D(前編)

―――――――楚人に盾と矛とを鬻ぐ者あり。
       これを褒めて曰く、「吾が盾の堅きこと、よく徹すもの無き也。」と。
       また、その矛を誉めて曰く、「吾が矛の利なること、物に於いて徹さざること無き也。」と。
       ある人曰く、「子の矛を以って、子の盾を徹さばいかん。」と。その人答ふることあたはざりき。

【採掘場エリア】

無人の荒野と化した採掘場は、人の手の付いていないかのように整然としていた。
だが、ここで確かに戦いがあったのだ。壮絶なる、世界を揺るがす規模の戦いが。
しかし、それは正確にはここで行われたものではなく、異空間にて行われたものだった。
だからそれを知る物はもう、誰もいない。躯すら残っていないこの何も無い場所に誰もいない。
彼を除いては。

「超展開…………」

砂土を踏みしめて砂塵の中に立つのは、つなぎを着たいい男。
裸になってすぐアッー~殺意のqwglOGQwIk~は無人のエリアに立って空を仰いだ。
超展開との電話が切られた後、彼は熟達した書き手だけが持つ第六感に居てもたっても居られず、このエリアにやってきた。
結果、そこにあったのは傷一つ残っていない世界だけ。僅かな毒素の香りだけが、そこで起こったことを辛うじて教えていた。
阿部さんとしては女が一人死んだところで何一つ感慨など起こる筈もない。
だが、彼は阿部であると同時に古泉でもあった。『マーガリン』としてえーりんである超展開の死に心動かされないわけが無い。
大地すら記憶しない戦い。しかし、自分は覚えていよう。ニコニコ動画に動画として保存しよう。
私達の戦いは、決して無駄ではなかったと書き手ロワの歴史に刻みつけよう。
「……その為には、どうしても貴方を倒さなければなりませんね。地図氏」
自分に言い聞かせるように呟いたその名は、彼がジョーカー登場最初期から注意していた人物。
超展開の命懸けの攻撃で将軍を倒した結果、ニコニコサーバーへの攻撃は半減している。
残る地球破壊爆弾を打ち倒せば、電子戦を行えるものはいなくなる。ニコニコは守られる。
全てが終わってしまっても、動画だけは遺せる。ニコニコジョーカー最後の一騎であるガチホモが望むのはただそれだけだった。
「ですが、私の力で果たして何処まで行けるか……」
苦虫を噛み潰したような顔をしてガチホモは唸った。
地図氏と自分、スペックに開きがあるのは目に見えている。
阿部さんの力でアアーーーーッ展開に持ち込めれば話は別だが、地図氏の変身のうちまともに男性なのはアーカードくらいだ。
ショタカードにでもなってくれるならともかく、余りにも分が悪すぎる。
「……どうしたものですかねえ、誰か助けてくれませ――――――ッ!!」
一人ごちようとしたその時、ガチホモがある一点に気づき、そこに走る。
何も無い場所だったそこにそれは、否、彼女は居た。



「超、展開」

ガチホモが震える唇でやっとのことで彼女の名前を紡いだ。
霧が集まるようにして、超展開が再構築されていた。
ジョーカーである彼女は参加者達よりも僅かに制限が緩く、蓬莱のリザレクションが発動していたのだ。
「無理をしなくて良い!! 眠っていなさい!!」
何かをガチホモに伝えようと超展開の口が動くが、伝わらない。口が半分しかなく、舌もないからだった。
制限が緩いとはいえ、あくまでも誤差の範疇。それで生死の運命を変えられるほど都合は良くはない。
やがて口で伝えるのは無理だと悟ったのか唯一まともに構成された左上半身から伸びる腕、その先の指が砂に沈む。
「…………一体、何を」
ゆっくりと指が砂を割り、何か文字らしきものを浮かび上がらせる。
その指が力尽きたとき、彼女の身体は今度こそ塵よりも小さなものになった。

