キル・ビル


  • 製作・監督・脚本:クエンティン・タランティーノ
  • 製作:ローレンス・ベンダー
  • アクション・コーディネーター:ユエン・ウーピン「マトリックス」
  • 美術:種田陽平「スワロウテイル」
  • アニメーション:プロダクションIG「攻殻機動隊」
  • 撮影監督:ロバート・リチャードソン
  • 出演:ユマ・サーマン、ルーシー・リュー、ダリル・ハンナ、デビッド・キャラダイン、千葉真一、栗山千明
  • 制作データ:2003米/ギャガ=ヒューマックス
  • 上映時間:113分・R-15

「刀は疲れ知らず。あんたも少し力が残っているといいけどね」(ルーシー・リュー)

いやー。またすごい映画を。タランティーノ監督はやってくれた。正直あまり期待せずにいたのだけど(その割には公開日初日に見ることは決めていた)、かえってそれがよかったのか感動は大きい。

これは「復讐劇」と説明すればもうそれだけの映画だ。まったくストーリーなんて微々たるもの。誰かが殺されかけ、奇跡的に生き延び、自分を死へ追い詰めかけた宿敵を順番に殺しへ行く。こんなにもありふれ繰り返されている内容なのに、どうして夢中になってしまうのだろう。僕らは自分の殺意を消化してくれるものへ飢えているのだろうか。殺したい相手を捏造しかねない既視感でもって迫ってくる。

ユマ・サーマンがものすごくカッコイイ役者にみえてしまう。それはセルフ・プロデュースのトム・クルーズをしのぐほどの男前ぶりだ・・。きっと彼のラスト・サムライはこれに負けてしまうだろう。ユマの舞は華麗で緊張感があり、さらに張りのある笑いを連発させてくる。これは両方から観客へ攻撃を仕掛けているようで、やや欲張りな役柄だと思ったが、何のことはない、欲張りなのは映画の演出全体であった。

マトリックスがインパクトを与えたのは、周到なサイバーテロリズムでもなく、近未来社会の終末でもなく、徹底した「萌え要素」の投入であった。それはオタク的であるほどに執着されたこだわりで、中途半端なドラマやメッセージの排除と、そのための演出エネルギーをすべてアクションへ費やした為に生まれた世界観だったと思う。だから2作目、3作目とそのインパクトを落としていくのは、サイドストーリーやメッセージ性の挿入に原因を感じずにはいられない。

キル・ビルが今回放ったエネルギーはまさにマトリックス(1作目)をしのぐものだ。そこには「萌え要素」以外の人間ドラマやメッセージなどはまったく見あたらない。いきなり殺戮が始まり、終始アクションの連続だ。一見同様な路線のハリウッド大作は、アクションの合間に意味ありげなドラマが入る。そしてお決まりの人間愛を訴えてくる。正直辟易されられることが多い。この作品ではアクションの合間は「笑い」だ。それもかなりアイロニカルなもので、レベルの高い緊張感をもっている。

笑いが、ある意味「笑い」でよかったと思わせるほどに、戦うシーンは迫真だ。マトリックスのパロディー感とはちがった、さらに座頭市の美しさだけを狙った希薄さともちがい、正直グロイくらい血が飛び散るのだ。それは十分に昔のスプラッターを彷彿させ、生々しい肉の切断を容赦なくみせる。R-15だ。

この手を抜かないどれもディテールにこだわったシーンばかりの「萌え要素」満載ぶりは、通常ならば「あざとさ」を感じ結果的に希薄な雰囲気をつくってしまうものだが、笑いとのバランスが絶妙なため、単なるオタク的なこだわりで独りよがりの閉鎖的なものとさせず、開かれた面白さへとつながっていくのだ。来春の2作目でもへたなドラマなど入れずに「残酷=無意味」で通してほしいものだ。2003-10-25/k.m


