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「愛は運命 運命は――」(2008/08/03 (日) 02:53:32) の最新版変更点
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声が、聞こえた。
少女の泣き叫ぶ、声だった。
『どうしてよ、どうしてええ!! 私は、ちぃちゃんを、愛してるのに!』
止めたいと、思った。
今すぐにでも彼女の元に駆けつけ、その涙を拭いたいと思った。
それができずに、何が仮面ライダーか、と!
けど、俺の身体は動かない。
言うことを聞いてはくれない。
だから、頼む。
誰か、誰でも良い。彼女を、彼女を救う力を俺に!
――はい、私で良ければ……。
君は?
――魔導書……、いえ、ただの辞書です。世界で10番目位には幸福な。
荒涼とした廃工場の世界。
いや、むしろ廃工場『だった』世界は今まさにカオスの様相を成していた。
巨大な怪獣が何でか知らないが鉢巻を巻いて正座しつつ、段ボールの上に乗った問題集を解かされているのである。
「くすり。さすがのうたわれるものもここまでみたいね!」
「っく、スーパー情報タイムだと!?やめろ、これだけの情報を整理するなど、我とて!
いや、ってか何故に会社行かないでいいはずのロワ内でまで仕事させられているのだー!!」
戦闘開始数十分。
最初こそ精神世界を吹き飛ばしかねないガチバトルをしていた二人だが、
いつの間にやら精神世界を塗り替えかねないバトルへと発展していた。
現在はドSのターン。
すっかり売れっ子だけど締め切り間際の漫画家が住んでいるぼろアパートと化している。
「きっちりなさい、きっちりなさい!」
「ぐ、グオオオ!」
「無限の情報の海に沈んじゃいなさい!」
キラーンとでこを光らせつつ、次々と書類を追加するドS。
当分最速の男は天を仰ぎ続けるはめであるようだ。
そんな一室の隅っこに、ぐるぐる巻きに縛られて転がされている男の眼は未だ覚めそうにない。
▼
HIMMELエリア・大蟹杯の間。
バトルマスターが倒れ、蟹座氏が倒れ、七氏が倒れ、プー太氏が去った今、この地は無人のはずだった。
しかし、彼女はいた。
ギャルゲロワ最後の生き残り、ツキノン。
プー太氏から逃げ出したはずの彼女は、誰も居ないことを確認して再び舞い戻ってきたのだ。
「大蟹杯……。これさえ破壊すれば!」
声が聞こえたのだ。
地球破壊爆弾とロリスキーがピンチであり、彼女達を救う為に大蟹杯を破壊してくれという声が。
弱々しく、今にも消えそうだった為、誰が発したものかは分からなかった。
それでも、私は信じる。
大切な仲間を助けて欲しいという切なる願いを!
「っはあ!」
柳桜を抜き、神の力を開放。
左手に雷を召喚し、撃ち出す。
「行くのです!」
されど雷弾は飲み込まれる。黒い、黒い、泥の塊に。
「不浄なるものよ、去れ!!」
再び雷弾を生み出し、撃ちつける。
一つで駄目なら二つ、二つで駄目なら三つ!
四つ、五つ、六つ、七つ八つ九つ……無数!!
撃つ、撃つ、撃つ、撃つ、討つ!!
「ああああああああああああああああああ!!」
足りない。
まだ足りない。
大蟹杯は巨大な黒い蟹の化け物を生み出し続ける。
どこか蟹座氏の子、バッドカニパニーを思わせる怪物達を。
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!
――蟹座じゃ、ないもん。
声が、響く。
母による、己が存在を否定する声が。
その事実に耐えかねたブラックカニパニー達は、あるがままの姿を放棄。
蟹以外の存在へと姿を変える。
新機動戦記ガンダムウィングに登場する自立型無人モビルスーツ、ビルゴⅡへと。
「っな!?」
ツキノンの驚愕は一瞬。
すぐにオヤシロバリアーを展開し、ビームキャノンの一斉砲撃に備える。
プラズマイトディフェンサー
幸運だったのは、パイロット無しでも力を行使しやすいモビルドールを選んでくれたことか。
万一ウイングゼロにでも変化されていたらバスターライフルの集団砲撃で消し飛んでいただろう。
バリア貫通属性のあるあれはオヤシロバリアーでは防げない。
とはいえ依然絶体絶命なのには違いない。
「数が、多すぎる!!柳桜閃哮!!」
柳桜から発生させたビームで薙ぎ払おうとするも、思ったよりも成果得られない。
集団でのプラネイトディフェンサーにより発生した電磁フィールドにより、威力を削がれたからだ。
そうこうする間にも増え続けるビルゴⅡ。
柳桜と神の世界を換装しつつ耐え凌いでいると、再び声が響いた。
技の発動としてではない。
意思と意味のの込められた言葉が。
――そう、もう一人の私は、死んだんだ。
「え?」
我が耳を疑う。
待て、今の声を私は知っている。
けど、そんなはずは!
あうあうあうあうあう!!
――間違ってはいないよ、羽入。いえ、ツキノン。ボクも……ううん、私も、蟹座氏だよ。
「あぅあぅ、黒い、蟹座氏なのですか? 蟹座氏から切り離されたっていう……」
――正式には、蟹座氏の暗黒面。蟹見沢症候群とも呼ばれてるよ。……あはは♪
蟹座じゃないもんの暴走を食い止める為に産み出されたもう一人の蟹座氏
その正体は、かって驚きの黒さと666のペテンに騙され暴走していた蟹座氏に立ち直る欠片を与えた彼女に他ならない。
そこまでは知る由の無いツキノンだが、第二人格のようなものとはいえ蟹座氏に再び会えた喜びは大きかった。
「待っててくださいなのです!今すぐその大孔から開放しますのです!」
よく見れば巨大な塔の頂上に開いた穴には一人の黒い少女が囚われているではないか。
彼女を救うことこそが、蟹座氏とバトルマスターを救えなかっ自分にできる唯一の罪滅ぼしだと気持ちが逸る。
けど。
――開放する♪あはは、してどうするんだよ……。私の宿主は、もういないんだよ。
「そ、それは!!」
――私ね。期待してたんだ、少し。いつかあの子が私を受け入れてくれるって。この孔から。そして彼女の心の牢獄からも開放してくれるって。
「か、蟹座氏?」
――もちろん師匠の説得は命懸けだってわかってたよ。だから、彼女が殺されても仕方ないって諦めもしていた。
ゴポリ、ゴポリと、感情の昂ぶりに合わせて大蟹杯から泥が漏れ出すペースが上がっていく。
――そしたらさ。ししょーになら殺されてもいいって思ってたんだ♪ 憧れの人の胸でってのも乙じゃん♪ でも……。
ゴポリ、ゴポリ、ゴポリゴポリゴポリゴポリゴポリ!!