『 D ハ ウメコンダ』
「!!」


今度こそ誰も居なくなった空虚な世界で、ガチホモは天を見上げた。
「貴方は、最後まで私を助けてくれるのですね………」
目の辺りを覆う雨は、一向に止まなかった。
感傷に浸る余裕などないと言いたげに電話の音がけたたましく鳴ること十数秒。ガチホモは眼を拭って受話器を取った。
「…………ガチホモです」
「…………七氏だ。ナナシの死亡を、今確認した」
息を呑みそうになるのを堪えて、ガチホモも伝えなければならないことを伝える。
「こちらも超展開の敗退を確認しました」
「……そう、か」
「これで、残るはお互いだけになりましたね」
「ああ、残る守備拠点もそっちが管轄するギガゾンビ城エリアと僕のHIMMELエリアだけだ」
なんともこざっぱりとしたものだ、そうガチホモは心の底から思った。
昨今のロワの風潮を作り上げたアニロワ1stを司るギガゾンビ城は、
旅の扉の手前に位置するエリアであり掻い摘んでいえば最終防衛ラインである。
例に漏れずニコ厨をインストールされたツチダマが無数に配備されて入るが、焼け石に水だろう。
そして現在の風潮を作り上げたことに大いに関係しているGR1stを司るHIMMELエリアもまた重要なエリアだ。
がガチホモと会話している七氏の場所は、運命に抗う参加者達が最後にウィツアルネミテアと化したディーと争った場所。
そこには、フォーグラーを混沌につくりかえた永久機関が存在する。
大蟹杯。フォーグラーと融合した黒い蟹座氏より生まれた、無限のエネルギーを絶えず流す大穴だ。
黒い蟹座氏より作られし大蟹杯こそ今の大蟹球フォーグラーを統べる心の臓である。
大きな器を手に入れることで、蟹座氏の下では小蟹杯程度の力しか引き出せなかった蟹座じゃないもんは、
いまや擬似ダイタルゲートとして根源にすら境界を開こうとしている。
「ギガゾンビ城を突破されれば後は旅の扉まで一直線。
 HIMMELを落とされればこの大蟹球は唯のフォーグラーに戻ってしまう。つまり、王手がかかる訳か」
「そちらの方はどうです?」
「ナナシが時間を稼いでくれたお陰で、改竄は完了した。今や立派なマーダーだよ。
 元々謀略には弱い男だからな。対主催との矛盾も孔明……真の対主催を間に挟むことで大体は処理できた。
 今や立派なマーダーだよ。いや……僕のサーヴァントかな?」
受話器越しにもどす黒い笑みが伝わる七氏の声。いかなる外道を行ったかは想像しない。
送られてきたナナシと蟹座氏の戦闘を見ながら、ガチホモは呟いた。
「これは……まさか、GR参加者の力を全部?」
「マスターを除く、だがな。このタイミングでツキノンと合流し、なおかつ覚醒。伊達にここまで生き残っていたわけではないらしい」
自分のエリアに近付いている参加者がパワーUPしたというのに、くっくくと笑う七氏の声に恐れは感じられなかった。
「しかし、この展開は……」
「ああ、計画通りだ。蟹座氏が死者の力を使うことは、な」
ガチホモは状況を吟味する。対主催チームの中で最も戦力に欠けた蟹座氏が今から戦力を拡充するなら、もう死者とのイベントしかない。
今までもさんざん介入してきた連中のことだ。
天性のいじられ属性&ほっとけないオーラを放つ蟹座氏がピンチになれば、十中八九応援に来るだろうことはジョーカー達の予想の範疇だった。
「こちらで出来ることはほぼ完了した。そちらは?」
「ええ、えーりん……超展開が目標に『D』を埋め込むことに成功したようです。あとは、私がトリガーを引けば」
その言葉に、七氏の言葉が微かに上ずっていた。喜びが見て取れる
「勝ったな」
「だといいんですが。少なくとも、地図氏はここで終わりです。いえ、終わらせます」
受話器越しにもはっきりと伝わるほど、ガチホモの決意は固かった。文字通り不退転の覚悟なのだ。
「多分、これが最後の通信になる。健闘を祈る」
「お互いに」
「「いい戦争を」」
ガチャンと受話器が下ろされ、再びエリアは無音に晒される。
ナナシやえーりん……ジョーカー達の決して時間稼ぎの捨て駒ではない。
蟹座氏の覚醒、ツキノンの応援と状況は決して良くは無い。
だが、彼らは本人の知りえない場所で一つ致命的なミスを犯した。
「死者から力を借りることは、パロロワ決戦の王道。だがその王道が敵に回ったとき、貴方達はどうします……?」
ジョーカー専用の直通口を開き、ガチホモはその中へ入って行った。


