讃 谷崎潤一郎 中公文庫 谷崎の作品。きっとその昔は当たり前だったであろう日本の美的感覚について。それらは今日、日本人ですらオリエンタリズム的な目で見てしまう感性ではないか。 部屋の隅に闇を感じさせることへ、美しさではなく、不透明で不安な気持ちを抱く思いの方が多いかもしれません。ここに描かれていることを「和」のキーワードとして使用する日本人って、谷崎の目から見てどうなのでしょうか。土着的、風土的感性、もののあわれ、無常観。今日の日本人的感性にしっくりくる言葉はなんでしょう? 「つまり、一と口に云うと、西洋の方は順当な方向を辿って今日に到達したのであり、我等の方は、優秀な文明に逢着してそれを取り入れざるを得なかった代わりに、過去数千年来発展し来った進路とは違った方向へ歩み出すようになった、そこからいろいろな故障や...
  • 共同幻想論
    共同幻想論 著者:吉本隆明 改訂新版 角川文庫 カテゴリー-思想 日本における「共同体認識」が、西欧の「社会」とは異なる理由は多々あるだろう。 そもそもの共同体にたいする認識の起源に生じているものであろうことは、この著作を目にする前から、現代的な問題を通してでも、なにかしら見えてくる差異から感じられることだ。 いまだに日本において、「共同の禁制でむすばれた共同体の外の土地や異族は、なにかわからない未知の恐怖がつきまとう異空間であった。」という言及が、遠い昔の話に聞こえなくもないのではないか。共同体を「世の中」や「世間」などへ、置き換えてみてもいいのだろう。 共同体、国家を「理性」あるいは「言語」ととらえる西洋と、それを「共同幻想」ととらえる日本。 つねに幻想的、表層的なものでしかないと、誰しも思っているものは「社会」ではなく、ま...
  • 恐るべき子供たち
    恐るべき子供たち 光文社古典新訳文庫 ジャン・コクトー/著  中条省平/訳  中条志穂/訳 色んな動きがあって台詞がパンク的で、これは映画化したら面白そうだとおもったらジャン=ピエール・メルヴィル監督作品が既にあるんだ。 退廃的で破壊的、そして混沌としたもの、そんな小説を読むとどこか懐かしさや切なさを覚えるのだけど、それって少年の頃を思い出しているのだろうか。 14歳の主人公だから懐かしさに通じたのだろうか。確かに幼さが起こす無軌道な行動と、その無軌道さがパターン化して、繰り返しの中へ喜びを感じるということがあったように思う。 けれど自分の14歳がこんな風(無軌道さが危険を通り越して狂気にすら達している感じ)だったとは思えない。そういえば岩井俊二の 『リリイ・シュシュのすべて』に感じた「痛さ」...
  • まどろむ夜のUFO
    まどろむ夜のUFO まどろむ夜のUFO 角田光代 幻冬社文庫 495円 自由であることの残酷さを知っている「私」が、どこかで安心できる道を選んでいく。その迷いと葛藤を描いているのだと思った。 幼き頃に何か神秘的な存在や出来事に興味を持った思いではある。UFOや心霊写真なんかは当然話題になった。タカシは「まだそんなことを信じているのか」と、幼い思考を振り返るようなセリフを言う。しかし実際には神秘的な存在にたいする妄想はより実体としてタカシのなかに存在していて、テレビのアイドルと妄想の中で恋愛していると言った、ややあぶなっかしい人になっていた。「私」は幼き頃のタカシをどこか懐かしみ、大人びている弟との距離感へ戸惑を感じ始めた。ただ実際にタカシの「今」が発覚して来るにつれて、通常の高校生とはかけ離れたその妄想の大...
  • キッドナップ・ツアー
    キッドナップ・ツアー 新潮文庫 角田光代 (著) 400円 夏休みの第一日目に私は誘拐された。ママと別れたパパに・・との設定で始まる、父と娘のロード・ムービー。いやストーリー。  この小説は誘拐された小学5年生の女の子の視点で書かれている。それにしては大人っぽい。けれどこのちょっと「わざとらしい」くらいな気分が面白い。風景の描写などは、通常の角田さん表現のままだから、とても小学生離れしている。ただ活字では不思議とそんなわざとらしさなんて気にならないものだ。 恐らく離婚してわが子との生活を断念することになったパパが、なんとかママに交渉して会う機会をえようと踏み出た結果が「誘拐」というカタチになったのだろう。きっかけはどうあれ、一度も親子の対話を果たしていない二人がひと夏をともに旅するロード・ムービーだ。いやストーリー...
