ここに幸あり




  • 監督・脚本・出演 : オタール・イオセリアーニ
  • 出演 : セヴラン・ブランシェ 、 ミシェル・ピコリ 、 ジャン・ドゥーシェ 、 リリ・ラヴィーナ 、 アルベール・メンディ 、 ヤニック・カルパンティエ


主人公の冴えないオジサンは大臣であって、ある日突然辞任に追い込まれ、仕事も住む家も愛人も失ってしまう。別れた元妻にも相手にされず、行き場を無くした彼は母と昔の友人たちの元へ行き、、、といった冒頭の10分程度が「お話」っぽくなっていた。

その後はほとんどこのオジサンがだらだらと余生を送る「風景」(まさに眺めるようだ)だけが写されているといった映画。けれど観ていてとても幸せな気分に浸れそのままどっぷり溺れたくもなり、それは1週間ほどの正月休み明けで覚える仕事の復帰難さを妄想して、逆に今を楽しむ刹那のようだった。

母から案内された古くからの所有アパートには、不法占拠している住人達が何人もいて、まったく引き下がらない強気な態度で、いっぽうのオジサンもへこむことなく、まだ気づかれていない隠れ部屋へ友人を案内してピアノをいじり煙草を吸う。

外へ出れば不法占拠人から汚水を振りかけられるが、まったくへこむことなく、通りかかった女性友達の家へ行きシャワーを浴びくつろぐ。やがてふらふらと出歩きそこかしこで友人をつかまえて飲む。

街なかでは相変わらずデモが起こり市民と警官の衝突が絶えないシリアスな事態が並行して描かれているのだけど、オジサンの周辺ではまったく気にも留めずに幸せな時間がだらだらと続き、一度パーティで酔った者どうし殴り合いのケンカが起きたがそれも気づけば音もなくおさまっていた。

結局はじめから終りまで描かれていた時間に速度や密度の大きな変化はなく、かといって退屈で眠たくなるようなドラマでもなく、どこか体内の時計と共時させるような優しさに満ちていて、「ここに幸あり」を実感する作品だった。そういえば『月曜日に乾杯!』もそんな映画だった。2008-11-17/k.m
最終更新:2009年02月20日 01:32