とある読み手の裏後日譚

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とある読み手の裏後日譚」(2008/12/18 (木) 17:57:41) の最新版変更点

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彼方に地平線が見える程に広大な大地。 そこに一人の少年と一人の少女がいた。 「ねえ、本当にやるの?」 少女は尋ねる。 少年が本気かどうか。 しかし少年の答えは決まっていた。 「ああ、もちろんだ。それが俺達に出来る……唯一の事だからな」 「それってさぁ……偽善なんじゃない? もしくは自己満足?」 返された答えに再び問いを向ける少女。 だが、別に少女は今から行う事に不満がある訳ではない、むしろ賛成の立場だ。 ただ少女は知りたかっただけだ。 自分と同じような存在である少年の偽らざる気持ちを。 「そうとも言えるな。でも俺がそうしたいんだ。そうさせてくれ」 「そっか……うん、気にしないで。本当はボクもそうしたかったから」 「これだから女は……まあいいか」 そして二人は作業に取り掛かる。 黙々と……黙々と……時折声を掛け合いながら手を動かし続ける。 それは二人で行うには幾分骨の折れる作業であった。 だが、それは二人が手を止める理由にはならない。 少年と少女は誰に言われるでもなく、自分達がやりたい事をしている。 それは自分達の行動の終着点に何かを求めているようでもあった。 この行動の果てに何があるのか。 それは二人にははっきりとは分かってはいない。 それでも二人は黙々と作業を進める。 生き残った自分達の意味を求めて。 時は遡る。 それはまだ空に蟹座の大怪球と悪魔の天空城が健在だった頃の話。      ▼     ▼     ▼ 書き手ロワ主催陣本拠地ラピュタ。 既にデビルラピュタガンダムに変化しつつあるラピュタ内を徘徊する一人の少年がいた。 同時刻、大蟹球フォーグラー内では生き残った参加者達がニコロワ・テイルズロワのジョーカー陣との熾烈な戦いを繰り広げていた。 だが、この人物には今はそんな事はどうでもよかった。 それは決して少年が戦いに無関心だという事ではない。 今の少年にはそれよりも即急に手を打たないといけない優先事項があるだけだ。 「――ッ。急所は外れているとはいえ……このままでは長くはないな」 そう荒い呼吸と言葉と共に少年の身体からは常に赤い液体が零れ落ちていた。 それは紛れもなく血だ。 腹から流れ落ちる鮮やかな血が少年の通ってきた道に赤い線を引いていた。 見た感じは致命傷を避けているようだが、少年の言う通り放っておけば命はないだろう。 「……よし! まだ無事だったか」 少年が目指していたのは傷が手当てできる場所だった。 その場所はこのような状況においても未だ無事な様子だった。 少年は心の底から安堵した――これで死なずに済むと。 だが、それが不味かったのだろう。 安心から緊張の糸が切れた少年に疲労という名の魔物が容赦なく襲いかかってきた。 少年が自分の油断を悔んだ時には既に遅く、部屋の前に辿り着いた時には身体はもう限界になってしまっていた。 あと少し緊張の糸が切れていなければまともに治療ができそうだが、今の状態ではそれも難しい。 実際問題、もう意識は朦朧として身体は今にも倒れそうだ。 (……不味、い。俺の身体よ、あと少し、だけ、耐え、て――) だが少年の願いも虚しく潰えかけていた。 やっとの事でドアノブに手を掛けたところで限界だった。 ドアノブを握った手に力は入らず、敢え無くドアノブから手がずり落ちていくと同時に身体も倒れていく。 助かる道を前にして儚く死んでいくのかと少年が覚悟を決めた瞬間―― 「ん? 誰かいるの!?」 ――女神の手が差し出された。      ▼     ▼     ▼ 「ふぅ、これで一応は大丈夫だと思うよ」 「助かった。礼を言う」 「別にいいよ、同じ読み手同士なんだから」 俺は読み手だ、そして目の前にいる少女もまた読み手だ。 このバトルロワイアルが開始された時にガラス窓の向こうから参加者を見ていた読み手だ。 OPの後は真の主催者wiki管理人の指示の下で様々な雑務をこなしていたのだが、ある時から俺達の状況は一変した。 それは突然だった。 いきなり現れたデビルラピュタガンダムにとって読み手は格好の餌食になった。 そんな中で生き残った者は僅かばかり。 ここにいる俺と少女もその生き残った数少ない者だ。 