ファンタジスタ


  • 星野智幸(著)
  • 集英社
  • 2003年3月発行
  • 価格: 1,785円(税込)

政治色の強い言葉があって、素直に面白いと思う部分と、すごく啓蒙的なメッセージが入り込んでいることへの戸惑いとが交互に訪れて来る小説。そして幻想的な表現が多い。これを読む前、幻想的な小説はどちらかといえば苦手だった。おとぎ話のような世界観は、それをイメージさせることに使う想像力がなぜか負担になってしまっていた。


星野智幸の小説は確かに幻想的な描写が多いのだけど、同時にすごく現実的でもある。日常のなかに潜んでいる幻想性というのだろうか。なにげなく済ませてしまうことの中に含まれる感情をたくみに言葉ですくい上げた姿が小説だとすれば、そのやり方にとても共感を覚える文体だ。幻想的と言われている小説が、そのメタファーが与える見通しの良さを楽しむものだということがなんとなく分かった。


複雑な感情のネットワークをユニークなメタファーをもちいて記号的に解釈させることは、複雑さをもったまま共感させる力になっていると思う。それは私が「刹那」の中へ落とし込んでいたものを再発見させる。拾い上げられた感情は寂寥だったり驚愕だったりするけど、なぜかそれらを「愛しく」思える。感情とは自らの創造物でもあり、クリエイトであり、署名された存在であって、当然そこへ親心を生む。星野智幸の小説にはそれを覚醒させる効き目があるようだ。2004-11-17/k.m



カテゴリー-小説

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最終更新:2011年06月21日 13:28