【フォーグラー通路】

「くそッ 何処に行っても誰もいない! これもジョーカー達の仕業か!?」
猛スピードで走る影の繋ぎ師は無人の通路を音をたてて走っていた。
駆け巡るのは熱だけではない。焦燥、悲哀、憤怒、そして―――――猛烈な憎しみ。
「よくも将軍を!! 許さないぞジョーカー! お前たちだけはこの俺の手で倒す!!」
ライバル的な関係だった熱血王子へのあまりに惨い処置、最後の同胞だった将軍を目の前で殺された光景。
行けども行けども進まないのは、恐らくこの強大すぎる力を恐れて故。
そう思う影の繋ぎ師の中で、どんどんと黒い炎が燃え上がっていた。
「クソッ、ち、力が……」
精神的には怒りによって充足しているとはいえ、彼の体はボロボロだった。
tu4氏との激戦によって穿たれた傷は、決して仙豆1/8程度で癒えるものではない。
ましてやあのニコニコ軍勢と戦い、そのエネルギーもほぼ尽きているのだが。
「だめだ、こんなところで立ち止まる訳には……仮面ライダーは決して諦めないッ!!」

――――――――成程、それが貴方の希望ですか。

何処かから声がしたような気がした。
その声に立ち上がろうとする前に、影の繋ぎ師は自分の体の中が熱くなってくるのを感じる。
「……何か、体に力が漲ってくる……?」
握り拳を作るだけで、その張りがハッキリと自覚できた。
全快とは程遠いが、走るだけなら十分すぎる。
さらに轟音。通路が有らぬ方向へと曲げられ、その方を向けば新しい道ができていた。
罠か、そう思う一方で逆に影の繋ぎ師は体から沸々とわき立つものを感じていた。
その先にはジョーカーがいる。憎き憎きジョーカーが。
「いいだろう、乗ってやるぞジョーカー!! 正義は、希望は! 絶望になど屈しないッ!!」
繋ぎ師は弾かれるように、招かれるようにその道を走り始めた。


【ギガゾンビ城エリア・正面ホール】

「俺らの出番来た!これで勝つるギガ!!」
「お前ら全員まっこまこにしてやんギガよ!!」
「誠死ねギガ」「リッチャンハカワイイデスギガ」
「でも体が微妙に鈍い……エコノミー死ねギガァァ!!!」
「プレミアム入ってる俺勝ち組ギガwww」
「これ見よがしにプレミアムカラーにしやがって……この怒りを連中にぶつけてやるギガ!!」
「一歩でも後ろに引いたやつにはハイポーション飲ませるから覚悟しとけギガ!!」
「ノニジュースでもおkギガ。30歳くらい老けるギガ」
「三ギガ倍アイスクリィィィィィム!!!!」
「テクテクさん……俺に勇気を貸してくれギガ!!」
「これぞ本当の人形裁判。判決は、死刑! 死刑!! 死刑死刑死刑ギガ!!!」

アニロワ1stの最終決戦場となった、ギガゾンビ城の一階・大ホール。
そこに様々な武器を持ちながらワラワラと集まってくるのは無数の埴輪だか土偶だか微妙な人形たち。
アニロワ1stの最終決戦で重要なファクターを持ったツチダマである。
彼らを統括しているのはギガゾンビのシステムではなく、ニコニコなので基本的に入力されているのは皆ニコ厨である。
もう一年アニロワの開催が遅ければPC上のツチダマ掲示板はツチダマ動画(夏)になっていたかもしれない。
そんな彼らはなぜここにいるのか? 決まっている。守るためだ。
何を? 決まっている。この場所を、彼が帰ってくるまで。
何から? 決まっている。今目の前にいる―――――――バカップルから!!

