その記憶は俺にとって宝物だ。
マイクに向かって声を吹き込んでる誰か。
楽しそうに笑ってる誰かと誰か。
カラオケで盛り上がってる誰かに誰かに誰か。
焼肉を食い散らかしてる誰かと誰かと誰かと誰か。
あいにくと本名は思い出せないけど。
でも、だからこそかえって彼らの笑顔は俺の脳裏に焼き付いている。
笑顔だけじゃない。
真剣にロワについて話す顔。
接続がうまくいかずに焦っている顔。
待ち合わせで迷子なっててようやく合流できた時の安堵した顔。
何度も、何度も、思い返した、俺の大切なメモリー。
最初は、逃避だった。
俺は主催者側の人間だったから。
自分が書き手なんかじゃなくて、造られた存在だって、生まれてすぐに知らされた。
参加者の書き手たちみたいにロワを通しての自己の確立なんて許されなかった。
自分で選んで、自分で動く前に、俺は、『感電』と呼ばれた人間の偽物・残滓に過ぎないって告げらて。
俺は、自分に価値を見いだせなくなった。
パーソナリティとしての記憶しかない俺は、本物に比べてあらゆる部分が欠けてるって塞ぎ込んだんだ。
だから、逃げた。
唯一、唯一俺に残されていた『本物』の記憶に逃げて、逃げて、逃げて。
気付いたら、記憶の中に出てきたみんなを好きになっていた。
ラジオに招待したみんなを。
そして、ラジオを一生懸命こなしていたあっちの世界の感電を。
その時、俺は俺を確立した。
だってそうだろ?
この気持は『あっち』の感電からもたらされたもんじゃない。
俺が、『あっち』の奴の記憶を見て、自分で抱いたもんなんだからさ。
そもそもコンプレックスの原因だった『あっち』の感電まですいちまったんだし。
晴れて俺も本物になったってわけよ。
ってわけでさ。
そんな一度も会ったことの無い親友たちをさ。
俺は独りよがりで守りたいと思っちまったんだ……。
◇
天空の城と称されてはいるが、劇中でのラピュタは数百年間放置されていた廃墟といった趣である。
住人達が息絶え、あるいは去った後でも動いていた庭師のロボットや、小動物達によって支えられていた国。
草花が咲き乱れ、巨大な樹木に覆われたその姿は、一種のテーマパークと見えなくもないものであった。
しかし、そんなラピュタは今や『城』という呼称に相応しい、いや、いっそ要塞と呼ぶべき様相に姿を変えていた。
「っち、僅か数時間でここまで変わるのかよ」
くるくると帽子を右人差し指で回しつつ、俺は悪態をつく。
本来の木々や岩を思わせる暖色は失せ、前を向いても銀色、右を向いても銀色、左を向いても銀色である。
目に優しくないことこの上無い。
しかも、無数の触手が敷き詰められた通路の歩き心地は、ごつごつしていて最悪である。
DG細胞に変化する前のUG細胞の本来の任務に従ってか、城全体を覆う木々だけは汚染されていないのが不幸中の幸いか。
とはいえ、蟹玉に比べれば内部の混濁具合は微々たるものだが、それでもあまり長くは見ていたくない光景であった。
「とっととゲートを破壊しておさらばといきてえとこだが、そうはうまく運ばねえだろなあ」
ぽふり。
玩んでいた帽子を頭に載せ戻す。
WIKI管理人がデビルガンダムに搭乗しているなら、ここは紛れもなく敵の腹の中だ。
俺が辿り着いたことにもとっくの前に気付いているはずだ。
けれども一向にwiki管理人からのコンタクトは無い。
会場なんつうとんでもないものを人質に取っておいて、実に勝手である。
まあ、こっちの叛意は完璧に知られちまってるし、当然の反応だけどさ。
「ってか破壊した後どうすっかなあ」
俺が眼中にないってことは、どのみち会場は消滅させる気だったというわけだ。
となるとせっかくwiki管理人の野望を砕いたところで、返る場所は残らない。
だったらいっそ『あっち』の世界に行くというのも悪くは無いかもしれない。
そう考えると余計にテンションが上がってきた。
今の俺はいわば片思いみたいなものだ。
一方的に見知って、一方的に好意を抱いている。
まあ、それはそれで悪くはないとも思えないこともないが、そこは欲張りな俺だ。