「でも、この部屋だけ何で無事なんだろう?」 「この部屋は俺が設計してラピュタに組み込んだ物だ。もしもの時に備えて守りは万全にしておいた……で、なんで君がここに?」 「えっと、無我夢中で逃げていて飛び込んだのがここだったんだ」 元々のラピュタに新たに部屋を増築して、様々な機器を取りつけたのは俺達読み手だ。 全く開始までの僅かな時間でここまで仕上げるのは人海戦術でもかなり大変だった。 まあ作業内容は基本的に複雑ではなかったし、現場の判断でいろいろ都合も付ける事ができた。 だから中には俺のように個人的な目的で部屋を作る者もいた。 「それで、その傷はどうしたの? 見たところ銃痕だったけどさ」 「ああ、撃たれたよ。俺達のリーダーにね」 「リ、リーダーに!? いったいなんで――」 「ふ、お得意の読みで俺の気配を読んだんだろ。全く敵わないよ」 あれは少し前の事だった。 俺は読み手のリーダーから会議室への召集を受けていた。 それは今いる全ての読み手にかけられたものだったが、既にこの時は大半の読み手が死んでいた。 だから俺はこの時リーダーが何らかの対策を講じてくれるものだとばかり思っていた。 しかしその考えは間違いだった。 会議室の扉の向こうから聞こえてきたのはこのロワの開催理由とリーダーの目的。 あまつさえリーダーは中にいた読み手を一人躊躇いなく殺した。 一部始終を聞き終わった俺は一目散に逃げようとしたが、そんな行動はリーダーにはお見通しだったらしい。 いい具合に銃弾をその時リーダーに食らわされたという訳だ。 ……と、だいたいの経緯を少女に教えてやった。 「そう、だったんだ……つまりボク達は――」 「取引材料のようなところだな。叛意を示した瞬間に殺されるな」 「あの人ってその気になれば何でも読めるからね。思考とか未来とか……」 「ようはお手上げだな」 俺の話が一段落すると、少女は驚きを露わにした。 それも無理ない事だろう。 何せ今まで信頼してきたリーダーにあっさり取引材料の如く切り捨てられたのだから。 少女はすぐさま書き手ロワイアル@wikiで確認を取ったが、それは俺の話が事実だと再確認するだけの行為だった。 なぜ簡単に少女がwikiを閲覧できたかと言うと、ここが主催陣の要塞ゆえに方法さえ知っていればwikiの閲覧も可能だからだ。 もっともその方法を知っているのはwiki管理人とラピュタ改造に携わった読み手の一部だけ。 この少女は偶然レクレーションエリアのゲームコーナー設立を担当していて知っていたのだ。 それはともかく、俺は落胆こそしたが別段慌ててはいなかった。 いや寧ろ相手があのリーダーである事で反抗する気が無くなったというところか。 自己分析は置いておくとして、今のリーダーに何をしようと無駄の一言で終わる事を悟っていたのかもしれない。 それは少女も同様みたいだったが、少女はwikiで内容を確認している最中に気づいた事を尋ねてきた。 「へぇ、リーダーはK.K.って名前なんだ。容姿が桂言葉に似ているから頭文字取ってK.K.なのかな」 「たぶんそうじゃないのか。あの部屋にいたエドワード・エルリック似の読み手がE.E.になっているからな」 「なら君はR.R.だね、ルルーシュ・ランペルージ似の読み手さん」 「それではお前はS.S.だな。新庄・運切似の読み手よ」 「まあ、一応見分けみたいなものだろ。まったく同じ顔だったら混乱するから。どの道そのキャラの影響はそれほど無いだろ」 そう言ってやると俺は部屋にあったソファーに腰を下ろした。 今まで色々と判明した事だらけでかなり疲れた。 それを新庄・運切似の読み手少女――S.S.は黙って見ていた。 そしておもむろに声をかけてきた 「R.R.君はこれからどうするの?」 いつのまにか俺の名前はR.R.に固定か。 まあ名前がある事は悪い事ではないから、あまり気にはしないが。 「どうもしないさ。リーダー……K.K.の方針がああなった以上俺達に出来る事はない。  おとなしくロワが終わるのを待つさ。幸いここなら安全だからな」 「そっか、分かった」 真剣に聞いてきた割にS.S.の返事はあっさりしたものだった。 それも当然か。 下手な事すればその瞬間俺達の命は終わるんだからな。 『命』 果たして俺達にそんな物あるんだろうか。 こんな俺達に意味というものなど存在するのだろうか。 「ん? そう言うお前はどうするんだS.S.」 なんとなく聞いてみようと思った。 こいつが今どうしようと考えているのか。 