惨劇『孤城への帰還』(前編)

  • 前座『愛せない彼女』

彼女はその鏡を見て、何を思ったのだろうか。
黒いものはいくらでも見てきた。書き手だから。
呪われたものも何度も出会ってきた。書き手だから。
だけど、共にあろうと今さっき願った人の邪を直視したことの経験など彼女にあるはずがない。
黒い天使の腕が鏡と共に空間に浮かぶ水鏡のような波紋の向こうへ消えた。
この部屋にあるのは、汚れを見た彼女と汚れを見せた『彼女』だけ。
長い沈黙だった。
よほどの外的要因でもなければ永遠を生きるだろう夜族ですら、果てを覗こうと首を伸ばしたくなるほどの長さだった。
退路はない。『彼女』は、とっくに彼女に気づいているだろう。
吸血姫として独立したといえど、依然として実力差は奴隷と主人以上の違いがある。
『彼女』が彼女に覗かれたことに気づいていない訳がない。
死して死せず止まってしまった彼女の心臓が、幻の律動を刻む。
真実を知った彼女に退路は無く、獣は閨の向こうで彼女に背を向けて伏せている。
そうして『彼女』は気づきながらも待っている。真実を知った彼女を、待っている。
退くも進むもままならないこの状況に於いて刹那の間、彼女達がどれ程に切欠を欲したかは想像に絶する。
血よりも渇き、肉よりも餓え欲するは、自分以外の誰かが自分を動かしてくれるかもという怠惰。
だが、彼女達は自ら話を切り出さなければならない。沈黙にて永遠は続かない。
怠惰より根ざす沈黙では未来は開かれず、そしてその怠惰に身を委ねれば、その沈黙が過去になる未来できっと彼女達は後悔する。
彼女は――クールなロリスキーは、あらん限りの勇気の在庫を開放し端を開いた。

「ねえ、こなた……」
「かがみんはさ、やさしいよね」


なんと間が悪いのか、と思わざるを得ない。
ほぼ同時だった、というよりは『彼女』の――地図氏の方が意図的に言葉を被せた様に思える。
「普通ドン引きものだよ、あんなもの見たら。オヴェェェェって、Oweeeeeってなるよ」
「そ、そんなことある訳無いに決まってるでしょ! こなたがハチャメチャなのは、出会ったときから分かってることなんだし、
 いまさらドンパチの一つ二つ追加で見せられたところで、ぜ、全然大したこと無いんだからね!
 それに、私だって、こ、こなたの血を飲んだときに、そのぅ……」
思い出すのはランチタイム。濃密に抉り取り耽美に削ぎ落とし下品に食い散らかした血肉の試食会。
いくら『彼女』がマーダーであったとしても、今の彼女にはそれに目を瞑る権利があった。
彼女と『彼女』。互いを貪り合うというもっとも本能的且つ理性的な行為によって、吸血姫は『彼女』の傍という立場を獲得した。
「あ、あはははは……無理しちゃって。うん、やっぱりかがみんはそうであってこそのかがみんだよねえ。
 すごくうれしいよ、かがみん。なんか、こう、愛されてるなーってのがすごく分かるよ」
彼女と対等に立ち、隷属本能など無い掛け値無しの愛情を五感以外の全てで感じ取る『彼女』。
だからこそ、『彼女』には泉こなたの相としての地図氏にはそれが痛々しくてたまらない。
「ごめん。かがみん……私には、私にはもったいなさ過ぎるよ。私はかがみんの、ロリスキーさんの愛を受け止めきれない」
「こなた……?」
その名を呟く彼女は、掛けられたシーツ越しに『彼女』の肩が震えていることに気づいた。
「本当に、ロリスキーさんは泉こなたを超えて、純粋に私を100%全開で愛してくれている。
 でもそれはね、ロリスキーさんと『かがみん』が限りなくシンクロしてるからできる愛情なの。
 私はそれができない。私の愛は、ドSが全部持って行っちゃったから。愛しきれない。
 何処かでこなたというキャラから一歩退いている私は、せいぜい泉こなたの50%しか柊かがみを、クールなロリスキーを愛せない」
いつの間にか、『彼女』の口調が長門ベクトルへと微かに変わっている。彼女は黙しただ先を待つしかない。
「私は、地球破壊爆弾。そして地図氏だから……書き手としての色が強すぎる私は、こなたになりきれない」
地図氏。パロロワ界では知らぬもののほうが少ない書き手の中の書き手。
おそらく死後英霊の座にいけるんじゃないかと思えるほどの逸話を数多く持った『彼女』は、
少なくともロリスキーと比較して、裏側に根差す真なる対主催として、なりきり以外の個性を多く確保している。
だからこそ、『彼女』は泉こなたである前に地図氏であり……
なりきりによって柊かがみと同化の域にまで達したクールなロリスキーでは放出できる愛情量に限界がある。
どれだけロリスキーに愛情を注ごうが、それが地図氏である以上何処かに道化の香りが微かに残ってしまう。
したらば孔明とはまったく逆の意味合い。幾ら愛したくても地図氏は地図氏である以上全力で彼女を愛せない。
『なりきり』が生み出した負の効果と言えてしまうのはなんとも皮肉としか言いようが無い喜劇だ。
「私にはそれが、すごく辛い。
 吸血姫になって、一人前になっちゃえば勝手に醒めて、離れて言ってくれると思ったんだけどさ。
 ロリスキーさん筋金入りだもんねー。やっぱ、こういうのは口で言わないと駄目なんだよね、やっぱ」