やっぱり向こうにも俺のことを知ってほしいと思っちまう。
本当の意味で友達になりたいって。
――こんなどうしようもない人殺しの俺でもさ。
でこぼこに足を取られて転ばないよう注意しながら通路を進む。
DG細胞の感染で内装は大きく変わってしまっているが、ダイダルゲートは今回の計画における中枢だ。
wiki管理人も取り扱いは慎重なことこの上ないだろう。
試しに先ほどから強い電磁波を放射し、反射して返ってくる電磁波を分析することで、対象物との距離を把握しているが、
思ったとおり、ダイダルゲートの位置は俺が知っている頃と変わりない。
もっとも、それ以外にも続々と接近してくる余計な反応もキャッチしてしまいはしたが。
「おいでなすったか!!」
土色にまぶされた鳥のようなフォルムの巨像が、天井を突き破り何体も現れる。
ガチャガチャと音を立て、羽をしまったその姿は、やや銀色がかってはいるが、どう見てもラピュタロボだ。
要塞の大砲をものともしない装甲に、大小二つのビーム砲によりアニロワ2ndでも暴れまわった自律稼動式ロボット兵器。
だが、そんな強敵の群れを前にしても感電は不敵に笑う。
「っは、俺も舐められたもんだな!!」
肝心のWIKI管理人がどこにも見当たらないからだ。
正規のロワ参加者では無い感電の相手を自らする気はないらしい。
「呼んでおいて無視ですか、ったくいい趣味してやがる!」
とはいえ考えようによってはチャンスだ。
wiki管理人が参加者達に集中してくれるなら、それだけゲートの防備は薄くなる。
大量のラピュタロボはやっかいな相手に変わりはないが、倒せない相手でも無い……と思い込む。
そうこうしているうちにも彼を取り囲む敵は数を増していくばかり。
正直言って怖くないわけがない。
数の差はそう簡単に覆せるものでは無いことくらい理解している。
それでも。
「チートなのは参加者達だけとは思うなよ!!」
弱い心を、強い願いで押し殺す。
勝てると自身に言い聞かせせ、自分が護りたい者達の顔と声を思い返し、この場を切り抜けるのに最適な力を召喚する。
「来ぉぉい!! ダイナミック・ライトニング・オーバー!!」
呼びかけに呼応するかのように、天空より雷が降り注ぎ、感電を包み込む。
そのまま浮上する彼を取り込むのは一体の機神。
特撮もののヒーローを思わせる赤いマフラーを翻すスーパーロボット。
型式番号 DGG-XAM3C 正式名称 ダイナミック・ライトニング・オーバー。
人呼んで。
「否。大!! 雷!! 凰ぉぉぉぉぉッ!!」
コクピットに搭乗した感電が腕を組み、二本の足でしっかりと立ち、己が敵を見据える。
ダイレクト・モーション・リンクシステムがパイロットの動きを正確にトレース。
居並ぶ銀の傀儡より尚巨大な体躯が唸りを上げる。
蟹玉でのスーパーヒーロータイムに続き、デビルラピュタガンダム内におけるスーパーロボット大戦の火蓋は、かくして切って落とされた。
◇
「これはこれで読み手としては嬉しい光景ですね」
感電とデスラピュタロボ軍団の戦いを一人、次元の狭間から覗いている少女がいた。
彼女の名はK.K.。
書き手ロワ2の全てを見届け、もしかすると幕引きをするかもしれない存在である。
彼女の見つめる先では感電が駆る大雷鳳がデスラピュタロボ軍団を相手に激しい戦いを繰り広げていた。
デスラピュタロボの身体から触手が伸び、鞭のようにしなりながら大雷鳳へと迫る。
ヒーローを模した巨人は不規則にうねる軌道の中を掻い潜り、瞬く間にロボの群れの中に飛び込んだ。
円舞とは程遠い、苛烈な舞を踊る大雷鳳。
その足技が次々とデスラピュタロボを打ち砕いて行く。
数百の同胞を葬られ、ようやく敵の強大さを感じ取ったロボ達は融合。
一際大きな固体となって立ち塞がり、唸り声を上げて腕を振り上げた。
次の瞬間、振り下ろされたその腕を踏み台として、登場時の落雷で開けた天井の大穴を抜け跳躍する大雷鳳。
『飛ぶぞ、大雷凰! 一瞬に全てを懸けてっ!!』
飛び交うビーム砲の嵐もものともせず、その名の如く鳳のオーラを纏った大雷鳳が必殺の蹴りを撃ち込む。