「ったく、しつこいわね!! どいつもこいつもこんなに仲間がいるんだから自分は死なないなんてツラしちゃって!!」
「わりぃな!! 唯のモブがいつの間にかアニロワを喰っちゃうようなキャラになっちまった。
 しかも完全にニコニコにキまっちまってると来たもんだ。アニロワへの遠慮は要らねえ、喰っちまえ!!」


ぶつくさいいながらも的確なワンツーを繰り出してツチダマを確実に壊し、殺していくのはロリスキー。
ラッドみんの力を使っているが、覚醒イベントにて自己を確定させた彼女のキャラにブレはみられない。
それを楽しげに眺めながらもソードカトラスを振ってツチダマ達を片っ端から土に変えていく地球破壊爆弾の姿はレヴィだ。
遠近をきっちりと役割分担した彼女たちは熟年のパートナーのように息が合っていた。
みるみる内に減っていくツチダマだが、本編でも呆れるほどのタフネスと人海戦術を繰り広げてきた彼らにとって大した問題ではない。

「でも、流石に守りが堅いわね……これって、やっぱり」
「正解だ、クー。ダイヤに磨きがかかってきやがったな。
 そうさ、どうにもここは地獄への正面玄関ってわけで、連中は親切にも一丁目で苦しみを終わらせてやろうって思ってる」
防御が厚いということは、その先には守らなければならないものがあるということ。弱点を晒すということ。
ワラワラという擬音も出てきそうなツチダマの群れを前にして、
「それは、なんとも」「ああ、どうにも」

餌を前に檻を広げられた肉食獣のように笑った。

「ムカついて仕方がねえ!!」

マリンデビモンの触手が横薙ぎに一振りされて、百ほど持っていかれる。
情報解析によって構築された無数の槍が射出され、さらに百ほど持っていかれる。
それを繰り返すこと数分、ホールに集まっていたツチダマは軍隊として全滅と評価されてもいいほどに減衰した。
「何匹殺した? 因みに私は2581!!」
攻撃が緩んだことを確認したロリスキーは自信満々に言い放つ。
アニロワ最終話のスコアに比べると異常としか言いようがないが、書き手ロワ的にはそんなもんだろう。
「年端もいかねえガキがサバ読んで如何するってんだい? あんたのスコアは2479だ」
「って、ちゃっかり見てたんかい!!」
「ががみんの勇姿はこの目でしっかりおがませてもらったよん」
ああ、そういやそうだったとこなたに戻ったロリスキーは思った。
長門としての属性を持つ彼女にとって、数字の計測を見誤るわけがない。
「で、あんたはどうだったのよ」
「んー、2478。負けちゃったねえ」
何を白々しいことを、とロリスキーはジト目を作る。自分の数を数えつつ、1だけ負けて点数を調整するなんて。
私を立てるためなんだろうけど、逆に傷つくっての。
だが、直ぐに気分を切り返してロリスキーは思う。地球破壊爆弾の愛は、まだ生まれたばかりなのだ。
だからこうして、不器用でも自分なりに私を喜ばせようとしてくれているのが嬉しかった。
まだ二人の絆は始まったばかり。だから、焦ることなんてないのに。

「残念ですが、もう恋愛フラグはおなかいっぱいですよ。自重してもらいましょうか」


突如響く第3者の声。気がついて二人が辺りを見回すと、ツチダマは彼方此方に退避していた。
そしてホールの奥から現れる影は、偉丈夫としかいいようのない厚みをもっていた。
「お久しぶりですね。あのファミレス以来ですか」
「久しぶりだねえ、qwg氏。いや、書き手ロワだからガチホモさんと言うべきかな」
どちらでも結構ですよ、そういいながら現れたのは阿部さん……裸になってすぐアッー~殺意のqwglOGQwIk~だった。
「ニコロワの重鎮である貴方がここにいるってことは、この先に旅の扉があると思っていいのかな?」
「ご想像にお任せしますよ」
相変わらず紳士の笑みを浮かべてはいるが、以前と違い明らかな殺意がにじみ出ている。
修羅場を抜けて一介の強者になったクールなロリスキーはそれを感じ取り、尋ねずにはいられなかった。
「ねえ、分かっちゃいるけどさ、確認させて。通してくれない?
 愛媛さんを見て分かった。ジョーカーとして呼ばれたからって、貴方達だって同じ書き手なんだって。
 主催者の近くにいた貴方たちなら私達よりも強く思っているはず。こんなの間違っているって!!」
一歩前に出るロリスキーをみて、地図氏のカトラスが僅かに動くが引き金には手をかけていない。
ロリスキーに対する最大級の信頼だった。
「……愛媛氏を懐柔できたからといって、次は私ですか。舐めないでください……といいたいところですが。
 まあ、私たちとしては面白ければ今から寝返ってもいいんですけどね。
 貴方達は知らないでしょうが対主催もかなりボロボロです。多分、死にはしますが寝返り自体は許容されるでしょう……」
ですが、とガチホモは区切った。
「ですがもう、そんなことをいう段階はとうに過ぎてしまったんですよ。愛媛は裏切りの末にけじめをつけさせられました。
 人外も、超展開ももういません。なのに、私だけが今更降りるわけにはいかないんですよ」
淡々としながらも感情の込められたガチホモの言葉に、ロリスキーは疑うことができなかった。
愛媛、つかさ。例えなりきりの鎖に縛られた縁だったとしても、紛れもない姉妹の絆だったのだ。
「話はそこまでだよ、かがみん。私たちは決着を付けなければいけない。そうだね、ガチホモさん」
「ええ、その通りです地図氏。猛烈に悔やんでいますよ。あのファミレスで始末できていれば、こうはならなかったと!!」
地図氏がカトラスを構える。十三奥義ジャッカルを前にして接近戦は愚の骨頂であるから。だが。

