祝いと呪いに関する考察

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祝う。それは、対象の幸せを祈る行為。 呪う。それは、対象の不幸を願う行為。 180度意味合いを違える言葉は、奇しくもそのつくりに兄を持っている。 ああ、勘違いしないでほしい。このSSにアニジャ氏は出ない。 そもそもこれはSSなのか、その辺りから考えたくもなるのだがここでは割愛しよう。 へんとつくりに分解してこの二つの文字を読み取ると、 しめすへんは文字通り「示」という単語から簡略されたものであり、その意味は祭壇を意味する。 くちへんは文字通り「口」から吐き出されるものを意味する。 その点を加味してこれを解字すると、 祝いは祭壇に跪く人(兄は、まあorzと同意義と思っていい。面倒だし)、即ち神の前で祝詞を紡ぐ神職を表していた。 呪いは口から何かを言う頭の大きな人(象形文字ってのは古代のAAなのだろうか)、即ち神前にて祈る人を表す。 神前の「空」はいい曲だと思う。というか、小鳥さんがいい。律子があの事務員服を着ればもっといい。 でも若林示申のあの純白のウエディング姿が一番いいと思う。いや、平田母さんのメイド服も捨てがたい…… が、今一番興味深いのはこの解かれた二つの文字の共通性だ。 その善性、悪性は真逆でありながら“神に祈る”という行為という観点でこの二つは同質なのだ。 この二つの漢字は本来同じものだったのだ。それが時を経て分岐し、その性質を両極に配することとなった。 表面的な性質では全く同じでありながら、その根源は口から放たれるまで判別しない。 幸せを願うという素敵な響き。不幸せを祈るという苦味。 今私の目の前のコーヒーとミルクの混ざり始めのように、綾をなす曖昧さ。それこそが人間の色相。 不確定な猫の箱のように、同質でありながら異質。まるで、私の言葉のように。 だけど、コーヒーってのは大概…………とと、流石にこれ以上は前置きとして長いか。 いや、なぜこのような話をしたかというと、少し祝いたいことがあったのだ。 本来ならば、もっと先に祝うべきことがあったのだが……私は未だそれを祝ってない。 私は、今まで呪いの言葉しか紡いでこなかった。 そんな私に、誰かを、あるいは何かを祝うなんて資格があるなどと思えるほど私は楽観主義者ではない。 だけど、私は同時に、どうしようもなく自分勝手だ。それ位の自覚はある。 これが「祝いたい」という感情かどうかは別にして、この感情が巻き起こってしまった以上は祝うよりない。 祝うには、二つの要素が必要だ。何「に」祝うか、と何「を」祝うかだ。 前者の方は未だ縋るべきものを見つけていない私には悩みどころだが、とりあえず後者に関してはハッキリとしている。 しかし、困ったことが一つ。“私は死んでいて、彼女は生きている”という点だ。 「となれば…………外すよりないか、これを」 &color(red){【HN「七氏」@テイルズロワ 死亡】} 私は、困ったようにそれを見つめる。パロロワにおける窮極にして絶対の封印。 神さえもこれで殺されれば何も言えぬ、箱を殺す言葉。 カオスロワであってもこれを厳密に外す方法は無い。 夢オチにせよ蘇生にせよ、一度死んだという事実は書き換えられない。 世界の第一言語。それを外しては世界が、パロロワが成り立たぬ。 はあ、と私はため息をついた。深呼吸をして、今から自分がしようとしていることを客観視する。 空気が読めてない。独りよがり。⑨。しんじゃえばいいよ(釘宮)。 台無しではないか。何もかもが、彼らが成した全てに、全部とは言わぬが水を差すことは必定。 あー、00の釘宮がアイマスメンバーの中ではスパロボ入り最速だろうなあ……でも、ゾイドジェネシスが出るなら…… 首を振って、私は妄想に逃げようとした脳を現実的な部分に切り替えた。 空気王氏、古泉ネームレス氏、ヨッミー氏、666氏、漆黒の龍氏etcetc……長きにわたって書き手ロワを構成した兵達。 強かった。掛け値なしに、強かった。 空気王氏のシンプルでありながらそれ故に強固な文体構造は、常に積載量オーバーな私は追えなかった。 古泉ネームレス氏のキャラ描写には舌を巻いた。最終決戦中に修行というのは、凝り固まった私にはない視点だった。 ヨッミー氏は……止めよう。同じ土俵に立ったら負ける。怖い。ブッチギルンジャーは未だにトラウマだ。 666氏の視点は恐ろしいものがあった。戦慄の伏線、などという生易しいものではない。あの視点に至るにはあと何冊本を読まねばならんのか。 「主演、空気王氏。監督・助演、古泉氏。演出・大道具、ヨッミー氏。脚本・666氏というところか。なんとも清々しい」 中途半端に時間を重ね、脂ぎった中年のような書き手になっていた私には、彼らの若さや力強さが眩しかった。 二度と取り戻せぬ、そして一生得られないであろうものがあった。 