此方より彼方まで

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カタカタカタ。 静寂を常とする夜の闇の中、不規則に音が響く。 時は丑の刻に至ろうとしていたが、藁人形に五寸釘を打ち込んでいるというわけではない。 音の発生源がある場所は神社などという格式高いものとは違う。 とある一軒家のとある一部屋。 灯の消えた中、唯一の光源であるパーソナルコンピューターからであった。 まあ、パソコンが独りでに動いていれば、それはそれで怪談だが勿論そうではない。 タイピングされる以上、打ち手たる人間もまた存在するのである。 「終わった、か」 年の項は20代前半だろうか? 特に目立ったとこもない凡庸な男性だ。 真っ暗な部屋で光を抑えるため布団をかぶって延々とモニターに向かってる様は怪しくないこともないのだが。 一部ではパンダと暗喩される災害を逃れるために、そこまでして男が覗きこむのはとあるwebページ。 ある種のリレー二次小説の作者を、擬人化ならぬ擬キャラ化し、物語を紡いでいくというサイトであった。 ここまで言ってしまえば、気付いた方もいるであろう。 そう、彼こそは書き手ロワ2ndの専属書き手にして、ヨッミーと自称している者、その人である。 「こうして読み返すと一際感慨深いものだなあ」 中核の一人として自らが関わってきた企画の完結が彼にもたらしたのは、抑えきれない喜びと一株の寂しさ。 もう二度と、今回の書き手達の祭典の為に筆を取ることが無いのだということを今更ながらに実感する。 思えば随分無茶をしたものだ。 ヨッミーは苦笑する。 彼は良く言えばスケールの大きい、悪く言えば自重しない書き手であった。 他の作者との連携が必須であるリレー小説において、一歩間違えれば足を引っ張りかねない特性だ。 それでもその企画が無事、未完にならず、最終回まで行きついたのは、偏に土壌が良かったのか、フォローの上手い友のおかげか。 どっちもだろなあと、己が幸運を噛み締める。 「幸運、か」 そこでふとヨッミーの脳裏に浮かぶのは、最終回の後に投下された一つのエピローグ。 派手好き紳士『666』と呼ばれる彼の尊敬する書き手のうちの一人が投下した作品。 「ありゃあ参った」 自他の作品に存在していた数多ものある種の穴を突いた大どんでん返し。 前々からプロットはあったとは聞いていた。 しかし、よくもまあ、潰されなかったものだ。 リレーという形式をとる以上、自分の思い通りに全てのことが運ぶなんてありえないというのに。 「これじゃあまるで、書き手ロワ2内の666みたいじゃないか」 突かれた穴の幾つかは、彼が書いた作品のものだった。 例えば666に詳細描写なしで首輪をはずさせた。 ある時はプー太氏のタロットを666から感電に渡させた。 またある時は666が手を加えたバルディッシュをダイダルゲートに埋め込待させた。 特に最後に手掛けた作品、最終話の一つ手前の物においては、まさにぎりぎりだった。 備考に掲載する文章は、つまるところ結果を分かりやすく伝えれればいい。 故に、表現の仕方が僅かに違ったところで、彼の話自体は破綻しはしなかったのだ。 もし彼が『ダイダルゲートは消滅しました』と書いていたら? 完全に残骸が残っていなければ666とて取り込めなかっただろう。 もし彼が『集めていた経験は全て吹き飛びました』と書いていたら? 所持することあたわず、666はお宝を手に入れることはできなかったはずだ。 いや、それ以前にもしもテンポを考えて簡素化したブッチギルンジャー達の動向を詳しく書き込んでいたのなら。 ダイダルゲートは正常なまま、破壊されたと記載され、驚きの黒さに侵食されていたと後付けすることも叶わなかった。 ヨッミーは気づく。 待て、ちょっと待てと。 あまりにも666に都合がよく事が運び過ぎている。 一つ一つはほんの些細なことだが、ここまで積み重なってしまっては偶然とは思えない。 これが一人の作者による下準備のもと行われたのならともかく、数人の人間が別々に描いた作品を下地にしているのだ! 