  • マクベス
    マクベス マクベス 新潮文庫 シェイクスピア 福田恒存訳 新潮社 362円 シェイクスピアの四大悲劇のうちのひとつ。武将マクベスは三人の魔女の予言を聞き、王ダンカンを殺し、自らが王となる。しかし、マクベスを叱咤したマクベス夫人は気が狂い死ぬ。そして、マクベスもマクダフらの軍隊によって殺される。 悲劇、悲劇、、、。シェイクスピアのこの戯曲には、はたしてどんな「悲劇」が描かれていたのだろうか。マクベスは魔女の予言を聞いたばかりに後戻りできない悲劇の「サイクル」に足を踏み入れた。このことは彼の野心の性質に問題が合ったのではないだろうか。下克上の世の中において、キッカケすら得ればそのような策略すら不思議ではないのか。劇として見るとどうなのか分からないが、この惨劇には夫人が大きく加担している。マクベスの野心は...
  • 凶気の桜
    凶気の桜 凶気の桜 新潮文庫 ヒキタクニオ著 2002.9 \552 カテゴリー-映画 関連リンク #related 渋谷を描いた小説で、ここまでバイオレンスなものは読んだことが無く、むしろ「渋谷系」という表現から僕が思い浮かべるのは、暴力とはほど遠い「マッタリ」とした空気のほうだ。「現代のとらえ所のない若者の無気力感」という門切り型な解釈をそこに当てはめれば、あたかも渋谷の街がそれらを体現しているようにも見える。 しかしこの小説ではそんな若者を徹底して嫌う立場を取っている。現代の情けない日本を一番象徴している存在でもあるかのような、嫌悪感たっぷりに。そして「ナショナリスト」という右翼的な意匠を取っていることは、成熟した社会が作り出す空気として、世界中で巻き起こされてもいる「動き」をあらわしているのではないだろうか。 反動とも言えない小競り合...
  • この人の閾
    この人の閾 新潮文庫 保坂和志 四つの物語がおさめられている。その一つ東京画。 ここに描かれている情景が、近所の代田橋あたりだということは、読んでいてすぐに感じた。 あそこは駅前のミスタードーナッツくらいしか利用したものがないが、やけに昭和の面影を残した商店街、それも甲州街道までの短いそれと、線路向かいの浄水場の殺伐とした感じは、印象に残りやすい。けれども作中の主な界隈は、もっと奥まった辺りなので、想像はつかない。 玉川上水沿いは、笹塚あたりをよく自転車で通るが、確かに甲州街道の雑踏を忘れるくらい、しんみりとした空間だ。なぜかノスタルジックな思いに駆られる保坂氏の小説に、思わぬ近所が出てきたおかげでこの辺り一帯を、そういえばそんな思いで歩いていたようにも思えてしまう。けれど平日はもっぱら甲州街道沿いを歩くばかりなので、あの...
  • 近代日本思想案内
    近代日本思想案内 鹿野政直 岩波文庫別冊14 660円 カテゴリー-社会、思想 関連リンク #related 自分を知る地平 この本を読んでつくづく思うのは、物事は関係性の上に進んでいくのだという、当たり前のようなことである。 自己を認識するのに他者をかえしてしかあり得ないように、「日本」という存在も「西洋」の出現(ペリー来航を契機とした)をかえしてしかありえなかったという当たり前の事を、新鮮な形で受け入れた気がした。歴史が苦手とか興味がなかったといえばそれまでだが、自分を知る「地平」と確実に地続きであるという感覚が、ちかごろ近代史に触れる度に思うことでもある。「靖国」にしたって、僕らはある意味いつだって、それら歴史認識の上に存在する国民でもあるのだ。意識しないことと、全く無自覚なこととでは大きく違う。過去を気にとめない国柄の系譜も、あるい...
