空を飛び続けていた剣を持つ少女。彼女の名前は、予約被りに定評のあるtu4氏。
彼女は放送を聴きながら、自分が何をしたいのかおぼろげに見えてきていた。
それはロワでの予約を勝ち取り、空気から脱却する事である。
では、そうするには何をすればいいか……簡単だ。
「ようするに、私の予約を阻害する書き手を殲滅するってだけよ」
そう。ライバルがいなければ、必然的に予約は確定となる。
他の書き手が予約を取れなければ、ロワは彼女の独壇場となるのだ。
あっという間に覚悟を決めたtu4氏は、持っていた存在をその手に握り直す。
「ん、思ったより軽いわね。まるで木の棒みたいじゃない」
軽やかな動きで剣を薙ぐ。
一太刀縦に振るえば、剣の通った残像が流星のように消えていく。
横に払えば、空気を上下にして小さな竜巻を生み出す。
パリィ。
霞二段。
残像剣。
無拍子。
黄龍剣。
無月散水。
どんな技も、次々と頭の中から湧き出てくる。
しかも、全く疲労を感じないオマケつきだ。
「これならある程度は楽に戦えるわね」
ひとり納得すると、tu4氏は剣を鞘に戻す。
その時、彼女は気づかなかった。自らの左手の甲に浮ぶ奇妙な紋様を。
それこそ、彼女を強くしていた秘密。どのような武器すら操るガンダールヴの証。
ゼロの使い魔を知る人にはでお馴染みの、チート能力だ。
圧倒的力を秘めた永遠神剣「存在」に加え、その存在を自在に扱えるガンダールヴ。
今の彼女に、恐れるものなど無い。唯一あるとすれば――
「エロスの鐘の煩悩寺……ね」
もう一人存在する。自分の分身の様なもの。
己が怖いとはよく聞くが、まさにその通りだろう。
いくら同一人物でも、こうやって分離された以上、もう相手の心など分からない。
彼女は対主催になっているだろうか。それとも、マーダーとなっただろうか。
「ま、私の活躍のため犠牲になってもらうわ」
唇に指を当てながら、tu4氏は似つかわしくないほど優艶な笑みで空に笑いかけた。
と、視線が不思議な生き物をビルの一角に確認する。
即座に剣を鞘から抜くと、一気にその影まで跳躍する。
高さにして五階はあるであろうそのビルを、彼女はジャンプ一つで到達した。
そしてハッキリと目視できる所まできて、思わず軽い笑みがこぼれる。
目に写った姿は、無防備な状態で寝続けるクロちゃんこと、ボンボン系の書鬼だった。
こちらが近付いたのに、何の反応も示さない。
よっぽど眠いのか、鼻提灯を膨らまして幸せそうに眠っている。
「記念すべき一人目にしてはあっさりだけど、ま、いっか」
少しだけ物足りないと言う顔をしながらも、彼女は躊躇せずに剣を振り下ろす。
危険が迫っているのに、彼は未だに夢の世界から戻る気配をみせない。
こうやって何の抵抗もできぬまま、彼の書き手ロワはあっさりと幕を引いた。
だが、これは幸せな最期とも言えるだろう。
これから生き抜く書き手たちは、きっと想像以上の思いをするのだから。
「ばいばい。可愛い書き手さん」
綺麗に切断された断面を見ることも無く、支給品だけを回収する。
ボンボン系の書鬼が装備していた剣は、邪魔なので捨てておく。
そして窓から飛び去ろうとした所で、ふと部屋の中を見直す。
「そうそう、処理もしておかなきゃ」
思い返したようにボンボン系の書鬼の前に立つと、その首に装着されていた首輪を足で踏み潰す。
爆発を恐れていないのか、それとも忘れていただけなのか、首輪は粉々に砕け散っていた。
不発だったのだろうか、首輪からは爆発はおろか煙すらあがらない。
が、そんな事など気にも留めず、tu4氏は出て行く支度を続けていた。
「下手に回収されたら、対主催が元気になっちゃうしね♪」
粉々になった首輪にウインクすると、tu4氏はようやくその場から立ち去っていった。
☆ ☆ ☆
「くそっ、予想以上に多すぎるぞおい」
「ああ。これではみんなに愛を伝える前に全滅してしまう」
ビルの近くのオープンカフェで、漆黒の龍と愛の伝道師の二人は顔を突き合せて悩んでいた。
今放送を聞いたばかりだが、死者の数が多すぎる。
どこの盛況ロワだよと言いたくなるくらいの死にっぷり。
下手したら、今日で終わってしまうのではと錯覚するくらいの数だ。
「やっぱ、マーダーがかなりいるって事かね?」
「だろうな。自ロワはそんな奴はいないと思ったが、よくよく考えれば最初の奴は自ロワだろうし」
「ライダー勢は……難しいな。くそっ、情報が少なすぎるぜ」
「うむ。せめてあと一人、別のロワからの仲間が欲しい所だな」
店にあったクロワッサンを咥えながら、漆黒の龍は周囲を見渡した。
あの放送があってから突如現れた地図。それが示す限り、ここは街の中心部なのだろう。
なのに、未だにマーダー以外と遭遇できない。
もしかしたら、これを予見した対主催スタンスの書き手は、みんな郊外に逃げてしまっているのだろうか。
それならば、自分たちも一刻も早くどこかに移動するべきだ。
(だが、何処に移動すればいい?)