――二人とも、いなくなっちゃった。私を置いて、汚いものに封して、死後は仲直りして、行っちゃった……。
「わ、私は!!」
たまらず続かない。続けられない。
私は、何だって言うんだろうか?
二人を見殺しにしたのは事実だ。
一騎打ちなんて許さなかったら蟹座氏は死ぬことなくマスターに勝てたのかもしれない。
はぶられたらはぶられたで、もう一人の敵である七氏にもっと注意を払っていれば、マスターは殺されずに済んだのかもしれない。
私にもっと力があれば、この子に、黒い蟹座氏に、こんな寂しい思いをさせれずに済んだのかもしれない。
自責の念に囚われるツキノンにでもね、と優しく、けれども虚ろなまま黒い蟹座氏は告げる。
――ツキノンが悪くないのはわかってる。けど、私の気がこのままじゃ収まらない。
どっちみちそれしか手段が無いから、迷わないで良いからと。
――爆弾とロリスキーを見殺しにしたくないというのなら、あはは、私を殺していきなよ、ツキノン!!
ゴポリゴポリゴポリゴポリゴポリゴポリゴポリゴポリゴポリゴポリゴポリゴポリゴポリゴポリゴポリ!!
「蟹座氏ーーーーー!!」
大蟹杯の間を、黒き泥の洪水が埋め尽くした。
▼
ちぃちゃんの心臓を手に、どれだけ逃げ切っただろうか?
煉獄は姿を変え、未だに私を捕え続けていた。
どれだけ攻撃を避けようとも、どれだけ攻撃を加えようとも。
常にドSは笑みを浮かべたまま無傷で私を追い続けている。
「っはあ、っはあ、っはあ!」
「おやおや、どうしたのです、ロリスキー?随分お疲れのようですが?」
「う、うっさい!!まだよ、まだまだ私はああ!!」
襲い来るいくつもの光弾を、ヴァルセーレの剣で薙ぎ払い、マジシャンズレッドの炎で焼き尽くす。
ボルティックシューターは如何に強いとはいえエネルギー弾だ。
力を吸い取るヴァルセーレの剣は相性的にも効果的だ。
どうせ無限ホーミングの効果持ちだ。
なら、徹底的に力を吸い取りつつ、弾丸を潰しつくす!!
「でああああああああああああああああ!!」
斬る、斬る、斬る、斬る、斬る!!
剣なんて使い慣れてはいないが、今の私にとってヴァルセーレの剣は文字通り手足も同然だ。
ドSからちぃちゃん守る戦いが始まって早々、触手を全て開放。
翼同様刃を生やし、手数の圧倒的増加を目指したのだ。
「うふふふ~♪ やりますねえ、でもこちらこそまだまだですよ~っと♪」
エネルギー弾が効かないと見て取ったから、ではなく、単に現状に飽きたというただそれだけの理由で接近戦へと移行する。
「ちぇい~んじ、DSRエーックス!!」
場違いの暢気なセリフを帯びて顕現するは、漆黒の肌に白銀の鎧を身に纏った悪魔、仮面ライダーBLACK DSRX。
初見の時こそ柊かがみとしての性と楽観からノリツッコミを入れられたロリスキー。
だが、今の彼女からすればDSRXはあの時の繋ぎ師のイメージも相まって恐怖の象徴であった。
『月は朝に蹂躙され、太陽は夜に虐殺され、ライダーは正義の名の下怪人を殲滅する――――――
我は絶望のシ者、仮面ライダーDEVIL SRX!!』
怖かった。
DSRXよりも、むしろその前。
憎悪と怒りに駆られ倒すべき敵しか見ていないその有様は、まさにそう、
「嫌だなあ~、こんな悪者っぽい正義の味方、いるわけ無いじゃないですか~。怪人ですよ、私は」
怪人だった。
!!
今、私は、何を考えた?
「絶望したー!!仲間の正義の味方を怪人呼ばわりする女子高生に絶望したー!!」
わ、私が、繋ぎ師を? 大切な、仲間を?
「ですからさっきから言ってるでしょう? 真の愛の対象以外の相手には人は自然と残酷になれるのですよ」
「もっとも。愛の無い自然な残酷さでは、愛のある故意の残酷さには何倍も劣りますがね!!」
にいいいっっと口を歪めつつドSは手を伸ばす。
青い腕、エレキハンドを。
「い、いやあああああああ!!」
全身に生やしたヴァルセーレの剣によりエネルギーを吸収できるロリスキーは良い。
電気攻めであっても今の状態では痛くも痒くもない。
けど、抱きかかえている爆弾はどうだろう?
銀の針に串刺しにされ、一向に再生する素振りを見せないちぃちゃん。
人間の場合は抜かない方が失血しないで良いというが、ちぃちゃんは吸血鬼で、既に出血過多の状況だ。
銀による治癒の妨害さえ無くなれば助かるのではと既に抜くことも試みた。
けど、諦めざるを得なかったのだ。
針の先に『返し』が付いていたからだ。
かってドSがコ・ホン・ブックに使い彼女を絶望に陥れた優れもの。
引っ張って抜くと☆型に肉が抉れるあの返しが。
ロリスキーには選べなかった。
無理してでも引き抜いたほうが、後々のことを考えると良いのかも知れないとも思いはした。
それでも。
自分の手でこれ以上愛する人を傷つけることはできなかった。
そんな彼女を哀れみと愉悦の篭った目で見下ろしドSは告げる。
「困りましたね。ヴァルセーレと銀、どちらに電気は惹かれるのでしょうか?
一応糸色望は先生なんですが、流石にこれは東大教授になりきっても答えられない疑問ですねえ。
では試してみましょう。実験あるのみです。あ、そうそう、酸化していない銀はかなり通電性が高いですよ?」
っつ!!
駄目だ、この攻撃はなんとしても防がなければ!