崩落するステージ。
強化魔法とDG細胞による恩恵を受けていた数百ものデスラピュタロボがわずか一撃でフィールドごと爆砕される。
地に降り立った大雷鳳は、己が緯業には目もくれず、新たに群がってきたロボとの連戦に突入する。
「ラピュタのロボット兵vs大雷鳳。まさに書き手ロワレベルのごちゃ混ぜ具合でなければ目にすることの無いカード……」
ライジングメテオ・インフェルノに神雷。
スパロボ史上屈指の人気を二大必殺技の連発で次々とラピュタロボを破壊していく大雷鳳。
感電本人のなりきり対象であるアリーナの特性、即ちドラクエ随一とされるすばやさと会心の一撃の発生率の高さによる補正も相俟って、
着々とダイダルゲートへと近づいて行く。
加えて人機一体型の取柄を最大限に活用し、感電は他キャラの技も巨大ロボサイズで繰り出される。
電光ライダーキックに超電稲妻キックといった大雷鳳にぴったりの蹴撃から、
十万ボルト、マハジオダイン、フォトンランサー・ファランクスシフトといった広範囲攻撃。
さらにはごろごろの実による電気化での攻撃回避や、バルディッシュに融合されたリストブレイカーすら使いこなしているのは、
成程、アニロワを始めとしたメジャー処だけではなく、ヒップホップロワといったマイナー処でも書いていた感電の把握の広さと適応力の賜物だろう。
数多くのロワで書き手をやっていたからこそ、あれだけ多くの異なる原作由来の力を操れるのだ。
「ですが、それもそう長くは続かないでしょう。それこそゲームのスパロボなら無双はできます。
しかし、ここはパロロワの世界です。……襲い来る疲労と、数の前には敵いません」
一発数十っ体単位でロボを倒し続けているというのに既にその数は開戦当初の十倍以上に増えている。
自己再生・自己増殖により瞬きする間にロボの数は元通りどころか、ますます増え続けて行く。
きりがないとは、このことだ。
また、重要施設であるゲートに近づけばその分迎撃も激しくなるのは道理だ。
果たして、大雷鳳の左腕が吹き飛び宙を舞った。
◇
「っちいいいい!!」
DG細胞。
知識としては知っていたが、実際に敵対してみて初めてその脅威を実感する。
ところかまわず増殖するデスラピュタロボを破壊し続けてはいるが、そのペースは落ちる一方なのだ。
自己進化による耐電性の獲得。
当初は一撃で百もの敵を葬れていたのに、開戦数分で五十体、十数分経った今では十から二十が限度だ。
このまま戦い続ければ完全に無効化されるのも時間の問題だろう。
「プロトン、サンダアアアアアアアアア!!」
大雷鳳の胸部装甲が展開し、巨大な砲身が姿を現す。
雷のオムザックが最強兵器にして、かのゼオライマーのメイオウ攻撃にも匹敵するとされる原子破砕砲。
そこから放たれる光が再度、人形どもを蹂躙する。
なんとかこのように雷と関係しつつ、その実態は放電現象では無い武器や技で凌いではいる。
けれども、彼の力の本質はどこまで行っても電気なのだ。
戦況は刻一刻と厳しいものとなっていく。
進めてはいるのだ。
一歩ずつ、確かにゴールへと近づけてはいる。
けど、俺は間に合っているのだろうか?
もう何度目になるのかわからない問いが脳裏を掠める。
「邪魔を、するなあああああああああああああああ!!」
『あっち』の書き手や読み手達へのフィードバック。
やろうと思えばwiki管理人はいつでもそのトリガーを引けるのだ。
終盤まで奴がそれをしなかったのは、単にロワがある程度進展する前に行ったところで、大した経験にならないと踏んだからに過ぎない。
そして、それっぽちの経験でやられるほどには人間の脳の演算能力は低くは無い。
しかし、現段階までロワが進んだとなれば話は別だ。
経験値は十二分に溜まっており、エンディングを迎えていないとはいえ書き手や読み手の進化を促すに足るものである。
そう、未完の道を進んだとはいえ、多くの書き手達を育て、生み出すことになったかってのラノロワのように。
――wiki管理人が痺れを切らして、既にフィードバックを始めているのでは?