彼らの組み上げた舞台を台無しにする……そんなことは、絶対に許されない。何より、私が許せない。 「だが……やむを得ないか、死んでしまっていては彼女を祝うことができない」 別に最後の勝利者になりたいとか、笑っちゃうのは私のはずとかいう気分が無いと言えば嘘になる。 だが、そんな低俗な理由だけで台無しにできるほど書き手として落ちたくもない。 それだけの理由ならそれこそもっと早い段階で『式』を発動している。 祝いたい。それだけが望みだった。 全てを勘案したのち、私は……七氏は、指を振った。あの能力を発動する。 「闇に囁く言葉責め、起動。七氏の死亡を決定する境界条件式を確認」 周囲に文字列が並び、七氏はそこから幾つかの単語を抜き取って配列した。 【境界条件1:直接死因条件。クマのプー太による光子化】 【境界条件2:最終観測条件。生存読み手による会場世界の生命体観測】 七氏の能力は、歴史の改竄である。 生存していたころの七氏はそれを参加者の心理操作に用いていたが、それは能力の一面的なものにすぎない。 可能性を掘り起こし、確定された事実の中の不確定な未知を抽出し、それを自分の思い通りに測定し直し、再確定させる。 言わば、未確認支給品を発見し確定させて、それを基点として物語を動かすように。 シャリダムの汁や、バトルマスターのコインなどがそれに代表される。 「……これだけなら、まだ外せるんだがなあ……」 七氏は腕を組んで悩む。書き手的能力であるこの技にも弱点が当然ある。 それが、既知。既に確定されてしまった事象を書き換えることは七氏にはできない。 物理的な理由さえ整合がつけるだけなら、いくらでも出来る。 リバースドールは数回出たし、死に際に能力覚醒なんてこのロワでは珍しくない。 「だめだ、それじゃ式が綺麗にならない。汚い理論なんて、誰も面白くない」 だが、七氏はそれを拒んだ。整合さえつけば通るなどと信じてはいないし、何よりそれは七氏の趣味に反した。 与えられた数値の中で式を組み上げるのが楽しいのであって、 式を組み上げるために数値の方を弄るのでは本末転倒である。歪曲率は小さいほどいい。 【境界条件3:概念事由条件。七氏が生きていなければいけない必然性の欠如】 【境界条件4:殺害動機条件。666が七氏を見逃す理由の欠如】 境界条件を全て並べ終わった七氏は一息をついた。 放送担当の感電氏が地上に降りて河岸を変えた以上、ジョーカーである七氏は死亡を主催者側の観点で“確定”させることができない。 それだけが唯一の救いだった。これが死亡“確定”だった場合この手順は更にあと10手は増えていただろう。 「もっとも、それだけの理由で崩せたら苦労はないんだけどな」 七氏は666に狙われて死んだ。それだけで難易度は桁を超えて跳ね上がる。 この書き手ロワにおいて彼女が最後に構築した式は恐らく一番強固だ。 それは調子に乗っているとかそういう次元の話ではない。 彼女を取り巻く全現象が、ほぼ完全に一本の線によって描かれたそれは幾何学的な美しさを兼ね備えている。 崩すことなど、出来はしない。下手に手を出せば取り込まれる。そういう恐ろしさがあれにはある。 だが、それでも、それでも。影の無いものなど、絶対に無い。 自嘲的な笑いを浮かべる。言うならば、心臓の直撃は避けてはいるが、出血・監禁・監視等で拘束されていて回避できないというところか。 七氏を縛る境界条件はあまりにも大きい。数は少ないが、どれもが厄介だ。 「だけど……条件が厳しいということは、正解に至る道はより明確だいうことでもある」 たとえ難しかろうが、条件は多ければ多いほど計算が楽だ。間違いと正しさがハッキリしているためそれを当てはめるだけでいい。 そういう観点から見て、私は開始後のSSを積極的に掛ける人をうらやましく思う。私は他人が用意した条件を弄ることしかできない。 未知を既知に変換することしか出来ないのに、無から有を生み出せない。 書き手として欠陥している私にできることは、せいぜい……こんなことしかない。 「計算開始。七氏の死亡を解体する」 書き手は光を放つ。その強弱や色合いは異なるが、それは絶対だ。でなければSSを発表するという視覚的行為を行なえない。 だが、陳腐な言い回しになってしまうとはいえ、“光が出来るところには必ず影が出来る”。 誰もその理から逃れることは出来ない。様々な書き手によって照らされる事象には、どこかしらに“影”ができるのだ。 「いくぞ書き手ロワイアル。その現実を、僕の嘘が凌駕する」 そして、闇さえあれば、私はなんだってできる。私だけではない。全ての書き手に許された権利だ。 とある世界の関東某県、生田市。そこに居を構える「喫茶アミーゴ」に、バイクの排気音が近付いていた。 通り過ぎるだけかと思えたが、 バイクはそこでブレーキを効かせ停止する。 客だろうか。だが、ふらっと立ち寄るにしてはその喫茶店は少々一見さんを寄り付けさせぬ威風を備えている。 