封印一度

カツリ、カツリと独楽が踊る。
パチリ、パチリと駒が並ぶ。
ガソリン・重油・軽油・灯油・菜種油……ありとあらゆる油が盤に注がれる。
もう少し、もう少しで全てに火がつく。燃え盛るのは紅蓮の炎かそれとも灰も残さない白炎か。
最早着火は避けられない。既に燃料は気化してしまった。何もしなくても何れ着火するだろう。
ならば私達にいったい何ができるというのか? 私達が出来る事が未だ残っているのだろうか?

―――あるとも、私達は「愉しむ事が出来る」。
火を消す力は無くても、さらに薪をくべる事が出来る。『混じってはいけない生木を取り除くことが出来る』
もっと炎を大きく! もっともっともっと!! その為に些細なイカサマをしようじゃないか。
なあに、案ずることは無い。どうせこんな子供の悪戯程度の繋ぎだ、圧倒的な炎の前では何も残らない!!


ジョーカー陣営は愛媛を派遣した後、相変わらずもっしゃもっしゃ飯を食っていた。
「愛媛の方は順調か?」
ナナシが机に肩肘を立てながらマッ○ポテトを齧る。
「詳しいことは帰ってから私が動画を受け取ってからですが……多分大丈夫ですよ」
リキュールをがぶ飲みしながらガチホモが答える。
黒さにかけてはニコロワジョーカー随一である。夜にさしかかろうとした今短期間で彼女を捕捉し切れる参加者はそうはいない。
便りが無いのがいい便りと言わんばかりに無言で飯を食い続けるジョーカー達に一報が下される。
ガチホモにプー太が耳打ちし、それにガチホモは微かに笑った。
「666氏が病院に仕掛けました。……随分思い切りましたね。動くにしても放送まで待つと思っていたのですが」
「どうなりますかね、この勝負? テイルズロワの方には心が躍ると思うのですが」
プー太の言葉にナナシが口元を歪めて自嘲した。やっぱりあの第六クールの業は切っても切れないらしい。
「……勝負というには各人勝利条件も敗北条件も不明瞭だ。
 単純に対主催が生き残るかマーダーが生き残るか、という話でも難しい。だが、敢えて楽観的な希望を口にさせてもらうなら」
ニイィとその光景を想像して、想像の中の光景を楽しみながら言った。
「全滅が楽しそうだ」
全員が全員己の意思で戦い、足掻き、そして希望の一つも見出せずに滅んでいく……
彼が書き上げたテイルズロワのNormalENDはその集大成である。
たとえ今はアナザーで熱血を書いていてもその黒い衝動を否定するものではない。

「……恐ろしいですね。その考え方も、『その為ならば手段を選ばない策も』」

そう言ったガチホモの眼前にはテイルズロワのジョーカーが二人しかいない。
「別に、意地でも全滅にしたいわけじゃないさ。ただ、全滅もありえるほどの惨劇の方が気分がいい。
 書き手ロワ2最大の祭りだ。ここまでフラグが集まってしまったら完全燃焼の方がいい」
「うい~~~っすWAWAWA忘れ……って、アレ? 何でテイルズの方も一人消えてるんですか?」
トイレから帰ってきた人外がナナシの笑顔に若干ヒきながらも、異変に気づく。
「派遣したからだが何か?」
ナナシがさも当然のように言い返した。
「いやそんな当たり前のように言わないで下さいよ!! そっちが一人って決めたんじゃないですか!!」

