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-阿部 和重 (著)
-朝日新聞社 (2006/11)
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これはまさに「今、この瞬間」読むべき小説ではないか。程度の差こそあれ、誰もが生き難さを感じながら過ごしているであろうこと。それが唯一の同時代性かもしれないと思う今日この頃。だからこそ、疎外感やディスコミュニケーションを緻密に描いていくことでこんなにも面白い小説が出来てしまうのではないか。
もともと阿部の小説には、自意識の過剰さと一方通行の対話が招く様々な困難の交錯を、鮮やかなまでに映像化された描写で脳裏に焼き付けてくる、ある種の爽快感がカタルシスを生むものがあった。
時代の「困難さ」こそが食いつぶすネタだと言わんばかりに、悲壮感を滑稽さへ昇華させてしまう力技があった。僕らはまるで忠犬のように教授され翻弄されることを妄想した。そうして彼の小説に向かい、食いちらかしたい現実を消費した。
しかし今回の小説が新しく切り開いてくれたことは、食いつぶせない現実がまだまだあるという倦怠感すらともなう希望。それは尽くしきれない膨大な何か、あるいは強靭なもの。網の目のようなネットワークの中で弾けるもの。
ニュースが予定調和的なものしか生み出せないように、全ての情報源は受ける側の想定を超えない範囲でしか理解されない。小説も同様だ。いつまでも見え透いた範囲で新たなドラマが焼直されるのを待つよりか、積極的に細部を分解した阿部の小説はかえって新鮮ではないだろうか。2007-01-17/k.m
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