偶然残ったのだというのなら、まさに奇跡だ。こんなにすれすれで計画の瓦解を回避するなんて! 現実の書き手側に干渉されているとしか考えようが無い。 「あははー☆ ……おいおい、相変わらず突飛な思考だな、俺。キバヤシかよ」 そんなんだからとんでも話を書くんだとセルフ突っ込みを入れるヨッミー。 だが、口に浮かんだ笑みはすぐに消え、一転して真剣な表情を型作る。 笑い飛ばしきることができなかったのだ。 何故なら、彼には一つ心当たりがあったのだから。 666はオリジナルの派手好き地獄紳士『666』を殺害して成り代わろうと、一度現実世界に干渉している。 もしもその時、666以外の書き手にも干渉していたのだとしたら? wiki管理人の目的は、派手好き地獄紳士『666』だけではなくあらゆる書き手と読み手に経験をフィードバックさせること。 その前準備としての現実世界への接続自体は既に完了し、起動さえさせればいつでもフィードバックを開始できる状態にあったのだ。 加えて、失敗さえしたものの、666はもう少しで、現実世界に干渉できる段階にまで行っていたという。 ならば。 この時、直接干渉には失敗したとはいえ、666の思念の一部は現実世界に届いていたのではないか? それも自身のオリジナルだけではなく、現実の他の書き手や読み手たちにも。 感染源であるバルディッシュが破壊され、光弾が貫通しゲートを破壊するまでの束の間。 ゲートは僅かながらにも驚きの黒さから抜け出し本来の役目を取り戻していたとしたら。 繋ぎ師が世界を隔離するまでのほんの刹那のその時間に。 wiki管理人の手ではなく、読み手K.K.の手でもないが、皮肉にも666の手により起動させられていたゲートからフィードバックが一瞬でもなされたこととなる。 結果的にはコンマ1秒にも満たない時間では、一人に絞れず拡散した思念でオリジナルを殺すことも乗っ取ることもできはしなかったが、 引き換えに切り札たる胎児の計画について全書き手達の深層意識に刻むこととなったのだ。 そうなってしまえば、彼らはパロロワ書き手。 こんなおいしいフラグを無碍に折ることはできず、無意識のうちにほごしてしまっていたのだ。 あるいは、666はそこまで計算して事を成したのかもしれなかった。 「ありえねー、すんげえありえねー」 軽口を叩き、自己の妄想を笑う心とは裏腹に、ヨッミーの頭の中では次々と疑惑が広がっていく。 そもそもフィードバックされたのは、本当に666の思考だけなのか? 半壊したダイダルゲートでは、いかな666とて、全ての経験を回収しきれたとは思えない。 取りこぼされた分の経験が無理やり再起動させられたゲートから漏れ出していたとしてもあり得る話だ。 なんせ現実世界との隔離は不完全なものだと書いたのは他ならぬヨッミーなのだから。 「いやいや、もしこの仮説が正しけりゃ俺達になんの影響も出ていないわけ……」 ヨッミーは眼を見開き、言葉を詰らせる。 ぐるぐるとぐるぐると。 彼の脳内で想像が一つの終着点へと向かっていく。 そもそも、wiki管理人は何の為に書き手達の殺し合いの記憶をフィードバックさせようとしたのだ? 書き手を進化させるためだ。 更に、読み手との取引でフィードバックは現実世界の読み手にも行われることになっていた。 しかしながら一つ疑問がある。 果たして書き手の経験を流したところで、読み手としての成長を促すことはできるのだろうか? 書き手の苦悩がわかり、軽はずみな行動に出なくなるとでもいうことなのか。 ヨッミーの考えは違った。 得られるのが書き手達の経験なのだとしたら、それを得た者もまた…… 「書き手に、なる、か」 K.K.。 wiki管理人が読み手を信じられなかったように、あの少女は読み手を信じられなかった。 だから適応した読み手を書き手とし、適応しなかった者を排除するフィードバックは、彼女にとって理想の手段だったのだ。 内輪の書き手だけによる閉じた世界。 そんなものが、彼女の望んだパロロワ界。 ……いや、あるいは。 単に、なりたかっただけなのかもしれない。 K.K.もまた、書き手という存在に。 「なあ、wiki管理人、K.K.