ベッドのからムクリと起き上がり、『彼女』は誠実だけを寄る辺にその言葉を告げようと彼女のほうへ向く。
「だからね? 私の悪行ざざっと見てちょうどいい機会だしさ……出来ればここでムグッ」
振り向いて彼女に告げようとした別れの言葉は、彼女の体に覆い隠された。
胸で窒息などというベタなことは物理的にも無いが、
ほとんど意味の無い薄絹だけしか纏ってない彼女の柔らかな肌の感触と、少女特有の甘い匂いが『彼女』の言葉を塞き止める。
「…………そんなの、知ったことじゃないわよ」
覆われていない耳が、彼女の言葉を受け取る。吐息が髪を湿らせる。
「あんた、言ってくれたわよね。好きだって、私とずっと一緒に居たいって」
「そんなこともいったね。うん。言えば、きっともっと愛せるかと思ったけど、無理だった」
『彼女』はあの言葉を口にした舌を口内で転がして、余韻を思い出そうとする。
口にすれば、きっと真実になる。泉こなたにもっと感情移入できる……ああ、なんという矛盾なのだろう。
そういう計算が組み込まれている時点で、限界を提示しているようなものなのだ。
「そんなの関係ない! アンタがなんでそんなことを言ったのかとかが聞きたい訳じゃない!!」
「ロリスキー……」
「……うれしかったんだよ? すごく。本当に嬉しかった。
 その言葉が、こなたから出たかどうかなんて、どうでもいい。
 その言葉の後ろにどれだけの嘘があったとしても、私はとても嬉しかった……それだけは本当よ。地球破壊爆弾……」
それは柊かがみとしての愛情だ。ロリスキーという個性が摩滅しているだけだと揶揄されるかもしれない。
それでも、今目の前の人を愛しているという事実の前には、些細なことにしか成り得ない。
「愛してあげる。私があなたを愛してあげる。あなたがこなたの50%しか愛せないならそれでいいの。
 それがあなたの100%なら、私はそれでいい。私が150%愛してあげるから……!!」
「か…………かがみん……かがみん」
その言霊を紡ぐ。嗤うしかない。『彼女』はこれだけ愛されても彼女を愛せないのだ。
しかし無常にも滑稽にもそんな『彼女』を彼女は愛するという。どこまで捩れた喜劇なのだろう。