放たれた雷撃を前にしてロリスキーはカードを翳す。
長い長い逃走劇の間に回収したクロウカードが一つ、シールド。
自身に魔力が無い故に、同じく拾っていたレヴァンテインからカートリッジを抜き取り魔力タンクとして消費しての発動だ。
「盾よ!!」
鍵も無しでの発動だが、カード本来の大事なものを守ろうとする性質が幸いし、見事爆弾を守りきる。
安堵するも束の間、ドSが即座に生成したシャドーセイバーの二刀が、障壁を容赦なく寸断する。
「……あ」
「盾のカードは剣に弱い。絶望先生の特別授業です」
さらりと原作を再現しつつ、片方の剣を霧散させる。両の手が塞がってては、エレキハンドは使えない。
「では、講義の後は問題を出しませんと」
じゃじゃじゃん!っとアカペラでのBGMも忘れないあたりは流石はラジオの常連なだけはある。
「問題です、さあ貴女は次にどうすればよいのでしょうか?」
「1.ちぃちゃんを置いて逃げる 2.このままじり貧になる 3.ちぃちゃんの身代わりに電撃を受ける」
「難しい、実に難しい問題です」
「そ そんなの、答えなんて一つしか……」
「ほんとに~? もちろんヴァルセーレは無しでですよ? 貴女に耐えられますか?」
――バイオライダーと同じ、仮面ライダーの力に。
明らかにロリスキーの顔が青ざめる。
もはや彼女が抱いた繋ぎ師とドSへの恐怖は捻じりに捻じれて仮面ライダーそのものへの恐怖となっていた。
「ねえ、置いて逃げるのも手ですよ? 戦術的撤退って言うじゃないですか。
一度逃げて落ち着けば、誰もが助かる素晴らしい案が思いつくかも知れませんよ?」
じわり、じわりとドSの甘言がロリスキーの心を絡めとって行く。
人は自分のしたくないことをする必要性に迫られた時、どうにかしてしないで済む理由を探すものだ。
見つからなければ問題ない。
渋々ながらも実行するまでだ。
だが、もっともそうに思える理由が見つかってしまったら?
誰か他人に、教えられたとしたら?
「……三番よ」
耐えた。
クールなロリスキーはその誘惑に耐えた。
愛を証明する。
その至上目的を達成する為に茨の道を選びとることができた。
ほうっとドSが感心したように顔を綻ばせる。
――もちろん、どっちを選んでも最終的には意思を砕けるよう仕組んではいるのだが。
「素晴らしい!! 大事なことなので何度でも言いますが、実に健気だ!!
ですがね、ロリスキー。一度実際に味わってからも同じことが言えますかな?」
「うっさい!! 煮るなり焼くなり早くしなさいよ!!」
自分でも強がりとわかってはいるがせめてと眼を瞑らずにドSを睨みつける。
そんななけなしの抵抗すらも数秒後には折られることとなった。
「おお、怖い怖い。では、ぽちっとな」
「ぎぎゃああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
青白い光がホールに広がり、空気を震わせるほどの絶叫が響き渡る。
「うがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」
ロリスキーは指先の感覚が無くなるほどの電撃に、全身を仰け反らせながら激しく痙攣させ続ける。
止まない。真っ白に染まった世界の中、延々と肉食獣のような咆哮が。
「ばあああっ! あ、があっ、わあああああああああっ!!
お、お、おおっ、おおぉぉオオォおおおぉぉォおおオオオオオオォォォォーーーーーーーーーーーーーー……が……ひ…………ぃ……」
そして聞こえた。
「――ああ、美しい。絶望の光に呑まれもがく貴女はなんて美しい……」
ついに声を出すこともできなくなり、ガクガクと体を震わせるだけの反応しか示さなくなったロリスキーを感極まった様子で見下ろすサディストの声が。
▼
「っあぐ!!」
開戦当初こそ、時止めや障壁、極太ビームといった多彩な技でビルゴⅡを翻弄していたツキノンだったが、
圧倒的な数の暴力の前には抗うことはできなくなっていった。
鬼狩柳桜の力による覚醒は確かに強力だ。
しかし、それはあくまでも常識的なロワにおいての話だ。
チートが蔓延しているこの世界では決定力足りえない。
そもそもツキノンがなりきり対象として羽入を選択したのは戦力が理由では無い。
時と空間を操る力が、この世界と現実世界との完全隔離を実行するに至って役立つと踏んだからだ。
そう、ツキノンが目指したのは『真の対主催』で言う第二方針。
wiki管理人の打破、及びダイダルゲートの完全破壊、さらにこの世界と現実世界との完全隔離によるフィードバックの阻止だ。
wiki管理人の目的を知った時、合同最終回へと進んでいたギャルゲロワの一員として、
最も至難で、されど、最小の犠牲で済む方法を彼女は自らの行動方針に据えたのだ。
だが、内部から暗躍しようとしていた彼女は、思わぬうっかりでwiki管理人に思惑がばれてしまい、
同志であった漫画ロワ管理人ともども支給品の中に封じられてしまったのである。
「っく、こんなことなら、アセリアや悠人あたりになりきっておくべきでした!!あうあうあうあう!!」
なんとか礫殺されないよう、オヤシロバリアーで吹き飛ばし、
オヤシロ・ザ・ワールドで時間が停止している間に距離を稼いではいるが、それももう限界だ。
遠くないうちにツキノンは蹂躙される。
「何か! 増殖速度を上回る威力を持った何かが!!」
無いわけでは無い。
蟹座氏が残したデイパックには世界を丸ごと焼き払うほどの魔力を秘めたドラゴンオーブがある。
されど、それでは駄目だ。
威力が強すぎて今も生き残っている参加者達の命まで奪いかねない。何より……!!
――殺してくれないの、ツキノン♪ そっか、お前も私を置いて逝くんだ。
それで、いいのか?
本当に大蟹杯ごと黒い蟹座氏を殺せば、彼女を救ったことになるのか?
そんなわけ、ない!!
認めない。私は、こんな運命を、認めない!!
