趣都の誕生-萌える都市アキハバラ




  • 森川嘉一郎著
  • \1,500
  • 幻冬舎
  • 2003.2


秩序を具現化するモダニズムの理想は日本ではあまり定着しなかった。そんな今までの都市論を抜け出した事例と思いきや、真相はほど遠い局面を示しているという意味でショッキングなレポートだ。論点に斬新さは少なくむしろここ数年の「広告・オタク・都市」キーワードから繋がる言説を、もう一度秋葉原という「スキャンダラス事象」になぞって描いてくれたもの。かえって単体の建築への思いは巡らされた。

建築という行為は巻き込む対象が雑多なために社会性を負う宿命を持つ。人命にかかわる安全性からデザインが不快であるかという趣向まで、提供する能力と判断される視点も多岐に渡る。ゆえに建築家は全ての事象を解決すべき問題として語ろうと振る舞う。そんなスタイルを嫌い作ることが「趣味である」かのように身の回りへ重きを置く若手も多い。それ自体も「振る舞い」なのかもしれないが。

秩序を持ち込むように訓練されて来た事へ無批判でなかったにしても、設計のスタートであることには変わりなく、まだまだ上昇志向の施主(この著作で言うところの渋谷的)は多いけれど、オタク的空間感覚を理解できないままでは設計もしづらい。果たしてオタクとして経済力を得た人は建築家に家をまかせるのだろうか。

資本がイデオロギー的に街をつくる状況が成熟であり、その結果生まれた豊かさと倦怠が趣味空間を立ち上げる。オタクに負けているとすれば、その情熱ではないか。渋谷を支えている上昇志向は表層的で、競争志向でなくサラブレッド的なものだ。生産側ではなく消費者だ。生産側には泥臭さのような競争心と内向的思考がある。「趣味の都市」とはそんな各個人の生産力が秋葉原という文脈にのっかたのだろう。

第2の秋葉原は出現してくるのか。文化的生産力を獲得した消費層は次にどこから生まれてくるのだろうか。個人サイトの運営者はどうか。表現したいという志向性はもっている。それが生産力に繋がるだろうか。フリーマーケットはどうだろう。すでに都市風景の一部分ともいえる。いずれにしろ同じ価値観で結ばれた強いネットワークが必要だ。

IT化時代に建築へ何が可能かを考えたい一方で、秋葉原のケースは無力さの兆候を見るようでもある。建築が個別な趣味性に表現の場を多く付き合い方をリアルに見いだせるのだろうか。あるいは二極化に可能性が残されているのか。今年から順次完成する巨大資本が作った新しい街の数々はどうだろう。東京への興味は尽きない。

2003.02.28k.m

コメントをぜひ

他の方達の書評など。

  • k.m>山形浩生さんの 書評 SIZE(10){2003-03-22 (土) 00:16:16}

71年生まれの3人

  • jun>東さんの ページ で、北田さんの本、森川さんの本にまとめて言及がありますね!お三方とも71年生まれということで、「3人が共有している感覚は」という記述もあります。SIZE(10){2003-03-19 (水) 20:58:54}
  • k.m>おお!それはチェックですね。SIZE(10){2003-03-20 (木) 02:02:34}
    • ↑>きわめて世代的で地域的なものなのではないかという疑いであるこの指摘は、僕も一応71年生まれなので考えさせられるというか、>仲間内だけの問題を普遍的だと思ってしまうものだ。という東氏の注意点に敏感になって、三方の言論をもう一度見比べたら楽しいのかと思いました。-ところで>1980年代の渋谷をいかに克服するかという点はひとつ上の世代である、大塚英志氏の考察である程度提出されてもいて、面白いのはやはり80年代を持ち出して相対的に浮かび上がらせている「今の特異さ」の描かれ方、受け入れ方ではないでしょうか。k.m
  • k.m>森川嘉一郎さんから リンク はられました(恐縮)。SIZE(10){2003-03-25 (火) 12:30:06}
  • k.m>↑しかもコチラで色んな書評が見れ、それが興味深いサイトばかりだし。SIZE(10){2003-03-28 (金) 01:56:15}