それはどうやら的外れではないようで、その乗り主は店の正面ではなくバイクごと裏手に回った。 手慣れた様子でバイクを車庫に入れる様子は、乗り主にとってここは勝手知ったる自分の庭であることを教えている。 ヘルメットを脱いだ乗り主――――――――沢城昴はふうと汗ばんだ顔で大きく息をついた。 ここの店員兼正義の味方である彼女は今しがた、衆議院議員を含めたハイジャック事件を解決してきたばかりだった。 ライダースーツを脱いだ彼女は店に戻るかと思いきや、居住部分のシャワー室に向かう。 以前一仕事終えた後即座に仕事に戻ろうとしたら、おやっさんがそれを制した。 喫茶の主であるおやっさんがいうには「店に立つなら身綺麗にするくらいの気遣いは持て」とのことだ。 (あんま汗とかはかいてないはずなんだけどなあ……) インナーを脱ぎながら彼女は自分の腕や腋に鼻を近づけ、くんくんと自らの体臭を嗅いでは見るのだが自分ではよく分からない。 タブを回して適温になった水が無数の穴から噴出し、粒子となってまだ幼い(というカテゴリに属するだろう)柔肌を打つ。 まあ、いいかと彼女は束の間のシャワーを楽しむ方向に頭を切り換えた。 それが必要かどうかは別にして、昼の間にシャワーをするという贅沢が嫌いな訳ではではない。 瞑る瞼越しに伝う湯の温かさが心地よい。あの一日を考えれば、それは至福といってもよい。 「っ―――――」 シャワーを楽しむ彼女の眼が顰められる。頭痛によって生まれた刺激に、昴は浴室の床に座り込んだ。 湯の熱を受けて上気する肌と息。艶やかな青髪より滴る水が床に落ちる音と荒れた息が浴室に残響する。 耐えられる程度のものになったところで、彼女はようやくゆっくりと瞼を開いた。 正面の鏡には、バンダナを外した彼女の額が浮かんでいた。そこには「            」た。 いくらおやっさんからの命令とはいえ、昼間に長湯としゃれこむほど彼女は自堕落ではない。 バスタオルに肌の潤いを分け与えて、予め用意してあった下着と制服に袖を通す。 (なんで、今頃になってアレを思い出すんだろう……) 心に刺さった茨の棘が、ちくりと痛んだ気がした。 湯冷めのように、今まで彼女を包んでいた幸せが一瞬で剥ぎ取られたようで面白くはない。 だが、その程度の気分の沈みで仕事を休むなら世界中は社会不適合者で溢れ返っているだろう。 まだ常連客の皆が幾人か残っているだろうから、自分の有無はそこそこ重要な要点になってくる。 彼女はぺちんと両の頬を叩き、彼女のもう一つの戦場へと舞い戻った。 「只今戻りました~~~~……って、あら?」 『いよっ! 我らがお姫様のお戻りだ! 平伏せ愚民どもっ!!』 『なんかまたスバルちゃんがいないうちに事件解決しちまったみたいだぜ?』 『分かった、スバルちゃんは実は魔法少女でディバインをバスると一撃必倒で解決しちまうんだよ』 『日本語でしゃべれゴルァ!!』 という常連客の皆様方の熱いラブコールが来るものかと思って身構えていた彼女は盛大に肩透かしを食らうことになった。 仕事に出かける前にいたお客さまは一人も残っていない。 カウンターでマスターと談笑する新規客が一人いるだけだ。それ以外は何も、誰もいない。 斜陽に赤みがかかる静寂は、まさにまどろみといった昼下がりの午後がここにあった。 「いや、つまりだな? 事件の中心人物は恐ろしいといっていいほど陣地を築いていた。  全ての原因はそこに結び付くといってもいいし、彼女もまた積極的に関わってないものと関わりにいっていたからね」 「なるほどねえ……」 おやっさんに声をかけようと思ったのだが、それを見越したようにおやっさんは目だけでそれを制す。 アイコンタクトシリーズナンバエイト『厄介な客だから少し退いてろ』だ。 ああ、なるほどなと昴はその年ごろにしては落ち着いた観察眼で客を見極めた。 旅人なのだろうか、そのローブは元が白であっただろうに埃塗れで黒ずんでいる。 髭はないようだがお世辞にも身綺麗とは言えない。 頼んであるのはコーヒーだけのようで、どうやらそれだけでかなりの時間しゃべり続けているのだろう。 なるほど、おやっさんがそれを昴に言うのもよくわかる。ほかの常連客は気分を害するまえに足早に帰って行ったのだ。 「だが、彼女は有能であったがその駒はそうでもなかった。  熊と赤子、この二人は単騎としての性能は素晴らしかったが“二人は主に対する観測を違えていたんだ”。  熊・赤子。この2点によって計測される主という事象には齟齬があった。主は……自分以外のことに関しては穴を作ってしまったんだ。  異なる真実が形成されてしまった以上、どちらか、あるいはどちらもが偽だ。真実は不確定となった。  多分、駒を使わずに自分だけで観測を行っていれば、そこに一欠けらの穴もなかっただろうにね」 熱弁をふるう旅人に無言で付き合うおやっさんに、昴は素直に感心する。 おやっさんは客を選ばない。