「見届けるよ」 「ロワをか?」 「うん。それがボク達の義務だと思うから」 義務。 その言葉がなぜか引っ掛かった。 自分達にそこまでの義務はないというのが俺の考えだからだ。 「ほら、ボク達ってさ、表向きは主催者だよね」 「その通りだが……今更だな。もう既に真の主催者=wiki管理人という事は皆にバレているじゃないか」 「それでも……ほら、見届けようよ。ここまで生き残った人達がどんな結末を迎えるのか」 「見届けて何になるんだ? どうせ俺達がする事なんて――」 「――ないけど……見守る事は出来るよね」 そう言い終えるとS.S.はPCの画面に監視カメラの映像を映し出して見始めた。 俺はそんな事をして何になると呆れていた。 だが結局その様子を俺はただ黙って眺めていた。      ▼     ▼     ▼ それからは不思議な時間が続いた。 外では皆が必死に戦っているというのに俺とS.S.はこの部屋で安全に鑑賞タイム。 俺も別段やる事はなかったから画面に映る奴らの行動を見ていた。 最初は映像だけだったが、途中から音も拾えるように俺が弄ってやった。 (iPodに内蔵されている電波送受信機能を色々遠隔操作しただけだ。だが、俺が中に入れておいた「バトロワ関連MAD集」はお蔵入りみたいだな。  中身を全部視聴してくれたならこちらの情報を一つや二つ流してもいいと思っていたんだが、今更無駄だな。  参加者に配られた支給品、それを選別したのは俺達読み手だ。読み手らしく後先考えずに注ぎ込む奴が多かったが、実際俺も同類か) S.S.は画面の向こうの帰趨に一喜一憂していた。 どうやらこいつは対主催寄りの考えらしい。 ジョーカー達が次々と倒されていく様子を同じ主催側として少し悲しみながらも喜んでいた。 ドSが復活して猛威を振るった時はもうダメだって顔していたな。 あとはブッチギルンジャーが誕生した時は思わず俺までツッコミを入れてしまった。 そして最後の戦い。 どういう因果かK.K.も参戦していたが、3つの決戦はどれも凄まじいものだ。 そこで俺はふといつのまにか目の前で繰り広げられている展開に目を奪われている事に気付いた。 最初は真剣に見る気はなかったのに……いつのまにか隣のS.S.のように手に汗握って観戦している自分がいた。 俺は何をしているんだ。 そう思った。だけどすぐにこれでいいかと思い直した。 俺達は読み手の因子から生み出された存在だ。 どこまで行っても読み手であり、読み手以外の何者でもない。 だから、これでいいのかもしれない。 目の前で起こる物語に一喜一憂して、周りの奴と感想を言い合って、次に何が起こるのか期待して待つ。 そんな姿が読み手の姿の一つなんだろう。 そんな小難しい事を考えている自分に気付くと、途端にこの考えも馬鹿らしくなってきた。 どうやら隣にいるS.S.にだいぶ感化されたらしい。 全く何を考えているんだ。 S.S.は何も考えていない風で、ただ純粋に目の前の出来事に見入っていた。 俺を構成する因子の元にもそんな時があったんだろうか。 ああ、そうか。 今がそうなのか。      ▼     ▼     ▼ 「終わったね」 「ああ、終わったな」 最後まで残ったのは衝撃のネコミミスト唯一人。 それ以外は全滅だ。 観戦者である俺達二人を除けばだが。 それにしてもあの部屋丸ごと脱出艇にしておいて助かった。 フォーグラー落としに対抗してラピュタ防壁。 目には目を、巨大浮遊物には巨大浮遊物を。 まさにハンムラビ法典もびっくりの荒技だ。 咄嗟に発動させて脱出できたからいいものの、あのままだったら確実に衝撃で誰にも知られないまま死亡だったな。 そのおかげで最後の戦いをこうして外に出て生で見る事ができたんだが。 「これからどうすんだS.S.」 もうここには誰もいない。 ネコミミストも軍曹Jr.も既に別世界に飛び立ってしまった。 (何やらその後にスタッフロールとやらがwikiには掲載されたみたいだが、俺達二人は『読み手』で統一されたようだ) 広い大地には影が二つだけ。 この世界にいるのは俺とS.S.の二人だけ。 「そういや考えてないや。R.R.君はどうするの?」 問いに対して問いで返された。 呑気だなと思いつつも、全て終わったのだからそれでもいいかという思いもある。 以前の俺なら別に何もしようとは思わなかっただろう。 だが今はやりたい事ができた。 「墓を作ろうかと思う」 「お墓? 誰の?」 「それは決まっているだろ。