、見てっか?」 天井を見上げ、呟くヨッミー。 書き手ロワ書き手である彼が決めつければ、wiki管理人の思考も、K.K.の理想も全て考えた通りが真実となる。 けれども、彼は仮説を仮説のまま扱うことにした。 だって、フィードバックが行われた結果、彼が書き手になったというのなら。 wiki管理人も、K.K.も、参加者達も、ジョーカー達も。 みんな、みんな、二次元の中だけじゃなくて、本当に居たことになるから。 こことは別の世界、例えばパロロワ界に関わる人間達の、記憶・心による集合無意識たるCの世界で。 そして、彼らの描いてきた物語は、本当にあったことで、書き手達の分身の生き様の断片なのだ。 こうに決まってる、と独りよがりで断定していいはずがなかった。 「3人、いや、あの死亡補完話に影響されたあの人も入れたら4人か。少なくともあんたらの計画で新しい書き手は生まれたからさ」 紡がれるのは鎮魂の子守唄。 書きたかった。 二次小説が好きで、パロロワ界に流れ着いて。 すぐに、ヨッミーはこの世界にハマった。 熱血、鬱、笑い、ほのぼの、恋、愛、友情、切なさ、感動、ガチバトル、知略、考察、強さ、弱さ。 言葉では到底現わしきれない心を揺さぶる作品を毎日、毎日、読んでいった。 こんな作品を書ける書き手さん達はすごいという尊敬は、いつしか憧れに変わり、自分も書きたいと願うようになった。 その願いを叶えるきっかけを与えてくれたのが、書き手ロワ2ndだった。 「既存の書き手や読み手にもフリーダムなこのロワは、良い息抜きや刺激になったと思うから」 残り滓程の経験では、あの二人が望んだような劇的な変化をもたらすには遠く及ばなかった。 それでいいとヨッミーは思う。 何も慌てることは無い。 少しずつ、少しずつ。 書き手も読み手も 前へ進んでいけばいい。 「もう、心配すんな。ゆっくり休め」 Wiki管理人たちのやり方は間違ってはいたけれど。 それぞれが、それぞれの思いを貫いた結果、現実世界では誰も犠牲にせずに、一歩前進することができた。 トゥルーじゃなくても間違いなくハッピーエンド。 「ネコミミスト。もう、こっから先は、俺達にお前の物語を知るすべも、書くすべもない。  だからって負けんじゃねえぞ? お前もさ、ハッピーエンド迎えていいんだからよ。いつかは幸せにな」 どこか別の世界で戦っている少女にエールを送る。 「継承石。爆弾やロリスキーの件もあるし、まだ力発揮し続けてるのかねえ?」 ロワ書き手としては安易な救済は御免被るが、一人の人間としては幸福を冥福ついでに祈るのもありだなと、男は笑う。 「んでもってよ、次の主催者さん? 俺達を舐めんじゃねえぞ? 絶対たまげさせてやっからよ!」 調子に乗っ天元突破をした奴の結晶を、何でもできると奢っている奴を、とびきり驚かせてやるのも悪くは無い。 自他ともに認める自重しない男は、画面に向けて宣戦布告する。 ちなみに3rdがあったところで、参加者に選ばれるとは限らないのだが、ちゃっかり無視しているあたりが彼らしい。 「さあってと、投下はもう明日でいっか」 とはいえ、流石に眠くなってきたのか、ボタンを押してシャットダウン。 席を立ち、布団へと歩を進めようとして。 とん。 誰かに、肩を、叩かれた。 「え?」 恐る恐る振り向くも、自分以外の誰も存在しないことに安堵する。 気のせいだったと判断し、再び背を向けるヨッミーが気づくことはなかった。 画面の消えた筈のPCから伸びゆく二本の腕に。 新たに表示された文字群に。 『ようこそ、書き手ロワ3rdへ』 手洗いにでも行ったのか。 先刻まで光が漏れていた部屋からは、主の姿だけがぽっかりと失われていた。 否。 もう一つ変化した場所がある。 PCだ。 再起動したスクリーンが映すのはとあるサイトのとあるレス。 『代理投下、完了』 ――To Be Continued ? |305:[[らき☆すた 第X話 あるいはこんな日常]]|投下順に読む|[[とある読み手の裏後日譚]]| |305:[[らき☆すた 第X話 あるいはこんな日常]]|時系列順に読む|[[とある読み手の裏後日譚]]|
