「こんな殺し合いに巻き込まれるとは。この拳王ごときが勝ち残れるわけもない。もう駄目だ死のう」
学校の校舎らしき建物の中、野太い声が響く。
さぞかしその声に見合う立派な体格の人物がいるのだろう……と思いきや、さにあらず。
廊下を歩いていたのは、不健康そうな銀髪の男。和装に蝶ネクタイを合わせた最低のファッションセンス。
見た目だけなら坂田銀時によく似た彼の名は、「ネクストコナンズヒント『蝶ネクタイ』」――
「……って長杉だろ、おいッ!? あれですか嫌がらせですかDQNネーム名付けるゆとり世代の親ですか?!
こんな名前自己紹介するだけでも大変だって! テストの時とか答案用紙の名前欄からはみ出すから!」
思わず誰にともなく突っ込んだ声は、さっきの重低音ではない。もっと軽い、ごく普通の声。
これは首にしている蝶ネクタイの機能……ではなく、彼個人の特殊技能。
つまり、「知っている声を完璧に真似る能力」。今のが地声で、さっきのはラオウの声を真似ただけのこと。
なかなか常人離れした芸ではある。だが逆に言えば、彼の持つ能力はほぼこれのみ。
あとはせいぜい、打ち上げ花火職人としての技術を持っているくらいか。
漫画の中の坂田銀時のような戦闘力もない。剣も使えなければ逃げ足も遅い。これでどう生き残れと言うのか。
ま、ステルスマーダーでもやるには便利な技能かもしれないが……
「って、ステルスなんて絶対無理ィィィィィ! 無理だから俺! 疑心暗鬼とか向いてないから! 性格的に!」
普通に言って彼は善人だった。
勇次郎のように花火を打ち上げて敵を集めるような度胸もない。彼は天井を仰ぐ。
「そもそもなんで俺こんなとこに呼ばれてんだよ! 2本しか書いてないのに! それも結構前のことだよ!?
漫画ロワの紹介者熱心杉だって! 呪うぞ紹介者ァァァァァァ!」
魂の絶叫。
叫ばずにはいられなかった、嘆かずにはいられなかった、呪わずにはいられなかった。
他ロワから呼び出されたのは、おそらく歴戦の書き手たちだろう。
10本とか20本とか平気で書き上げる、恐るべき書き手たちだろう。
投下数も少なく、リレーをしない序盤専門な自分が太刀打ちできる相手だろうか?
あーネタ抜きで本気で死のうかなー、と弱気になりかけた彼は、
ふと、誰かの気配を感じてはッとした。
彼が居るのは、学校らしき建物の廊下の途中。
そして、人の気配がするのは――並んだ教室のうちの1つ。耳を澄ませば、何やら熱い吐息が聞こえてくる。
微かな水音と共に、熱の篭った声が聞こえてくる。
「……めてッ……ああッ……! もう、こんなに汚れちゃって……ッ! んあッ……!」
ゴクリ。『ネクストコナンズヒン(以下略)』は思わず生唾を飲み込む。
女の声だ。若い女性の声だ。他の誰かの声はしない、気配もしない。
まさか、これって……でも、こんな所で……!? 他の誰に見られるかも分からないのに……?!
さっきまで大声を出していたことも忘れて、彼は足音を忍ばせて教室のドアに貼りつく。
高鳴る鼓動を抑えながら、そーっと、気付かれないように、ドアを少しだけ開けてみる。隙間から覗き込む。
教室の中に、見えた光景は…………!
「…………何やってんすか、アンタ」
「……ん? ああ、これは失礼。1人で夢中に成り過ぎていたみたいだね、うふふ……」
「いやそれはいいッスけど、いったい何やってたんすか?」
部屋の中にいたのは、銀髪の若い女性。
無駄に溢れるフェロモンと髪の色のせいで気付くのが遅れたが、その顔の傷といい声といい、TQNにそっくりだ。
自分が銀時そっくりだったように、似た人もいるもんだなー、とか考えながら、彼は彼女の手元に目をやる。
そこには……。
「何って、見て分からないかい?」
「分からないから聞いてるんスよ」
「これは失礼。ちょっとヒマ潰しにね、付箋をマジックペンで塗り潰してたんだ。支給品がハズレだったのでね」
「……楽しいんスか、それ?」
「君には分からないかな、このエロスが?
筆先を押し付けるだけで、染みて2枚3枚と穢されていく処女地、嫌がる付箋、悪ノリするマジック……!
