これは、クリス・マルケルの名を不動のものとしたとされる記念碑的作品で、第3次世界大戦後の廃墟のパリを舞台に、ある男の過去と未来への時間旅行を切なく美しく描いたSF作品です。
この作品の大きな特徴の一つである静止画像でストーリーを展開した事により、SFという虚構の世界での話にドキュメンタリー的なリアリティが生まれ、この作品を面白くしていると思います。特に、CG技術が発達した現在の映画において、リアリティを追求すればする程リアリティは失われているのではないのでしょうか。鑑賞者に想像力をかきたてる事が失われてきているのが現状であり、この作品が優れていても(作品性が高くても)一般ウケは狙えないであろう原因の一つともいえると思います。
この作品のもう一つの面白さは、冒頭の空港における主人公の男の少年時代の記憶と最後の空港における主人公の男の現実がリンクしているところに表れている時間と空間の意味の捉え方だと思います。描かれている現在(観賞者にとっては未来)はとても古めかしくノスタルジックであり、逆に過去は(鑑賞者にとっては)現在として設定してある為に、過去と扱うに違和感を感じる。こうしたストーリーにおける時間軸と鑑賞者における時間軸が交差し合い、独特の世界観を生み出しており、単なるスチール写真の集合体ともいえるこの作品にストーリー性を付け加えている事に成功しているのではないでしょうか。
さらに、この作品の中で観客に時間と空間というものを体感させたのは、この作品のなかで唯一動画となった女(彼女)がベットで目覚めた時のアップのシーンで、それまで動かない人達ばかり観ていたばかりに、女(彼女)がまばたきをしただけで観ている者は衝撃を与えられ、一挙に現実に引き戻される感覚を得られます。このシーン程、自分がいる空間が現在だという感覚を与えられた事に効果的であるところはないと思います。
この作品が40年経った今観ても面白く感じられるのは、SFというジャンルにもかかわらず、それが誰にでも持ち合わしているノスタルジアに触れているところだと思います。
2002.10.20i.m
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