偶然の祝福
朝一番で寄るところがあったが、時間的に余裕が出来たのでカフェでこの本を読んでいた。通勤途中に寄り、テイクアウトしていく客ばかりだった。この時間に落ち着いて本を読める満足と、時間を気にする気持ちとが混ざり合っていた。
一日のスタートへ心を落ち着けるべくこの小説には独特のリズム感があった。主人公の遭遇するさまざまな偶然はどれも静かに訪れ、その後精神的な支えとなったりする。しかし偶然をつかむ姿勢にはどこか強かさを感じた。
それは不幸を抱える主人公が、そのような現実を了解しつつ生きていることに現れている。どんな境遇に置かれていても、日々の小さな出来事から生まれてくる積み重ねを執拗に書き留めていく姿勢は、小説という形式を利用した生きる知恵の実践ではないか。入れ子になった構成だ。
語りようはとても繊細で、少しの激しさをも感じさせない静寂そのものだ。なのに印象に残るのは強かに実践する姿なのだ。外出先でむかえる仕事前の「朝」には、まだその一日がどのような姿になるのか分からない白さがある。その時この小説を読み始めたことは偶然にも小さな収穫となった。
2004-06-09/k.m
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最終更新:2008年04月15日 01:43