このロワで死んだ奴、全員のさ」 幸い墓を作るための土地には困らない。 目の前にはどこまでも続く大地が広がっているのだから。 ただ数が多い分、大変なのは予想できる。 「でも道具はどうするの。スコップとか、あの部屋にあったけ?」 「もう忘れたのか」 「へ?」 「K.K.が言っていただろ。『想像力さえあれば何でも出来る』って。だから――」 俺は想像する。 墓を作るために必要な道具を。 そしてそれは――スコップは現れた。 「ほらな。死体は無理だが、墓標はフォーグラーやラピュタの残骸を使わせてもらおうか」 「ほ、ほんとに出てきたよ。でも、それなら墓を想像した方がよかったんじゃないの」 「それは無理だな。精々俺ではこれが精いっぱいだ、それに……」 「それに?」 「墓を作る事に、意味があると思うから」 「……そっか。確かにそうかも」 それから俺達二人は準備を整えてから墓を作り始めた。 ここは全ての流れから途絶された空間。 ゆえに時間という概念は既にない。 そんな中で俺達はただ黙々と墓作りに勤しんだ。 正規の参加者、主催側の人々、意志持ち支給品、それと俺達以外の読み手。 これだけの数を作っていると、いつの間にか墓の数を数えるのも馬鹿らしくなってきた。 だから最終的に墓が全部でいくつになるのか知らない。 (それでも構わない。ただ俺は墓を作りたいんだ。そして、それが終わった後に……) まだこの墓作りにどんな意味があるのかはっきりとは分からない。 ただこの作業を終える事ができれば何かが分かる気がした。 そして、それ以前に墓を作る事で俺は何かを成し遂げたい。 そんな気持ちになっている気がする。 そんな俺の我儘にも関わらずS.S.は黙って従ってくれる。 もしかしてS.S.は俺が知りたい答えを知っているのだろうか。 いや、たぶんS.S.も分かっていないんだろう。 分かっていないからこそ一緒に墓を作って何かを見極めようとしているのかもしれない。 まあいいか。 時間の流れはないが、それでも墓はその数を増やしていく。 ただ作るだけでは区別がなくて味気ないので所縁の品を置いておく事にした。 なんとか想像できる範囲の物やフォーグラーやラピュタの残骸の中に残っていた物で助かった。 そして、ついに最後の一つが完成した。 「ふぅ、終わったか」 「これで全員分だね」 見渡す限りの一面が広大な墓地になっている。 その墓が一面に広がる光景からはよくある不気味という印象ではなく、何か別のものを感じる。 敢えて言うなら壮大という印象を受けているのに近いかもしれない。 死体は当然ながら中にはないが、仕方ないか。 「俺は何かを残しておきたかったんだと思う」 「何かって?」 「たぶん『ここにいた』っていう証みたいなものかな。墓がここにあればいつまでもあいつらがいるような気がしてな」 「やっぱり自己満足だね」 「なんとでも言えよ。俺はただあいつらの事を忘れたくなかった。形にして残したかった。ただそれだけだ」 「でも、それってwiki見れば済むんじゃないの?」 「それと後一つ――」 「?」 「いろいろあったけど安らかに眠ってほしい。そう思ったんだ。  ほら、ロワ中だったら碌な目に遭わないから。ゆっくり墓を作れるのはこういう時だけなんじゃないか」 結局明確な答えとはこれだったのだろうか。 たぶんそんな気がする。 俺の気持ちに偽りはない。 あの地にいた皆は俺とは違って何かに必死だった。 何かを為そうと生きていた。 K.K.はここにいる者は虚構と言ったが、それは違うと思う。 何人もの参加者が言っていたが、俺達はここに確かにいる。 それだけで十分だ。 「……R.R.君もそう思ったんだ」 「ん? 何か言ったか」 「別に。で、墓も作り終わったけど、どうしよっか」 「そうだなあ。とりあえずは墓の手入れでもしながらパロロワものでも読み耽るか。感想付けたりWikiを編集したり……」 あとは誰かここに来てくれれば尚いい。 そうすれば俺達があいつらの事を話してやれる。 そしてあいつらの事は伝わっていく。 ここで何があったか。 どんな想いで皆が生きていたか。 実際はそんな大層なものでないかもしれないが、それでも俺は思う。 「もしかしたらこれが生き残った俺達がするべき事なのかな」 記録は受け継がれていく。 その記録はいつの日か伝承になり、伝承はいつの日か伝説になるのかもしれない。 別世界であいつらの活躍が語り継がれる。 そんな夢幻の如き想像も読み手なら許されるだろう。 |306:[[此方より彼方まで]]|投下順に読む|[[]]| |306:[[此方より彼方まで]]|時系列順に読む|[[]]| |302:[[ココヨリトワニ]]|読み手||