「構えないの? 言いたくはないけど、かがみんと一緒の貴方じゃ私には勝てないよ」
「そうですね。言いたくないですけど、ずっと裏方にいた私と貴方では地力に差が付きすぎました。
 ですから……もう少し待ってください。今、ゲストがここに来ますから」


そうガチホモが言い終わるよりも早く、ホールの壁が爆発する。
「ジョォォォォォォカァァァァァァァァアアアアアアアッッ!!!!!!!!!」
「繋ぎ師っ!?」
流星のような鋭い蹴りと共に現れたのは黒き荒神。
突然の登場に硬直する二人を尻目に、既に予測していたガチホモは動作を取る。
何せ通路の構造をマッガーレ↓して繋ぎ師のくるタイミングを調整したのだから。
片手でライダーキックを受けるガチホモ。ぶつかった左腕は、使い捨てのように消しとんだ。
「ぐうっ、超展開の仇、討たせてもらいますよ!!」
「将軍の、仇ィィィィィィ!!!!!!」
SRXから放たれる無数の光線・実弾、それらを全て曲げていくガチホモ。
畢竟、あたりはあっという間に閃光に包まれた。
「ふう……一時はどうなることかと思ったけど、これでなんとかなりそうね」
繋ぎ師の猛攻を見ながら、ロリスキーは安堵の溜息をついた。
対主催陣の最強戦力を前にして、無事でいられるものなどそうはいないだろう。
増援にはいかない。こちらが手を出したところでむしろとばっちりを食らいにいくようなものだ。
「…………どうしたの、ちーちゃん」
しかし、もう一人はそうではなかった。長門の姿になった地図氏の眼鏡の奥で、文字列が並んでいる。
「どうにも出来すぎている。58%の確率でガチホモが影の繋ぎ師を誘導した可能性がある」
「……そういえばそうかも……でも、何のために?」
ロリスキーの言うことはもっともだった。ぶっちぎることであらゆるフラグを破壊できる影の繋ぎ師に搦め手など効くはずがない。
繋ぎ師には弱体化・命と引き換えフラグは立ってはいるが、謀略系のフラグは何も立っていないはずだ。
今から積むには時間が無さすぎる。だから、ロリスキーには精々ガチホモが自白したように超展開の仇という感傷にしかみえなかった。
「今wikiを見てその理由を推察中」
しかし地図氏はそれでは納得できなかった。自分に向けられた明確な殺意もまた疑いようがない。
自分と繋ぎ師、この二人をガチホモが殺す方法がどこかにあるはずなのだ。
そう思いwikiを洗ってフラグを探すが、一向に見当たらない。ならば突発的にやるのか?
そんな安いフラグでは直ぐに負ける。ならば、一体何処から――――――――

「まさか、ね」

地図氏があるとっかかりに気づき、あり得ないと口を漏らす。
木を見て森を見ず。見るべきはフラグではなく状況全体だとしたら。
地図を見るように俯瞰すれば、もっと大きなものが見えるときがある。


