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「ラッシュライフ」(2006/06/22 (木) 17:01:10) の最新版変更点
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*ラッシュライフ(新潮社/2002)
**作品の情報
-「このミステリーがすごい!2002」第11位
**あらすじ
-泥棒を生業とする男は新たなカモを物色する。父に自殺された青年は神に憧れる。女性カウンセラーは不倫相手との再婚を企む。職を失い家族に見捨てられた男は野良犬を拾う。幕間には歩くバラバラ死体登場―。並走する四つの物語、交錯する十以上の人生、その果てに待つ意外な未来。不思議な人物、機知に富む会話、先の読めない展開。巧緻な騙し絵のごとき現代の寓話の幕が、今あがる。 (カバー裏から引用)
**得点(10点満点)
-8 (K2)
**良い点
-構成とミスリーディングにより実に愉快な騙し絵を描きあげている。
-群像劇の魅力+飄々とした伊坂節
**悪い点
-登場人物が多すぎて一部の主要な人物のエピローグとかに不足を感じる。結局、明かされない謎もある(それは良いところでもあるとは思うが)
**ここがポイント!
-作品全体に仕掛けられたトリック。またそのさりげない伏線。
**総評
-飄々とした語り口が個性的・特徴的で、本作に限らず伊坂作品全体を特徴付けている。シリアスで重いシチュエーションでも、ドライでありながらどこか温かみのある会話が交わされる。小説の中で、こうした人生を語るシーンを書かせると、どうしても「嘘臭さ」や「偽善」めいたものを感じさせてしまいがちなのだが、伊坂のそれは肩の力をすっと抜けてしまうような「清涼感」、「癒し」とも言うべき心地よさがある。
-だが、本作がずば抜けているのは、そういった語り口だけでなく、本格ミステリ的なパズル構成を大胆に取り入れていることだろう。特に犯人当てなどの要素があるわけではないのだが、この「仕掛け」を見抜くには少々注意力が必要になる。「死んだはずの猫が甦る」「泥棒が瞬間移動」といった信じられない事態が起こっている裏側には何があるのか。それを楽しむのが本作のもう一つの魅力なのである。
-ここで興味を引かれるのは、この「仕掛け」に最後まで(それこそ読了後までだ)気づかずとも読めてしまえるということ。もちろん気づいたほうが面白く読めるには違いないと思うが、決してそれに縛られはいない。このさりげなさが、ミステリ読者以外にも伊坂ファンを広げる要因なのであろうか。もしかするとミステリ作家であるという気負いすら伊坂は飄々と乗り越えてしまっているのかもしれない。
-しかし、唯一不満に感じるのは、作中で起きた事件が全然決着されていないこと。狙ってやっているのかもしれないが、少々消化不良気味。全部丸くおさめてくれというのはミステリ好きならではの贅沢なのであろうか。主要人物の一部は豪快に投げっぱなされた気も。
-結論としてはプロットの巧みさが光る傑作だと思う。次の『重力ピエロ』以降、一気に注目されていった伊坂だが、すでに本作において以降の作品群に対してある程度の完成形を見せているのではないだろうか。何より伊坂作品では最も(本格)ミステリ寄りな構成が個人的には嵌るツボであるが、今となっては伊坂を評するにはミステリうんぬんという議論自体がナンセンスなのかも。(K2)