彼方に地平線が見える程に広大な大地。 そこに一人の少年と一人の少女がいた。 「ねえ、本当にやるの?」 少女は尋ねる。 少年が本気かどうか。 しかし少年の答えは決まっていた。 「ああ、もちろんだ。それが俺達に出来る……唯一の事だからな」 「それってさぁ……偽善なんじゃない? もしくは自己満足?」 返された答えに再び問いを向ける少女。 だが、別に少女は今から行う事に不満がある訳ではない、むしろ賛成の立場だ。 ただ少女は知りたかっただけだ。 自分と同じような存在である少年の偽らざる気持ちを。 「そうとも言えるな。でも俺がそうしたいんだ。そうさせてくれ」 「そっか……うん、気にしないで。本当はボクもそうしたかったから」 「これだから女は……まあいいか」 そして二人は作業に取り掛かる。 黙々と……黙々と……時折声を掛け合いながら手を動かし続ける。 それは二人で行うには幾分骨の折れる作業であった。 だが、それは二人が手を止める理由にはならない。 少年と少女は誰に言われるでもなく、自分達がやりたい事をしている。 それは自分達の行動の終着点に何かを求めているようでもあった。 この行動の果てに何があるのか。 それは二人にははっきりとは分かってはいない。 それでも二人は黙々と作業を進める。 生き残った自分達の意味を求めて。 時は遡る。 それはまだ空に蟹座の大怪球と悪魔の天空城が健在だった頃の話。      ▼     ▼     ▼ 書き手ロワ主催陣本拠地ラピュタ。 既にデビルラピュタガンダムに変化しつつあるラピュタ内を徘徊する一人の少年がいた。 同時刻、大蟹球フォーグラー内では生き残った参加者達がニコロワ・テイルズロワのジョーカー陣との熾烈な戦いを繰り広げていた。 だが、この人物には今はそんな事はどうでもよかった。 それは決して少年が戦いに無関心だという事ではない。 今の少年にはそれよりも即急に手を打たないといけない優先事項があるだけだ。 「――ッ。急所は外れているとはいえ……このままでは長くはないな」 そう荒い呼吸と言葉と共に少年の身体からは常に赤い液体が零れ落ちていた。 それは紛れもなく血だ。 腹から流れ落ちる鮮やかな血が少年の通ってきた道に赤い線を引いていた。 見た感じは致命傷を避けているようだが、少年の言う通り放っておけば命はないだろう。 「……よし! まだ無事だったか」 少年が目指していたのは傷が手当てできる場所だった。 その場所はこのような状況においても未だ無事な様子だった。 少年は心の底から安堵した――これで死なずに済むと。 だが、それが不味かったのだろう。 安心から緊張の糸が切れた少年に疲労という名の魔物が容赦なく襲いかかってきた。 少年が自分の油断を悔んだ時には既に遅く、部屋の前に辿り着いた時には身体はもう限界になってしまっていた。 あと少し緊張の糸が切れていなければまともに治療ができそうだが、今の状態ではそれも難しい。 実際問題、もう意識は朦朧として身体は今にも倒れそうだ。 (……不味、い。俺の身体よ、あと少し、だけ、耐え、て――) だが少年の願いも虚しく潰えかけていた。 やっとの事でドアノブに手を掛けたところで限界だった。 ドアノブを握った手に力は入らず、敢え無くドアノブから手がずり落ちていくと同時に身体も倒れていく。 助かる道を前にして儚く死んでいくのかと少年が覚悟を決めた瞬間―― 「ん? 誰かいるの!?」 ――女神の手が差し出された。      ▼     ▼     ▼ 「ふぅ、これで一応は大丈夫だと思うよ」 「助かった。礼を言う」 「別にいいよ、同じ読み手同士なんだから」 俺は読み手だ、そして目の前にいる少女もまた読み手だ。 このバトルロワイアルが開始された時にガラス窓の向こうから参加者を見ていた読み手だ。 OPの後は真の主催者wiki管理人の指示の下で様々な雑務をこなしていたのだが、ある時から俺達の状況は一変した。 それは突然だった。 いきなり現れたデビルラピュタガンダムにとって読み手は格好の餌食になった。 そんな中で生き残った者は僅かばかり。 ここにいる俺と少女もその生き残った数少ない者だ。 「でも、この部屋だけ何で無事なんだろう?」 「この部屋は俺が設計してラピュタに組み込んだ物だ。もしもの時に備えて守りは万全にしておいた……で、なんで君がここに?」 