客に選ばせるのだ。 だからこそ、このうらぶれたような喫茶店は区画整理などの憂き目にあわずに自らをここに維持させている。 だが、それに気を良くしたのか旅人は更に熱弁を奮っているのだが、昴にはほとんど理解できない。 お客にこういうのもなんだろうが、頭の中は一生分の花が咲いているのだろう。 (それに、なんだろう…………なんか、……気持ち悪い……) 風体がではない。顔でもない。汚れでもない。口? もっと、奥の…… 得意分野というものが存在する以上、自分の出番はないだろうと昴は自分のことを考え始める。 この前ネットの仲間たちで立ち上げた創作サークル@七人の同士の同人誌の締め切りがそろそろ近い。 仲間たちが書き上げたSSがそろそろ届いているだろう。一応サークルの主宰として中身を検閲しなければならない。 以前サークルカットを見せられたが、そこに書かれた恐ろしい面の編集長に顔負けせぬくらいには。 「――――――おかげで言海から現界へと戻るのにこれだけの時間がかかってしまった……とと、もうこんな時間か。  マスター、勘定。いやはや、楽しいひと時だった。礼を言うよ。何ガルド……ああ、こっちは円だったか。  釣りはいいよ。そこで舟を漕ぎ始めているお嬢さんに目覚ましのコーヒーでも与えてやってほしい」 思わぬところから自分に対する言葉を投げかけられ、昴ははっとする。 しかし気付いたところで時すでに遅く、日は既に傾きかけ自身は机に盛大な涎の池を作っていた。 うわわわ、と立ち上がろうとするが、体のバランスを崩して椅子ごとひっくり返ってしまう。 おやっさんがやれやれと眉間を揉みながらため息を付く音が聞こえた。 ててて、と小さなお尻をさする彼女を照らす明かりがさえぎられる。 電球と彼女の間には、彼女に手を伸ばす旅人の影があった。 「大丈夫かな?」 「ど、どうもすいませ――――――――ッ!!!」 昴は、そこでやっと気づいた。 その旅人がおやっさんに背を向けて、自分に向けて酷薄な笑みを浮かべたことを。 そして、彼女は……衝撃のネコミミストは彼を知っている。 「な、なな…し……」 「久しぶりだな、主人公。壮健で“なにより”だ」 七氏。ネコミミストとChain-情が見た最初のジョーカー。 言葉を弄んで彼ら二人を翻弄し『孤城の主』の初演への参入を封じたモノ。 正気を取り戻した蟹座氏とバトルマスターの絆を引き裂いたヒト。 そして、ネコミミストに『呪い』を与えたナニカ。 もう過ぎたことのはずの残滓が、今彼女の前に顕現する。 ネコミミストは知っている。あの殺戮ゲームにおいて彼が死亡を確認されたことを知っている。 ならばこれは古傷が見せる白昼夢? ありもしない幻? とびっきりのご都合展開? 「あ、あなた、どうして…………」 「つれないことを言うなよ。こうして会うのも“4度目”だぞ?」 あえて陳腐な言い回しをしよう。 この場にて沢城昴が打つべき最善は有無を言わさず彼の頭蓋を殴ることだ。 たとえその後ろにいるおやっさんごとこの店を破壊したとしても、二度と言葉を吐けぬほどに壊してしまうべきだった。 まあ、それが出来ないから彼女はネコミミストなのだが。もう遅い。 彼女はそれをおかしいと思ってしまった。一度目は学校跡で、二度目は蟹座氏が分離したとき。 “ネコミミストは2回しか七氏に会っていない”。 「正直“が”三度目だ。確かに“ネコミミスト”と七氏は2回しか会ってない。この事実を認める。  だが――――――――――“お前”なら“本当の二度目”の出会いを覚えているはずだ。なあ不死者。その手より知識を食らうものよ」 「あ、あああああ――――――――――――――――」 掌が、脳が、心が焼けつくように痛い。お願い、やめて、開かないで。 覗かないで。除かないで。あの人を思い出させないで。 私は耳を閉じる。目を瞑る。だけど聞こえてしまう。見えてしまう。それは内側より来るもの。知識にあらぬ記憶。 だけど、そう、“私”は会っている。七氏と、一度会っている。ネコミミストの一度目と二度目との間に。 継承された記憶。奥底に沈んでいた泥が振動にて跳ね上がる。言葉にて誘引されるその記憶の名は―――――黒猫。 「直接会うのはこれが最初か。こんな辺鄙な場所へようこそ、全ての黒幕」 「そして恐らくはこれが最後となる。ダイヤモンドの礼を言おう、舞台の主」 第四回放送前の―――――――――――“ラピュラの未支給品保管庫で”!!!! 七氏が何故生き残ったか。そもそも沢城昴が見つめる男は本当に七氏なのか。その確証はない。 七氏の死亡が真実であるならば、これは幻。最近の激務&執筆にて彼女が見た夢かもしれない。 七氏の死亡が虚実であるならば、これは現。明確な意図をもって設計された必然の再会。 どちらが正しいかを論じる意味は既にない。はっきりいって遅すぎる。 だが“七氏が死んでいない可能性”を以て、あのゲームにおいて僅かに残されたものを埋めることはできる。 