「かがみん、むっちゃクサい台詞だね、それ……」
「!……言わないでよ。いまさらなんか恥ずかしくなって来たじゃない」
ああ、でも、それでも環は繋がっている。
二人は歪な愛のサイクルを完成させている。
「むっちゃクサい台詞だよね……それ」
「だからなんでもう一回いうのよ!!」
「大事なことなので二回言いました」
ああ、こうやって真っ直ぐな気持ちに斜に答えてしまうのはどうしようもなく『彼女』の業か。
だが例え、愛せないとしても……この環は繋がっていてほしい。夢を見ていたい。
少しでも長く、少しでも太く続いていきたい。そう『彼女』は淡く願う。
これを愛と呼べない『彼女』は、どれだけキャラとして哀れなのだろう。
「でも私もやっぱ変だったわ。なんか、こう、気分が必要以上に敏感になってた感じ」
「あー、それはね、きっと揃ったからだね」
テレを隠すように言う彼女に、『彼女』はさも当然という風に答えた。
「何が? ……って、あんたまた自分だけ地図見たんでしょ!!」
「なんという濡れ衣。反論せざるを得ない。私にもビビッと来てたんだよかがみん。
 彼方からこなたに届いたのさ。私たちが、らきすたメンバーがフルに揃っちゃったってイメージが」
「はあ? ……って、まさかつかさとみゆき……」
彼女がそこに至る瞬間、鈍い呻き声が夜族の耳に微かに聞こえる。
「何……ってこなた!?」
「ちょっと見てくるよ。かがみんはそこにいて~~~」
そういっていつの間にか素早く扉を潜る『彼女』をみて、彼女もまた自らの衣服を気にすることを忘却しベットより降りた。

欠落した過去はこうして埋まり、惨劇の開幕を告げる。


  • 幕開『デモン・ザ・ラーズグリーズ』

死者を慰める弔辞と封縛の宣告は、恙なく終了した。
それを軽妙洒脱な音楽でも聴くかのように、彼女は手を耳に当てて思い出していた。
自らが手にかけた幾人かの人物の名に対し、恍惚の一歩手前の愉悦を見せる。
嗚呼、どうか悲しまないでおくれ。決して君たちに非があったわけではないのだから。
嗚呼、どうか嘆かないでおくれ。君たちの死は決して無駄ではないのだから。
嗚呼、どうか嘆いておくれ。これより流す阿鼻叫喚を、死せる君たちに捧げよう。

嗚呼、どうかもう少し待ってておくれ。全ての怨嗟を拠り集め、大輪と成して愛する君に捧げよう。

黒き翼の少女は蕩々と語る。そこにいた男が尋ねた。何故だ――――と。
少女はその三文字で意図を掴み、少しだけ含めてから言った。
「何故か? そうだね、確かに私の行為は理から外れている。
 あの状況……時間逆行によるアリバイを完成させたウッカリデス殺人事件。
 一見ロワの華である疑心暗鬼の咲き乱れで、地図氏を包囲する状況が完成されている様に見えるが実際はそうではない」
少女は自分が病院に仕掛けた罠を思い返し、味を確かめるかのように言った。
「まず確実に僕が問答無用で怪しい、というのが初手からしてダメだ。
 彼ら五人で完成された概念としてのクローズドサークルにおいて、私は相対的に唯一のマレビトとして位置づけされる。
 その後、事件が発生した……これでは私が犯人であるなしに関わらず、
 外部から私の介入したことによって誘発した結果としてあの事件があるということに他ならない。
 かみ砕いて言えば、私がこの殺人事件に確実に関わっていることは疑いようがないんだよ。
 例え本当に地図氏がウッカリデスを殺していたとしてもね。少なくとも容疑者のマークは絶対に外れない」
街路を照らす人工の光が彼女の髪を透かし、銀が美しく輝いた。
「そして、何より致命的なのが……アーカードのキャラを持つ書き手が二人もいるということだ。
 血は魂の貨幣、意思の疎通也とはよく言ったものだ。
 何のことはない、彼らのどちらかがウッカリデスの血を吸えばそれで一切合切の全てに片が付く……」
見も蓋もないが、それは歴然たる事実だ。既にあの病院にはそういう『条件』が付随している。
血を吸えば終わる疑心暗鬼なんて、茶番以外の何者ではない。
そして彼らは『書き手』だ。