「覆す!! 金魚救いの網程度の運命なんて!!」
そのツキノンの想いに応えるように。
バトルマスターの死体が輝いた。
▼
電撃がやんだ後もロリスキーはしばらく痙攣し続けていた。
「ぐ、あ…………おぉ……。い…………あぁ………ッ!!!」
辛うじて意識は残ってるが、ただそれだけとも言える。
目の焦点は既に合っておらず、明らかに危険な状態に陥っていた。
しかし、ロリスキーはただの人間では無い。
不死者にして吸血鬼だ。
こと再生力の点に限っては、全参加者最高と言っても過言では無い。
果たして、痛みも苦しみも覚えたまま生き続けるのが、幸運かはわからないが。
「ぱちぱちぱちぱち。大したものです、ロリスキー。あれだけやったのに意識を失わないとは」
わざと気絶させないようギリギリの場所で調整していたことはおくびにも出さず、ドSは拍手を贈る。
傷は完治したものの、未だに意識がはっきりとしていないロリスキーは音のする方へとノロノロと顔を向け。
次の一言で一気に意識を覚醒させられた。
「では、もう一度、やってみましょうか?」
「……え?」
「ああ、飽きないように今度は全身を凍らせるのもアリですね」
この男、今なんて?
私に、もう一度、あれを喰らえって?
経験したことのない痛みをまた味わえって?
あまりの事態に愕然とするロリスキーにドSはここぞとばかりに攻め立てる。
「もちろんさっきと同じで今度も選択肢はありますよ?」
「選択、肢?」
再び頭がぼんやりしだす。
選択肢。
自らが選べるということ。
あの苦しみから逃げる余地があるということ。
「ええ。自分の手で、貴女が、選ぶんです」
ロリスキーは爆弾と共にドSと戦っていた時は、一切傷を負わされなかった。
そんな、痛みに慣れていない状態から一気にこの世の地獄に落とされた少女は、
先ほどの電撃の苦痛を思い出しガチガチと震え出す。
無間地獄で味わった苦しみとはまた別の痛み。
あれが、また、無限に続く?
「そうそう、誤解しているようですが、今の私の目的はあくまでも貴女が持っているそれであって、貴女ではありません。
つまりね。貴女が痛い目を見る必要はどこにも無いんですよ」
数分前には抗えたドSの甘言がするりとロリスキーに入り込む。
あえて地球破壊爆弾の名前も出さず、殺す、壊すといった類の言語も使わない。
そうやってロリスキーの思考の鈍化を促す。
「痛く、されない?」
この手に持った“物”を渡せば助かる。
痛い目は、もう嫌だ。
ぴくりと、“それ”を握った腕が動く。
ドSは、その一瞬を逃さずに、最後の一言を、告げ。
「さあ、それを、渡してください」
ロリスキーは、ぼんやりと、その言葉に、従った。従って、しまった。
全てはドSの、思惑どおりに。
「はい、ここまで~。証明完了、QOD~。“クールなロリスキーは、地球破壊爆弾を愛してはいなかった~”」
「あ……」
気づいた時にはもう遅い。
ロリスキーは“自らの保身の為に”“恋人である地球破壊爆弾を”“自らの意志で”“売ってしまったのだ”。
自らがしでかしたことの意味に耐えきれずロリスキーが崩れ落ちる。
もはや叫ぶ気力もなく、ぱくぱくと口を開くも声すら出ない。
その姿を満足げに愛でつつも、ドSもドSで一つだけ、残念がった。
最後の最後。ロリスキーが爆弾の心臓を手放したのは、実は完全には彼女の意志では無く、ドSが細工していたという点をだ。
彼本来の趣味としては自ら折れるのを待ちたいところだったが、そうは言っていられなかった。
圧倒的優位に立っているようだが、この世界にはタイムリミットがあるのだ。
残り2時間と明かされてから、もう随分経つ。
ギガゾンビ城でしか顕現できないドSは、結果はどうあれロリスキーを置いて逝くことになっているのだ。
だからこそ彼は、己が作品の完成を優先した。
シャドームーンの精神操作と、何より無間地獄の時行ったバイオライダーの禁じ手である細胞融合によって。
バイオライダーはゲル化による攻撃無効ばかりが注目されるが、使い道は他にもある。
その最たるものが自らを細胞レベルまで縮め他人と融合する細胞融合だ。
電撃で朦朧としている間にこっそり分離した裏面がロリスキーとの融合を済ませ、
精神と肉体の両方に干渉により操ったのだ。
とはいえ、ばれないよう極力威力は抑えていたため、ロリスキーに抵抗する意識があれば操れはしなかったのだが。
(まあ、仕方がありませんね)
きっちりと心残りを一蹴し、ドSは最後の仕上げへと向かう。
爆弾を、殺す。
するとどうなるか?
本来であればここで爆弾とロリスキーの恋は終わる。
それは途中を維持することこそが不幸だとするドSの説に反することだ。
だが。
地球破壊爆弾No.V-7にはまだ第七形態が残されている。
その事実はもしかしたらとロリスキーに夢を見せる。
その一方でDSRXの最大火力で、希望を抱けないほど凄惨に殺しつくす。
――夢は見れても希望は無い
自らの選択の結果であるがゆえに、悔いることはできても、許しは求められない。
――後悔はあっても懺悔は許されない
殺すのは、ドSだ。
ロリスキーが苦しむのは、ちぃちゃんを殺したことでは無く、もはや隣に誰もいないという現実にだ。
――罰はあっても罪は無い
何よりも、これでもう、自分の愛に疑問を持ったロリスキーは他人を愛せない。
愛せない人間は、真に愛されない。
「ようこそ、ロリスキー。絶望の世界へ……」
胸部装甲に手をかけ、こじ開ける。
左右に内蔵されたディーンの火とディスの火が限界まで力をくみ出す。
出力を開放された心臓がうなりを上げた。
「テトラクテュス・グラマトン!回れ、インフィニティーシリンダー……!!」
究極、絶対消滅の力が胸へ集中する。
僅かに、マシュマーの体が傾いた。目の前が薄く白くなる。
仮面ライダーDSRXの最大攻撃、天上天下業魔無限砲。
その一翼を担う永久機関ディス・レヴは魂を糧とする。
降霊術で呼び出されたドSには、かなりの負担だ。
(思ったより消耗が激しいですね……ですが!)
それを補ってあまりある威力がある。
まさに、絶望を与えられる他がない程の火力が!!