だからこそ、そんな最悪の事態が起きていてもおかしくない。
「一気に、決める!!」
巨大ロボが暴れまわるのにも十分な広さを誇っていた通路はいつの間にかデスラピュタロボに埋め尽くされ、
大雷鳳はその機動力を存分に発揮できない状況に追い込まれている。
その苦境を打開しようと、何度目かの跳躍を慣行。
ラピュタの内壁ごと貫き、道なき道をダイダルゲート目指して切り開こうとする。
だが、焦った心は、敵はデスラピュタロボだけでは無いことを忘れていた。
大雷鳳の飛翔を邪魔しようとデビルラピュタガンダム自体が体内の至る所の障壁を下ろす。
自らの判断ミスに気がついた時にはもう遅い。
トップスピードに乗りきる前だった大雷鳳はオーラを霧散させ、叩き落とされる。
「っしま!?」
咄嗟に発生させた雷雲による障壁をすんなりと抜けた触手が左腕に絡みつく。
漫画ロワの主催本拠地を守る強固な防護機能も、ゴムゴムの実の特性を得るにまで進化したデスラピュタロボの大軍に無意味。
ゴロゴロの実の力でエネルギー体になって抜け出そうとするも、同様に阻まれる。
ようやっと捕まえた獲物に向けて奴らの双眼が光る。
「ラシルドォォォォォオ!!」
まずいと踏むや否や出現させた盾が間に合い、コクピットへの直撃コースだった光線は跳ね返すのに成功する。
それでも他の個所への光線の直撃により、大ダメージを負ってしまった。
スーパーロボットだったことが幸いし、致命傷とまでは行かなかったが、奴らのターンは終わらない。
ぐぎぎぎ、ぐぎぎぎ。
奇妙な唸り声を上げ、我も続けとばかりに更なる触手が大雷鳳に向かって伸ばされる。
残る右手と両足で振り払おうとするも、ゴムと化した魔手は伸びるばかりでちぎれない。
そうこうするうちに、胴体にも触手が巻きつき、左腕を捕まえたロボ達とは逆の方向へと引っ張り出す。
びきびきめりめりと。
絶え間ない激痛が右肩を襲う。
己が力を十全に発揮する為に選択したDMシステムが裏目に出たのだ。
人機一体の状態にある彼は大雷鳳が受けたダメージもそっくりそのままフィードバックされてしまうのだ。
機体の装甲があげる悲鳴を代行しろとばかりに洩れそうになる呻き声を押し留める。
やるべきことは泣き叫ぶことではない。
一刻も早く目的地に辿り着く、ただそれのみ。
例え、そう、機体の左腕が持って行かれたのだとしても。
「っがあああああああああああああ!!」
断裂した神経が空気に晒され、行き場を無くしたパルスが霧散する。
わかってる。
俺の本物の腕は繋がったままで、精々神経系がおじゃんになった程度だってことは。
けど、痛いものは痛いのだ。
「あぐ、やめ、やめろ、ぎゃあああああああああああ!!」
左腕だけで許しはしないとばかりに浴びせられる触手の洗礼。
その数はマーズ・ジケルドンで弾けるようなものでは無かった。
大雷鳳の巨体が触手の海に沈みだす。
溺れる人間が足掻くように、手を天へと伸ばすも、掴んでくれる誰かは居ない。
――当然だ。俺は今までいくつも伸ばされ来た腕を払い落す側だったのだから。
守るために殺す。
パロロワではよくある話だ。
その行為が真の愛から出たものにしろ、自己満足によるものだったにせよ、殺人は悪だ。
俺がそうであったように、あいつらにだって護りたい者はあった。
誤解やポカミスしてばっかりだったけど、最初から最後まで誰かを救おうとし続けた永遠のうっかり侍。
俺はあいつを騙し打ち同然の卑怯な手で殺した。
過疎に苦しみつつも、頑張り続け、書き手ロワにおいて新たな世界に目覚めたピザの1号こと◆wKs3a28q6Q。
何も残せないズガンで殺したのは、俺だ。
場を引っかき回して誰も彼もを振り回し続け、でも、その芯に強いものを持っていた女傑、底上中の残月。
コンセントに引きずり込み、惨殺したのも俺だ。
素晴らしきフラグビルド。俺と同じく、偽物から本物を見出した少女。愛を知り、幸せになれるはずだった少女。
そんな彼女の愛を自己満足と決めつけ、嘲笑った。
とぼけているようでいて、参加者の誰よりもこのロワの本質を理解していたのかも知れない男、フリクリ署長。
そして、俺の勝手で手駒として生み出され、ただロワに翻弄されるしかなかった焦ったドラえもん。
彼らが得たかも知れない明るい未来も、俺が、奪った。
みんな、みんな、俺が殺した。
誰かを守るということは、誰かを守らないと選ぶこと。
だったら、これは当然の報いじゃないか?