七氏死亡を規定する条件式は四つ。ならば答えも四つの現象にて処理しよう。 【七氏のなりきりキャラであるキール=ツァイベルは任意に選択できる保管庫から最後の武器として超重量級装備であるパニッシャーを選択、装備した】 【最初に舞台に降り立ったナナシは偽物であり、以後複製できないとされた。その条件を規定したのは七氏である】 【七氏が殺害された理由は赤子視点では大蟹杯暴走阻止であり、プー太視点では対主催の更なる減少阻止である】 【赤子視点より、666は大蟹球発動までフォーグラーの中にいた。そして“学校跡で死んだプー太氏”が守護騎士化した】 条件1・2を抜けるには、死体すり替えによりデコイを用いてプータを避け、 フォーグラーとラピュラが投げアイテムになる前にゲームより完全に退席するよりない。 それは数値1・2の複合、および七氏が担当していた大蟹杯の性質にて回避できる。 条件3は七氏が生きてても大差ないことを説明すればいい。 SOS弾を666が所持していることから、大蟹杯暴走と七氏の死亡はイコールにはならない。 対主催の更なる減少を阻止すべきプー太は対主催戦力になりうるバトルマスターと蟹座氏を七氏が殺すところを確認している。 赤子視点で破綻。プー太視点でも破綻。666の七氏殺害は別の動機によるものである可能性はある。 条件4を説明する鍵が、残された違和感・数値4だ。666はフォーグラーが大蟹球化する前にラピュタへと移動した。 逆にいえば666と言えども蟹球化後は会場の移動は出来ない、あるいは難しかったと解釈できる。 どうやって会場にあるプー太氏の死体を回収する? その手段は? それはどうやって齎された? いや、そんな下らない前戯さえ無用。“なぜ大蟹球発動前に666はフォーグラーがああなることを知っていた?” 存在しない情報はメタ視点を持っても観測不可能。なのにどうやって666はあの絶好の位置を陣取れた? おそらく、これらの問題点へのアプローチは一つではないと思う。 七氏がステ強化ハーブを使用してパニッシャーを持ってもいいし、666の暴走をノイズとして使ってもいい。 無限の解釈が許されるからこそバトルロワイアルは面白い。“だからこの解釈さえ存在できる”!! そして解釈できる以上、言葉を束ねる七氏は存在できる。沢城昴は箱の中の悪魔と対峙する。 「あの時、666が貴方を殺したって……あれは……!!」 「7氏だろそれは? 666視点でなんの矛盾もない……っ!」 沢城昴は、衝撃のネコミミストは全てに納得せざるを得なかった。 彼女に刻まれたその記憶、黒猫と七氏の会話が正しければここにいる七氏は紛れもないオリジナルということになる。 しかし、なによりも彼女を恐怖させていたのは“自分以外の記憶が自分のものとして何一つ不自然なく想起されたこと”だった。 「……気づいているのだろう? お前と666は一つになった。その知識も、その醜悪も、その狂気も、全てがお前のものとなった。  あの七十年童貞を保った賢者が、セラードの含有する知識を全て継承したように。お前は666の全てを受け継いだ」 ネコミミストがこの世界で今まで言葉にしなかった靄を七氏が括る。 『愛している』。知識として怨念として感情として。その無限の言葉が、彼女の内側で鳴り響いていることを。 “それらが、少しずつ自分と溶け合っていることを”。 「ネコミミスト。お前があのゲームを終わらせてから何をしていたのかはあの親爺さんから聞いた。  その上で一つ問おう。何でこんな“無駄な”ことをしている?」 「無駄、ですって……?」 けたたましき頭痛にて内側より襲い来るノイズを掻き分けて、外側より入り込む一閃。 「誰とも知らぬ、名前も分らぬニンゲンを来る日も来る日も助け、救い、悪を討つ。これ以上の無駄を僕は知らない」 「無駄なんかじゃ、無い!!」 ネコミミストの両の手より剣が浮かび上がる。投影『マテリアルブレード』。 こちらの世界では使わずに済ませていたあの頃の力を、七氏の首筋に這わせる。 無言のまま首の皮一枚に剣を押し当て、ネコミミストは目の威圧だけで黙れ・帰れと七氏に命令する。 あの戦いを生き抜いたものとして、力無き者の牙として、無為に生きて野垂れ死ぬことだけは絶対にできない。 それが、死んでしまった人たちにたいして私が捧げられる、唯一の花。 しかし七氏はその剣を見て楽しそうに笑い、その花を踏み躙った。 「無駄だな。塵芥を何億拾い集めようが、お前が失ったものは戻ってこない。お前はある一つの可能性を敢えて放棄しているからだ」 「!!」 彼女の筋肉が無意識に震え、ぶしゅりと七氏の首筋に血を垂らす。 あ、とネコミミストが反射的に謝罪を言う前に七氏が目を細めた。 「666の知識をお前は全て修めた。不死であるお前ならばその全てを未来の果てに体現できるだろう。  分かるか? 猫もまた獣だ。お前は獣の数字に至る資格を、その手に得たのだ。  