メタ視点にて大小様々な疑心暗鬼を生み出してきた彼らにしてみれば、彼女が作った即興戯曲は出来の悪い三文芝居以下だろう。
「勘違いしないでほしいのは、決して私は過ちを打ったつもりはないということ。
 現に、疑心暗鬼の要素として大雑把に過ぎる脳内補完には退場してもらったしね。
 ただ、うん。もう放送も三回になって嫌でも痛感していると思うけど……このロワは疑心暗鬼を作るのに向いていない。
 まずチートによって推理役が真実に至るのが容易だ。この場合はアーカードの吸血。
 そしてまたチートによって犯人側がアリバイを作ることが出来ない。時止めが想定内にあるんだからアリバイもヘチマもない。
 そして、書き手としての視点を大なり小なり持ったキャラは疑心に強い耐性をもっているからねえ」
彼女は戯けるように苦笑し、男を和ませようとした。しかし男の貌は未だ凶相で彼女を見据えている。
「……以上の点を総括して考えれば、書き手ロワの疑心暗鬼には限界があるということだ。
 完成度の高い疑心暗鬼はどうしたって2話以上のリレーを成さなければ成立しないダブルアクション。
 この超展開上等の書き手ロワじゃ、それは致命的な遅さだ」
ちなみに、シングルアクションの疑心暗鬼はよほどの名文でもない限り発狂と大差ないので割愛する。
「シングルアクションで片が付くバトルやズガンの方が、分かりやすいからね。
 ま、以上のことは全部質問に対する答えになってないから聞き流してもいいよ。ここまで聞いてしまったらもう遅いかな?」
優雅な笑みの中に微かな童心が混ざり、不快にさせない嘲笑だった。
なにより、月光の中で笑う黒き天使はそれこそ月より降りてきたように美しい。
それを目の前にして不快感を顕わにするなど、目の前の男ぐらいだろう。

ごめんごめんと言うかのように舌を出し両手を合わせる彼女は、再び口を開いた。
「つまり私が言いたいのはね、『これらの条件を踏まえた上で尚、彼らに疑心暗鬼を与える理があるということなんだよ』」
男は眉根を微かに動かし、その言葉に知的な反応を示した。
「彼らは見事なまでにチートで、私程度が奇策を巡らした所で直ぐに看破できる。
 だが、罠を看破することと罠を回避することは同義ではない。致命的な隙が、確実に存在する」

踊るような言葉、歌う月光。月は仄かに紅く映える。

「彼らは、どうしようもなく書き手なんだ。それ故に『楽しむ』んだよ。そこにこそ私が付け入る本当の隙が存在する」

幕開きの響きを冷えた大気に感じながら……、獣の数字を冠したその少女は言った。

「では惨劇を、『本来の』孤城の主を始めようか……否、完全再現はオリジナルにこそ委ねられるべきか」
 なに、聊か遠いが対岸の火事というのも乙なものだ…………君も、ここで見ていき給え。天よ」

天と呼ばれた転は、ただ黙し目の前の異質を見つめる。その手にPS2のコントローラーを持ちながらというのが、皮肉といえば皮肉だった。


  • 発端『安易な万華鏡』

書き手ロワの会場の唯一の医療設備であるE8の病院。
本来病院とは生を司る場所ではなく、死を統制する場所の筈だ。
故にそこに死体が一つ出来たとて驚くに値する必要は微塵もない。
そこに放送が流れ、蔓延する死は疫病の如く外に溢れ返ることを伝える。
しかし、この場に集った4人の人間を先頭として全ての状況は外の死ではなく、その死体に向けて収束させられていた。
「地図氏ィィィィィィ!!!!!」
真っ先に均衡を打ち破ったのはやはり神行法を持ったDIE/SOULだった。
腕部限定で加速し片腕で竜殺しを打ち下ろす。長い刀身が病院の蛍光灯ごと天井を飴のように裂きながら目標へと向かう。
投影では間に合わないと即断した地球破壊爆弾は迷わずウッカリデスに突き刺さった剣を引き抜きながら長門へと姿を変える。
両腕で剣を支え鉄塊の如き断頭の一撃を凌いだ爆弾にダイソウは悪鬼羅刹の如き笑みを浮かべた。
その剣でその姿など、煽っているとしか思えない。
「回りくどいのは苦手だ。一回だけ聞いてやる。お前の仕業か?」
「否定。但し貴方が私の発言を肯定するかは別」
「だろうなあ!!」
両者が剣を弾き、半歩距離を開けて加速距離を作る。
神速と剣撃専門のダイソウが微かに早く攻撃に速度を乗せられたが、それは更なる声に遮られる。
「止めて!!!!」
遅れて現れたロリスキーに二人の剣が一瞬止まり、その間隙を縫って彼女は死線に割って入った。
二度目ということもあって最初から割り込まれることを想定していたのか、ダイソウは剣閃の軌道を幽かに反らし彼女を避ける。
凶眼にてダイソウがロリスキーを睨め付けるが、ロリスキーは毅然と……というには少々震えていながらもダイソウから視線を外さない。
「お前も一回だけだ。邪魔をするんじゃねえよ」
「ちょ、ダイソウさん落ち着いて!! こなたも、何しでかしたか知らないけど、喧嘩とかしない!!」
ロリスキーがダイソウを向きながら爆弾に声を掛ける。ロリスキーの背後に居た形になった爆弾は、いつの間にかこなたに戻っていた。
「酷いなあかがみん。こっちだって何がなにやらさっぱり」
「ほうほう、それは興味深い発言だ。死体の第一発見者とは思えない台詞だな」
ダイソウのマントの向こう側から、マダオが試すような口ぶりを示す。
その言葉にようやく状況を把握する程度に余裕を取り戻したロリスキーは、やっと自分の隣にある死体を認識した。
「う、ウッカリデス……なんなの? これってどういうことなの!?」
悪い冗談だと一笑に付してしまえたらどれほど楽だろうか。しかし、眼前の二人はそれを許さない。
「どうもこうもあるか。そこに死体があって、そこに凶器があって、それの使い手がいる。それだけで十分だろ」
「ウッカリデスは地図氏と話し合うと言って出て行ってな。我等も心配になって来て見ればこの有様だよ」
二人の目は鋭く、萎縮するロリスキーは思考を纏め上げるのにもしどろもどろになってしまう。
「そ、そんな……っていうかあれは? あの黒い奴が居たでしょ!?」
「彼女がそれを警告してくれてな。因みに、その鏡に映されたものも、彼女を介して見ていたよ」
あの惚気を見られたか! とロリスキーの体が一瞬強張るが、二人の反応を見る限りはどうにもそこは見ていないらしい。
いや、そんなことではなくて! 本当に問題にするべきはあの黒い天使だ。
「あんたらも見てたってことは、あの黒いのに会ったんでしょ!? 明らかに怪しいじゃない!!」
「確かに怪しすぎる。が、彼女が犯人だと考えると幾分安易に過ぎるだろう?」
「その剣は地図氏の投影できる品だ。態々量産可能な剣を一々他に支給するってのは考えにくい」

