貴方だけに教えます

乱雑に紙束を捲る音が、静かな部屋に響く。
焦る息づかい。落ち着かない視点。動揺は行動から精密さを失わせている。
それでも――急げ。急げ、急ぐしかない。
時間があとどれだけ残されているかも判らない。
その上に何を見つければ良いのかも判らなかった。
(くそっ、何か無いのか。何か……何か、手掛かりは!)
思わず臍を噛む。
今はチャンスなのだ。定時放送が流れた直後の今が。
今なら奴は、放送直後の参加者達を見物するためモニターに釘付けされている。
定時放送直後、参加者達の悲喜こもごもは頂点に達するのだから。
無数の死、幾つもの喪失が参加者達を傷つけ、無数の悲しみと絶望を撒き散らす。
会場の見物を楽しみにしていた奴が、それを見物していない筈は無い。
少なくとも十数分は確実に。

――ブゥンと、胸ポケットでマナーモードの携帯が鳴った。

「チィッ」
思わず舌打ちする。放送後十分経過のアラームだ。
それが真主催者ことWiki管理人の私室を捜索する限界として定めた時間だった。
撤収までにかかる数分も計算に入れた限界ギリギリの設定時間。
これ以上時間を費やすと彼女が戻ってくるかもしれない。
彼はデジタルカメラを取りだすと、目星をつけた書類を撮影した。
高解像度のカメラだ、後でパソコンに映せば十分可読に耐えるだろう。
それから急いで書類を元の場所に戻す。
最後に部屋の全景を何度か撮影してから退室し、元通り鍵を閉めた。
足早に鍵を管理室に戻し、モニタールームの前に来た所で。
目の前で扉が開いた。
「おや、どうしましたそんなに急いで」
「――――っ!」
顔を見せたのはWiki管理人だった。

彼は動揺する鼓動を必死に落ち着かせる。
(大丈夫、気取られてはいないはずだ。俺の来た方向は他にも設備がある。
 その上にこいつがまだここに居た。下手を打たなければばれない)
彼、読み手は落ち着いた口調で答えた。
「別に。少し用を足していただけだ」
Wiki管理人はくすりと笑みを浮かべる。
それだけで読み手の心拍数は跳ね上がった。
「ダメね、君。嘘はいけないよ」
絶句する。
(まずい、気付かれた!?)
焦りを押し込め、返答。
「嘘など……吐いていない」
「そう? どうせ君の事だから」
Wiki管理人は笑う。今から告げられる次の言葉で読み手の命運は決する。
果たしてその言葉は。

「放送直後に嘆く参加者達を見たくなくてモニタールームから離れていたんでしょう?」

……読み手にとっては幸運なものだった。
「…………そ、そんな事は無い」
内心の安堵を隠して動揺を見せる。本当はその通りだと思わせる為の動揺だ。
「そうかい? ……ふふ、まあいい、少し休憩をあげるよ。自室で休んできなさい」
「くそ……お言葉に甘えさせてもらう」
読み手はモニタールームに背を向け、自室へと足を向けた。
滝のような汗が流れる背中に、くすくすと笑い声を浴びながら。

     * * *

読み手は自室に戻ると、早速撮影した書類をパソコンに映し出した。
だが彼にとって重要な情報はそうそう無い。
主催側である彼は大半の情報を最初から知っているし、そもそも……。
例えば参加者達のプロフィールがある。
(性格や外見が記されているな。書き手同士の繋がりも有る。参加者達にとっては垂涎物だろうが……)
ロワ内に干渉する手段を殆ど持たない彼にとっては意味が無い。
どうにかして内部にこの情報を届けられなければ、この情報は無価値だ。
あるいは、首輪の内部構造。
対主催にとって喉から手が出る程に欲しい、首輪の解除法法。
(これも俺にとっては意味が無い。くそ、中にこれを届けられれば……!)
参加者にこれを渡せれば、対主催組は一気に決起できる。
彼、読み手こそ黒幕だと思われているのは問題だが、それでもこの価値は大きい。
参加者側に融通する事さえ出来れば。
「……くそ、なんてことだ」
思わずほぞを噛む。
読み手は主催側という安全な側に立ち、自由に内部を見物出来る権限を持っている。
だが参加者達を救おうと思っても、まるで手が出せない立場でもあるのだ。
その焦れったさが読み手には悔しく仕方がなかった。
(それでも、何か無いのか? 参加者達を……書き手達を助ける鍵は)
読み手は書類の写真データを次々にめくる。
次の書類を。次の書類を。
――管理体制。
――定時放送におけるカンペ。
――支給品のリスト。
――会場内の施設とその設備一覧。
――第一回書き手ロワ主催側記録。
………………。

「ん?」
それが気になったのはなんとなくだ。
第一回書き手ロワに関する記録。
この世界とは別の可能性世界で行われた書き手ロワイヤル。
その世界における人物は、この世界の人物と一部同じであり、同時に全くの別人だ。
(どこかの名も知らない読み手>>1が始めた企画だったな)
恐ろしい事だと思う。
書き手がSSを書かなければ読み手が読むSSは無いというのに、
その読み手は書き手達を集めて殺し合わせたのだ。
なんという矛盾。
だが1の野望は>>783-784で敗北を認めたズガンにより終わった。
ただそれだけの話。
もう終わり、そもそも別の可能性世界で行われた、全く接点の無い話。
この内容が何であれ、今回のバトルロワイアルに関係は無いはずだ。
だから読み手がそれに目を向けたのは限りなく偶然に近かった。
そして何か、違和感を感じた。
(なんだ……?)
写真を拡大し、縮小で潰れていた文字を見る。
そして気付いた。
(主催…………1、の後に何か書かれているな。これは、トリップか?)
1は名無しであると同時に、非公開だがトリップを持った人物でも有ったのだ。
恐らくは書き手か。
読み手は興味を持ち、更に写真を拡大した。
拡大しすぎた文字が画面一杯に広がる。
「…………え?」
表示された文字は半角英数字の三文字。拡大しすぎたせいで他の文字は画面外だ。
普通、これを見て判るトリップは既知ロワの有名人くらいだろう。
それでも判った。このトリップが誰を指しているのか、ほぼ確信した。

縮小した。思った通りのトリップが表示された。


「…………あんた、1stじゃ一応人畜無害じゃなかったのかよ」
混乱しながら漏らした呻き。

モニターには――『666』の三文字が表示されていた。

書き手ロワ1st主催、1◆CFbj666Xrw。
1stでも2ndでもロリな参加者として絶賛参加中。
コンゴトモヨロシクオネガイシマス。


※:読み手がWiki管理人の部屋から撮影してきた書類は『参加者達のプロフィール』
  『首輪の内部構造』『管理体制』『定時放送におけるカンペ』
  『支給品のリスト』『会場内の施設とその設備一覧』『第一回書き手ロワ主催側記録』
  他にもあるかも。どれも参加者にとって大変価値のある物ですが、
  そもそも読み手は主催側なので大半を知っていた上、参加者に伝える手段を思いつけずにいます。
※:666が1st主催である事が何か関係有るかは不明。単に別可能性世界の住人かもしれない。


128:温泉話っスか! Chain-情さん2 集まれ!コスプレ温泉 投下順に読む 130:一種のカミングアウト
128:温泉話っスか! Chain-情さん2 集まれ!コスプレ温泉 時系列順に読む 131:その名は「火蜥蜴」
082:ウラガワ 読み手 142:黄昏、来まくって
120:私のかがみ様、ツンデレのかがみ様 wiki管理人 142:黄昏、来まくって

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最終更新:2008年04月05日 23:46
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