ああ、想像するだけでゾクゾクするようじゃないか。そうだろうカズキ?」
「…………すいません、全然分からないッス。あと誰っすかカズキって」
なんだか、色んな意味でヤバい人のようだった。
『ネクストコナンズヒ(以下略)』は早くも教室を覗いたことを後悔し始めていた。
* * *
「……そうか。つまり『ネクストコナンズ(以下略)』氏は殺し合いに乗る気はない、と。
ところで『ネクストコナン(以下略)』氏、君は女の上に乗るのと女に上に乗られるの、どっちが好きかな?」
「いや今そんな話してないですから。殺し合いに乗ってるかどうかの話ですから。
そういう貴方は? えーっと、何てお呼びすれば……」
「名前が気になるのかい? そんなに私のことが知りたいのかい?
うふふ、彼ってば結構積極的だね、カズキ。私はこのまま押し倒されてしまうかもしれないよ。どうしよう?」
「誰がそんなこと言ったーーーッ!!
てかなんでいちいちそんなに仕草や声がエロいんすか!? あとさっきからカズキって誰!?」
『ネクストコナ(以下略)』は怒って叫ぶが、斗貴子似の銀髪女は全く応えない。
余裕たっぷりに聞き流す態度の1つ1つが無駄に色っぽい。直視するとその表情だけで前屈みになりそうだ。
彼は頭を振って劣情を振り払うと、乱暴に話題を変える。
「えーっと、それでですね。もし良かったら一緒に対主催路線で行けたらいいな、と思ってるんですが……」
「聞いたかい、カズキ。『一緒にイケたらいいな』、だってさ。
最近の若い子は過程も段階も全部すっ飛ばしてしまうらしい。まあその分、勢いはあって楽しめそうだが」
「……ヒトの話を聞け~~! ってかわざとやってるだろソレ!?
まるで会話にならない。まるで相手にしてもらえない。
彼はとうとう教室の隅で膝を抱えてうずくまってしまう。完全に落ち込んでしまう。
「……どうせ俺は2作しか書いてないダメ書き手だよ。
どーせきっと俺は生き残れないんだ……エロ女には相手してもらえないし、俺にはロクな能力ないし……」
「君は何を見当ハズレなことで落ち込んでいるんだ。心配するな、君はダメ書き手なんかじゃない」
「……慰めてくれるんスか?」
「男の価値が『大きさ』だけで決まるものではないように、書き手の価値も『書いた本数』で決まるものではない。
君なしに今の勇次郎やラオウは存在しなかった。君なしにはあの銀時の死に様はなかった。
もっと胸を張れ。君の蒔いた種は、確実にその先に繋がったんだ」
「な……なんて有り難い言葉……ッ!
そうか、俺は種を蒔いたんだ、そう考えれば……!」
落ち込んでいた所に暖かい言葉をかけられて、一瞬感動する。が、すぐに、
「……ってちょっと待って!? 今アンタ『大きさ』って言った!? いったい男の何の『大きさ』!? ねぇ!?」
「ん? それを私の口から言わせたいのか? ふふッ、君も案外いやらしいところがあるじゃないか。
言葉攻めに羞恥プレイなんて、かなりの上級者だなぁカズキ?
さらには、男の種を蒔いただなんて……! ああ、想像するだけでクラクラしてくるよ、うふふふ……」
「いやらしいのはアンタだろうがぁぁぁぁぁッ! あと『男の種』なんて言ってねぇぇぇぇ!」
淫靡に笑う女に、『ネクストコ(略)』は怒りを爆発させる。
大体さっきからおかしいのだ。なんでさりげなく上から目線なのか。そりゃ悪意は無いのかもしれないが。
「そもそも、そういうアンタは何作くらい書いたんスか? そりゃ、俺よりは多いでしょうけどさ……」
「2本だ」
「……え?」
「さらに正確を期すなら、名前を与えられ、エントリーが確定した時点では1本だった。
ある意味、君以上に驚いているよ。この場にこうして呼びだされたことをね……その『幸運』を喜んでもいるが」
それは、唐突な変化だった。
彼女のまとう空気から、艶っぽさが消える。ピンク色の空気が、一瞬にして反転する。
代わりにそこにあったのは、一種の傲慢さ。超展開のような暴力的な気配。
『ネクスト(略)』はその気配を知っている。それは彼も書いたことのある範馬勇次郎にも良く似たもので――!
投下数1本の段階でのエントリー。この空気。さっきまでのエロい雰囲気。彼は彼女の正体に思い至る。
「あ、あんた……あんたまさか、俺と同じ、漫画ロワの、新人の」
「しかし困った。私はこの殺し合いの場を利用して、『ある書き手』を抹殺する気でいたんだ。
奴は馬鹿だ。あんなにエロスを堪能できるロワにいるはずなのに、ロクなエロネタを思いつかない。
触手プレイだって夢オチで終わるなら意味ないじゃないか。5MeO-DIPTくらい使ってみせたまえ。
直接描写でなくてもいい。文房具ロワでやった、付箋とマジックペンのような話でもいい。
エロスはほどほどに留めてちゃダメなんだ。ネタにしたってもっと突き抜けないと。そうだろう、カズキ?