  • ホンマタカシ ニュー・ドキュメンタリー
    ホンマタカシ ニュー・ドキュメンタリー Takashi Homma New Documentary 会期:2011年4月9日[土]─ 6月26日[日] 会場:東京オペラシティ アートギャラリー [巡回情報] 2011年1月8日[土]─ 3月21日[月・祝] 金沢21世紀美術館 http //www.kanazawa21.jp/ 2012年7月15日[日]─ 9月23日[日] 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館 http //mimoca.org/ 吉田健一は「東京の昔」で昭和40年代頃から見た昭和初期の東京について書いていて、すでにその頃の「今」は銀座が銀座でなくなっているといった表現をしていて、椹木野衣はホンマタカシ展の図録で時代は郊外化を避けられず、むしろ彼の写真はそれを絶命的に行っていると書いている。どちらも面白い。 両者は興味深く共鳴している。その時代を生きる...
  • プレーンソング
    プレーンソング 中央文庫 保坂和志 世の中には二通りの人間がいる。イヌ好きとネコ好き。もちろんどちらも好きな人、どちらも嫌いな人、いろいろ居ると思う。でも潜在的にどちらかに分けられる様な気もする。 僕はイヌ好きだ。だけど家で飼うイヌは好きではない。イヌは外に居る方がよい。たくましくて、毛足の短い日本犬がいい。柴犬とか。イヌとは、さっぱりとしたつき合いがよい。散歩以外はとくに可愛がったりもしない。けれど目が合えばいつもイヌのほうはシッポを振ってくれる。いじらしい。そこが好きだ。 ネコはあまり好きではない。眼がタテになるのが恐い。どう接して良いか分からない。おもむろに触れようとして、ひっかかれたときもある。気持ちが通じない。 この著者はネコ好きらしい。小説にネコが出てきた時点で、ちょっと引き気味になった。別にネコ好きな...
  • スパイダー
    スパイダー/少年は蜘蛛にキスをする 監督:デイヴィッド・クローネンバ−グ 出演:レイフ・ファインズ/ミランダ・リチャードソン/ガブリエル・バーン 原作・脚本:パトリック・マグラア(ハヤカワepi文庫) 提供:メディア・スーツ/ビッグショット 2002年/フランス+カナダ+イギリス映画/98分 クローネンバーグと言えば、グロテスクな世界観とカリスマ的な人気を思い浮かべる。その程度にしか分かっていなくて、「クラッシュ」は痛々しさと緊張感のある映像美だとか、「裸のランチ」はあのタイプライターと大きな昆虫みたいなのがとにかくグロかったとか、「スキャナーズ」は破裂する頭とやはり重々しい空気など。結構「飛んだ」話なのに重量感もあるという2面性だろうか。 この映画は見終わって、しばらくよく分からなかった。ただ、出だしの色...
  • 異都発掘
    異都発掘 荒俣宏 集英社文庫 629円 東京を知る企画第2段(特集にしますこれ)。荒俣さんです。初めてこの方の本を読みました。帝都物語もきっとこの視点なんだろうか、と思いながら読んでいました。博学、博物学な方の場合、その膨大な知識の泉からわき起こったイメージの世界がまず当地を訪れる前に出来上がるとは思うのですが、この本はそのような「妄想」を意識的に大きく膨らませてから取材するまさに荒俣ワールドです。 東京を「亡霊のように日に日に消滅していく市(マチ)」と語る著者は、実際に無くなっていく市としての都内をドサ回りのごとく過ごしていたようだ。「東京は、変わったねぇ」ではなく、失われゆく場所、いわば存在しないものの連続なんだろう。 僕も実際に、著者と同じように「下板橋」へ4年ほど住んでいた時期があった。荒俣さんの当時は、環...
  • <私>という演算
    <私>という演算 中公文庫 保坂和志(著) 価格: ¥680 (税込) 小津安二郎の映画には独特なカメラワークがある。よく言われる低いカメラアングル以外にも、目線のあっていない向き合う視点とか、誰もいない部屋をとらえる視点だとか。そして彼の作品を批評した膨大なテキストがある。それは一ジャンルを築き映画批評の柱として存在している。 一方でそれらのテキストは一人歩きしていて、何か入り込めない城壁を築いているようにも見える。小津安二郎の映画を楽しむことは出来ても、膨大なテキストを通して見えてくる小津像なるものはとても崇高なものであり、簡単に楽しむことを拒んでいるようだ。それほどに豊かなテキストを生み出す作品という存在で、それはそれで興味深い。何れ楽しむテキストもきっと多い。 「秋刀魚の味」という作品。それを見たときの素朴...