そうこうしているうちに、大勢は決し始めていた。
あらゆるところから血を流しているガチホモの四肢は、もう片足と片足しか残っていない。
片手だけのマッガーレでは、SRXの絶大火力には対応しきれないのだ。
「くぅ……流石に馬鹿と阿呆を総動員したような能力ですね……ふんもっふ!!」
残った剛腕から放たれる光の玉を、避けるまでもないと片手で弾き飛ばす。
「その力で、その命ぶっちぎるぜ!!」
そう叫ぶ繋ぎ師の手に握られたのは今は亡き月光と陽光を思わせる橙と銀色が混ざりあった巨大な光の刃。
(いま橙をちぇんって読んだやつ、Exステージやってくること)
tu4氏のような超級チートならばともかく、ジョーカー一人にはオーバーキルと言わざるを得ない得物。
「これで終わりだッ! 天上天下、陰陽爆砕剣!!」
エネルギーの枯渇など知った事かと言わんばかりに大きく速く、その剣は振りぬかれた。

『掘り穿つ<ゲイ・――――――――』

呟く声を掻き消すように、ガチホモの体は横一線に一刀両断された。


「大丈夫! 繋ぎ師!?」
戦いが終わりロリスキーが繋ぎ師の下へ駆け寄る。
無理な大技に、今度こそ精根尽き果てた繋ぎ師の変身は解除されていた。
「あ、ああ……すいません。居たんですね、ロリスキーさん……」
おぼろげな意識でロリスキーの方を向き、繋ぎ師は笑う。
ジョーカーへの怒りに身を焦がしていた彼は、この時初めて彼女たちがここにいたことに気づいた。
「ううん、そんなこと全然気にしなくていいんだから! 私たちこそ手伝えなくて御免なさい。なんだか―――」
彼女は言いかけたことを慌てて両手で封じ込めた。助けてもらっておいてこんなことを言っては失礼すぎるだろう。

――――貴方が少し怖くて。

「……なんでもないの。それより、この先に旅の――――――」
「くーちゃん避けてッ!!」
割れるような地図氏の叫びに、ロリスキーは反射的に後ろを向いた。
見れば、空中から彼女を目掛けて飛来する何かがあった。
爆弾のソードカトラスの銃弾を抜けて、何かは超高速で飛来する。マッハが出ているのか、音が遠い。
だが音速程度で怯むほど彼女は昔の彼女ではなかった。
丁寧に構えを取って、迎撃の準備を備える。
(ガチホモのイタチっ屁? それとも残ったジョーカーの奇襲? どっちにしたって、この拳で吹っ飛ばして―――!!??)
拳の射程ギリギリ、ロリスキーはそれに気づいた。いや、気付きたくなかったっつーか……
(あ、ありのまま今起こったことを話すぜ……超高速飛行体を撃ち落とそうとしたら、丸出しの下半身だけが飛んできた。
 な、何を言ってるのかさp分かるかアホォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!!)
かがみとしての突っ込み条件反射と、一応の女性として単体で飛んでくる男性器に、
クールなロリスキーは硬直せざるを得なかった。その隙は、あまりにも大きい。
「く……危ないッ!!」
だがそれから身を守るように、繋ぎ師がロリスキーを吹き飛ばす。
突き飛ばされるロリスキーは、コマ送りの洋画のようにスローリィにその光景を見ていた。
高速で飛来する下半身、腸をだだもれにしながらも飛来するそれは、
ロリスキーなど、女など眼もくれないと云わんばかりに軌道を変えた。
(まさか――――――)
気づくべきだった。こんな健全なロワで男性器を振り回せるようなキャラは一人しかおらず、
そして、そのキャラが小娘など狙うはずがない――――――――!!

「逃げて、繋ぎ師!!」

その警告が放たれるよりも先に、疲労困憊で動けるはずもない繋ぎ師の尻を目掛けて下半身が突撃した。


「くッ……させ、る、かアーーーッ!!」
最後の力の果ての果てを振り絞ってサタンサーベルを振る繋ぎ師。
しかし、既に十分な速度を得ていたそれを完全に止めることなど叶わず、
ソレは、繋ぎ師の何処かにほんの少しだけ侵入して止まった。