「えっと、無我夢中で逃げていて飛び込んだのがここだったんだ」 元々のラピュタに新たに部屋を増築して、様々な機器を取りつけたのは俺達読み手だ。 全く開始までの僅かな時間でここまで仕上げるのは人海戦術でもかなり大変だった。 まあ作業内容は基本的に複雑ではなかったし、現場の判断でいろいろ都合も付ける事ができた。 だから中には俺のように個人的な目的で部屋を作る者もいた。 「それで、その傷はどうしたの? 見たところ銃痕だったけどさ」 「ああ、撃たれたよ。俺達のリーダーにね」 「リ、リーダーに!? いったいなんで――」 「ふ、お得意の読みで俺の気配を読んだんだろ。全く敵わないよ」 あれは少し前の事だった。 俺は読み手のリーダーから会議室への召集を受けていた。 それは今いる全ての読み手にかけられたものだったが、既にこの時は大半の読み手が死んでいた。 だから俺はこの時リーダーが何らかの対策を講じてくれるものだとばかり思っていた。 しかしその考えは間違いだった。 会議室の扉の向こうから聞こえてきたのはこのロワの開催理由とリーダーの目的。 あまつさえリーダーは中にいた読み手を一人躊躇いなく殺した。 一部始終を聞き終わった俺は一目散に逃げようとしたが、そんな行動はリーダーにはお見通しだったらしい。 いい具合に銃弾をその時リーダーに食らわされたという訳だ。 ……と、だいたいの経緯を少女に教えてやった。 「そう、だったんだ……つまりボク達は――」 「取引材料のようなところだな。叛意を示した瞬間に殺されるな」 「あの人ってその気になれば何でも読めるからね。思考とか未来とか……」 「ようはお手上げだな」 俺の話が一段落すると、少女は驚きを露わにした。 それも無理ない事だろう。 何せ今まで信頼してきたリーダーにあっさり取引材料の如く切り捨てられたのだから。 少女はすぐさま書き手ロワイアル@wikiで確認を取ったが、それは俺の話が事実だと再確認するだけの行為だった。 なぜ簡単に少女がwikiを閲覧できたかと言うと、ここが主催陣の要塞ゆえに方法さえ知っていればwikiの閲覧も可能だからだ。 もっともその方法を知っているのはwiki管理人とラピュタ改造に携わった読み手の一部だけ。 この少女は偶然レクレーションエリアのゲームコーナー設立を担当していて知っていたのだ。 それはともかく、俺は落胆こそしたが別段慌ててはいなかった。 いや寧ろ相手があのリーダーである事で反抗する気が無くなったというところか。 自己分析は置いておくとして、今のリーダーに何をしようと無駄の一言で終わる事を悟っていたのかもしれない。 それは少女も同様みたいだったが、少女はwikiで内容を確認している最中に気づいた事を尋ねてきた。 「へぇ、リーダーはK.K.って名前なんだ。容姿が桂言葉に似ているから頭文字取ってK.K.なのかな」 「たぶんそうじゃないのか。あの部屋にいたエドワード・エルリック似の読み手がE.E.になっているからな」 「なら君はR.R.だね、ルルーシュ・ランペルージ似の読み手さん」 「それではお前はS.S.だな。新庄・運切似の読み手よ」 「まあ、一応見分けみたいなものだろ。まったく同じ顔だったら混乱するから。どの道そのキャラの影響はそれほど無いだろ」 そう言ってやると俺は部屋にあったソファーに腰を下ろした。 今まで色々と判明した事だらけでかなり疲れた。 それを新庄・運切似の読み手少女――S.S.は黙って見ていた。 そしておもむろに声をかけてきた 「R.R.君はこれからどうするの?」 いつのまにか俺の名前はR.R.に固定か。 まあ名前がある事は悪い事ではないから、あまり気にはしないが。 「どうもしないさ。リーダー……K.K.の方針がああなった以上俺達に出来る事はない。  おとなしくロワが終わるのを待つさ。幸いここなら安全だからな」 「そっか、分かった」 真剣に聞いてきた割にS.S.の返事はあっさりしたものだった。 それも当然か。 下手な事すればその瞬間俺達の命は終わるんだからな。 『命』 果たして俺達にそんな物あるんだろうか。 こんな俺達に意味というものなど存在するのだろうか。 「ん? そう言うお前はどうするんだS.S.」 なんとなく聞いてみようと思った。 こいつが今どうしようと考えているのか。 「見届けるよ」 「ロワをか?」 「うん。それがボク達の義務だと思うから」 義務。 その言葉がなぜか引っ掛かった。 自分達にそこまでの義務はないというのが俺の考えだからだ。 「ほら、ボク達ってさ、表向きは主催者だよね」 「その通りだが……今更だな。