  • クルーグマン教授の経済入門
    クルーグマン教授の経済入門 日経ビジネス人文庫 ポール クルーグマン (著) Paul Krugman (原著) 山形浩生(翻訳) 905円 読み始めは山形さんの口語訳が妙にくだけていて、そこにばかり気が行ってしまった。けれど思えばどんな本も入り込めるまでは時間がかかる。だいたい僕の場合50〜100項あたりでやっと入れる。だから短編の場合、訳分からない内に終わってしまうものもある。むしろ長編のほうが、読むのはシンドイけれど入り込んだ実感は持ちやすい。 で、結局この本になにが書かれていたのかといえば、あまりに多すぎて読んだそばからどんどん忘れてしまい今は漠然としている。アメリカの医療についてとか、ほとんど知らなかったので興味深かった。日本でも年金や医療保険について問題になっているが、経済大国アメリカで...
  • ジョゼと虎と魚たち
    ジョゼと虎と魚たち [監]犬童一心 [原]田辺聖子(角川文庫) [製]久保田修ほか [脚]渡辺あや [音]くるり [出]妻夫木聡 池脇千鶴 上野樹里 新井浩文 江口徳子 新屋英子 SABU 大倉孝二 http //jozeetora.com/index_f.html 田辺聖子の小説を映画化。ごく平凡な大学生の青年と足の不自由な女の子のお話。音楽はくるり。イメージ・フォトは佐内正史、イメージ・イラストはD。スタイリストは伊賀大介。 素晴らしい作品!。今年のナンバーワンだ(まだ2つしか見ていないけど)。 犬道一心監督の作品は初めて見た。池脇千鶴は前作にも出演しているようだ。関西「のり」な作品。ちょうど予告上映で行定勳監督「きょうのできごと」が流れていたが、どうにも田中麗奈のわざとらしい関...
  • 偶然性の精神病理
    偶然性の精神病理 木村敏 岩波現代文庫 1000円 建築を経験することとは? 建築をつくる行為をしていながら、毎月発行される「雑誌の写真のみ」でそれらを「解決」する事へ慣れてしまっている。概観的に捉える態度は、「先天的な意味」を求めてしまう危険性を孕んでいる。だが建築が現前させるイメージには、もっと本質的な力がある。それはより身体的な関係であり、言語化されにくい領域だ。感じ受けるのが「経験」であり、いかに記述していくかが思考する楽しさではなか。もっとダイレクトに感じさせる空間をつくるために、建築経験という分析行為がある。現象学には、「建築する行為への反省的な態度」を学ぶヒントがあるのではないか。 建築とは「社会」や「人間」の関係を、より実体的な事実として解釈し、また解決していく行為であると思う。著者が現象学を通して人間というものを、より実体として記述していこう...
  • リセット・ボタン
    リセット・ボタン 伊藤たかみ 幻冬舎文庫 457円 著者は1971年兵庫県生まれ。早稲田大学政治経済学部在学中に「助手席にて、グルグル・ダンスを踊って」で文藝賞受賞。「ミカ!」で第49回小学館児童出版文化賞受賞・・・。 この物語に登場するような無力感が、はたして今の自分にとってリアルかと言えば、けっしてそうだとは言えない。それでもこの小説を面白いと感じる自分がある。それはどこにあるのかと言えば、あるいはごくありふれた恋愛モノであることに共感しているのかも知れない。 自殺願望者達の集まるホームページでの出会いが、「実際にもありそうだ」と言うレベルの話ではなく、「匿名でのコミュニケーション」という新たな特権を得たネットユーザー達の直面した「現実感」が、はたしてどのように存在しているのかという所へ、同時代的なリアルを感じ...
  • 「彼女たち」の連合赤軍
    「彼女たち」の連合赤軍 「彼女たち」の連合赤軍サブカルチャーと戦後民主主義 角川文庫 大塚英志〔著〕 \667 70年代からはじまった消費資本主義的な社会現象が、その時代に生きていた男女の行動へどのような影響を与え続けていたのか、そんなテーマに沿って、連合赤軍の悲劇をたどっている。 この著作によって、70年代、80年代の流れ、そしてバブル崩壊へと続くあたりまでの現代日本への変化していく構造を読みとれるような気がした。バブル崩壊後も早10年以上経つ。そろそろバブル後自体も、この著作のように「歴史的」に分析してくれるものが登場するのではないだろうか。 ここで与えられた男女に関する分析は、現代への様々な視点へと繋がっていく可能性があるように思う。特に「自己表現」という焦燥の果てに・・と題された、「フェミニズムのよ...