・・むしろ、映画史の正当な嫡子となることだけはあらかじめ拒絶しつつ、しかし断片として周囲に浮かぶ映画的な記号やイメージとの永遠の戯れが無条件に許されている「王子の特権」だけは享受し続けるという・・Dravidian Drugstoreさん-2003/10/27 (Mon)。なるほど。「男の子の世界」ですか。そういえば「シンセミア」に描かれているのも同じ様な呼び方が出来そうな感じですよね。2003-10-27/k.m

コメントをぜひ

  • k.m>虎 ノ門で井筒監督が「キルビル」をかなり怒って酷評していました。たしかに映画的な王道からは外れる作品なんだと思いますが、無意味なスプラッターをあれだけ嫌うのは、ちょっとどうかと。「無意味さ」については色んな奥深さがあると思うのですがねぇ・・。2003-11-02 (日) 15:57:51
  • tub>"ジャッキー。ブラウン”の反動か? タランティーノ節炸裂で面白かったけど。一度もこの人の作品を診たことがない人にはつらそう。個人的には”BUCKで、FUCK”と”PUSSY WAGON”がおもろかった。 2003-11-10 (月) 07:33:59
  • k.m>僕はジャッキー・ブラウンこそ面白いなぁと思うのですが。あとレザボアも。今週のAERA表紙でした。2003-11-19 (水) 00:56:26
  • やっちゃったな>笑いとのバランスが絶妙って、、、、、、、まあ、そう取れる人にはこの映画に意味があるのかもね。2003-11-26 (水) 13:15:14
  • やっちゃったな>招待券で観たのでアレだけど、「マトリックス」は映像美じゃない。デビュー作からそれびんびんの兄弟監督だしさ。今回のキルビルの問題点は、映像美にも、バカ会話(デビュー作のマドンナについて)にも、心理描写にも、アクションにも、褒められる点がないということ。2003-11-26 (水) 13:20:43
  • k.m>キル・ビルってホント賛否両論分かれる映画ですねぇ。だからきっと「ほめ気味」だと今回のようなご意見をいただけると思っていましたw。「マトリックス」は映像美というのは確かにそう思います。基本的に影像美に感動できないと物足りないし、逆にそこを押さえてくれればほとんど満足してしまいます私は。2003-11-26 (水) 13:28:43
  • ちゃーりー>やっと観ました。感想はウチのサイトに書きましたのでよろしく。ルーシー・リューの殺られ方は衝撃的でした。あれでいいの? みたいな。ところで、ユマ・サーマンの最後のセリフ「切り取った手足は私のものだ(とかなんとか)」ってどういう意味なんでしょう。2003-11-30 (日) 18:27:49
  • k.m>深作監督からその流れの阪本作品「新・仁義無き・・」とか鈴木清順とか、藤田敏八の「修羅雪姫」とか、たっくさんの日本映画引用作品ですから、きっとあのセリフも何かの引用なのでしょうか。感想拝見しますー。2003-11-30 (日) 20:08:37
  • サーモン>タランティーの映画ってテンポいいなー。なんだかんだって名作だと思う2003-11-30 (日) 22:53:52
  • りえ>鈴木清順の映画に似たようなセリフがあったような気がするのですが・・・。2003-12-01 (月) 23:21:23
  • k.m>うーん鈴木清順かも。そういえば「刺青一代」も「けんかえれじい」もまだ見てないー。2003-12-02 (火) 01:59:46
  • えい>50歳代の私が今までに観たところの一番くだらん映画でしたね。2003-12-08 (月) 18:03:35
  • k.m>だらん映画ですかぁ。ちなみにえいさんのお好きな映画はなんですか。2003-12-09 (火) 01:23:00
  • >私の周りの人も賛否両論まっぷたつ。2004-03-27 (土) 17:37:55
  • こだま>ごめんなさい。上の文章途中です。 続き→だけど全編通じて常識と絶妙の距離でずらし続けているその緻密な構成力、緊迫感、表現力。笑いとは何かを堂々と示しきったタランティーノに私は脱帽!ブラボーー2004-03-27 (土) 17:48:53

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最終更新:2008年04月11日 08:03