カタカタカタ。 静寂を常とする夜の闇の中、不規則に音が響く。 時は丑の刻に至ろうとしていたが、藁人形に五寸釘を打ち込んでいるというわけではない。 音の発生源がある場所は神社などという格式高いものとは違う。 とある一軒家のとある一部屋。 灯の消えた中、唯一の光源であるパーソナルコンピューターからであった。 まあ、パソコンが独りでに動いていれば、それはそれで怪談だが勿論そうではない。 タイピングされる以上、打ち手たる人間もまた存在するのである。 「終わった、か」 年の項は20代前半だろうか? 特に目立ったとこもない凡庸な男性だ。 真っ暗な部屋で光を抑えるため布団をかぶって延々とモニターに向かってる様は怪しくないこともないのだが。 一部ではパンダと暗喩される災害を逃れるために、そこまでして男が覗きこむのはとあるwebページ。 ある種のリレー二次小説の作者を、擬人化ならぬ擬キャラ化し、物語を紡いでいくというサイトであった。 ここまで言ってしまえば、気付いた方もいるであろう。 そう、彼こそは書き手ロワ2ndの専属書き手にして、ヨッミーと自称している者、その人である。 「こうして読み返すと一際感慨深いものだなあ」 中核の一人として自らが関わってきた企画の完結が彼にもたらしたのは、抑えきれない喜びと一株の寂しさ。 もう二度と、今回の書き手達の祭典の為に筆を取ることが無いのだということを今更ながらに実感する。 思えば随分無茶をしたものだ。 ヨッミーは苦笑する。 彼は良く言えばスケールの大きい、悪く言えば自重しない書き手であった。 他の作者との連携が必須であるリレー小説において、一歩間違えれば足を引っ張りかねない特性だ。 それでもその企画が無事、未完にならず、最終回まで行きついたのは、偏に土壌が良かったのか、フォローの上手い友のおかげか。 どっちもだろなあと、己が幸運を噛み締める。 「幸運、か」 そこでふとヨッミーの脳裏に浮かぶのは、最終回の後に投下された一つのエピローグ。 派手好き紳士『666』と呼ばれる彼の尊敬する書き手のうちの一人が投下した作品。 「ありゃあ参った」 自他の作品に存在していた数多ものある種の穴を突いた大どんでん返し。 前々からプロットはあったとは聞いていた。 しかし、よくもまあ、潰されなかったものだ。 リレーという形式をとる以上、自分の思い通りに全てのことが運ぶなんてありえないというのに。 「これじゃあまるで、書き手ロワ2内の666みたいじゃないか」 突かれた穴の幾つかは、彼が書いた作品のものだった。 例えば666に詳細描写なしで首輪をはずさせた。 ある時はプー太氏のタロットを666から感電に渡させた。 またある時は666が手を加えたバルディッシュをダイダルゲートに埋め込待させた。 特に最後に手掛けた作品、最終話の一つ手前の物においては、まさにぎりぎりだった。 備考に掲載する文章は、つまるところ結果を分かりやすく伝えれればいい。 故に、表現の仕方が僅かに違ったところで、彼の話自体は破綻しはしなかったのだ。 もし彼が『ダイダルゲートは消滅しました』と書いていたら? 完全に残骸が残っていなければ666とて取り込めなかっただろう。 もし彼が『集めていた経験は全て吹き飛びました』と書いていたら? 所持することあたわず、666はお宝を手に入れることはできなかったはずだ。 いや、それ以前にもしもテンポを考えて簡素化したブッチギルンジャー達の動向を詳しく書き込んでいたのなら。 ダイダルゲートは正常なまま、破壊されたと記載され、驚きの黒さに侵食されていたと後付けすることも叶わなかった。 ヨッミーは気づく。 待て、ちょっと待てと。 あまりにも666に都合がよく事が運び過ぎている。 一つ一つはほんの些細なことだが、ここまで積み重なってしまっては偶然とは思えない。 これが一人の作者による下準備のもと行われたのならともかく、数人の人間が別々に描いた作品を下地にしているのだ! 偶然残ったのだというのなら、まさに奇跡だ。こんなにすれすれで計画の瓦解を回避するなんて! 現実の書き手側に干渉されているとしか考えようが無い。 