「天上天下、業魔無限砲!!」
姿を顕わにした砲身から、絶望をもたらす破滅の光が、ドSにより宙へと投じられた爆弾の心臓を飲み込んだ……。
▼
|291:[[繋いだ手は離さない]]|投下順に読む|292:[[正義の味方]]|
|291:[[繋いだ手は離さない]]|時系列順に読む|292:[[正義の味方]]|
|290:[[サイサリス]]|地球破壊爆弾No.V-7|292:[[正義の味方]]|
|290:[[サイサリス]]|クールなロリスキー|292:[[正義の味方]]|
|290:[[サイサリス]]|マスク・ザ・ドS|292:[[正義の味方]]|
|287:[[D(後編)]]|影の繋ぎ師|292:[[正義の味方]]|
|289:[[奈落の花]]|ツキノン|292:[[正義の味方]]|
声が、聞こえた。
少女の泣き叫ぶ、声だった。
『どうしてよ、どうしてええ!! 私は、ちぃちゃんを、愛してるのに!』
止めたいと、思った。
今すぐにでも彼女の元に駆けつけ、その涙を拭いたいと思った。
それができずに、何が仮面ライダーか、と!
けど、俺の身体は動かない。
言うことを聞いてはくれない。
だから、頼む。
誰か、誰でも良い。彼女を、彼女を救う力を俺に!
――はい、私で良ければ……。
君は?
――魔導書……、いえ、ただの辞書です。世界で10番目位には幸福な。
荒涼とした廃工場の世界。
いや、むしろ廃工場『だった』世界は今まさにカオスの様相を成していた。
巨大な怪獣が何でか知らないが鉢巻を巻いて正座しつつ、段ボールの上に乗った問題集を解かされているのである。
「くすり。さすがのうたわれるものもここまでみたいね!」
「っく、スーパー情報タイムだと!?やめろ、これだけの情報を整理するなど、我とて!
いや、ってか何故に会社行かないでいいはずのロワ内でまで仕事させられているのだー!!」
戦闘開始数十分。
最初こそ精神世界を吹き飛ばしかねないガチバトルをしていた二人だが、
いつの間にやら精神世界を塗り替えかねないバトルへと発展していた。
現在はドSのターン。
すっかり売れっ子だけど締め切り間際の漫画家が住んでいるぼろアパートと化している。
「きっちりなさい、きっちりなさい!」
「ぐ、グオオオ!」
「無限の情報の海に沈んじゃいなさい!」
キラーンとでこを光らせつつ、次々と書類を追加するドS。
当分最速の男は天を仰ぎ続けるはめであるようだ。
そんな一室の隅っこに、ぐるぐる巻きに縛られて転がされている男の眼は未だ覚めそうにない。
▼
HIMMELエリア・大蟹杯の間。
バトルマスターが倒れ、蟹座氏が倒れ、七氏が倒れ、プー太氏が去った今、この地は無人のはずだった。
しかし、彼女はいた。
ギャルゲロワ最後の生き残り、ツキノン。
プー太氏から逃げ出したはずの彼女は、誰も居ないことを確認して再び舞い戻ってきたのだ。
「大蟹杯……。これさえ破壊すれば!」
声が聞こえたのだ。
地球破壊爆弾とロリスキーがピンチであり、彼女達を救う為に大蟹杯を破壊してくれという声が。
弱々しく、今にも消えそうだった為、誰が発したものかは分からなかった。
それでも、私は信じる。
大切な仲間を助けて欲しいという切なる願いを!
「っはあ!」
柳桜を抜き、神の力を開放。
左手に雷を召喚し、撃ち出す。
「行くのです!」
されど雷弾は飲み込まれる。黒い、黒い、泥の塊に。
「不浄なるものよ、去れ!!」
再び雷弾を生み出し、撃ちつける。
一つで駄目なら二つ、二つで駄目なら三つ!
四つ、五つ、六つ、七つ八つ九つ……無数!!
撃つ、撃つ、撃つ、撃つ、討つ!!
「ああああああああああああああああああ!!」
足りない。
まだ足りない。
大蟹杯は巨大な黒い蟹の化け物を生み出し続ける。
どこか蟹座氏の子、バッドカニパニーを思わせる怪物達を。
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!
――蟹座じゃ、ないもん。
声が、響く。
母による、己が存在を否定する声が。
その事実に耐えかねたブラックカニパニー達は、あるがままの姿を放棄。
蟹以外の存在へと姿を変える。
新機動戦記ガンダムウィングに登場する自立型無人モビルスーツ、ビルゴⅡへと。
「っな!?」
ツキノンの驚愕は一瞬。
すぐにオヤシロバリアーを展開し、ビームキャノンの一斉砲撃に備える。
プラズマイトディフェンサー
幸運だったのは、パイロット無しでも力を行使しやすいモビルドールを選んでくれたことか。
万一ウイングゼロにでも変化されていたらバスターライフルの集団砲撃で消し飛んでいただろう。
バリア貫通属性のあるあれはオヤシロバリアーでは防げない。
とはいえ依然絶体絶命なのには違いない。
「数が、多すぎる!!柳桜閃哮!!」
柳桜から発生させたビームで薙ぎ払おうとするも、思ったよりも成果得られない。
集団でのプラネイトディフェンサーにより発生した電磁フィールドにより、威力を削がれたからだ。
そうこうする間にも増え続けるビルゴⅡ。
柳桜と神の世界を換装しつつ耐え凌いでいると、再び声が響いた。
技の発動としてではない。
意思と意味のの込められた言葉が。
――そう、もう一人の私は、死んだんだ。
「え?」
我が耳を疑う。
待て、今の声を私は知っている。
けど、そんなはずは!
あうあうあうあうあう!!
――間違ってはいないよ、羽入。いえ、ツキノン。ボクも……ううん、私も、蟹座氏だよ。
「あぅあぅ、黒い、蟹座氏なのですか? 蟹座氏から切り離されたっていう……」
――正式には、蟹座氏の暗黒面。蟹見沢症候群とも呼ばれてるよ。……あはは♪
蟹座じゃないもんの暴走を食い止める為に産み出されたもう一人の蟹座氏
その正体は、かって驚きの黒さと666のペテンに騙され暴走していた蟹座氏に立ち直る欠片を与えた彼女に他ならない。
そこまでは知る由の無いツキノンだが、第二人格のようなものとはいえ蟹座氏に再び会えた喜びは大きかった。
「待っててくださいなのです!今すぐその大孔から開放しますのです!」
よく見れば巨大な塔の頂上に開いた穴には一人の黒い少女が囚われているではないか。
彼女を救うことこそが、蟹座氏とバトルマスターを救えなかっ自分にできる唯一の罪滅ぼしだと気持ちが逸る。
けど。
――開放する♪あはは、してどうするんだよ……。私の宿主は、もういないんだよ。
「そ、それは!!」
――私ね。期待してたんだ、少し。いつかあの子が私を受け入れてくれるって。この孔から。そして彼女の心の牢獄からも開放してくれるって。
「か、蟹座氏?」
――もちろん師匠の説得は命懸けだってわかってたよ。だから、彼女が殺されても仕方ないって諦めもしていた。
ゴポリ、ゴポリと、感情の昂ぶりに合わせて大蟹杯から泥が漏れ出すペースが上がっていく。
――そしたらさ。ししょーになら殺されてもいいって思ってたんだ♪ 憧れの人の胸でってのも乙じゃん♪ でも……。
ゴポリ、ゴポリ、ゴポリゴポリゴポリゴポリゴポリ!!