『私はこれを憂慮し、「我らの中から一人、この事態に限定した監視員を会場に派遣する」ことを妥当と判断します』

そういえば言っていた、と今思い出したように手を打ち、名無しはバツが悪そうに言った。
「ですから派遣したらしいですよ『それぞれのロワから一人』」
一瞬顎が外れかけるほどに口をあんぐりさせた後、人外が突っ込みを入れる。
「完全に屁理屈っすよそれ!!」
「屁理屈も立派な理屈です、って七氏さん言ってましたからねえ」
それも屁理屈だろ、という突っ込みを無視する名無しでは話にならないと人外が両ロワのトップに向き直る。
「まあ、一人は一人だし、な」
「固いことは言いっこ無し。硬いのはアレだけで十分ですよ」
ダメだこいつら早く何とかしないと……とばかりに目の前の光景に絶望する人外。
間違いなく気づいてたよこの二人……と、打ちひしがれる。
「大丈夫ですよ。念のため感電さんと読み手さんに、まったく同じ許可を貰いましたから」
慈しみに満ちた母のようにそっと背中をさするプー太。お前もかプルー太ス。
許可を二つ貰えば二人出撃って、そりゃどこの「二つの塔で苦労も二倍!」だよ。
結局自分以外の全員がこうするつもりだったと分かり、何ともいえない悲しみが差してくる。オー人事オー人事。
そこで人外ははたと気付く。自分以外の全員?
「派遣されたのは七氏さんですよね? 何処に派遣されたんです? お姉さまの所以外は色々不味いんじゃ」
派遣はあくまで事態に限定されたものである。お姉さまを監視する名目が無ければ、少し危ういのでは。
ガチホモがイイ男を見つけたように笑いながら言う。
「それも無問題。あくまで監視するべきはこの事態……つまり、この事態を引き起こした元凶である666氏を含みます。
 その666氏が引き起こそうとしている事態を、放送まで監視する。それが私達に与えられた許可ですよ」
「もう好きにしてください」
もう誇大妄想の域に達したと言っていい屁理屈を前に、人外は諦めて席に座ろうとしたときだった。
「そこ………私の席………」
「うわぁお!! ビックリして耳がデッカクなっちゃった…って、えーりん!えーりん!」
条件反射で腕を振るその先には、八意永琳ことC.M.超展開はデフォなのかが立っていた。
「貴方がハッテンしている間に目を覚ましましてね」
トイレと書いてハッテンと読むの止めて下さい。と人外は内心毒づきながら座る。
そういえばこの人もしばらく空気だったな。俺も似たようなものだけど。
セルフ突っ込みに軽く鬱になりかけながらマントの中で人外は涙を流した。

「彼女が起きてくれて助かりましたよ。彼女の力が無くてはアレほどまでに早くあそこに派遣できませんでした」
ガチホモがポンポンと超展開の頭を撫でると、彼女は黙ったまま頬を赤く染めてうつむいた。
西瓜じゃあるまいしそんなフラグ要らん。と残りの全員が心の中で突っ込む。

そんな中、ナナシが誰に言うでもなく言葉を虚空に投げかける。
「俺達が介入できる切欠を作ってくれた礼だ。時間は稼いでやる」
派遣した名無しの異能を思い出し、ナナシは目で笑った。
「だが、手を貸すのはここまでだ666。一部キャラに手を貸すなんて、ジョーカーとしてあるまじき行為だからな」
それが、ジョーカーが暴れる機会を作ってくれたマーダーに対する報酬だというように。



皆さん結構忘れているかもしれないが、E6にはもう二人の参加者がいる。
「あ、あれ一体なんなんですか!?」
「わ、私に聞かれてもッ!?」
その二人……静かなる ~Chain-情~と衝撃のネコミミストが見上げる先には
まるで日本昔○なしのような龍が一匹うねうねと泳いで東に向かっていたのだ。大きさを考えれば、気付かないほうがおかしい。
傍から見ればとても滑稽な光景だが、書き手ロワイアルの特性を考えれば到底看過できない。
直ぐに後を追おうと二人は頷きあい、東に踵を向けようとした、その時だった。
「!? ネコミミストさん危ない!!」
Chain-情の警告に反応し、頭上を見上げネコミミストは驚きに口を大きく開けた。
「わ、ワープスター!?」
彼が見たそれは、ピンク球が敵陣に突撃するときによく使われる星型小型飛行機械「ワープスター」であった。
なぜそんなものがここに、どこの支給品にも無いだろと驚く前にその異様なでかさに驚かされる。
カービィが使うそれよりも一回り大きく、まるで人間一人乗っても十分な程。
「!! 誰か乗ってるのか!?」
彼がそこに気付いたのと同時に雷に撃たれたかのような音が鳴り、流星が道路の真ん中に着弾し、小さな星を撒き散らした。
「一体、なんなの?」
唖然としたネコミミストが再び目を開く。既にChain-情の腕の感触は淡く消え、
彼は彼女とその突如現れた「何か」と対峙していた。
「ネコミミストさん……離れて。こいつ、なんか参加者と違う」
その屑星の中から現れたのは、綺麗な星など無縁とばかりの黒衣の男。
異質極まりないその気配が参加者のものではないことが、直感で理解できる。