だから……私は奴を倒して、『私が奴になる』。『あっちのロワ』を、私のエロスで染め上げてやる」
彼女は謳う。狂気の色を瞳の奥に宿し、楽しそうに謳う。
左胸に手を当てて、小さく呟いて――光と共に姿を現したのは、1本の槍。
サンライトハート、その後期型。
核鉄も見えなかったのに、ただ胸に手を当てただけで、呼び出した。
「奴さえこの手で殺せれば、あとはどうでもいい。優勝でも脱出でも適当にして、さっさと終わらせてもいい。
けれど……奴はきっと手強いはずだ。どういう姿や状態で呼ばれているかは知らないけどね。
一応は考察もバトルもやれるし、鬱展開が酷い。変な『宗教』で仲間を洗脳して増やしているかもしれない。
今の私が挑んでも、勝てるかどうか怪しいと思う――互いに手の内は分かっているしな」
「う……うあ……!」
「君が殺し合いに乗っていれば良かった。君が殺し合いに乗れる戦闘能力を持っていれば良かった。
そうすれば、交渉次第で『アイツ』を殺すまでの間、マーダーチームを組むことも出来た。
私は奴さえ殺せるなら、それ以外のことはいくらでも譲歩するつもりだったんだから」
彼女の迫力に、『ネクス(略)』は身動きが取れない。
おもむろに顔面を鷲掴みにされる。槍で刺しに来るかと思っていた彼は、虚を突かれて咄嗟に反応できない。
ぎりぎりと、こめかみに指が食い込んでいく。
「あるいは君に、私を襲ってしまうような『エロスの心』があれば良かった。
バキ特別編・SAGA[性]を見るまでもなく、エロスとは強さだ。性の力で人は強くなれる。
だが……君は私の期待を裏切った。私の挑発に反応しなかった。だからこの場で『さようなら』だ。
私は君の支給品だけ貰って、戦力の強化を図ることにしよう。
君が私を貫けないのなら、私が君を貫いてあげよう。体液をブチ撒けて、死ね」
「い、いやだ……この拳王が、こんな所でっ……!!」
グシャッ。
『ネク(ry)』の頭は、動けないように固定された頭は、あっさりとサンライトハートに叩き割られて――
白い脳漿と赤い鮮血を撒き散らし、彼は倒れ伏した。
それっきり、動かなくなった。
* * *
「私は倒さねばならないんだ。奴を……」
銀髪の女は駆ける。学校の校舎らしき建物の中、『エロ師匠』と名付けられた書き手は走る。
『ネ(r』の支給品を奪い取り、次なる接触と戦力強化の機会を求めて、動き出す。
彼女には倒さねばならない相手がいる。何としても倒さねばならない相手がいる。
それは、この殺し合いのゲームそのものより、ずっと大事なこと。
彼女の真のターゲット、それは。
「もう1人の『わたし』……LSで無駄に書き散らす最多書き手、爆弾魔『ボマー』を、私は倒さねば!」
【ネクストコナンズヒント『蝶ネクタイ』@漫画ロワ 死亡】
【深夜】【E-5 学校のような建物の中】
【エロ師匠@漫画ロワ】
【装備:サンライトハート(後期型)@武装練金】
【所持品:支給品一式×2、マジックペン@文房具、不明支給品×1(奪ったもの)】
【状態:健康】
【思考・行動】
1:エロスを楽しむ。ほどほどになんてしない。エロスでどんどんパワーアップ!
2:この殺し合いの舞台を利用して、LSのボマーを倒す。できれば自分の手で倒す。
3:そのための戦力強化を図る。主に、同盟相手の模索&他人の支給品強奪で
※外見と声は銀髪銀眼の津村斗貴子(エロ度200%増)です。無駄にエロいです。何でもエロくします。
※サンライトハート(後期型)は支給品ではなく自前です。核鉄として心臓の代わりも兼ねています。
※銀髪は見かけだけなのか、しろがねの力があるのかどうかはまだ不明です。
※支給品の「付箋とマジックペンのセット@文房具」のうち、付箋は汚しつくして捨ててしまいました。
※エロスで本当にパワーアップできるのかどうかは不明です。強くなった気がするだけなのかもしれません。
最終更新:2008年01月28日 08:54