――二人とも、いなくなっちゃった。私を置いて、汚いものに封して、死後は仲直りして、行っちゃった……。
「わ、私は!!」
たまらず続かない。続けられない。
私は、何だって言うんだろうか?
二人を見殺しにしたのは事実だ。
一騎打ちなんて許さなかったら蟹座氏は死ぬことなくマスターに勝てたのかもしれない。
はぶられたらはぶられたで、もう一人の敵である七氏にもっと注意を払っていれば、マスターは殺されずに済んだのかもしれない。
私にもっと力があれば、この子に、黒い蟹座氏に、こんな寂しい思いをさせれずに済んだのかもしれない。
自責の念に囚われるツキノンにでもね、と優しく、けれども虚ろなまま黒い蟹座氏は告げる。
――ツキノンが悪くないのはわかってる。けど、私の気がこのままじゃ収まらない。
どっちみちそれしか手段が無いから、迷わないで良いからと。
――爆弾とロリスキーを見殺しにしたくないというのなら、あはは、私を殺していきなよ、ツキノン!!
ゴポリゴポリゴポリゴポリゴポリゴポリゴポリゴポリゴポリゴポリゴポリゴポリゴポリゴポリゴポリ!!
「蟹座氏ーーーーー!!」
大蟹杯の間を、黒き泥の洪水が埋め尽くした。
▼
ちぃちゃんの心臓を手に、どれだけ逃げ切っただろうか?
煉獄は姿を変え、未だに私を捕え続けていた。
どれだけ攻撃を避けようとも、どれだけ攻撃を加えようとも。
常にドSは笑みを浮かべたまま無傷で私を追い続けている。
「っはあ、っはあ、っはあ!」
「おやおや、どうしたのです、ロリスキー?随分お疲れのようですが?」
「う、うっさい!!まだよ、まだまだ私はああ!!」
襲い来るいくつもの光弾を、ヴァルセーレの剣で薙ぎ払い、マジシャンズレッドの炎で焼き尽くす。
ボルティックシューターは如何に強いとはいえエネルギー弾だ。
力を吸い取るヴァルセーレの剣は相性的にも効果的だ。
どうせ無限ホーミングの効果持ちだ。
なら、徹底的に力を吸い取りつつ、弾丸を潰しつくす!!
「でああああああああああああああああ!!」
斬る、斬る、斬る、斬る、斬る!!
剣なんて使い慣れてはいないが、今の私にとってヴァルセーレの剣は文字通り手足も同然だ。
ドSからちぃちゃん守る戦いが始まって早々、触手を全て開放。
翼同様刃を生やし、手数の圧倒的増加を目指したのだ。
「うふふふ~♪ やりますねえ、でもこちらこそまだまだですよ~っと♪」
エネルギー弾が効かないと見て取ったから、ではなく、単に現状に飽きたというただそれだけの理由で接近戦へと移行する。
「ちぇい~んじ、DSRエーックス!!」
場違いの暢気なセリフを帯びて顕現するは、漆黒の肌に白銀の鎧を身に纏った悪魔、仮面ライダーBLACK DSRX。
初見の時こそ柊かがみとしての性と楽観からノリツッコミを入れられたロリスキー。
だが、今の彼女からすればDSRXはあの時の繋ぎ師のイメージも相まって恐怖の象徴であった。
『月は朝に蹂躙され、太陽は夜に虐殺され、ライダーは正義の名の下怪人を殲滅する――――――
我は絶望のシ者、仮面ライダーDEVIL SRX!!』
怖かった。
DSRXよりも、むしろその前。
憎悪と怒りに駆られ倒すべき敵しか見ていないその有様は、まさにそう、
「嫌だなあ~、こんな悪者っぽい正義の味方、いるわけ無いじゃないですか~。怪人ですよ、私は」
怪人だった。
!!
今、私は、何を考えた?
「絶望したー!!仲間の正義の味方を怪人呼ばわりする女子高生に絶望したー!!」
わ、私が、繋ぎ師を? 大切な、仲間を?
「ですからさっきから言ってるでしょう? 真の愛の対象以外の相手には人は自然と残酷になれるのですよ」
「もっとも。愛の無い自然な残酷さでは、愛のある故意の残酷さには何倍も劣りますがね!!」
にいいいっっと口を歪めつつドSは手を伸ばす。
青い腕、エレキハンドを。
「い、いやあああああああ!!」
全身に生やしたヴァルセーレの剣によりエネルギーを吸収できるロリスキーは良い。
電気攻めであっても今の状態では痛くも痒くもない。
けど、抱きかかえている爆弾はどうだろう?
銀の針に串刺しにされ、一向に再生する素振りを見せないちぃちゃん。
人間の場合は抜かない方が失血しないで良いというが、ちぃちゃんは吸血鬼で、既に出血過多の状況だ。
銀による治癒の妨害さえ無くなれば助かるのではと既に抜くことも試みた。
けど、諦めざるを得なかったのだ。
針の先に『返し』が付いていたからだ。
かってドSがコ・ホン・ブックに使い彼女を絶望に陥れた優れもの。
引っ張って抜くと☆型に肉が抉れるあの返しが。
ロリスキーには選べなかった。
無理してでも引き抜いたほうが、後々のことを考えると良いのかも知れないとも思いはした。
それでも。
自分の手でこれ以上愛する人を傷つけることはできなかった。
そんな彼女を哀れみと愉悦の篭った目で見下ろしドSは告げる。
「困りましたね。ヴァルセーレと銀、どちらに電気は惹かれるのでしょうか?
一応糸色望は先生なんですが、流石にこれは東大教授になりきっても答えられない疑問ですねえ。
では試してみましょう。実験あるのみです。あ、そうそう、酸化していない銀はかなり通電性が高いですよ?」
っつ!!