なんなんだろう、とロリスキーは思った。
確かに彼らの発言には一分の理があるが、それにしてもこれは変だ。
「それにな、ウッカリデスが君たちの部屋に向かってから私達が部屋を出るまでの間、彼女は私たちと一緒に居たのだよ。
 アリバイが成立しているのさ。これがな」
そうアリバイ説を語るマダオの笑みは幼女とはとても思えない嫌らしさに満ち溢れていた。
まるで、こなたが犯人であることをまず前提にして論理が組まれているとしかロリスキーには思えなかった。
「こなただって、今ついさっきまで私と一緒にいたのよ!! アリバイだっていうならこなただって同じ条件よ!!」
「いや~~、そうでもないよかがみん。ちょっち私たちのほうが不利かなあ」
フォローするはずの人物からの否定に、ロリスキーは気を呑んだ。
爆弾が部屋を出てからロリスキーが出てくるまで十秒もない。自分が見た事実は間違いないはずだ。
「知らねえのか? 『容疑者に親密な関係を持ってる奴の証言は参考程度にしかならねえんだよ』」
ダイソウの言葉にロリスキーは自らへも懐疑が生まれていることに気づく。
「わ、私が嘘をついてるっての? アンタらふざけるのも大概にしなさいよ!!」
「そこまでは言わんさ。だが、地図氏と濃密な蜜月を交えた君が彼女を庇う動機はあるだろう?」
マダオの煽るような口調の前に、ロリスキーは怒りというよりも悲しみのに近い苛立ちがあった。
「なんで、なんでそうやってこたなが犯人だって、決めつけてるのよ!? 私たち仲間じゃない!!」
「仲間だぁ? 勘違いすんなよ。偶さか利害が一致しただけの集団を仲間たぁ言わねえよ。それがぶっ壊れたかもしれねえからこうなってるんじゃねえか」
「ふん……多少乱暴な理屈ではあるが、私も同意見だ。それに個人的な感傷を言わせてもらえば、私も今しがた地図氏と殺しあう理由が出来たのでな」
ロリスキーは何のことだと頭を捻りそうになるが、直ぐに理由に思い至った。
彼らも『彼女』の記憶を見ていたのなら、漫画ロワのマダオには『彼女』に憎悪を抱く資格がある。
「だからって、今のこなたはマーダーなんかじゃない!! 私がそんなことさせないって言ったでしょ!!」
「現に死体が一つ出た……どちらにせよ、全員で脱出する君の夢はもうおしまいだよ」
「フン……この段でもこなたこなたか。これじゃウッカリデスの奴も浮かばれないだろうぜ」
吐き捨てるように言うダイソウを見ても、ロリスキーにはなんのことだかさっぱり分からない。
その様を見て、ますます複雑な顔をマダオは見せる。


