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未見坂




  • 堀江敏幸/著



近頃は結婚を決める男女が増えてきたといい、住まい選びでは家族とのつながりを重視され、震災後の僕らは明らかに不安を抱えて生きている。

リスク低減で安全に対する合理的判断を行ってきた欧米社会と違って、顔の見える相手への信頼によって促される安心を買ってきた日本人へは、どんなに客観的なデータを積み重ねても納得できない領域が存在する。

震災のリスクから完全に逃げる場所などない日本において、これからの住まいへ求めるものは、一生の買い物という目的意識ではなく、家族との「つながり」を生み続ける手段としてのそれではないか。

近日行うプレゼンのために考えていたテーマ。建築の設計はデザインを思考する態度とは必ずしも一致しない言葉を選ぶ作業もある。カタチは自己との対話の中で生まれるけれど、概念や言葉は他者との対話へ開かれているから。

そんなあたりまえの確認作業を繰り返しながら、両者を行き来すこともまた建築の楽しい所だし、僕らの提案へ何かしら社会性を与えられる点があるとすれば、様々な「関係性をデザイン」することにあるのだとも思う。

仕事ばかりを考えながらも、たまたま読んでいた堀江敏幸の短編集、『未見坂』。いくつもの小さなエピソードは人と人をつなぐ固有の物語を垣間見せ、どこか懐かしいような、しみじみとした温かみに触れた気にさせる。

殺伐とした現代社会において失われて行く固有の物語、そんなフレーズはらしく響くけれど、決して現代だけが物語を失わせているのではなく流動化の激しい時間へ疲れているだけではないか。

生きていることのリアルさや「つながり」を求める態度が形を変えて常に時代の中心へあることを僕らは分っていながら、一方でそう言うしかない状況を了解してしまっている。2011.06.15k.m

カテゴリー-小説建築