  • ロックンロールミシン
    ロックンロールミシン 新潮文庫 鈴木 清剛著 女性1人に男性2人。この「ドリカム系」とも言える・・そういえばもう3人じゃないんだっけ?、それではこの「エブリ・リトル・シング」・・これも違ったっけ?。そんな訳で必ずしも長く続くことのない(?)この組み合わせによる、建築系で言うと「ユニット系」は、この小説の柱となっている。賢司という刹那的な語り手である主人公への共感という楽しみもあるが、ここではむしろこの「装置」へ注目してみる。 まさに稼働し、そして崩壊していく間を描いたもので、しかしこの組み合わせには事件が付き物だ。やはり3人の中に男女のペアが発生してしまうことが破綻へのキッカケなのだろうか。必ずしもこの小説では「それ」が原因として描かれていないものの、やはりペアは存在していた。ではもっとほかに構造的に見えてくるものはと言えば、それは創作に...
  • アメリカの夜
    アメリカの夜 阿部和重 講談社文庫 この小説が僕に訴えてくるモノは意外と大きかった。 一つには自意識過剰なこの主人公にたいする感情移入だった。コンプレックスのかたまりの中から日常をいかにくぐり抜け、あたかも自分はそのようなしがらみからは自由な存在であると振る舞い、どこか涼しげな顔をして、けれどもつらいものはツライ、がむしゃらなことは素直に顔に出す、そんな人を見て、それが意外とうまくいっている光景を目の当たりにするほどに、一体自分のコンプレックスほど不毛なことなどないではないか、と不自由な存在でしかない姿を思い浮かべることも頻繁にあることを意識させられるのだった。 それが過剰に表現されるほどに、あるいはそう感じながらこの小説を読むことで、なおいっそう現実の滑稽さを認識する手助けになる、とても「実用的」な物語であること、それを...
  • エロ事師たち
    一番スゴイのがスブやんの死にざま 新潮文庫 野坂昭如著 \438 これが70年代の「ベストセラー作家」だったというのをインターネットで調べて驚く(ちなみにこちらもカッコイイ!)。まったく痛々しいほどの描写が続き戸惑うかと思えば、何時しか「ぐいぐい」と引き込まれていた。もともとこのような過激な文学に「憧れと興味」は持っていたつもりだったが、これほど「衝撃」的な作家だとは思っても見なかった。かといって暗く重い雰囲気はなくって、むしろポップで「突き抜けた」面白さだ。中原昌也はセリーヌなのかと思ったら、むしろこちらの影響のほうが大きいのだろうか。とにかく考えられる卑劣、苛烈、妖艶、猥雑このうえない、いやとても考えの及ばない所にまで話しは進む。 「エロ事師」というまず聞き慣れない名前。ようするに「あらゆる享楽の手管を提供する」不法なエロ商売...
  • ビューティフル
    ビューティフル 幻冬舎文庫 島村洋子 \495 様々な登場人物達の視点が一人称で語られ、複数の目で読み進められる。事件の終盤への4日間に絞って全貌を徐々に見せていく。そんな明快な物語構造がまるで映画のシナリオのようにシークエンスをつくっている。 家族がめちゃくちゃ、というニュアンスで、三池監督の「ビジターQ」を思い出しつつも、あの映画ほど破天荒な主題は無く、描かれていたのは以外と普遍的な恋愛の姿ではないか。 十七歳の女子高校生キリエという、不幸の連続のなかでうごめく主人公。消えた家族を心の中で追い求めて全裸で立てこもる、差し押さえの自宅(これ、かなり説明不足です)。 はたして家族というものが、このように現代小説の主題たりえる存在感を持ち得るのだろうか。殺伐とした空気の和則の一家。失踪、教祖、一気のみ死という...
  • オデュッセイヤ
    オデュッセイヤ オデュッセイヤ(上)(下) ホメロス 松平千秋訳 岩波文庫 700円、660円 ギリシャ文学はソポクレスの「オイディプ王・アンティゴネ」スくらいしか読んだことがなかった。今まで迂回するように幾つかの解説本をよみ、自分の好奇心をお手軽に消費し、直接読むことをどこかで避けてきたように思う。そろそろ読んで見ようよと自分の中で励まし本書を手にした。 「イリアス」と並ぶ「トロイア戦争」の伝説にまつわるこの「長編」叙事詩は、読んでみればその大げさなまでの「レトリック」、「お話ぶり」にすっかりはまってしまい、楽しめる。なんたって夜が明けるのすら「朝のまだきに生まれ指ばら色の曙の女神が姿を現すと・・」なんて言い、しかも何度も繰り返し使われ、「...