ロリスキーには何が何だか分からなかった。『彼女』は彼女の背中を見つめるばかりで、眼前の二人は鼻から『彼女』を犯人だと決めつけている。
(なんでよ! なんでみんなしてこなたを虐めるの!? こなたが無差別マーダーだから? ジョーカーかもしれないから? アーカードだから!?
 そんなのおかしいよ! だって、それ全部こなたの思いが入っていないじゃない!! こなたの立ち位置ばっかり見て、こなたがどう思ってるかを考えてないじゃない!!)
『彼女』は地図氏だから……それだけで疑う理由になってしまう。彼らの懐疑はそこに『彼女』の殺意を考慮していない。
それはおかしいのではないか、理不尽ではないか。そうロリスキーは本気で思っていた。
なぜこんなことになってしまうのか。ファミレスなりここなり今までも彼らに脅されたことは何度もあったが、ここまでひどい状況には至っていないはずだ。
(ウッカリデス……なんで死んじゃったのよ?)
そうかと、彼女は心中で納得した。いつもは自分をフォローしてくれていたウッカリデスが今はいないのだ。
いつも自分とこなたを擁護してくれたウッカリデスが、今はもういない。
もし、もしここにいてくれたらどれだけ有難いことかと切に悔やむ。
それがどれだけ自分に都合のいい妄想で、ウッカリデスを仲間か道具としか思っていないと揶揄されても仕方のない発想だとは彼女には気付かない。
ウッカリデスが自分に抱いていた感情を友情としか思っていない彼女は、どこまでも理不尽に、ウッカリデスが廊下にでた理由にすら思い至らない。

「ウッカリデス……どうして死んじゃったのよ、ウッカリデス……!!」

盲目にこなたの方を向き続けた彼女もまた罪人だ。見つめるばかりで、見つめられる意思に気づきもしない。
だからこそ、その向こうから現れた人物に疑いすらしなかった。

黒一色に染まるマントとスーツ。
最近黒というとすぐ熱血王子かジョーカーかと疑いたくなるが、まったく別の人物だ。
そして、ここに集った四人はすぐに知る。その黒衣が、自分たちが見、慣れ親しんだものだと。
「あ、う……」
なぜならそれは、今しがた騒乱の中心点に存在する人物の装束だったのだから。
黒装束に仮面を纏わないその姿は、素顔からはっきりとルルーシュ・ランペルージであると理解できる。