そのギフトをひた隠しにして、オリジナルは無事と言い聞かせて彼らを救う可能性を放棄して、  いずれお前より老いさらばえて死んでいく無名の連中を救うことで自らを慰めているお前の人生が、無駄でないという保証がどこにある」 静寂の喫茶店に、双剣が崩れ落ちる音が甲高く響く。 目を反らしていた、気付かずに済ませたかったそれが七氏の切開にて臓物の如く開陳される。 世界全てを救う力も、世界全てを滅ぼす知識も、何もかもが。賢者の石は彼女の掌の中にある。 「そんなの…………出来ない…………できる訳が、無い……」 嗚呼、悪魔が囁いている。内側より囁くは全ての事象と繋がった黒幕。外側より囁くは現象そのものを組み上げた舞台。 出来るのだ。その気になれば、たった一言その言葉を返せば。 「愛していると応えてやれ。さすれば、666の持つすべてがお前のものとなる。  新しき獣の数字を継ぐものとして、お前は世界<バトルロワイアル>の主催者となれるだろう」 ネコミミストが崩れ落ちる。 不死者である以上、タイムオーバーは存在しない。生き続ける限り、666は彼女に愛を囁き続ける。 囁き続ける限り、書き手ロワ2の傷は彼女の中で瘡蓋を剥がされ続ける。生傷は彼女の心に染み渡る。 それでも彼女は気丈に笑うだろう。いつまでもいつまでも愛撫と殺傷を繰り返していつか滅ぶその時まで。 そう、この世界は永遠の拷問。ネコミミストが666の愛を受け入れるためだけに用意された、哀れな牢獄。 不死と死の境を越境した666が組み上げた、永遠の愛だ。 「邪魔をしたな。もう会うことはないだろう」 七氏が脇を抜けて出入り口へと向かう。ネコミミストが数秒遅れて七氏のほうに振り向く。 何か、言い返さなければ。ここで抗わなければ、二度と取り返しのつかないことになるという確信がある。 「ああ、そういえば知っているか?」 だが、それすら承知と言わんばかりに七氏が台詞を被せる。 「地球破壊爆弾、クールなロリスキー、忘却のウッカリデス、熱血王子、静かなる ~Chain-情~に素晴らしきフラグビルド。  こいつらまたロワに呼ばれたらしいぞ。なんの括りかは知らないけど、彼らも可哀想に。  また碌でもない目に逢って、碌でもない死に方をするのだろうな。“仕方ない”。なぜならそれがバトルロワイアルだから」 流石にその時ネコミミストに電流走らざるを得ない。 安らかに眠りにつくはずの彼らが、誰かの思惑によって再び殺しあいに立たされているのだとすれば。 だが、書き手としての認識を持つ彼女にロワを外部介入で潰すことなどできるはずもない。 救えるものを手近に救い、救いたいものは遠くて救えない。彼女が手を伸ばさないから。 彼女の怠慢で、彼らは永遠に殺され続ける。wikiを新しい読み手が見るたびに、殺されていく。 どうしようもない真理に、ネコミミストの眼尻に大きな涙が一粒浮かんだ。 「まあ、もうロワから足抜けしたお前には関係あるまいよ。精々この世界で救うだけ救っていればいい。  救うべきものを救えずに何れは摩耗して、その投影使いと同じ末路を辿るだろうさ」 板挟みになるネコミミストの心を十分楽しんだというように七氏は扉に手をかけた。 時は既に夜になっている。冷たい風が、店に漂うコーヒーの香りを掻き消した。 「さようなら主人公。“だから忠告した”のだ、お前はあそこで死んでおくべきだったと」 閉じられる扉と、客の退席を示す鐘の音。 コーヒーメーカーの中の黒い液体がポツポツと下に落ちる。 「おい、昴。さっきの客は、お前の知り合いか? ……どうした、おい、しっかりしろスバル!!」 「うっ……うう…………」 床に毀れ落ちる滴の精製は、コーヒーのそれよりも早い。 一粒落ちるたびに、七氏につけられた傷を思い起こす。今穿たれたものではない。 もっと古い、一番最初の傷。あの学校跡で、まだ何も知らずにいられたあの頃のときに。 【では聞こうか。ネコミミスト、恐らくこれが“君が自由に死ねる最後のチャンスだ”】 あの時に全ては決定してしまっていた。七氏は既にこの時点で、必然を預言してしまっていた。 彼女と共に走り抜け、彼女の前に立ち塞り、彼女と出会いもしなかった全ての物事があの時点で決定されてしまっていた。 この舞台に配された運命は変わらなかった。カミサマの一手は、止められなかった。 「うう……ひっく、ふぇ、うええええええぇぇぇぇぇぇ…………」 カミサマ、もしそんなものがいるとするならば願います。どうか、今日だけは泣かせてください。 明日、目が覚めたら笑って、またいつもの私に戻りますから。 明日は来る。その次の日も、そのまた次の日も、絶対に来る。 ネコミミストは死ねない。彼女の信念のもと・その不死のもと死ぬことはできない。ネコミミストである限り死ねない。 でも、明日彼女はネコミミストだろうか? 明後日もネコミミストだろうか? 一週間後はまだネコミミストなのか? 一箇月後は? 一年後は? 一世紀後は? 