クロダさんの書評から

  • クロダ>論じるほどのバックグラウンドはないんで、感想を書いてみました。SIZE(10){2003-04-06 (日) 21:44:15}
  • クロダ>あれ、書き込みうまくいかないや。 こちら ですSIZE(10){2003-04-06 (日) 21:45:03}
    • k.m>お知らせ有り難うございます。アメリカのオタクの一例 :http://www.anzwers.org/free/acparadise/grandis.htmというのが面白いですね。「自分が多数派でないことの屈託のなさ」が一方で、これらの街をつくっているのかとも思いますが、それが本来のマイノリティーとは明らかに違ったものでもあるのと、様々な少数派という括りは問題の本質的なものをさらに見えにくくしているのかとも思いますし・・。SIZE(10){2003-04-06 (日) 21:57:00}
  • jun><クロダさん ぼくの一番はじめのひっかかりも、幻冬舎から出ている、ということでした( インサイター 3/23 での書評の書き出しも幻冬舎ネタですね) 。また、すごい狭い範囲でのデータですが、ぼく(79年生まれ)の中高時代の友人で、おたくっぽい人はみんなばりばりの理系でした(で、コンピュータ使いでもあった。インターネット以前の時代ですが、草の根ネットをやっている人も。余談ですが、そこではすでにファイルの共有もされていたらしい。もちろんP2Pではなく、パブリックディレクトリーにアップするようなかたちでだったと思いますが)。関西だったので、電気街と言えば、日本橋でした。
    • jun> 部外者というものをつくりだす、街というのもおもしろいですね。渋谷で、疎外感を感じる人もいるでしょうが、あたそれとは別の種の。横浜で黄金町とかに紛れ込んじゃうと、まさに紛れ込んでしまう、という感じの、この街の法則が分からない、といような状態になり、いつのまにか足早になってしまいます。あそこの場合、いろんなアジアの外国人の方も多く、マイノリティーではあるかもしれませんが、趣味との関連はどうでしょう。お店の性質として、趣味的なところもあるのかもしれません。まあ、「趣都」にならうと、ではそのような街がどのように形成されたのか? ということを問わなければならないのでしょうが。SIZE(10){2003-04-07 (月) 10:20:14}
  • クロダ>junさん、ぼくが知ってるオタクは中森明夫が「おたく」と名付けた頃より少しあとぐらいの人たちだと思うんだけど(年齢は個々の人には隠すつもりないけど、ネットでは今のところディスクローズしてないんで失礼)、同人誌な人たちで文系が多かったと記憶してます。文系と理系の接点って絵をパソコンで描くって部分なんでしょうか。それはそれとして、横浜といえば寿町あたりも、別の意味で近寄りがたいですね。SIZE(10){2003-04-09 (水) 00:05:38}
    • k.m>どこまでがオタクか?ってのもありますが、「絵をパソコンで描くって」言う意味では、毎日絵(図面など)書いてます・笑。柳美理の「ゴールドラッシュ」や「私立探偵浜マイク」などでとっても気になっていつつ、未だに行ったことのない黄金町です。SIZE(10){2003-04-09 (水) 01:42:51}
      • jun>黄金町って、そういうところで描かれてるのですね。ぼくは実際の体験でしかしりません。関内~伊勢佐木町~日ノ出町のあたりはかなりの数の古本屋さんがある のですが、それらが分散してあるので歩き回ることになり、そうして黄金町に迷い込みました。そういえば、古本屋街というのは、どうできあがるのでしょうか。

  • 321>神保町の古書店街は、明治時代に東京外語大ができたのをきっかけにいろんな学校ができてきて、それにともなって発展していったらしい。最盛期には日本の古書の2/3が集まったそうな。SIZE(10){2003-04-09 (水) 02:56:23}

話題の書籍なんですね。

  • k.m>やはり学問の街と結びつきが大きいのですね。ところでこの本、すっかり話題ですね!。本屋でもよく積み上がっています。売れ行きよいのでは??。SIZE(10){2003-04-11 (金) 01:25:45}
  • k.m>クロダさん、ちゃーりーさんの書評も リンク されましたね!。SIZE(10){2003-05-02 (金) 01:52:11}


カテゴリー-社会思想建築東京
最終更新:2009年06月01日 09:47