「ウッカリデス!!」

縋るようなロリスキーの表情を見て、『彼』は獲物を狩る獣のような……心底ルルーシュ然とした瞳を見せた。


  • 謀略『スルーミスディレクション』

666が失せた病院の入口に、一人の男が突如出現した。
草加雅人こと仮面ライダー書き手その人である。すでにその姿は仮面ライダーベルデとなっていた。
「……どうやらあのユーゼス(笑)は失せたようだな。特等席と抜かしながら座を退くとは、何かあったか?」
クリアベントを解除し、再び草加に戻るライダー書き手。町中に消えたと見せかけてカードを用い、周囲を哨戒した後に改めてここに戻ってきたのだ。
666の誘いを蹴った男が、何故ここにいるのか。
「言っただろう。完全スルーすると。ならば俺は666の介入を無視した上で行動するのが上策だ」
彼はある種の明確な動機をもってこの病院に訪れている。
もしこのまま去れば、666と出会ったことによって彼はここを去ったことになり、
スルーどころか180度方針を反転したことになって介入の直撃を受けたことに等しい。
それに、開幕の号砲などという言葉で隠していたが、666は確実にマーダー側の戦力も削ることを狙っている。
惨劇を引き起こすことだけが目的ならば、あの龍を殺すことは百害あっても一利はないからだ。
マーダーの戦力と対主催の戦力を均等に減らしパワーバランスを取る……自分を偽悪者などと嘯く馬鹿がいかにも手を出しそうなことである。
(それを否定するつもりはないが、そういう曖昧な態度をとるキャラは大半が書き手に都合よくこき使われて用済みになったら捨てられるのがオチだ。
 自覚しようもない分『なりきり』よりも性質が悪い。危険な対主催……書き手がキャラを弄ぶ便利な時代になったもんだ)
通常のパロロワならばキャラが都合よく駒として扱われることに異論は挟まないが、これは書き手ロワだ。自分がその位置に立つのは面白くない。
自分の確たる意思を、一貫してとり続けることをキャラとして選んだ草加は思考を現状に向けた。
(ホテル組は全員生存……どうやら孔明が上手くやっていると判断していいだろ。
 ククク……コ・ホンブックの錬金術、如何ほどのものになっている事やら)
そう、彼には愚直なまでの真っ直ぐな動機が一本筋として揃っている。
まとめキングへの愛情、その一点においてこの仕事はフイにするには少々惜しい。
一人の少女を食らうだけで対価としての『人体錬成』にて彼の人は甦る。優勝に比べれば魅力的というだけでは収まらない話だ。
約定を反故にしてコ・ホンブックごと手にする手も無くはないが、wikiがある限り孔明には手を出しにくい。
ステルスという俺の立場を一気に吹き飛ばすことができるからだ。
「そしてなにより、俺にはそれを成すだけの力が……コピーベントがあるからな」
そう呟きながらも再びクリアベントを発動し、ベルデは病院に足を踏み入れた。
すぐに剣戟音を聞きつけて現場へと到着し、ベルデは透明化していることを踏まえてもなお、念のために壁からビハインドで状況を覗き見る。
ガッツと泉こなたの間に立つ柊かがみ。そして一歩離れた所にいるロリカード。
そして剣を引き抜かれだらしなく崩れた、ルルーシュの死体。状況を把握するにはそれだけで十分だった。
(大方あれもあのユーゼス(笑)の仕業か。
 航空速度と病院の経路から考えて、屋上から空気王とやらが入ってきてこの一階にくるにはもう少し時間がかかるはず。
 しかし、早く仕事を片付けて離脱するに越したことはない、か)
数秒勘案して、ベルデはその妙手に思い至った。
孔明から見せてもらったwikiから彼らの関係は瞬時に把握できた彼は、この状況下においてもっとも有効な手段を選び出す。

――COPY VENT――

本名しか名乗れない不死者の制約を抱えたままあのイカれた闘争連中に近づいてロリスキーを喰うのは至難。ならば『ロリスキーに近づいてもらえばいい』のだ。
予想通りライダー以外の物にもチェンジできたようで、変身を遂げた仮面ライダー書き手は手近な窓に映る自分を見る。
かすかに口を歪める自分が、支給品の仮面以外の全てを模倣したルルーシュ、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアがそこに映っていた。

248:白銀の堕天使と漆黒の悪魔 投下順に読む 249:惨劇『孤城への帰還』(中編)
時系列順に読む 249:惨劇『孤城への帰還』(中編)
238:trigger ミスターマダオ 249:惨劇『孤城への帰還』(中編)
238:trigger 神行太保のDIE/SOUL 249:惨劇『孤城への帰還』(中編)
238:trigger 地球破壊爆弾No.V-7 249:惨劇『孤城への帰還』(中編)
238:trigger クールなロリスキー 249:惨劇『孤城への帰還』(中編)
244:くろいひとたちはこよいもたのしそうです。 漆黒の龍 249:惨劇『孤城への帰還』(中編)
244:くろいひとたちはこよいもたのしそうです。 孤高の黒き書き手 249:惨劇『孤城への帰還』(中編)
248:白銀の堕天使と漆黒の悪魔 予約被りに定評のあるtu4氏 249:惨劇『孤城への帰還』(中編)
248:白銀の堕天使と漆黒の悪魔 King of 脳内補完 249:惨劇『孤城への帰還』(中編)
248:白銀の堕天使と漆黒の悪魔 仮面ライダー書き手 249:惨劇『孤城への帰還』(中編)
248:白銀の堕天使と漆黒の悪魔 派手好き地獄紳士666 249:惨劇『孤城への帰還』(中編)
233:三人で、行こう 249:惨劇『孤城への帰還』(中編)
233:三人で、行こう コロンビーヌ 249:惨劇『孤城への帰還』(中編)

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最終更新:2008年04月08日 12:42
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