次のミレニアムには666になってしまってはいないだろうか? 祝いを示す「示」は祭壇。裂いた頭を台に乗せて血を滴らせる祭壇なるならば。 笑え笑えよ優勝者。いつその笑みが罪人のモノになるかに脅え笑うがいい。 それがそれこそが、生き残ってしまったものの咎だ。姥捨て山まで背負っていけ。 「うわァァアァァァァァァァァァッァァァァァァァァァッァァァァァァッァァ!!!!!!!!!!!!!!!!!」 『お前が鬼編集長として第三回の主催者になる』 そういうの可能性を楽しんでこそ、脱出は趣があるのじゃあないかなあああ!?!?!?! 寒空を切りながら私は歩く。叫びに定評のある千和ヴォイスがここにまで聞こえてくる。 ああ、出てきた甲斐があった。最後の勝利者に渡されるものが幸せだけでは帳尻が合わぬ。 いくらネコミミストが生き残る優勝エンドの可能性が99%だったとしてもだ。 読み手は敢えて未来を読まなかったのではない。確定された未来だと分かっていたから怖くて読めなかった。 大蟹球が発動した時点で盤上の極チート級は地図氏・繋ぎ氏・管理人・666・魔王・将軍の6人。 チート級は666戦・管理人戦に残さなければならないからジョーカー戦で摩耗するのは残りの連中になる。 「ジョーカーは最初からここで切る捨て札だ。敵味方が分散する最悪の消耗戦にして、666が最も有効に動ける三つ巴のなあ」 それだけならばまだ戦力も残ったであろう。だが、ここで二つの問題が対主催に発生する。 Ⅰ・ドSの繋ぎ氏乗っ取りによるDSRXの出現 Ⅱ・タイダルゲートという対主催サイドの勝利条件&敗北条件の追加 この二つが彼らからほとんどの希望を消し去ってしまった。 爆弾VS繋ぎ氏の戦いであまりにも時間と手札と手番を使ってしまった彼らは、ドS終了時に殆どの余裕を使い果たしてしまっていた。 全うに全員を集結させて666と戦い、その後管理人と戦えばいいものを、 彼らはタイダルゲート阻止の観点からもっとも愚策とされる戦力の分散をせざるをえなかった。奥の手の繋ぎ氏を管理人に切ってしまったのだ。 そして一般参加者が死に絶えた時点で、チート級対主催の生存の目も限りなく消失した。 「いうなら大貧民の“2上がり禁止”だ。繋ぎ氏や爆弾が優勝して全員生き返らせました、なんて指し手が打てるわけがない」 それでもその死亡確定を逆手にとってタイダルゲートは破壊されるだろう。 その時点で主催側は勝利条件の達成が不可能になり、敗退が決定する。 ガチルートになってしまえばそこで将軍は指し場所が無くなり、そのまえに盤から落ちるよりない。 対主催が積み、主催が破綻し、“勝利条件を達成できるのは666しかいなくなる”。 未来は無限の可能性があるとは誰が言ったか。無限の未来? それっておいしいの? ネコミミストがこうなってしまうのは、これほどまでに必然だというのに。 「だが」 七氏がそこで立ち止まる。歯茎に挟まった魚の小骨を気にするように不快さを顔に出した。 「何故ネコミミストがまだ自我を残していた? もうとっくに666に食われていたものだと思っていたのに」 彼女がああして生き延びたということは、恐らく666は本願を叶えて彼女に食われたのだろう。それは間違いない。 意図的に隠されたであろう幾つか以外の666の記憶を全て知った上で、ネコミミスト自我を保つ可能性があるのだろうか。 「まさか、幻夜や体はスクライドで出来ているが立ち直らせた?  莫迦な。彼らの出会いは全て666に組まれた式の上に成り立っている。  666がそれを予測できない訳がない―――――――――――敢えて取り込まなかったのか?」 “666が敢えて負けた”という仮定して七氏は解釈を進める。 奴はネコミミストと合一化すること、そしてオリジナルの殺害が目的であったはずだ。 その飽和しかけた自己を更新するためにはどちらかしかない。 なのに、どちらも完全には達成されてない。意図的な綻びが存在する。 「組み上げた舞台の意味を完全に理解していた奴が本気を出せば、運命は100%の結果を算出する。  なのに負けた。これは、偶然か? それとも、これは100%の敗北だった?」 七氏には理解ができなかった。理屈でいえば666はワザと負けた以外に考えられないのに、そこに至る理由が成り立たないのだ。 何か“何かパーツが欠けている”? 私の考察は何か一つ見逃しているのか? ……まさかあ。私の最終局面に穴はない。ツキノンの乱入は測定できる程度の誤差だった。 繋ぎ氏は確かに予測できない動きをしただろうが、“予測できないことしかしない”以上ノイズにはならない。 フォーグラーとラピュタを介した盤上に駒は全て並んでいた。数値が全て出ているならば結果は必然だ。 ―――――――――――でも、貴方の組み上げたボードに「私」は居なかった。 !! 