  • 音楽
    『音楽』 まだあまり三島由紀夫を読んでいないのだけど、著者の作品へは「耽美的」なイメージがある。そして僕のそんなイメージを押し進めるのに、この小説はとても機能を果たした。 三島由紀夫 新潮文庫 400円 まず主人公である精神分析医・汐見にかかった患者・麗子の病症を、「音楽」と言う一つの象徴に見立てて巡ったドラマであること。その設定はまさに先日観た映画「青い夢の女」そのもので、安楽椅子にくつろいで自らの性癖歴を語る美女、というものが映像の再現のように目に浮かぶようだった。あの映画では「精神分析医とは滑稽な存在だな」という感想が大きく、コミカルさばかりが目立っていたが。 精神分析ものは基本的に好きだ。それは三島の小説の中で出てくる分析という行為が、とても誠実に学術的でありながら、多くの分析書が難解な症例を通じて語るしぐ...
  • うたかたの日々
    うたかたの日々 ハヤカワepi文庫 ボリス・ヴィアン著 伊東 守男訳 早川書房 主人公コランは金持ちで気ままに暮らす御曹司だ。こう言ってしまうとすごく自分がコンプレックスを抱いている様だが、実際にそうかもしれない。しかし「気ままに」と言ったところで、彼にとっては恋愛が何よりも人生をリアルにさせる主体であって、全てのエネルギーの源であるのだから、全く気の抜けない一大事ばかりの連続でもあったのだろう。そう思うと自分の抱いたものは「気ままさ」でなく、その「全力さ」だろうか。全力でぶつかっていく彼の姿が余りにも明快で辛辣ですらある。その強い態度に何か敵わない思いを抱かされたのだろう。 全てのことに対して先験的な判断を下し、個人が常に正しく、そこから行動の指針を引き出す。そんな作者の言葉とともにコランは激しく「自由に」行動を...
  • 季節の記憶
    季節の記憶 保坂和志 中公文庫 743円 小説には物語があってまたあることを前提として受け入れ、そのスケール感や非日常性などへ惹かれていく場合と、物語はあくまでもきっかけであってその中に見え隠れする作者の思想・価値観などが合わさった人間性のようなものへ惹かれていく場合とがある。 もちろんどちらにも当てはまらないものもあるのだし、両者が絡み合った中に小説の持つ楽しみが含まれているのだとも思う。保坂さんの小説への印象は相変わらず後者である。と言うかむしろ通常の物語を構成している人間や世界の描写が、それ自体の連鎖で成り立っている感じだ。 それはとてもやわらかな印象を与えてもいるがまさに作者の文体のなせる技であって、むしろ描写と分析のみが連鎖をなしているその構成は、常に作者の考えを垣間見ながら先へ進んでいくとても体力を伴う...
  • ヤンヤン 夏の想い出
    ヤンヤン 夏の想い出 監督:エドワード・ヤン 脚本:エドワード・ヤン 撮影:ヤン・ウェイハン 出演:ウー・ニェンツェン、エレン・ジンノ、イッセー尾形、ジョナサン・チャン、ケリー・リー、ジョナサン・チャン、ケリー・リー、ウー・ニェンツェン、エイレン・チン、ウー・ニエンジェン、エレン・ジン 早稲田松竹、水曜日の最終会。客席は3割くらいか、学生や20代前半くらいの方が多い。エドワード・ヤン監督の遺作を5年ぶりに観た。59歳はあまりにも早かった、、。 映画と写真へ惹かれるのは、どちらにも「画」への果てしない美学があるからで、ビジュアルを優先的に見ることが多いけれど、実際に良い映画は美しいのだと思う。演劇には共時する時間があり、写真にはかつてあった時間がある。そして映画には両者がある。 「ヤンヤン 夏の想い出」には様々に対象が映り込むシーンが多い。この演出は元々固定ア...
