音楽

  • 1972年
  • 104分
  • 行動社=ATG
  • 監督・脚本:増村保造
  • 原作:三島由紀夫
  • 撮影:小林節雄
  • 出演:黒沢のり子、細川俊之、高橋長英、三谷昇

数ヶ月前に読んだ三島由紀夫の原作がまだ頭に残っていた。原作では精神分析医の語りによって物語が進み、その分析医自身の複雑な葛藤がなんとも面白い小説だった。女性を描くことで定評のある増村監督の作品が、もっぱら女性患者を中心に作られていたことは、原作とは別の物語として観れば当然興味深い。しかしエピソードの数が多過ぎて、駆け足で巡る2時間ドラマの様な印象でもある。後の大映ドラマ「赤いシリーズ」などに観られる「熱い演技」で演出されているので、役者の声が張りすぎなのも気になった。

とは言え「ハサミ」があれほどにエロティックな凶器として登場してくるさまには感動してしまう。少女時代から大人へ成長する過程で、様々に奇怪な性的経験を語る患者と、一々が映像としてショッキングにあらわれてくるこの演出は、まったく別世界の興奮に満ちている。原作との相違は、分析医の存在感が希薄なばかりでなく、その愛人である看護婦の印象が強すぎる点にも顕著だ。

いったい女性の激しい行動の数々は、それらがヒステリーから引き起こされるものであったのだろうか。そもそもの潜在的な激情のあらわれであって、看護婦ですらそれに近い徴候が見られていたのではないだろうか。増村監督の原作への共鳴とは、そのような潜在的な女性の激情に対してではないだろうか。だとすれば同様な描写で魅力あるトリュフォーの作品の中と、日本人の感情の中部に見い出せる世界観とを、増村作品は共有しているのではないだろうか。 2002.09.08k.m

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最終更新:2008年04月11日 08:13