多重化するリアル



  • 心と社会の解離論 (ちくま文庫) (文庫)
  • 香山 リカ (著)


著者は「リアリティ喪失」の問題を考えるきっかけとして、離人症性障害を取り上げる。以下、定義を引用。

1)自分の精神過程または身体から遊離して、あたかも自分が外部の傍観者であるかのように感じている持続的または反復的な体験。
2)離人体験の間、現実吟味は正常に保たれている。
3)離人症状は臨床的に著しい苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。
4)離人体験は、精神分裂病、パニック障害、急性ストレス障害、またはその他の解離性障害のような、他の精神疾患の経過中にのみ起こるものではなく、物質(例:乱用薬物、投薬)またはその他の一般身体疾患(例:側頭葉てんかん)の直接的な生理学的作用によるものでもない。

上記の症例は解離性障害(=多重人格)というカテゴリーに含まれるそうだ。そして多重人格は病気というより、共通の大きな目標をもてなくなった現代社会に、人間が適応しようとした結果ではないか、という問題提起がされている。

離人症性障害の定義を読んで、もはや普通の感覚ではないかと思うこと。解離性障害について、その場その場で複数の役割をこなさなければならない現代人の特徴だという意見なんかも聞くこと。つまり精神医学の言葉を借りなくても、僕らはこれらの感覚の中に生きていると実感しているし、症例として取り上げられたからといって別段ショッキングにもなれない所にもはや来ているのだと思う。

けれど本来このように描き出すことには批評の意義があって、そこから見えてくることがもっとあるのだと思う。2008-10-21/k.m
最終更新:2009年02月01日 23:31