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現代イスラムの潮流

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  • 宮田 律著
  • 集英社


英仏のアラブ支配は大戦後の1920年、サンレモ会議で国際的に認定された。かくて今日のイラク、ヨルダン、パレスチナは英、シリアとレバノンは仏の委任統治領となった・・・。

パリを旅行したときの楽しみの一つにアラブ世界研究所を見る事があった。ジャン・ヌーベルほかの設計でコンペに入選した作品で、1987年パリに竣工した建物。最大の特徴は、南側のファサード。アラブ文化特有の幾何学模様のパターンで、カメラの絞り機能を応用したダイヤフラムが圧巻だった。

かつて列強時代に支配していたアラブ世界に関する研究機関がこうしてパリに存在するいきさつは複雑なのだろう。当然アラブ世界への影響力を保持したいフランスの思惑はあるのだと思う。このようにヨーロッパとイスラム世界はきってもはなせない関係があるのだが、日本とのそれは希薄だ。

この本にはイスラムの歴史や思想、社会的に背負っている困難などが詳しく分かり易くまとめられている。例えば酒を飲むことを禁じているこの宗教では、当然人間の神経をマヒさせる麻薬も厳禁だ。しかし現在アフガニスタンが世界最大の麻薬生産地となっている現実を、単なる「教えに背くもの」として言い切れない「困難」が、イスラム全体を覆っていることが分かる。

イスラムでは「利子」が禁止されているという。経済的平等主義に関連するこの考えは、明らかに資本主義とは矛盾するものだ。実際にイスラム銀行では、預金者と銀行が共同で企業経営を行い、預金額に応じてその利益の配当を行う方式があるという。急速にグローバリズムを叫ぶ我々日本を含む資本主義社会は全世界を一つの価値観で覆うとしているのかも知れない。当然上記のような価値観をもつ宗教民族とは摩擦が起きるだろう。

おだやかで気さくな人々が多いなか、政府の上層部による「イスラエルの解体」や「アメリカは大悪魔」などのスローガンによって、アメリカにテロ支援国家として嫌われているイラン。ここでもその外交上の理由から、様々な困難を振りまかれているのだ。

「国家」という枠組みが生みだしているこれらの矛盾は、今世界中で起きている「単一民族による国家造り」という、血みどろの争いを巻き起こしている矛盾と重なる。これらナショナリズムが欧米の作り出した思想であるのなら、日本のようにたまたま島国であった国とは違い、地続きの広大な多民族地域で、自らの思惑とはちがう列強の国々のご都合主義によって分断された「国家」とは、思想からも造られ方からも二重の困難を背負っている。クルド人などはその最たる存在なのだろう。

この本によると国内にクルド民族問題などの矛盾をもつイラクのサダム・フセイン政権は、それを覆い隠す為に、常に国家的危機をつくり、その危機を乗り越えることによって、国民の支持を維持してきたという。1973年の対イスラエル戦争、75年のクルド内戦、80年から88年のイラン・イラク戦争、また湾岸戦争において現れたものは、まさにこのイラクの特殊事情によるのだそうだ。

同時に著者は、アメリカ人のメンタリティーとして概して「敵」をつくることを好む傾向にあることを指摘している。冷戦時代の「ソ連」という敵、そして98年以降その「敵」はあきらかにビン・ラディンとなったという。彼のためにCIAが膨大な費用をかけて衛生監視システムをつくるなどの、過剰さがあった。これを多民族国家であるアメリカが、仮想敵の存在によってナショナリズムを固めるための常套手段と見るならば、サダム・フセイン政権のしている事とあまり変わらないようにも思う。

まだまだこの本には興味深いイスラムの事情がたくさん掲載されている。世界がはらむ困難のカギを握っているのが、イスラム諸国への対応如何でも、それらが後戻り出来ない状況になりうるのだという「重要さ」が分かる。

2001.09.22k.m

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カテゴリー-新書社会