「なるほど。これを脱ぐ前からそこまでを見抜くか。勘……というよりは、愛だな。
 君達が自覚しようがしまいが、ともかく余程このバトルロワイアルから愛されているようだ」
ブツブツと独り言を言い始める黒マント。
ネコミミストはその人物を警戒し、身を屈めて衝撃波を手に集めた。
「待ってください!」
それを遮り、Chain-情が一歩前に出て黒マントに対峙した。
「その声……もしかしてカズマですか!?」
自分の耳に間違いが無ければアニロワでもよく慣れ親しんだカズマの声……つまり☆ボイスであった。
ならば誰であれあの熱いソウルを持った人物に違いない、
仲間には出来なくても戦闘を回避することができるのでは、と橘あすかを原型とした彼は値踏みした。
しかし、返答の変わりに来たものは……とても熱血とは懸け離れた陰鬱な笑い声だった。
「く、くっくっく……☆といえば熱血、対主催展開か……オメデタイ頭だ」
マントの奥の眼から発せられる感情を受けて、二人はぞくりと冷や汗をかいた。
その語調と吐息からにじみ出るのは、寧ろ怒りの方が強い。
「答弁にはこう答えよう……残念ながら僕はカズマでは無い。ついでに言うなら圭一でもキラでも倉成武でもない。
 ……この姿でジョーカーというのは皮肉だな。僕は、あいつらのような天賦の才を持たない凡人だ」
そういいながら黒衣の男はマントを掴み一気に抜き取る。
その中から現れたのは、長身青髪でゆったりとしたローブを纏った男。

「自己紹介が未だだったな。僕は七氏、テイルズロワの七氏」

鉄槌のシェルブリッド、決闘、L5を打破しチート対主催まで上り詰めるetc……様々な熱血偉業を成し遂げた色々な☆キャラ達。
☆といえば熱血展開……そういっても過言ではない中で一人、イレギュラーがいた。

曰く、外道。
曰く、人間の屑。
曰く、グロい死に方の見本市。
曰く、裏切り者。
曰く、究極のステルス。

アルターも無ければ羽入スタンドも無い。キュレイウイルスも無ければスーパーコーディネイターでもない唯の魔術師。
ただただ主人公補正無き己に出来ることを極限まで模索し、それを不屈の覚悟で成し遂げた。
だがそれは、他の参加者に取ってみれば唯の裏切りでしか無かった。
話の中の参加者はおろか読み手すら欺いて対主催主力メンバーを裏切り、あまつさえその主軸であるロイドを言葉で殺した人物。
そうして最後にはその外道が霞む程のグロの極致で殺された、哀れな凡人。
☆という熱血の影に産み落とされた★。保志キャラの反英雄。

「お察しの通りジョーカーの一人だ」

キール・ツァイベル。それが七氏の持つキャラだった。


「カズマじゃない……いや、そんなことはどうでもいい!
 貴方がnanasinnと同じジョーカーだというなら、つまりは敵……立ち塞がるならば、ここで!」
Chain-情がスタンドを出し戦闘態勢に入ろうとする。
それを手で制する七氏。
「早合点をしないで貰おうか。残念ながら、僕は争いに来たわけじゃない」
しかし、それを軽々と聞き入れるほど彼は楽観主義者ではなかった。
半歩、また半歩とじりじりと間合いを詰める。
「本当だ……といっても信じないのも当然か。だが、考えて見ろ。
 僕はこの通り典型的な術使いの後衛だ。君達のような遠近両方の戦闘が可能な二人を相手取るなんて、それこそ自殺行為だろう?
 それとも君は、牙を持たぬ僕をその刃に掛けるのか?」
そんなことも分からないのか、と浅薄を嘲る様に七氏は笑った。
それが癇に障ったのか、スタンドに力を込めたその時だった。
「やめて、Chain-情」
「ネコミミスト……?」
先程のお返しとばかりに立場を変えて、今度は自らが前に立つネコミミスト。
「聡明な判断で助かるよ。君はどうやら君の為に失われた命を無駄にはしていないらしい」
「話があるならさっさと喋ってください……じゃなかったら帰ってください。ぶっ飛ばしてでも帰しますから」
湧き上がる怒気を努めて抑えながら、ネコミミストは言った。
寧ろ何処か煽る調子の七氏がどうにも生理的に受け付けない。
確かに力は無いのだが、何かいやな気配が七氏には充満している。