「ま、考えたところで仕方がないか……それにしても、今日は冷えるな……  ネコミミストを待つ間にコーヒーを飲みすぎたか…………駅まで保たないな……」 ―――――――――――あの時、確かに駒は全員並んでいた。でも、貴方は私を見逃してしまった。 計算が、歪む? なんだこの乱数は。こんなの私は知らないぞ。 「どこか近くの公衆便所で済ますか。う~~トイレトイレ」 ―――――――――――今なら、理解できる気がする。あの人は他人の運命を操るのは好きだけど、操られるのは死ぬほど大嫌いだったと思うから。 エラー? 強制終了? 何故? 全体数を確定できない読み手を除けば生き残ったのはネコミミストだけ! そのネコミミストは今私の手で陥落した! この視点に立つのは私だけだ!! 誰何! 存在しないお前は何だ!? 【そんなわけで、帰り道にある公園のトイレにやってきたのだ】 ―――――――――――そう、貴方の中に私は居なかった。勝手な都合で私を母さんの中から引きずり出すだけ出しておいて、            使えないと分かったら襤褸雑巾のように母さんを切って! 私まで無かったことにしようとした!! だから貴方には視えなかった!! ま、まさか、お前……は、ははっ、そういう仕掛けかよ。 やっと分かった。だから666は負けて、ネコミミストが生きて、お前がここにいるのか。 【ふと見ると、ベンチに一人若い男が座っていた】 ―――――――――――だから、お前は私が殺す。お前だけは私の手で殺す。とびっきりの悪意を以て、誰にも知られず殺す。            私をヒトたらしめる最後のクビキを断ち切って、私はようやく「私」になれる。 知るかヴァアカ! お前は誰にもなれない。何でもできるお前は何もできなぁぁぁい!! 4次元ポケットはその中にありとあらゆる希望と絶望を内包するけど、自分の手で取り出すことができない!! 嗚呼君は何て素敵な4次元ポケット。そんなにのび太に奉仕したければ穴が空くまでフィストを突っ込んでもらいぎゅああああああ!!! 【夜のベンチに座る彼は、真っ黒かと思うほどに闇に溶けていて】 ―――――――――――黙れよ罪人が。もう私はお前の玩具じゃない。この世界はお前のものじゃない。            ちょっと横からちょっかいを出したただの田舎書き手が、何様のつもりだ? あのバルディッシュ? ウソだろ、やめろ! よりにもよってこんな死に方なんて!! クソ、僕が、私が生き残れる可能性を弾きだして 【その帳の向こうから、ジッパーの下がる音。そして、あの言葉が響いた―――――――】 ―――――――――――知らないの? 再生怪人は即殺されるのは常識でしょうに。しかも、自分がなんのキャラになりきってたか忘れたの?            一度穿たれれば必殺120%の殺戮で貴方の言葉は終点。            さようなら。私を外に出したお医者様。次があったら、もっと残酷なの考えておくわ。 うぎゃへ厭あはんああかか最いあはっ悪カイオはhじゃっ葉青青かmjhじゃかじゃあんじゃかじゃ七あhがヴぁんh!!!!!!!!!!! 「や ら な い か」 『―――――――――――では、続いてのニュースです。昨夜未明、○×地区の▽▲公園で男の変死体が発見されました。  公衆トイレを使おうとした男性が発見し、警察に通報しました。  男は服をボロボロに引き裂かれた上で性交されたような形跡があり、  昨夜近隣の住人からの「アーーーーッ!」という叫び声が聞こえるとの通報を含め  警察は同性愛者の痴情の縺れと見て捜査を進めています。以上、今日の……』 【異常な同性愛の果てか!? 精を腹より出した遺体の発見!!】 引き裂かれた尻。混じり合う赤と白。一夜にして起こったこの変死事件は―――ポカッ! 朝日に目玉焼きの黄身が輝くような爽やかな時間に、小気味よい音が響いた。 「もう! テレビを見るか新聞を読むかご飯を食べるかはっきりなさいよねん!!」 「…………ごめんなさい。母さん」 マナーを窘める母の軽い拳骨に、大仰に頭を擦りながら私は頭を擦った。 「はは。まあいいじゃないか。若いうちはいろんなものが目移りしてしまうのもさ。もっとも、それがこういう事件というのも困りものだがね」 「ア・ナ・タ? 少しこの子に甘すぎるんじゃなくってん?」 「妬いているのかいママ。大丈夫。いつまでも私は、君だけの騎士さ(キラッ☆)」 「んもう……お上手なんだからあ♪」 朝も早よから御苦労さま御馳走様と合掌したくなるようなバカップルっぷりに私は溜息をついて朝食を食べ始めた。 腹を裂くようにして黄身を抉り、そこに調味料をぶっこむ。 少しだけ、昨日あった別のことを思い出しながら。 「馬鹿なヤツ。ひとことごめんなさいと、どうして最後まで言えなかったのかしら」 ありがとう。 ごめんなさい。 おめでとう。 ヒトとして、その言葉だけは忘れぬように。

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