おもちゃ扱いに引き千切られていく大雷鳳の右腕、右足、左足。
痛い。苦しい。耐えられるはずがない。
リンクして伝わるダメージに意識が朦朧としだす。
ああ、こんな状態をなんていうんだっけ? そうだ、達磨だ。
っはっはっは、大量殺人犯にゃあお似合いの姿じゃねえか。
いや、大雷鳳とは違い、俺の四肢は繋がってはいるんだ。
だらんと垂れ下がってばっかでぴくりとも動きはしない様はむしろ人形劇の操り人形か。
ロワを成り立たせる上で便利な、強マーダー。
所詮俺も、この殺し合いの世界で踊らされただけだってか?
どれだけロワが人殺しが許容される世界であっても、恨みを買わない悪人なんていない。
俺が殺した奴らが囁いてくる。
死ね、と。お前も死んでしまえと。いい気味だと。
「ううああ、いいがああああああああ!!」
メキリメキリ。
胸に爪を立てられ掻き毟られるかの痛みに、妄想の世界から意識が現実に押し戻される。
胸部装甲を引き剥がし、コクピットにまで触手が押し入ろうとしているのだ。
そうなってしまえば、間違いなく俺は殺される。
いいじゃないか、それで。
結局独りよがりの願いなんて叶うはずも無いのだ。
どうせ歩く為の、進む為の足が動かないんじゃ何もできない。
腕がこんなんじゃ、何も掴めやしない。
「っぐううああああ、それが、どうしたあああ!!」
弱気になる心を叱咤する。
腕が駄目なら、歯で噛んで掴めばいい。
足が役に立たないなら、転がるなりすればいい。
俺が殺した奴らは、死んでいった奴らは。
もう痛みを感じることすら叶わないんだ。
まだ生きてる幸運に感謝しろ。
払ってきた代価を、踏み躙ってきた命と想いを忘れるな。
諦めて、くたばって、楽になろうなんて思うな!
ださく、かっこ悪く、無様に生き続けて、願いを叶えろ、感電!!
俺にはまだ、命があるのだから!!
「来たれ、我が子よ!!」
光が溢れ、湖面を描く波紋のように拡がる。
白く輝く光の中、二対の翼を悠然と揺らし、舞い降りるは巨大な天使。
鈍く輝く黄金色、大雷鳳に負けない、いや、それ以上のサイズ。
ゲーム版舞HIMEに登場するオリジナルオーファン、サンダルフォン。
異世界の歌い手が、その御手を両手両足がもがれた大雷鳳に伸ばし、俺を掬いあげ口を開く。
「AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
壮麗なる天使の歌声が通路に響く。
人にも、人工知能にも、その意を推し量ることはできない。
ただ、歌と共に放たれた衝撃波がロボ達を吹き飛ばしたという結果だけが事実として刻まれる。
その隙にサンダルフォンが飛び上がり翼を広げると、黄金色の羽が無数に散らばった。
体勢を立て直し、翼を広げ、襲いかかろうとしていたロボの体躯に次々と突き刺さり、爆発する。
出鼻を挫かれ、ロボは片端から撃墜されていく。
すぐさま再生しようと蠢く破片に、すかさず追撃の閃光を放つ。
電撃、ではない。
冷気だ。
再生の阻害ばかりか、まだ無事なデスラピュタロボの羽も氷漬ける。
「……いいぞ」
雷をメインに置きながらも、風や冷気も操れるのはこの局面では非常にありがたい。
オーファンであるが故に、倒されたところで、大切な人達が死ぬこともない。
うまく飛べなくなったロボ達を地に残し、天使は壁を破りながらも進む。
デスラピュタロボ軍団を一時的にでもやり過ごせたことが功を奏し、ダイダルゲートまでは後僅かの道のりだ。
ラピュタ本体もDG細胞により得た可変性で、慌てて通路を変形させ塞ぎにかかるも、
「三重電光石火あああああああああああああ!!」
なけなしの力でアニロワ1stと動物ロワの要素をフリンジ。
ドラえもんとペルソナ3とポケットモンスターの三作品に於ける電光石火の力をサンダルフォンに付加する。
長期持続、全体攻撃、絶対先制。
3つの特性を得たサンダルフォンは閉じきるよりも早く通路を通過することに成功する!