ちょっとだけ突き刺さった下半身が消失していく中、悶えるように蹲る繋ぎ師。
その背中にはむしろ哀愁すら感じられる。
「あ、あの……女の子の私には、よく分からないけど……大丈夫よ!! ほんの数センチなだけだし!!
 三秒ルール的に、ってちょっ、うわっ!!」
震えるその背中を慰めようと適当に言葉をかけるが、効果はない。
もう一回と挑戦にロリスキーが足を踏み出そうとしたその時だった。
むんずと肩を掴まれ、一気に突き飛ばされる。尻もちをついて地面に衝突した彼女はお尻を摩るよりも先に目の前を凝視した。
「な、何すんのよちーちゃん!!」
掴まれたその瞬間に、ロリスキーは理解していた。何度も逢瀬を繰り返し味わったその手の柔らかさ、忘れるはずもない。
だから決して地図氏を責める気はなかった。理由もなく手荒なまねをする様な人ではないから。
その理由を聞こうとして、ロリスキーは彼女の方を向いた。
その先にいた地図氏の目は、彼女をして恐ろしいと思うほどに険悪だった。
そしてその地図氏の視線は、繋ぎ師に絞られていた。小刻みだった震えは、もう痙攣と呼べるほどに大きい。
「ぐ、あ、な、なんだ……尻が、尻から、何か這いずるように!!」
その様はまるで『悔しい……でも感じちゃう(ビクビク』的なものだったが、関係者のだれも笑える訳がない。


「い、一体、何が起こってるのよ……まさか」
ロリスキーは地図氏から得たwiki情報でこれと似たケースを知っていた。
(お姉さまイヤンイヤン事件……同じジョーカーだし、でも、薬はもうないはずだし、つーか男にって)
「流石にそんな絵にもならないことはできませんよ」
呆れたような声が上がり、ロリスキーは反射的にそちらを向いて驚愕した。
「が、ガチホモさん!!」
「全く、事前にDSCを飲んでおいて正解でしたね。こうして上半身になってもまだ保つ」
そこにいたのはガチホモだった。正確には、ガチホモの上半身だが。
駆け寄ろうとするその足を寸前で止めるロリスキーを見て、ガチホモは力なく笑った。
「貴方には手を出しませんよ。少なくとも、僕はね。女に興味を出すほど阿部さんとして落ちぶれてません」
「答えて! 繋ぎ師に一体何をしたの?!」
殺気の無さからガチホモの言葉を信じたロリスキーが駆け寄ってその胸倉をつかみ上げる。
ガチホモは、もう問題ないとばかりにゆっくりと口を開いた。
「……いいでしょう。僕はここで終わりですから、種明かしをば一つ。
 私は直接なにもしてないんですよ。直接的な原因は、超展開です。
 彼女のニートの軍勢は、一見無駄死にしたようにみえますが、そうではない。
 殆どはダミーですよ。真の狙いは、軍勢の中の阿部さんが、彼の尻にあるものを埋め込むこと」
ロリスキーは息を飲んだ。彼女はその戦いを見ていないが、ガチホモの淡々とした口調に疑いを見出すことができなかった。
「まあ、まともにやったら危険すぎるのでババ……スキマ妖怪の力も借りたんでしょうけどね。
 結果として尻の扱いに定評のある阿部さんは、超展開がこの時のために用意していた薬……
 『座薬』を気付かれることなく設置しました。もちろん直ぐに気付かれぬよう、散布毒で気を反らせましたし」
「でも、繋ぎ師に毒は効かないわ! どうしてそんな無意味な」
「誰が毒と言いました? あれは、今ラピュタにあるソレを一部採取して座薬に変えたもの。だから“細胞”ですよ」
そこまで言われて漸くロリスキーが気づいたとき、目に見える異変が生じた。
「最後の一撃、我が魔根・掘り穿つ男根の槍にて入った座薬が患部に到達しました。
 あとは患部に止まってすぐ溶ける。……気付く前にあれは活性化して感染を始める!!」
繋ぎ師がふらふらと立ち上がり、変身ポーズを取る。その下半身は、既に銀色になっていた。
「悪魔の細胞…DG細胞!!」
「Exactly!! 通常ならまともに感染する訳がないですが……心身ともに衰弱し切った今なら!!」
仲間を失った悲しみは心に憎悪を、誇るべき敵への辱めは心に怒りを、
世界を欠けた空気との戦いは体に痛みを、明確なる悪党への感情は精神に呪いを。
月と太陽の加護を失い、あらゆる防壁を打ち砕き、黒死病は遂に城へと潜入した。

「変身ッ!!」


三大理論にて回復するエネルギーを抑えきれないとばかりに、繋ぎ師は変身する。
天を揺るがす神の力は反転し、いまや悪魔の力として発動する。
今までのフォルムはそのままに鋭角化したそのシルエットは獣か悪魔以外の何物でもない。

そう、枯渇した神の力を悪魔との契約で手に入れたようなその姿は、

「月は朝に蹂躙され、太陽は夜に虐殺され、ライダーは正義の名の下怪人を殲滅する――――――
 我は絶望のシ者、仮面ライダーDEVIL SRX!!」

正しく、正しく絶望そのもの!!