もう既に真の主催者=wiki管理人という事は皆にバレているじゃないか」 「それでも……ほら、見届けようよ。ここまで生き残った人達がどんな結末を迎えるのか」 「見届けて何になるんだ? どうせ俺達がする事なんて――」 「――ないけど……見守る事は出来るよね」 そう言い終えるとS.S.はPCの画面に監視カメラの映像を映し出して見始めた。 俺はそんな事をして何になると呆れていた。 だが結局その様子を俺はただ黙って眺めていた。      ▼     ▼     ▼ それからは不思議な時間が続いた。 外では皆が必死に戦っているというのに俺とS.S.はこの部屋で安全に鑑賞タイム。 俺も別段やる事はなかったから画面に映る奴らの行動を見ていた。 最初は映像だけだったが、途中から音も拾えるように俺が弄ってやった。 (iPodに内蔵されている電波送受信機能を色々遠隔操作しただけだ。だが、俺が中に入れておいた「バトロワ関連MAD集」はお蔵入りみたいだな。  中身を全部視聴してくれたならこちらの情報を一つや二つ流してもいいと思っていたんだが、今更無駄だな。  参加者に配られた支給品、それを選別したのは俺達読み手だ。読み手らしく後先考えずに注ぎ込む奴が多かったが、実際俺も同類か) S.S.は画面の向こうの帰趨に一喜一憂していた。 どうやらこいつは対主催寄りの考えらしい。 ジョーカー達が次々と倒されていく様子を同じ主催側として少し悲しみながらも喜んでいた。 ドSが復活して猛威を振るった時はもうダメだって顔していたな。 あとはブッチギルンジャーが誕生した時は思わず俺までツッコミを入れてしまった。 そして最後の戦い。 どういう因果かK.K.も参戦していたが、3つの決戦はどれも凄まじいものだ。 そこで俺はふといつのまにか目の前で繰り広げられている展開に目を奪われている事に気付いた。 最初は真剣に見る気はなかったのに……いつのまにか隣のS.S.のように手に汗握って観戦している自分がいた。 俺は何をしているんだ。 そう思った。だけどすぐにこれでいいかと思い直した。 俺達は読み手の因子から生み出された存在だ。 どこまで行っても読み手であり、読み手以外の何者でもない。 だから、これでいいのかもしれない。 目の前で起こる物語に一喜一憂して、周りの奴と感想を言い合って、次に何が起こるのか期待して待つ。 そんな姿が読み手の姿の一つなんだろう。 そんな小難しい事を考えている自分に気付くと、途端にこの考えも馬鹿らしくなってきた。 どうやら隣にいるS.S.にだいぶ感化されたらしい。 全く何を考えているんだ。 S.S.は何も考えていない風で、ただ純粋に目の前の出来事に見入っていた。 俺を構成する因子の元にもそんな時があったんだろうか。 ああ、そうか。 今がそうなのか。      ▼     ▼     ▼ 「終わったね」 「ああ、終わったな」 最後まで残ったのは衝撃のネコミミスト唯一人。 それ以外は全滅だ。 観戦者である俺達二人を除けばだが。 それにしてもあの部屋丸ごと脱出艇にしておいて助かった。 フォーグラー落としに対抗してラピュタ防壁。 目には目を、巨大浮遊物には巨大浮遊物を。 まさにハンムラビ法典もびっくりの荒技だ。 咄嗟に発動させて脱出できたからいいものの、あのままだったら確実に衝撃で誰にも知られないまま死亡だったな。 そのおかげで最後の戦いをこうして外に出て生で見る事ができたんだが。 「これからどうすんだS.S.」 もうここには誰もいない。 ネコミミストも軍曹Jr.も既に別世界に飛び立ってしまった。 (何やらその後にスタッフロールとやらがwikiには掲載されたみたいだが、俺達二人は『読み手』で統一されたようだ) 広い大地には影が二つだけ。 この世界にいるのは俺とS.S.の二人だけ。 「そういや考えてないや。R.R.君はどうするの?」 問いに対して問いで返された。 呑気だなと思いつつも、全て終わったのだからそれでもいいかという思いもある。 以前の俺なら別に何もしようとは思わなかっただろう。 だが今はやりたい事ができた。 「墓を作ろうかと思う」 「お墓? 誰の?」 「それは決まっているだろ。このロワで死んだ奴、全員のさ」 幸い墓を作るための土地には困らない。 目の前にはどこまでも続く大地が広がっているのだから。 ただ数が多い分、大変なのは予想できる。 「でも道具はどうするの。スコップとか、あの部屋にあったけ?」 「もう忘れたのか」 「へ?」 