いける!!
ゲートはもう目と鼻の先だ。
大雷鳳を召喚した上での最強ランクの技の多用。
心身共に摩耗した状態でのサンダルフォンの発現と三重合成。
俺の体力・魔力は後一撃分しか残っていない。
そして目の前にはここ数十分で見飽きた大小二つの眼を光らせる人形共。
あいつらを抜けさえすれば、そこが、ゲートだ!
出し惜しみする必要は、無い!!
「フルパワーだ、サンダルフォン!!」
サンダルフォンの全身を炎が、俺の全身を雷が覆う。
ファイヤーバード・サンダーイーグル・ダブルアタック。
ミニリピーターロワにおいて、紛い物とはいえダグオンが登場したため、
『ロワ』にゆかりがあるという俺の能力使用条件をクリアし、使えるようになった火と雷の両属性を持つ必殺技。
「トライダグオン!!」
黄色い強化服ダグテクターが装着される。
その上で、鳥型のサンダーイーグルへ変形する。
ずたぼろな手足にお構いなしの変形な為、死ぬほど痛いが仕方が無い。
この技の利点は突撃技であること、つまり、手足を使わないで済むということだ。
故に最後の一撃として選んだのだ。
「ファイヤーバード・サンダーイーグル・ダブルアタック!!」
炎と雷を纏った鳳が天空の城を飛ぶ。
食い止めようと立ち塞がるラピュタロボも、合体技お約束の高威力の前には炎に飛び込む蛾に過ぎない。
二匹の巨鳥を減速させることすらできず、瞬く間に破壊されていく。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
最後のロボが落ちる。
もはや俺を邪魔するのは、薄っぺらな壁が一枚だけだ。
貫く!! 壁と、その先にある全ての元凶を!!
頭十個分は巨大なサンダルフォンが転じた鳳凰の方が先に到達するのは目に見えて明らかだ。
炎の力を初め本来使えない力を無理やり行使させた天使の身体もまた、俺に負けず劣らずボロボロだった。
無茶させちまってすまねえ。ありがとな。
所詮はチャイルドでは無い偽物。
意思が無いのは知ってるけど、礼を言わないではいられなかった。
これで、叶うのだ。
俺の願いは。
不死鳥の嘴が壁に突き刺さる。
そして――
光の輪が、壁とサンダルフォンを真っ二つに切り裂いた。
「え―――」
それは、ダイダルゲートの安置された部屋の奥、暗闇からやってきた。
赤い双眸だけが、闇の中浮かび上がっていた。
サンダルフォンを切り裂いた光輪が、その中に返っていく。
「ゼスト……!?」
信じられない。
wiki管理人は俺のことなんて相手にしていないのではなかったのか。
勝手な決め付けで、本当は俺を待ち構えていたというのか。
いや、確かについさっきまでゲート以外の反応はあの部屋からはしなかったはず!!
通路へと出てきたそれに目を見張る。格納庫の電灯に照らされたその姿は―――
―――ウルトラマン。
赤の代わりにドス黒く、捻じれた紋様を体に刻まれた最初のウルトラマンだった。
試作型のゼスト。
実験段階で、DG細胞に代わるものとして研究されたカオスヘッダーで作られた、できそこないのゼスト。
数多の打ち捨てられたユーゼスの妄執だけが容となったもの。
ウルトラマン Fighting Evolution REBIRTHというスパロボとは無縁のゲームのオリジナルキャラだったという理由で、
没ネタの海に沈むことを余儀なくされた存在。
ウルトラマンを超えるウルトラマン、カオスロイド。
試作型ゼスト カオスロイド 登場
最終更新:2008年08月30日 15:33