「あははー☆ ……おいおい、相変わらず突飛な思考だな、俺。キバヤシかよ」 そんなんだからとんでも話を書くんだとセルフ突っ込みを入れるヨッミー。 だが、口に浮かんだ笑みはすぐに消え、一転して真剣な表情を型作る。 笑い飛ばしきることができなかったのだ。 何故なら、彼には一つ心当たりがあったのだから。 666はオリジナルの派手好き地獄紳士『666』を殺害して成り代わろうと、一度現実世界に干渉している。 もしもその時、666以外の書き手にも干渉していたのだとしたら? wiki管理人の目的は、派手好き地獄紳士『666』だけではなくあらゆる書き手と読み手に経験をフィードバックさせること。 その前準備としての現実世界への接続自体は既に完了し、起動さえさせればいつでもフィードバックを開始できる状態にあったのだ。 加えて、失敗さえしたものの、666はもう少しで、現実世界に干渉できる段階にまで行っていたという。 ならば。 この時、直接干渉には失敗したとはいえ、666の思念の一部は現実世界に届いていたのではないか? それも自身のオリジナルだけではなく、現実の他の書き手や読み手たちにも。 感染源であるバルディッシュが破壊され、光弾が貫通しゲートを破壊するまでの束の間。 ゲートは僅かながらにも驚きの黒さから抜け出し本来の役目を取り戻していたとしたら。 繋ぎ師が世界を隔離するまでのほんの刹那のその時間に。 wiki管理人の手ではなく、読み手K.K.の手でもないが、皮肉にも666の手により起動させられていたゲートからフィードバックが一瞬でもなされたこととなる。 結果的にはコンマ1秒にも満たない時間では、一人に絞れず拡散した思念でオリジナルを殺すことも乗っ取ることもできはしなかったが、 引き換えに切り札たる胎児の計画について全書き手達の深層意識に刻むこととなったのだ。 そうなってしまえば、彼らはパロロワ書き手。 こんなおいしいフラグを無碍に折ることはできず、無意識のうちにほごしてしまっていたのだ。 あるいは、666はそこまで計算して事を成したのかもしれなかった。 「ありえねー、すんげえありえねー」 軽口を叩き、自己の妄想を笑う心とは裏腹に、ヨッミーの頭の中では次々と疑惑が広がっていく。 そもそもフィードバックされたのは、本当に666の思考だけなのか? 半壊したダイダルゲートでは、いかな666とて、全ての経験を回収しきれたとは思えない。 取りこぼされた分の経験が無理やり再起動させられたゲートから漏れ出していたとしてもあり得る話だ。 なんせ現実世界との隔離は不完全なものだと書いたのは他ならぬヨッミーなのだから。 「いやいや、もしこの仮説が正しけりゃ俺達になんの影響も出ていないわけ……」 ヨッミーは眼を見開き、言葉を詰らせる。 ぐるぐるとぐるぐると。 彼の脳内で想像が一つの終着点へと向かっていく。 そもそも、wiki管理人は何の為に書き手達の殺し合いの記憶をフィードバックさせようとしたのだ? 書き手を進化させるためだ。 更に、読み手との取引でフィードバックは現実世界の読み手にも行われることになっていた。 しかしながら一つ疑問がある。 果たして書き手の経験を流したところで、読み手としての成長を促すことはできるのだろうか? 書き手の苦悩がわかり、軽はずみな行動に出なくなるとでもいうことなのか。 ヨッミーの考えは違った。 得られるのが書き手達の経験なのだとしたら、それを得た者もまた…… 「書き手に、なる、か」 K.K.。 wiki管理人が読み手を信じられなかったように、あの少女は読み手を信じられなかった。 だから適応した読み手を書き手とし、適応しなかった者を排除するフィードバックは、彼女にとって理想の手段だったのだ。 内輪の書き手だけによる閉じた世界。 そんなものが、彼女の望んだパロロワ界。 ……いや、あるいは。 単に、なりたかっただけなのかもしれない。 K.K.もまた、書き手という存在に。 「なあ、wiki管理人、K.K.、見てっか?」 天井を見上げ、呟くヨッミー。 書き手ロワ書き手である彼が決めつければ、wiki管理人の思考も、K.K.