その予感が当たっていたと言わんばかりに、七氏の口から吐かれた言葉は二人にとって予想外だった。
「いや、今日は君を説得しに来たんだ。ネコミミスト――――――“ここで自害する気はないか?”」
呆気に取られた二人だが、直ぐに気を取り直して七氏の正気を疑う。
「何を馬鹿なことを言ってるんです!? 正気ですか貴方!!」
「少なくともあれだけの惨状を味わっておきながら平手一発で立ち直る君よりは正常だよ」
ぶちっと自分の血管が切れる音をChain-情は聞いた。
守りきれなかった愛する人、食い止め切れなかった惨劇、止められない悔恨。
そして、それでも前に進むことを教えてくれたネコミミスト。その全てが陳腐な言葉に穢されてしまったような気がした。
「七氏さん!! ……これ以上は、本気で怒りますよ」
ネコミミストのまるで泣くような脅迫に、七氏はふむと嘆息をついた。
「了解だネコミミスト。話を戻そう……何処まで話したか……そうそう、君に自害を勧めるという話だったな。
 いや、これは単純に言葉通りの意味として受け取ってもらって構わない。
 恐らく……いや、最早これは確信に近いが、ここで死んだ方が君の為だ。君は、物語に愛され過ぎているんだよ」
「どういう、意味ですか?」
「バトルロワイアルは群像劇だ。その意味において参加者は皆主人公といってもいい。
 だがそれはあくまでもゲームを平面的に捉え、全ての参加者を均等な駒と認識した場合の解釈と言える。
 これを縦に捉えた場合、つまり物語の推移として解釈する場合にはどうしても主人公が存在することになる」
分かるか? と眼で挑発する七氏。二人は釈然としないままだったが、書き手としてその言葉には幾分理解があった。
公平な殺戮ゲームとして見た場合、原作の参加者一クラス全員が皆等しい駒だ。
だが、小説としてこれを見た場合序盤で殺されたクラスメイトと七原や相馬を同列に解釈することは難しい。
ゲームの推移と共に物語が構築され、各人に役割が振られていく。
そして、重要な役割を振られた者は物語の寵愛を受ける。それを補正というのだ。
「生き残ったから主人公なのか、主人公だから生き残ったのかなんてのは主観に過ぎないから置いておくが……
 ネコミミスト、君はどうにも主人公の役割を振られてしまった。“物語は君を中心と見た”ようだな」
七氏はしかめ面をしてネコミミストを観察する。
「わ、私が主人公? 無いですってそんなの!」
しかし、ネコミミストにはいま一つ理解が及ばない話のようだった。いきなり主人公などといわれても実感が湧くはずが無い。
「そうか? 君の今までの経歴は報告を受けている。決して空気になったわけでも無く、歴戦と呼べる程度に修羅場を潜っている。
 そして、多くのものを失って、それでも健気に立ち上がろうとしている……主人公としての条件はそこそこ満たしていると思うが」

満更でもないのかネコミミストが少しだけ頬を緩ませるが、それをChain-情が肘で小突いて制す。
「調子に乗らないで下さいネコミミストさん! 貴方も、こんな小さな子をその気にさせない!!」
「何を言っているのか。君こそが彼女を主人公たらしめる確たる証拠だとは思わないか?」
「どういう、意味ですか…?」
「君はあの惨劇を唯一生き残り、そして気がつけばここに飛ばされた……相違ないな?」
沈黙を肯定と受け取ったのか、七氏は言葉を続けて綴る。
「真逆書き手ともあろうものが“それを偶然だと思っている”訳じゃ無いよな?」
七氏の言葉に、二人は思わず息を呑んだ。
偶然だと信じていた参加者としての自分と、書き手としての自分が相反する。
二人は、既に自然と七氏の言葉に耳を傾けていた。
「そうだ。たとえ参加者としてはそれが偶然発生した現象でも、書き手というもう一段階高い次元から俯瞰したときそれは偶然ではなくなる。
 原因は何であれ、君達の出会いはある種の明確な意図を持って設置されたものだよ。今風に言えば、フラグとでも言うべきなんだろう。
 そして状況から判断してワープしたChain-情がネコミミストの方に寄せられたと見るのが妥当だ」
「貴方は、その原因を知っているんですか?」
「知っているが教える気はない。それに勘違いするな。重要なのは原因ではなく、結果。つまり君が主人公に選ばれたということだ」
七氏が言葉をそこで区切る。
暫くの沈黙があったあと、場所を変えるかとぼそりと言った七氏が歩き始めた。
二人も黙ったまま七氏のあとに着いていく。既に七氏の術中にはまっていたとも言えなくは無かった。

