まどろむ夜のUFO


  • まどろむ夜のUFO
  • 角田光代
  • 幻冬社文庫
  • 495円

自由であることの残酷さを知っている「私」が、どこかで安心できる道を選んでいく。その迷いと葛藤を描いているのだと思った。

幼き頃に何か神秘的な存在や出来事に興味を持った思いではある。UFOや心霊写真なんかは当然話題になった。タカシは「まだそんなことを信じているのか」と、幼い思考を振り返るようなセリフを言う。しかし実際には神秘的な存在にたいする妄想はより実体としてタカシのなかに存在していて、テレビのアイドルと妄想の中で恋愛していると言った、ややあぶなっかしい人になっていた。「私」は幼き頃のタカシをどこか懐かしみ、大人びている弟との距離感へ戸惑を感じ始めた。ただ実際にタカシの「今」が発覚して来るにつれて、通常の高校生とはかけ離れたその妄想の大きさ、神秘的な思考、どう転んでも常識とはかけ離れた存在へと感じられることへの新たな距離を感じるのだった。

一方「私」のつきあっている彼とは5日間ごとに食事を繰り返す仲だ。それ以上でもそれ以下でもないつきあいに「私」自信満足していた。そこでは彼女の世界を形作る「常識」を定義されているようでもあった。タカシを取り巻く人々は「常識」という定義からは全く結びつかない行動をとっていた。「私」は家族でありその神秘さを分かち合っていた弟が自分の世界を作る「常識」からはずれていくことをおそれた。

この本には3つの短編が入っているが、どれもみな同じテーマで書かれているように思う。それは人間のもつ本来的な自由と、それがはらむ厳しさや残酷さから逃避的につくられる常識という安心。実際にはそんなきっぱりとは分けがたい関係も、小説の中では大きなテーマとなり得る。それら両方を行き来する主人公の葛藤が実存を描いている作品です。 2001.08.01k.m

カテゴリー-小説


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最終更新:2008年04月11日 08:00