私は、意図的に「あの人」を避けてきた。
今まで、それで問題は出なかった。きっと、これからもそうだろう。
でも、やっぱりこのままじゃいけないと思う。
普通に生活していけるとしても、この気持ちがずっと胸に引っかかったままなのはいやだから。
なかなか実行に移す勇気が出なかったけど……。今日、ようやく決心が付いた。
「本当にここまででいいんですか?」
「うん、付き合ってくれてありがとう。後は私一人で大丈夫だから。」
ここまで付き添ってくれたゆきちゃんにお礼を言い、私は一人とある部屋の前に立つ。
その部屋の主こそが、私が今まで会うのを避けてきた人。そして、「罪」を精算しなくちゃいけない人。
ノックをすれば、声が返ってくる。中に彼がいるのを確認して、私はゆっくりドアを開けた。
「どなた様で……ひぃっ!」
私の顔を見るなり、その人は顔を恐怖にゆがませた。当然の反応だと、自分でも思う。
その人の名前は、熱血王子。私が……地獄に突き落とした人。
「あの……。」
「くっ、来るな! 来ないでくれ!」
異常なまでに怯える熱血王子さん。それだけ、私が彼を苦しめたということだ。
胸が苦しくなってくる。でも、ここまで来て今更逃げ出すわけにはいかない。
覚悟を決めなきゃ!
「ご……ごめんなさい!」
「え?」
深々と頭を下げた私を、熱血王子さんは不思議そうに見つめる。
「本当にごめんなさい、熱血王子さん……。私は、あなたにすごくひどいことを……。
許してくれなんて虫のいいことは言いません。あなたが望むなら、どんな罰も受けます。
だから、私があなたにしたことについて後悔していると……それだけは理解してほしいんです……。」
少しの間、静寂が空間を支配する。
実際には、ほんの数秒だったのかも知れない。けど私には、とてつもなく長い時間に感じられた。
やがてその静寂を破って、熱血王子さんが口を開く。
「顔を上げてください、愛媛さん。」
「はい……。」
「どんな罰でも受ける。その言葉に偽りはありませんね?」
「はい。」
「わかりました。」
熱血王子さんが、少しずつ私との距離を縮めていく。
そして、いきなりその拳を振り上げた。拳は、私の顔めがけて突き進んでくる。
でも私は、避けることも防ぐこともしない。目もつぶらないし、そらさない。
これが熱血王子さんが選んだ私への罰だというのなら、甘んじてそれを受けよう。
ところが、熱血王子さんの拳は私の顔に激突する寸前で止まってしまった。
「どうして……?」
「別に俺はあなたを裁くつもりはない。そもそも、裁く権利があるとも思っていない。
今のは、あなたが本当に自分の行いを悔いているのかを確かめるための行動です。
その結果、あなたは俺の拳から目をそらさなかった。あなたの決意、本物だと認めましょう。」
「熱血王子さん……。」
「俺は、俺が殺してしまった人たちに許された。ならばあなたの後悔が本物である以上、俺があなたを許さない道理はない。
それでも罪の意識が消えないと言うのなら、俺が殺した人たちのところに謝りに行くというのはどうです?」
「なるほど……そうですね……。」
「じゃあ、早速行きましょうか。俺もついていきますから。」
「あの……熱血王子さん……。」
「何か?」
「ありがとう……ございます……。」
「……いえ。」
今でもこの胸の奥、消せない罪は痛むけど……。
罪滅ぼしはきっと出来る。そうだよね、お姉ちゃん……。
最終更新:2008年08月12日 22:34