の理想も全て考えた通りが真実となる。 けれども、彼は仮説を仮説のまま扱うことにした。 だって、フィードバックが行われた結果、彼が書き手になったというのなら。 wiki管理人も、K.K.も、参加者達も、ジョーカー達も。 みんな、みんな、二次元の中だけじゃなくて、本当に居たことになるから。 こことは別の世界、例えばパロロワ界に関わる人間達の、記憶・心による集合無意識たるCの世界で。 そして、彼らの描いてきた物語は、本当にあったことで、書き手達の分身の生き様の断片なのだ。 こうに決まってる、と独りよがりで断定していいはずがなかった。 「3人、いや、あの死亡補完話に影響されたあの人も入れたら4人か。少なくともあんたらの計画で新しい書き手は生まれたからさ」 紡がれるのは鎮魂の子守唄。 書きたかった。 二次小説が好きで、パロロワ界に流れ着いて。 すぐに、ヨッミーはこの世界にハマった。 熱血、鬱、笑い、ほのぼの、恋、愛、友情、切なさ、感動、ガチバトル、知略、考察、強さ、弱さ。 言葉では到底現わしきれない心を揺さぶる作品を毎日、毎日、読んでいった。 こんな作品を書ける書き手さん達はすごいという尊敬は、いつしか憧れに変わり、自分も書きたいと願うようになった。 その願いを叶えるきっかけを与えてくれたのが、書き手ロワ2ndだった。 「既存の書き手や読み手にもフリーダムなこのロワは、良い息抜きや刺激になったと思うから」 残り滓程の経験では、あの二人が望んだような劇的な変化をもたらすには遠く及ばなかった。 それでいいとヨッミーは思う。 何も慌てることは無い。 少しずつ、少しずつ。 書き手も読み手も 前へ進んでいけばいい。 「もう、心配すんな。ゆっくり休め」 Wiki管理人たちのやり方は間違ってはいたけれど。 それぞれが、それぞれの思いを貫いた結果、現実世界では誰も犠牲にせずに、一歩前進することができた。 トゥルーじゃなくても間違いなくハッピーエンド。 「ネコミミスト。もう、こっから先は、俺達にお前の物語を知るすべも、書くすべもない。  だからって負けんじゃねえぞ? お前もさ、ハッピーエンド迎えていいんだからよ。いつかは幸せにな」 どこか別の世界で戦っている少女にエールを送る。 「継承石。爆弾やロリスキーの件もあるし、まだ力発揮し続けてるのかねえ?」 ロワ書き手としては安易な救済は御免被るが、一人の人間としては幸福を冥福ついでに祈るのもありだなと、男は笑う。 「んでもってよ、次の主催者さん? 俺達を舐めんじゃねえぞ? 絶対たまげさせてやっからよ!」 調子に乗っ天元突破をした奴の結晶を、何でもできると奢っている奴を、とびきり驚かせてやるのも悪くは無い。 自他ともに認める自重しない男は、画面に向けて宣戦布告する。 ちなみに3rdがあったところで、参加者に選ばれるとは限らないのだが、ちゃっかり無視しているあたりが彼らしい。 「さあってと、投下はもう明日でいっか」 とはいえ、流石に眠くなってきたのか、ボタンを押してシャットダウン。 席を立ち、布団へと歩を進めようとして。 とん。 誰かに、肩を、叩かれた。 「え?」 恐る恐る振り向くも、自分以外の誰も存在しないことに安堵する。 気のせいだったと判断し、再び背を向けるヨッミーが気づくことはなかった。 画面の消えた筈のPCから伸びゆく二本の腕に。 新たに表示された文字群に。 『ようこそ、書き手ロワ3rdへ』 手洗いにでも行ったのか。 先刻まで光が漏れていた部屋からは、主の姿だけがぽっかりと失われていた。 否。 もう一つ変化した場所がある。 PCだ。 再起動したスクリーンが映すのはとあるサイトのとあるレス。 『代理投下、完了』 ――To Be Continued ? |305:[[らき☆すた 第X話 あるいはこんな日常]]|投下順に読む|307:[[とある読み手の裏後日譚]]| |305:[[らき☆すた 第X話 あるいはこんな日常]]|時系列順に読む|307:[[とある読み手の裏後日譚]]|

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