「まだ信じられないし、実感も湧かないけど……私が主人公だって言う貴方の言い分は分かりました。
 でも、どうして私が死ななきゃいけないんですか?」
カツンカツンとまだ原型を保っていた廊下に靴の音が残響する。既に人の居ない学校の廃墟に、三人の姿があった。
「主人公というのは得をするだけじゃない。補正の対価として凄惨な体験をすることになるだろう。
 ましてやこれはバトルロワイアルだ。君に与えられた役割がどれほど重くどれほど面倒か、分かると思うがな」
ネコミミストが遠い眼をして、かろうじて残った窓越しに外の景色を見る。
既に夕日の落ちかけた廃墟は暗く、遠くのほうはよく見えない。
体はスクライドでできている、幻夜、666、シャリダムの中のコ・ホンブック…様々な人間の思いを受け継いだ彼女には、少しだけ分かる気がした。
校舎の崩壊から唯一逃れた体育館に着いた七氏は壇上に立ち、二人を睥睨しながら言った。
「では聞こうか。ネコミミスト、恐らくこれが“君が自由に死ねる最後のチャンスだ”。
 今物語は君に愛されようと必死で自らを高めようとしている。君を何処までも偏執に愛するために。
 その物語が別の所を向いているこの間を逃せば、恐らく物語は君を見つめ続けるだろう。そうなれば……後は碌なことにならない」
七氏の問いに、Chain-情はネコミミストの方を向いた。
彼女は眼を瞑ったまま、暫く考えて、はっきりと眼を開けて答えた。
「私はやっぱり、生きようと思います。それがどれだけ辛い事になるとしても。
 “たとえその先に、何があっても”、生きて生きて、生き抜くことが皆が教えてくれたことだから」
「ネコミミストさん……」
凛々しく強い意志を見せる顔を綻ばせるChain-情。
七氏はしばらく何かを考えるように天井を仰ぎ、やがて口を開いた。

「そうか。いや、どうやら僕は君を過小評価していたようだ……」
それを皮切りに、体育館を妙なプレッシャーが包み込む。
「物語が……『黒猫』が君を見込むのも解る気がするよ。キミは実に“壊し甲斐がある”。
 出来ることならば僕がその鋼の意思の奥、その中の柔らかい純真を貪りたい所だが……それは黒猫に譲るとしよう」
「黒猫!? 一体それは何なの?」
「ネコミミストさん、気をつけて!」
黒猫という単語に反応するネコミミストを庇うようにしてChain-情は辺りを見回すと、体育館が一面霧に包まれていた。
体育館だけではない。学校跡地の全域が霧に覆われている。
「僕はテイルズロワの工兵。主に舞台仕掛けを得意としている。
 これはその内の一つ、C3の霧だ。周囲が見えなくなるだけのチープなものだがな」
霧で相手を包み命中率を下げる魔法ディープミスト。
対人用のそれを村全体に拡散させる無茶運用が、テイルズロワの昔っぽい所である。
「何時の間に……」
ここまで霧が充満する前に気づかなかったことに驚きを隠せないChain-情は歯噛みした。
霧のような無形ではゴールドエクスペリエンスの力を生かしきれないのだ。
「何のことはない。準備自体はこの学校に入ったときから始めていたんだ。
 現に、窓から景色が見えなかっただろう?」
ネコミミストが周囲の景色が見えなかった思い出し、あれが伏線だったのかと理解する。
しかし、幾ら暗くなっているからといって見過ごすほど小さな異変ではない。
主人公という話題でそれを誤魔化し抜いた話術こそが、七氏の能力。
「そうだ。これが僕の異能……『闇に囁く言葉責め』。パロロワがSSである以上、言葉はパワーだ。
 キバヤシ理論で超展開を通すことも、設定を都合よく解釈することも、読み手に気づかれないように裏切らせることも不可能じゃない。」