二人で歩くには、この会場は広過ぎる。
それに、他の参加者だって常に同じ位置にいることは無いだろう。
第一、そうしないための禁止エリアなのだから。
「おい漆黒の、あれを見てみろ」
「ぶつぶつ……ん?」
愛の伝道師が指さした方向を見ると、そこには重そうな剣を抱えて走ってくる少女の姿があった。
見たところ、襲ってくるような気配は感じられない。
幾分警戒心を残しつつも、二人は少女に手招をきした。
それに気付いた少女は、泣きそうな表情をしながら手を振り返えす。
やがて、二人のもとに辿り着いた少女は、胸に手を当てながら呼吸を整えると、その場に崩れ落ちた。
「お、おい!」
「ぁう、た、助けてください!」
「え!?」
「向こうで、奇妙な格好をした人に友達がッ!お願い。助けてください!」
俯きながら懸命に訴える少女に、二人は思わず息を呑む。
これが物語の中ならば、セーブでもしてからOKの返事が出せる。
だが、ここは物語の中じゃない。現実だ。軽はずみに受けて、死んでしまう訳には行かないのだ。
「……」
「……」
答えに窮する二人に、少女はさらに顔を崩しながら泣き続けた。
その訴えに耐え切れなくなったのは、愛の伝道師の方だった。
「分かった、助けに行こう!」
「おい、正気かよ!?」
「これも性なんだろう。なにより、愛の伝道師としては、こんな状況こそ愛を説かねばなるまい」
「お前……よし、助けには俺が行く。お前さんはこの少女を守ってやっててくれ」
「……承知した。無理はするなよ」
「おう。で、その友達ってのはどっちにいるんだ?」
「あ、あの……あっち、に、真っ直ぐ行くと。変な格好の人と、友達が……うぅ」
漆黒の龍の問いかけに、少女はボソボソと詳細を答える。
少々情報が少ない気がするが、行けば分かるのだろう。
「その友達とやらを助けるのと、生きて帰ってくる。両方とも守ってくれよ」
「厳しい条件だが、ま、やってみるさ」
お互い拳を付き合わせると、漆黒の龍は駆け足でビルの向こうへと消えていった。
それを見送ると、愛の伝道師は少女に優しく笑いかけた。
「そこに、座っておくといい。いま飲み物を出す」
そうして踵を返し、キッチンへ足を踏み出した瞬間、一気に景色が変わる。
いままで歩いていた地面が天井に、天井が地面へと。
「は?」
次に映ったのは、地面と言う名の天井に張り付いた自分の下半身。
根を張ったように、しっかりと天井に固定されているのがよく分かる。
そこから視線を落としていくと、今度は腹部が見えてきた。
一体、どこから垂れ落ちてきたのか、服には赤黒い液体が染み付いている。
そしてさらに視線を下にしたところで、愛の伝道師の視界は真っ暗に染まっていった。
☆ ☆ ☆
「駄目ね。もっと警戒しなきゃ」
首だけ刎ね飛ばされた愛の伝道師の体を床に突き倒すと、予約被りに定評のあるtu4氏は髪をかきあげた。
彼が後ろを向いた刹那、彼女は存在を抜き出すと無駄の無い動作で首を一閃したのだ。
その証拠に、彼女の足元には見事に刎ね飛ばされた愛の伝道師の首が仰向けになっている。
「首輪は壊して……っと、あ、これもしておかなきゃ」
掃除用具入れからモップを取り出すと、その先端に断面から流れる血を十分に吸わせ、壁に思い切り文字を書き始める。
「ふんふん~。よし♪」
そこには、達筆な文字でこう書かれていた。
『エロスの鐘の煩悩寺参上(はぁと)』と。
「ん~、次の書き手さんを探しにい~こうっと」
背伸びをしながら、軽やかな足取りでその場から飛び去る。
その体には、返り血一つ付着していなかった。
【ボンボン系の書鬼@アニロワ2nd】死亡
【愛の伝道師@漫画ロワ】死亡
【朝】【E-4 ビル街】
【予約被りに定評のあるtu4氏@ギャルゲロワ】
【状態】健康、気合十分
【装備】永遠神剣第七位「存在」、ガンダールヴの証(ゼロの使い魔@漫画ロワ)、ペンダント(空鍋の欠片)
【道具】支給品一式、不明支給品×2(未確認)
【思考】
基本:空気にならないため他の書き手をみなごろし。
1:書き手はみんな滅する。私を空気とか呼ぶ奴はグロ死な。
2:エロスの鐘の煩悩寺がマーダーだと広める。
3:ギャルゲロワ陣営は欝に叩き込む。
※容姿は白鐘沙羅。アセリアの服を着ています。
※実は永遠神剣第一位「空気」を宿していますが何らかの因子が足りないため使えません。
※ガンダールヴの能力は、どんな武器でも自在に操れます。
また本来は使うと疲労を伴いますが、tu4氏の場合それはありません。チートですし。
※E-4のビル街にある愛の伝道師の死体の近くの壁に、『エロスの鐘の煩悩寺参上(はぁと)』の文字があります
【朝】【E-4 ビル街】
【漆黒の龍@ライダーロワ】
【装備】カードデッキ(ナイト) がんがんじいスーツ(頭部に凹みあり)@特撮ロワ
【所持品】支給品一式 折れたエクスカリパー
【状態】かなりの疲労、全身に鈍い痛み、下半身と背中土塗れ
【思考・行動】生き残りたい
1:待ってろ変な格好の奴とやら!
2:それが終わったらカフェに戻る。
3:生存者の確保、及び首輪の解析。
※外見や声は城戸真司です。
※他ロワの知識は皆無です。
※脈については何か能力を持っているかも知れません。
※ですが鎧の上から計ったので愛の伝道師の勘違いかもしれません。
最終更新:2008年04月05日 23:53