「……はあ?」
だが、それを見てもロリスキーは、まだどっちらけな顔をしていた。
「なによそれ、とってつけた後出しの展開ばっかり。そんなの誰も納得しないわよ。
 どーせ次の話でDG細胞をぶっちぎって克服するわよ」
まあ、当然と言えば当然である。東方不敗の例を持ち出すまでもなく、DG細胞の精神汚染力はそう高くない。
はっきり言って洗脳するには無理がある展開である。
「でしょうね。でも、おかしいと思いません? そんなことを言ってしまったら……
 こう、して、感染すること……自体が、可笑し、いんですよ」
「どういう意味よ」
途切れ途切れになっていくガチホモの声と命。
虚勢を張りながらも、ロリスキーの顔は不安を露わにしていた。
ここまでのことならば、地図氏がシリアスな顔をするはずがない。適当にあっぷっぷぇしているだろう。
おかしい。何がおかしい? そう、ぶっちぎりのこの男がこうも取り乱していたこと自体がおかしい。
まるで、まるで何か憑き物にでもあったかのように。
彼女の不安をあおるかのように、城内に厭な空気が充満する。
「さっさと答えなさいよ!! 何、何をしたの!?」
「……DG細胞自体に、意味はないんですよ。重要なのは、名前。物事の本質を表し、存在を定義する呪。
 そう、私たちが彼に埋め込んだのは、『D』の一文字……!!」
「『D』……?」

ロリスキーが真実に至るよりも早く、銃弾が場内を響いた。
地球破壊爆弾のソードカトラスが、銃口を相手の顔に向けて煙を上げている。
鉛玉が、新たなるライダーの仮面にめり込んでいた。

「ふふふ……酷いですねえ。変身シーンが終わった直後に攻撃なんて、八時台の子供が泣きますよ?」
「…………むしろ変身シーンが終わるまで待ってあげたことを感謝してほしいねえ」


冷酷なる言霊があたりを包む。そこで漸く、ロリスキーは決定的な何かに気づいた。
「ち、違う…………“あれは繋ぎ師じゃ無い”」
「正解……これぞ、我がニコニコ、ジョーカーの……最後の、策略“降魔儀式”……ッ!!」

バリ、パリという音とともに、仮面に少しずつ罅が入っていく。
「茶番以外の何物でもないねえ、そうは思わない? 仮面ライダーDSRX、いや……」
「茶番で殺されるのは趣味じゃないんですけどね。まったく、ライダーの仮面が強くてよかった」

罅から漏れ出るような邪気を受けて、ロリスキーは思わず自分の身を抱きしめる。
それは、恐ろしいからではない。その恐ろしさを、自分はよく知っているから。
「なんで…………なんで、ちーちゃんと同じオーラを持ってるのよ……!!」

Sの文字が輝く。今まで謎に包まれ、無限の可能性に包まれていたS。
妖しく輝く胸の紋章が示すSの文字は、シャドームーンのSか、スーパーのSか、最速のSか。
サービスのS? それともスマイルのSか、サーべランスのS?
スクリプターのS? サルベージのS? サスペンスのS? サクリフィスのS? 
サヴェッジのS? サックのS? セイントS? それとも、それとも


「仮面ライダードSRX……マスク・ザ・ドS!!」
「まったく――――――――――――――死んだらどうする?」
サディストのS。その顔は、絶望先生と瓜二つだった。

286:どんな時でも一人じゃない 投下順に読む 287:D(後編)
286:どんな時でも一人じゃない 時系列順に読む 287:D(後編)
284:輝ける明日 裸になってすぐアッー~殺意のqwglOGQwIk~ 287:D(後編)
284:輝ける明日 影の繋ぎ師 287:D(後編)
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最終更新:2008年07月24日 20:15
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