七氏が言葉を弄ぶ間にも霧が充満し、ついに七氏の姿が霧に消えかける。
「……ッ、逃がさない!!」
それを逃すまいとネコミミストが二本のマテリアルブレードを投げつける。
しかし、一手早く七氏の体は霧に紛れ、双剣は白を少し切り裂いただけだった。
「穏便じゃないね。最初に言っただろう……僕の仕事は君達と戦うことじゃないんだ。
 間も無く始まる『孤城の主』……その災禍に君達を混ぜるわけにはいかないんだよ」
「『孤城の主』だって!!」
その単語にもっとも縁のあるChain-情が声を荒げて反応する。
アーカードを軸とした決死の大乱戦……それが意味するところは大きい。
「孤城の……って、まさかさっきの龍!!」
ネコミミストもようやくその言葉の意味を理解し、そしてあの龍がそれに関わっているだろうことを本能で悟った。
ならば、あの龍の向かった先には恐らく血みどろの惨劇が発生するに違いない。
「気づいたようだな。だが、行かせる訳にはいかない。
 物語は、黒猫は君がそこに介入することを未だ望んでいないからな」
「退いて下さい!! これ以上仲間たちが居なくなっちゃう前に、私は行かなきゃいけないんです!!」
ネコミミストが両手から衝撃波を発生させて霧を振り払う。
散った霧の向こうに、七氏が再び姿を現した。
「ち、やはり僕の貧弱な地力では押し負けるか……“だが、全ての準備は整った”」
七氏が徐に足で地面を強く突いた。
それと共に、体育館が……否、学校全体が大きく揺れだす。
「実はこの学校は本当は……巨大ロボになる予定だったんだ」
まったく別の話を言い出した七氏に、揺れに驚きながらも攻撃しようとしていた二人は思わず立ち止まる。

「いや、万が一初期段階で対主催がマーダーにボロ負けしたり話としてどうよ、という状況になった場合を想定してな。
 スパロボに一度だけ絶対無敵ライジンオーが出たから、
 学校なら変形してガンバスターなりキンゲなりソードフィッシュⅡなり出してもいいんじゃないかと……
 そんな話があったんだが、スパロボ参加者が人間サイズのロボだったり地図氏の形態にキンゲあったじゃんとか問題が出たんだ。
 結局予算の都合上、ロボは設置されず、残ったのは格納庫の基礎工事だけ……それが、この学校に隠された悲しい過去だ」
七氏が涙をぬぐうような真似を見せるが、二人は何か可哀想なものを見るようなジト目で睨む。
このままでも埒が明かないと、恐る恐るネコミミストが七氏に尋ねる。
「で、それが今どういう関係が……?」
「いや、地盤がものすごく緩いんだよ。学校もボロボロだし、もう限界だ」
そう七氏が宣言した瞬間、ネコミミストとChain-情の立つ位置を基点にして亀裂が一気に走る。
「一応聞いておきますが。それ、何時決まったんですか…?」
「今、後付けした設定に決まっているだろう」

「「そんなのありかーーーーーーー!!!!!!!!!!!」」


その宣告と共に、体育館が床を含めて一気に全壊する。
些細な一撃で建物が一気に粉砕する様は、まるでE2の悲劇のようだった。
「こんなドリフみたいなオチで終わるもんですか! グラールヴィンド、旅の鏡!!」
ネコミミストがデバイスを起動させ、Chain-情と自分、そして投げた剣を緊急転移させる。
着地に失敗し、尻餅をつく二人。
「痛タタタ……何よ、あの能力、ほとんどインチキじゃない!!」
「前に現れたジョーカーも相当インチキでしたから、ジョーカーは皆あんな感じなんですかね……って」
ブツクサ言いながらお尻をさするネコミミストをジョーカー経験者のChain-情が宥める。
しかし、その言葉は最後まで綴られる事はなかった。目の前の光景が、彼の言葉を奪っていた。
気が付けば、夜だと思っていた空は青く澄み渡っていた。
かろうじて残っている校門の向こうは既に別世界。
無限に広がる平原に吹く風は乾き、行軍日和だと言わんばかりに太陽が輝く。
地平線の彼方で大河が黄金のように燦然と輝いている。
大地の匂いが生気として溢れかえる、正に活きた大地。
そしてそこに並ぶ、ニコニコ動画(SP1)の猛者達。

「こここ、固有結界!?」
「ステルス鬼畜の技!?」

突然の異常事態にそれぞれの知識で反応する二人が立つのは、紛れも無く彼女の世界。

軍勢の先頭に立って佇む美人……月の賢者八意永琳ことC.M.超展開はデフォなのか? のニートの軍勢である。
無数の兵士を見渡せば地図氏戦の影響かそれなりに傷跡が目立つが、既に全快しているのようで威圧感は衰えていない。
それも当然、王の軍勢ならば一度滅べば暫くは使い物にならずとも、
それを指揮するのがあのチート回復薬に定評のあるえーりんである。
彼女の薬作成スキルがある限りは、中の兵士はほぼ不死といって過言ではない。

