夏休みの第一日目に私は誘拐された。ママと別れたパパに・・との設定で始まる、父と娘のロード・ムービー。いやストーリー。
この小説は誘拐された小学5年生の女の子の視点で書かれている。それにしては大人っぽい。けれどこのちょっと「わざとらしい」くらいな気分が面白い。風景の描写などは、通常の角田さん表現のままだから、とても小学生離れしている。ただ活字では不思議とそんなわざとらしさなんて気にならないものだ。
恐らく離婚してわが子との生活を断念することになったパパが、なんとかママに交渉して会う機会をえようと踏み出た結果が「誘拐」というカタチになったのだろう。きっかけはどうあれ、一度も親子の対話を果たしていない二人がひと夏をともに旅するロード・ムービーだ。いやストーリーか・・。
そういえばヴェンダースの「パリ・テキサス」は、何年も失踪していたパパがいきなり子供の前へあわられ、一緒にママを探しにいくというロード・ムービーだった。あれはパパと息子だった。けれど「親子の対話を果たしていない二人がひと夏をともに旅する」という点は共通だ。素晴らしく感動的な作品で、オールマイベストの一つだ。
娘はパパの「かっこ悪さ」をウザがっていた。けれど旅を続けるうちに「愛おしいかっこ悪さ」へと変化していった。まるで不器用なヤクザ男から離れられない恋人が「このまま逃げよう」と立場を逆転させるように、娘は旅にはまっていく。
旅が与える日常からの開放感には、なんとも中毒的な心地よさがある。パパへの感情の変化も、この状況だからこそではないか。高ぶった気分が「愛おしいかっこ悪さ」をつくったのかもしれない。家族だからとか、血のつながりとかあまり関係ないと思う。
たまたま居合わせた年の差カップル。情のうつってしまった娘。ありふれたドラマのようだ。だが、それでいいではないか。親子の関係なんて「ありふれた」つながりでいいではないか。そんな風に思った。2004-01-26/k.m
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