駄目だ、この攻撃はなんとしても防がなければ!
放たれた雷撃を前にしてロリスキーはカードを翳す。
長い長い逃走劇の間に回収したクロウカードが一つ、シールド。
自身に魔力が無い故に、同じく拾っていたレヴァンテインからカートリッジを抜き取り魔力タンクとして消費しての発動だ。
「盾よ!!」
鍵も無しでの発動だが、カード本来の大事なものを守ろうとする性質が幸いし、見事爆弾を守りきる。
安堵するも束の間、ドSが即座に生成したシャドーセイバーの二刀が、障壁を容赦なく寸断する。
「……あ」
「盾のカードは剣に弱い。絶望先生の特別授業です」
さらりと原作を再現しつつ、片方の剣を霧散させる。両の手が塞がってては、エレキハンドは使えない。
「では、講義の後は問題を出しませんと」
じゃじゃじゃん!っとアカペラでのBGMも忘れないあたりは流石はラジオの常連なだけはある。
「問題です、さあ貴女は次にどうすればよいのでしょうか?」
「1.ちぃちゃんを置いて逃げる 2.このままじり貧になる 3.ちぃちゃんの身代わりに電撃を受ける」
「難しい、実に難しい問題です」
「そ そんなの、答えなんて一つしか……」
「ほんとに~? もちろんヴァルセーレは無しでですよ? 貴女に耐えられますか?」
――バイオライダーと同じ、仮面ライダーの力に。
明らかにロリスキーの顔が青ざめる。
もはや彼女が抱いた繋ぎ師とドSへの恐怖は捻じりに捻じれて仮面ライダーそのものへの恐怖となっていた。
「ねえ、置いて逃げるのも手ですよ? 戦術的撤退って言うじゃないですか。
一度逃げて落ち着けば、誰もが助かる素晴らしい案が思いつくかも知れませんよ?」
じわり、じわりとドSの甘言がロリスキーの心を絡めとって行く。
人は自分のしたくないことをする必要性に迫られた時、どうにかしてしないで済む理由を探すものだ。
見つからなければ問題ない。
渋々ながらも実行するまでだ。
だが、もっともそうに思える理由が見つかってしまったら?
誰か他人に、教えられたとしたら?
「……三番よ」
耐えた。
クールなロリスキーはその誘惑に耐えた。
愛を証明する。
その至上目的を達成する為に茨の道を選びとることができた。
ほうっとドSが感心したように顔を綻ばせる。
――もちろん、どっちを選んでも最終的には意思を砕けるよう仕組んではいるのだが。
「素晴らしい!! 大事なことなので何度でも言いますが、実に健気だ!!
ですがね、ロリスキー。一度実際に味わってからも同じことが言えますかな?」
「うっさい!! 煮るなり焼くなり早くしなさいよ!!」
自分でも強がりとわかってはいるがせめてと眼を瞑らずにドSを睨みつける。
そんななけなしの抵抗すらも数秒後には折られることとなった。
「おお、怖い怖い。では、ぽちっとな」
「ぎぎゃああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
青白い光がホールに広がり、空気を震わせるほどの絶叫が響き渡る。
「うがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」
ロリスキーは指先の感覚が無くなるほどの電撃に、全身を仰け反らせながら激しく痙攣させ続ける。
止まない。真っ白に染まった世界の中、延々と肉食獣のような咆哮が。
「ばあああっ! あ、があっ、わあああああああああっ!!
お、お、おおっ、おおぉぉオオォおおおぉぉォおおオオオオオオォォォォーーーーーーーーーーーーーー……が……ひ…………ぃ……」
そして聞こえた。
「――ああ、美しい。絶望の光に呑まれもがく貴女はなんて美しい……」
ついに声を出すこともできなくなり、ガクガクと体を震わせるだけの反応しか示さなくなったロリスキーを感極まった様子で見下ろすサディストの声が。
▼
「っあぐ!!」
開戦当初こそ、時止めや障壁、極太ビームといった多彩な技でビルゴⅡを翻弄していたツキノンだったが、
圧倒的な数の暴力の前には抗うことはできなくなっていった。
鬼狩柳桜の力による覚醒は確かに強力だ。
しかし、それはあくまでも常識的なロワにおいての話だ。
チートが蔓延しているこの世界では決定力足りえない。
そもそもツキノンがなりきり対象として羽入を選択したのは戦力が理由では無い。
時と空間を操る力が、この世界と現実世界との完全隔離を実行するに至って役立つと踏んだからだ。
そう、ツキノンが目指したのは『真の対主催』で言う第二方針。
wiki管理人の打破、及びダイダルゲートの完全破壊、さらにこの世界と現実世界との完全隔離によるフィードバックの阻止だ。
wiki管理人の目的を知った時、合同最終回へと進んでいたギャルゲロワの一員として、
最も至難で、されど、最小の犠牲で済む方法を彼女は自らの行動方針に据えたのだ。
だが、内部から暗躍しようとしていた彼女は、思わぬうっかりでwiki管理人に思惑がばれてしまい、
同志であった漫画ロワ管理人ともども支給品の中に封じられてしまったのである。
「っく、こんなことなら、アセリアや悠人あたりになりきっておくべきでした!!あうあうあうあう!!」
なんとか礫殺されないよう、オヤシロバリアーで吹き飛ばし、
オヤシロ・ザ・ワールドで時間が停止している間に距離を稼いではいるが、それももう限界だ。
遠くないうちにツキノンは蹂躙される。
「何か! 増殖速度を上回る威力を持った何かが!!」
無いわけでは無い。
蟹座氏が残したデイパックには世界を丸ごと焼き払うほどの魔力を秘めたドラゴンオーブがある。
されど、それでは駄目だ。
威力が強すぎて今も生き残っている参加者達の命まで奪いかねない。何より……!!
――殺してくれないの、ツキノン♪ そっか、お前も私を置いて逝くんだ。
それで、いいのか?
本当に大蟹杯ごと黒い蟹座氏を殺せば、彼女を救ったことになるのか?
そんなわけ、ない!!
認めない。私は、こんな運命を、認めない!!