えーりんがすっと手を上げると、あらゆる兵士達がざっと戦闘態勢に入る。

「こ、こんな……」

見渡す限りの軍勢と、場違いとしか言いようの無いほどに浮いた学校跡。
そのあまりにも超展開としかいいようのない状況を目の前にして、ネコミミストとChain-情は声をそろえて叫んだ。

「攻撃…………開始……」
「「こんなのありかーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」」


E5の中心はまったく異質な状況となっていた。
そこにあったはずの学校が丸ごと抉れたように、すっぽり無くなっているのだ。
「ふう……どうやら作戦は成功したようだな。向こうでもナナシさんが上手くやってくれたらしい」
結果として残った光景を目にしながら七氏は無感動に言った。
その足にはエアリアルボート……風によって高速ホバー移動を可能にする魔術がかかっていた。
七氏が学校を霧に覆ったのは、自らを隠すためではない。
学校ごとあの二人をえーりんの固有結界に閉じ込めてしまうためである。
自分に注意をひきつけているその間に、ナナシの繋ぎ能力で学校という空間とニートの軍勢を繋ぎ合せる。
これによってジョーカー達はルールの穴スレスレを掻い潜り、あの二人をE5に封印することに成功したのだ。
えーりんには数時間足止めするだけで十分だと言い含めてある。
意気揚々とはいえ怪我人の軍団。威圧感は同じであるが、精々が足止めに使うのが限界だった。
「だが、それだけの時間が稼げれば十分。確実に孤城の主には間に合わないし、何より放送を聞き逃すというメリットがある」
放送を聞いてしまえば、黒猫…666の生存がネコミミストにバレてしまう。
それでは恐らく666の望むであろう運命的再会に水を差してしまう。
それを回避することが、彼女に対する報酬だとジョーカー達は判断した。
そして、グラールヴィントを持つネコミミストから情報を完全に奪い去るには、亜空間に密閉してしまうのが確実である。

そこまで考えた七氏のそばで「でっていう」という声が聞こえた。
七氏が振り向いたその先にはヨッシーが黙って上下に小刻みにジャンプしている。
ニートの軍勢を完全展開する場合は固有結界内でしか行えないが、
一人や一匹程度ならば通常空間に出現させることができる。
最初に七氏を運んだワープスター同様、でっていうはそうした軍勢の一匹だった。

「これが、僕の覚悟だ。カズマ、圭一……お前らが幾ら熱血展開を積もうが、僕はそれを全滅させてやるだけだ」


帰りの足として用意されたそれに乗り込み、七氏は夕闇に消えていく。
物語の主人公はこうして一時舞台を去り――――――業火は周囲のボヤなど遠慮なく、世界を呑みにかかる。


【夕方】【E-5 固有結界内(学校跡)】

【静かなる ~Chain-情~@アニロワ1st】
【状態】:健康
【装備】:ゴールド・エクスペリエンスのDISC@漫画ロワ、仗助の学生服@漫画ロワ
【道具】:支給品一式×2、レインボーパンwith謎ジャム@ギャルゲロワ、CD『ザ・ビートルズ』、カエル×3
【思考】:
 基本:殺し合いに反逆ゥ!そしてなるべく多くの仲間と生還し、死んだ書き手の分まで頑張る。
 0:そんなのありかァァァァァ!!!!!
 1:孤城の主!? こうしちゃ居られない!
 2:フラグビルド…………
 3:仲間達は?(ギャグ将軍、孤高の黒き書き手、シルベストリ、コロンビーヌ、パンタローネ、お姉さま、ルーキー)

 ※容姿はスクライド(アニメ)の橘あすか。
 ※元々着ていた服は、転移の際の崩壊により行方知らずとなりました。
 ※どたばたしていたため、無明幻妖side.の首輪と永遠神剣「誓い」は回収し損ねました。
 ※ビックバン・パンチ。命を犠牲にして放つ最強の一撃。不発でもそれなりの破壊力ですが、一時間以上は気絶します。
 ※フラグビルドの生存を絶望視しています。
 ※感電より、怪しげな裏話を聞かされました。