  • 2003年ベスト
    2003雑感 今年はwikiを使ってサイトを構築し、それまでのやり方と大きく変わった。更新が楽だということが、「サイトする」ことの意識をも変えていった。 ひとつは「近況」として日記的な書き込みを継続していけたこと。これはウェブログという形式が主流を占めつつある状況の中で、むしろ旧来のウェブ日記をしているという感覚だった。そして個人日記というメディアに対して考えさせられる出来事でもあった。「はてな」を中心に広がっているブログは、2度目の個人サイトブームを引き起こし、ある決まったメンバーによる思考の流れがとても視覚化された状況をつくっている。もはやそれらとの距離感によってしか、自分のサイトを位置づけるこが出来ないかのようでもあり、やや息苦しさを感じている方も多いのではないか。 もうひとつは、すべてのページにコメント欄をもうけられたことにより、3年前に書いたノートが再び話...
  • 存在の耐えられない軽さ
    存在の耐えられない軽さ ミラン・クンデラ (著), 千野 栄一 (翻訳) 集英社文庫 われわれの人生の一瞬一瞬が限りなく繰り返されるのであれば、われわれは十字架の上のキリストのように永遠というものに釘づけにされていることになる。 ニーチェの永劫回帰について考察をはじめる冒頭からちょっと変わった小説という印象。物語の全貌を前段で明かし、振り返るように進む。まるで芝居のような構成に惹きつけられた。 作者は登場人物たちを人間とは考えていないようだ。SFが思考実験であるように、小説の世界を動く人物はあくまでもキーワード、そこから広がる物語は思索の場でしかない、そう言っているかのよう。 内面を深く描写していくドラマでなく人物を「感情モデル」で動かし、それを見て思考を広げるキャッチボールのようだ。 主眼はどこか。「存在の軽さ・重さ」であったり、「俗...
  • 路上
    路上 ジャック・ケルアック (著) 福田 稔 (翻訳) 河出文庫 「いいかね、諸君、われわれにはあらゆることがすばらしく、世の中のことは何もくよくよすることはない。本当にくよくよすることは何もないとおれたちが理解することはどういう意味をもつかを悟らねばならないよ。おれは間違っているかい?」(本文引用) アメリカ大陸を何往復もするサル・パラダイス(主人公)と大半を共にするディーン・モリアーティ(親友)の軌跡を描きとめた小説。20代前半の二人がトリツカレたように移動を繰り返してその場ごとにパーティやドラッグに明け暮れ、現地で働き金を貯めまた移動、時に伯母から送金させまた移動する。手段もヒッチハイクからバス、ピックアップトラック、旅行案内所が斡旋する車、代行運転する車などなど。 ディーンが出かけてきたのは、まったく意味のない事情によるものだったが、同時に、僕が彼と...
  • 「私」探しゲーム―欲望私民社会論
    「私」探しゲーム―欲望私民社会論 ちくま学芸文庫 上野千鶴子著 1992.6 「トレンド考察=歴史資料?」 10年たてば「昔」になる世相風俗の変化の中で、本書は、80年代の「歴史的資料」として読まれるだろう。 あとがきのように、これは80年代を読み解くとても興味深い著作。辛辣な時代批判がゆえに、いまだ新鮮さを失っていない。むしろ現在を読み解く書として再度手に取るべきではないか。以下は引用とメモ。 「権力の推移」 「ウケたい学生」という存在から、権力の移り変わりを論じる。最新のそれは「人気」という実体的な基盤のない権力。たとえばモー娘のような普通の女の子をスターに仕立て上げるのは聴衆のほうだ。だとすればその場合の権力とは共犯関係か?。「プロセスを共有」することが商品となる現在、権力の所在をますます見えにくくしているのか。 「日本人の排他的な性質」 関西...
  • さようなら、ギャングたち
    さようなら、ギャングたち 講談社文芸文庫 高橋源一郎〔著〕 \1,100 1997.4 作家の文体が独創的な場合、それを評価するにも独創的でなければうまくいかない。特にこの作品を高く評価する言葉は興味をそそる。戸惑いを生む読後感、長編というつながり、笑えたり、感心したり、退屈だったり、哲学だったり。様々に振る舞う姿は、まるでなにかから逃げ回るかのようだ。ただそれに開放感を覚えるほどの抑圧を共有しているはずもなく、それは作り手にも言えることだろうか。 阿修羅ガールが3部構成になっていて、この作品とちょっと重なって見えるのは、それが同じように戸惑うからばかりではない。そして同じように高く評価する言葉が興味深く飛び交う、それもネット上で激しく見かけるのも、文学が次のステージを求めているからだろうか。時代性にあった何かが文学に求められるだけではきっとこんなに評価は高くない...
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