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路上


  • ジャック・ケルアック (著)
  • 福田 稔 (翻訳)
  • 河出文庫


「いいかね、諸君、われわれにはあらゆることがすばらしく、世の中のことは何もくよくよすることはない。本当にくよくよすることは何もないとおれたちが理解することはどういう意味をもつかを悟らねばならないよ。おれは間違っているかい?」(本文引用)

アメリカ大陸を何往復もするサル・パラダイス(主人公)と大半を共にするディーン・モリアーティ(親友)の軌跡を描きとめた小説。20代前半の二人がトリツカレたように移動を繰り返してその場ごとにパーティやドラッグに明け暮れ、現地で働き金を貯めまた移動、時に伯母から送金させまた移動する。手段もヒッチハイクからバス、ピックアップトラック、旅行案内所が斡旋する車、代行運転する車などなど。

ディーンが出かけてきたのは、まったく意味のない事情によるものだったが、同時に、僕が彼と出かけてきたのもまったく何という理由もなかった。(本文引用)

ディーン・モリアーティは躁鬱でいうところの「躁」の状態で、常に薬が効いたようなハイテンション。「気狂い」という言葉が何度も出てくる。サル・パラダイスはディーンへ強く惹かれ周囲がつき合うのを抑止しても一切聞かず彼を離さない。二人は実在モデルがあって、知識人に囲われたコロンビア大学生のケルアック(自身)に対して自由奔放なニール・キャサディ。社会的な基盤の差が引き合わせたような関係で、1950年代のアメリカや、ビートジェネエーションという時代的背景などからもそれがうかがえる。

ぼくが彼のこと、彼のなやみについて考えて数時間を過ごしたことが彼に分かったとき、それはおそらく二人の友情の軸点だったのだろう。彼はこの友情の軸点を自分のひどく巻きこまれ苦しめられている精神的カテゴリーの中に置こうとつとめていた。(本文引用)

知識人に囲まれた生活を退屈と思い「気狂い」じみたディーン・モリアーティに惹かれ、ニューヨークという地に住みながらも希望の地・開拓の地として西部や中部へ憧れを抱き、幽霊のようだと放浪する浮浪者を車から眺めつつも神秘的な対象として眺めたり、白人であることへ幻滅的な態度を取り黒人になりたいとの羨望に揺れ、小説の終盤で行きついたメキシコへ路上の果てにあるファンタジー的な視点を向けたり。それはナイーブな青年が向ける差別的な眼差しのようでもあるけれど「フランス系カナダ人」という彼の親は有色人種でも米国中産階級の白人でもない、様々なカテゴリーの間に宙吊りされた文脈を持っていて、一方で彼自身は白人であったがために、そのレトリックによって文化的・社会的な主流の中にもいたという複雑な背景があったようだ(後で調べた)。

一つのまぼろしがすたこらと逃げ、ぼく自身は一枚の板に向かって急いでいる。その板からはすべての天使がダイヴィングして、未創造の真空の聖なる空間の中に飛びこんで行った・・・ぼくはすでに死んで、何回となく生まれ変わってきているのだが、自分ではそれを憶えていないことに気がついた。(本文引用)

そんな背景を知ればさらにこの独白も哀愁を増すのだけど、体を突き動かす移動への執着と大地を前に何度も反省する言葉とが感覚的にレイウトされ走っていような文章で、その刹那的なスピード感が単なる郷愁(=ノスタルジー)ではなく「もののあわれ」というか「サウダージ」なのか分からないが「温かい家庭や両親に守られ、無邪気に楽しい日々を過ごせた過去の自分への郷愁や、大人に成長した事でもう得られない懐かしい感情を意味する言葉(Wikipedia)」を彷彿とさせれ惹きつけられる。

すると、ぼくの前には、大きく膨らんだわがアメリカ大陸の、むき出しの巨体が横たわっていた。はるか彼方のどこかでは、陰うつな狂気じみたニューヨークがもうもうとした埃と褐色の蒸気を吐きだしているのだ。東部には、褐色で神聖なものがなにかある。(本文引用)

アメリカ文化は世界中を魅了し彼らの中で理想郷となっていった。だが実際のアメリカに渡った者は深く絶望した。街を彩る煌びやかなネオンも、TVから絶え間なく垂れ流される情報も、何もかもが資本主義的で表面ばかり取り繕った安っぽいものだったからだ。ロードムービーが与える解放感やビート文学の疾走感は、こういったアメリカ文化の生み出す魅力と翻弄される個人の間を逃走する身体が、移動の与えるドライブへ共鳴するさまを感じ取るからなんだと思った。

ぼくは、地下鉄の入口に立って、美しい長い葉巻の吸いかけを勇気を出して拾いあげようとしたが、かがみこむたびに群集に押されてついに踏みつけられてしまった。バスで家に帰る金もなかった。(本文引用)2009-03-08/k.m

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カテゴリー-小説ロードムービー