【衝撃のネコミミスト@アニ2nd】
【装備】:マテリアルブレード@テイルズロワ、クラールヴィント@アニロワ1st、バリアジャケット
【所持品】:支給品一式、拡声器
【状態】:精神的に消耗。不死者化。
【外見】:バリアジャケットの白いリボンドレス。
【思考・行動】
 基本:前に……進む!
 1:こんなのありかァァァァァァァ!!!!!!!!
 2:早くあの龍を追わないと!
 3:スクライドの遺志を継ぎ、牙なき人の剣になる。積極的にマーダーキラー路線。
 4:熱血王子と再会したら、今度こそ彼を止める。
 ※衝撃波を使えます。掌からだけでなく、足の裏からも出せるようになりました。
 ※「大あばれ鉄槌」を幼女好きの変態と勘違いしています。
 ※シャリダムを通じて幻夜の死体を喰い、その記憶と知識と経験を得ました。
  また、ブックがロワに来てからシャリダムが生まれるまでの経緯を体験しました。
 ※自分が主人公、そして黒猫という単語に引っかかっているようです。
 ※亜空間内なので、グラールヴィントで通常空間にアクセスできません
 ※亜空間内では放送は聞こえません


【C.M.超展開はデフォなのか?@ニコロワ】
【状態】:健康
【装備】:なし
【道具】:不明
【思考】:
 基本:主催者側の人間として活動。参加者の抹殺
 1:ネコミミストとChain-情を数時間結界内で足止めする(最低放送直後まで)
 2:終わったらニコニコ

 ※容姿はえーりん!えーりん!何故か無口なようです。
 ※ニコニコ動画に存在する動画ゆかりの技を全て使えます。
 ※少数に限りニート軍を現実に召還できます
 ※えーりんが無事な限りは、蓬莱の薬で兵士は超スピード回復します。
 ※ナナシの繋ぎ能力との合成なので、結界開放後オートで主催本拠地に戻ります

【夕方】【E-5 学校消滅跡】

【七氏@テイルズロワ】
【状態】:健康 でっていう騎乗 
【装備】:なし
【道具】:不明
【思考】:
 基本:主催者側の人間として活動。参加者の抹殺
 1:本拠地に帰って、次の出番を待つ
 2:チャネリングに対する反応を見る
 3:熱血展開を全滅させる。特に☆系の熱血を。
 ※容姿はキール・ツァイベル@テイルズオブエターニア
 ※テイルズロワの舞台ギミックを発生させることができます
 ※【異能・闇に囁く言葉責め】
  言葉の力でいろんなものを誤魔化し、改変する能力。詳細不明。
  大きな無理がない限りなら後付け設定も可能らしい。


【夕方】【主催本拠地】

【裸になってすぐアッー~殺意のqwglOGQwIk~@ニコロワ】
【状態】:健康 スッキリ
【装備】:なし
【道具】:不明
【思考】:
 基本:主催者側の人間として活動。参加者の抹殺
 1:とりあえず、部屋に戻って次の出番までニコニコ
 2:地図氏と再会すれば、借りを返す

 ※容姿は阿部さん@くそみそ、性格は古泉@ハルヒ。その名はイイ男。キモカッコゲイ!
 ※地球破壊爆弾No.V-7を危険視しています。
 ※ニコニコ動画に存在する動画ゆかりの技を使えます。
 ※ニコニコに自分が見たものを動画としてうpできます。
 ※「まっがーれ↓」と唱えることで色んなものを曲げられます どこまで曲げられるのかは不明


【人外アドベンチャー~OZbjG1JuJMのウォーゲーム~@ニコロワ】
【状態】:健康
【装備】:なし
【道具】:不明
【思考】:
 基本:主催者側の人間として活動。参加者の抹殺
 1:とりあえず、次の出番までニコニコ 

 ※容姿やその能力は未だ不明。
 ※地球破壊爆弾No.V-7を危険視しています。

【ナナシ@テイルズロワ】
【状態】:健康 (ただし左眼がない)
【装備】:なし
【道具】:不明
【思考】:
 基本:主催者側の人間として活動。参加者の抹殺
 1:とりあえず、部屋に戻って皿洗いの続き
 2:次の出番まで縁側で茶を飲む
 3:出会った二人とは生き残っていればもう一度戦う?

 ※容姿はヴェイグ=リュングベル@テイルズオブリバース
 ※氷で武器を生成できます
 ※【異能・姿無き縁の下】
  空気王としての力を解放し、色んなものを「繋ぐ」能力。
  時間だろうがカップリングだろうが何でも繋げるが、その繋ぎが良繋ぎで無いと十分な効果が得られない。

【名無し@テイルズロワ】
【状態】:健康
【装備】:なし
【道具】:不明
【思考】:
 基本:主催者側の人間として活動。参加者の抹殺
 1:とりあえず部屋に帰って次の出番まで茶を飲む

※容姿やその能力は未だ不明。

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最終更新:2008年04月10日 18:49
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