「K.K.が言っていただろ。『想像力さえあれば何でも出来る』って。だから――」 俺は想像する。 墓を作るために必要な道具を。 そしてそれは――スコップは現れた。 「ほらな。死体は無理だが、墓標はフォーグラーやラピュタの残骸を使わせてもらおうか」 「ほ、ほんとに出てきたよ。でも、それなら墓を想像した方がよかったんじゃないの」 「それは無理だな。精々俺ではこれが精いっぱいだ、それに……」 「それに?」 「墓を作る事に、意味があると思うから」 「……そっか。確かにそうかも」 それから俺達二人は準備を整えてから墓を作り始めた。 ここは全ての流れから途絶された空間。 ゆえに時間という概念は既にない。 そんな中で俺達はただ黙々と墓作りに勤しんだ。 正規の参加者、主催側の人々、意志持ち支給品、それと俺達以外の読み手。 これだけの数を作っていると、いつの間にか墓の数を数えるのも馬鹿らしくなってきた。 だから最終的に墓が全部でいくつになるのか知らない。 (それでも構わない。ただ俺は墓を作りたいんだ。そして、それが終わった後に……) まだこの墓作りにどんな意味があるのかはっきりとは分からない。 ただこの作業を終える事ができれば何かが分かる気がした。 そして、それ以前に墓を作る事で俺は何かを成し遂げたい。 そんな気持ちになっている気がする。 そんな俺の我儘にも関わらずS.S.は黙って従ってくれる。 もしかしてS.S.は俺が知りたい答えを知っているのだろうか。 いや、たぶんS.S.も分かっていないんだろう。 分かっていないからこそ一緒に墓を作って何かを見極めようとしているのかもしれない。 まあいいか。 時間の流れはないが、それでも墓はその数を増やしていく。 ただ作るだけでは区別がなくて味気ないので所縁の品を置いておく事にした。 なんとか想像できる範囲の物やフォーグラーやラピュタの残骸の中に残っていた物で助かった。 そして、ついに最後の一つが完成した。 「ふぅ、終わったか」 「これで全員分だね」 見渡す限りの一面が広大な墓地になっている。 その墓が一面に広がる光景からはよくある不気味という印象ではなく、何か別のものを感じる。 敢えて言うなら壮大という印象を受けているのに近いかもしれない。 死体は当然ながら中にはないが、仕方ないか。 「俺は何かを残しておきたかったんだと思う」 「何かって?」 「たぶん『ここにいた』っていう証みたいなものかな。墓がここにあればいつまでもあいつらがいるような気がしてな」 「やっぱり自己満足だね」 「なんとでも言えよ。俺はただあいつらの事を忘れたくなかった。形にして残したかった。ただそれだけだ」 「でも、それってwiki見れば済むんじゃないの?」 「それと後一つ――」 「?」 「いろいろあったけど安らかに眠ってほしい。そう思ったんだ。  ほら、ロワ中だったら碌な目に遭わないから。ゆっくり墓を作れるのはこういう時だけなんじゃないか」 結局明確な答えとはこれだったのだろうか。 たぶんそんな気がする。 俺の気持ちに偽りはない。 あの地にいた皆は俺とは違って何かに必死だった。 何かを為そうと生きていた。 K.K.はここにいる者は虚構と言ったが、それは違うと思う。 何人もの参加者が言っていたが、俺達はここに確かにいる。 それだけで十分だ。 「……R.R.君もそう思ったんだ」 「ん? 何か言ったか」 「別に。で、墓も作り終わったけど、どうしよっか」 「そうだなあ。とりあえずは墓の手入れでもしながらパロロワものでも読み耽るか。感想付けたりWikiを編集したり……」 あとは誰かここに来てくれれば尚いい。 そうすれば俺達があいつらの事を話してやれる。 そしてあいつらの事は伝わっていく。 ここで何があったか。 どんな想いで皆が生きていたか。 実際はそんな大層なものでないかもしれないが、それでも俺は思う。 「もしかしたらこれが生き残った俺達がするべき事なのかな」 記録は受け継がれていく。 その記録はいつの日か伝承になり、伝承はいつの日か伝説になるのかもしれない。 別世界であいつらの活躍が語り継がれる。 そんな夢幻の如き想像も読み手なら許されるだろう。 |306:[[此方より彼方まで]]|投下順に読む|[[]]| |306:[[此方より彼方まで]]|時系列順に読む|[[]]| |302:[[その意志、刃に変えて]]|読み手||

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