「覆す!! 金魚救いの網程度の運命なんて!!」
そのツキノンの想いに応えるように。
バトルマスターの死体が輝いた。
▼
電撃がやんだ後もロリスキーはしばらく痙攣し続けていた。
「ぐ、あ…………おぉ……。い…………あぁ………ッ!!!」
辛うじて意識は残ってるが、ただそれだけとも言える。
目の焦点は既に合っておらず、明らかに危険な状態に陥っていた。
しかし、ロリスキーはただの人間では無い。
不死者にして吸血鬼だ。
こと再生力の点に限っては、全参加者最高と言っても過言では無い。
果たして、痛みも苦しみも覚えたまま生き続けるのが、幸運かはわからないが。
「ぱちぱちぱちぱち。大したものです、ロリスキー。あれだけやったのに意識を失わないとは」
わざと気絶させないようギリギリの場所で調整していたことはおくびにも出さず、ドSは拍手を贈る。
傷は完治したものの、未だに意識がはっきりとしていないロリスキーは音のする方へとノロノロと顔を向け。
次の一言で一気に意識を覚醒させられた。
「では、もう一度、やってみましょうか?」
「……え?」
「ああ、飽きないように今度は全身を凍らせるのもアリですね」
この男、今なんて?
私に、もう一度、あれを喰らえって?
経験したことのない痛みをまた味わえって?
あまりの事態に愕然とするロリスキーにドSはここぞとばかりに攻め立てる。
「もちろんさっきと同じで今度も選択肢はありますよ?」
「選択、肢?」
再び頭がぼんやりしだす。
選択肢。
自らが選べるということ。
あの苦しみから逃げる余地があるということ。
「ええ。自分の手で、貴女が、選ぶんです」
ロリスキーは爆弾と共にドSと戦っていた時は、一切傷を負わされなかった。
そんな、痛みに慣れていない状態から一気にこの世の地獄に落とされた少女は、
先ほどの電撃の苦痛を思い出しガチガチと震え出す。
無間地獄で味わった苦しみとはまた別の痛み。
あれが、また、無限に続く?
「そうそう、誤解しているようですが、今の私の目的はあくまでも貴女が持っているそれであって、貴女ではありません。
つまりね。貴女が痛い目を見る必要はどこにも無いんですよ」
数分前には抗えたドSの甘言がするりとロリスキーに入り込む。
あえて地球破壊爆弾の名前も出さず、殺す、壊すといった類の言語も使わない。
そうやってロリスキーの思考の鈍化を促す。
「痛く、されない?」
この手に持った“物”を渡せば助かる。
痛い目は、もう嫌だ。
ぴくりと、“それ”を握った腕が動く。
ドSは、その一瞬を逃さずに、最後の一言を、告げ。
「さあ、それを、渡してください」
ロリスキーは、ぼんやりと、その言葉に、従った。従って、しまった。
全てはドSの、思惑どおりに。
「はい、ここまで~。証明完了、QOD~。“クールなロリスキーは、地球破壊爆弾を愛してはいなかった~”」
「あ……」
気づいた時にはもう遅い。
ロリスキーは“自らの保身の為に”“恋人である地球破壊爆弾を”“自らの意志で”“売ってしまったのだ”。
自らがしでかしたことの意味に耐えきれずロリスキーが崩れ落ちる。
もはや叫ぶ気力もなく、ぱくぱくと口を開くも声すら出ない。
その姿を満足げに愛でつつも、ドSもドSで一つだけ、残念がった。
最後の最後。ロリスキーが爆弾の心臓を手放したのは、実は完全には彼女の意志では無く、ドSが細工していたという点をだ。
彼本来の趣味としては自ら折れるのを待ちたいところだったが、そうは言っていられなかった。
圧倒的優位に立っているようだが、この世界にはタイムリミットがあるのだ。
残り2時間と明かされてから、もう随分経つ。
ギガゾンビ城でしか顕現できないドSは、結果はどうあれロリスキーを置いて逝くことになっているのだ。
だからこそ彼は、己が作品の完成を優先した。
シャドームーンの精神操作と、何より無間地獄の時行ったバイオライダーの禁じ手である細胞融合によって。
バイオライダーはゲル化による攻撃無効ばかりが注目されるが、使い道は他にもある。
その最たるものが自らを細胞レベルまで縮め他人と融合する細胞融合だ。
電撃で朦朧としている間にこっそり分離した裏面がロリスキーとの融合を済ませ、
精神と肉体の両方に干渉により操ったのだ。
とはいえ、ばれないよう極力威力は抑えていたため、ロリスキーに抵抗する意識があれば操れはしなかったのだが。
(まあ、仕方がありませんね)
きっちりと心残りを一蹴し、ドSは最後の仕上げへと向かう。
爆弾を、殺す。
するとどうなるか?
本来であればここで爆弾とロリスキーの恋は終わる。
それは途中を維持することこそが不幸だとするドSの説に反することだ。
だが。
地球破壊爆弾No.V-7にはまだ第七形態が残されている。
その事実はもしかしたらとロリスキーに夢を見せる。
その一方でDSRXの最大火力で、希望を抱けないほど凄惨に殺しつくす。
――夢は見れても希望は無い
自らの選択の結果であるがゆえに、悔いることはできても、許しは求められない。
――後悔はあっても懺悔は許されない
殺すのは、ドSだ。
ロリスキーが苦しむのは、ちぃちゃんを殺したことでは無く、もはや隣に誰もいないという現実にだ。
――罰はあっても罪は無い
何よりも、これでもう、自分の愛に疑問を持ったロリスキーは他人を愛せない。
愛せない人間は、真に愛されない。
「ようこそ、ロリスキー。絶望の世界へ……」
胸部装甲に手をかけ、こじ開ける。
左右に内蔵されたディーンの火とディスの火が限界まで力をくみ出す。
出力を開放された心臓がうなりを上げた。
「テトラクテュス・グラマトン!回れ、インフィニティーシリンダー……!!」
究極、絶対消滅の力が胸へ集中する。
仮面ライダーDSRXの最大攻撃、天上天下業魔無限砲。
その一翼を担う永久機関ディス・レヴは魂を糧とする。
降霊術で呼び出されたドSには、かなりの負担だ。
(思ったより消耗が激しいですね……ですが!)
それを補ってあまりある威力がある。
まさに、絶望を与えられる他がない程の火力が!!
「天上天下、業魔無限砲!!」
姿を顕わにした砲身から、絶望をもたらす破滅の光が、ドSにより宙へと投じられた爆弾の心臓を飲み込んだ……。
▼
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|289:[[奈落の花]]|ツキノン|292:[[正義の味方]]|