ランチタイムの時間だよ

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リノウリムの張られた静かな廊下に、パタリパタリと足音だけが響いている。 どこであっても似た印象を与える病院の中。そこを一人の少女が物憂げに歩いていた。 少女の名前はクールなロリスキー。 看護婦の格好をしているが、決してそうではない。 よく見れば、いやよく見なくとも、それが一般的な看護婦の衣装――ナース服とは違うことが分かる。 薄く柔らかい生地は身体のラインを際立たせ、通常よりも遥かに短い裾は男の視線を誘う。 そう。彼女が着ているナース服はコスチュームプレイ用。 つまりはこの病院の制服ではなく、あの妙に品揃えのよいアダルトショップで調達したものだった。 何故彼女は数ある衣装の中からこれを選んだか……、それは別に説明する必要もないだろう。 ともかくとして彼女は一人俯き歩いている。 その手の中には輸血用の血液パック――彼女の昼食が一つ。 吸血鬼となり人の理を捨てた存在にとって、今まで摂ってきた人の食事はもう栄養にはならない。 夜族の身を潤し、力を与えるのは人間の血液のみ。 だから彼女はコレを飲まなければならない。飲まなければ滅んでしまう。しかし、それでも……。 「………………はぁ」 飲めないでいた。 人として生きて来た間に育んできた常識。化物の理に対する禁忌感が、彼女の決断を押し止めている。 溜息の中には飢えという感情も含まれていた。ただしそれは人間のではなく、吸血鬼の――所謂『渇き』と呼ばれるもの。 人間の空腹よりも遥かに焦燥感を募らせる渇き。 自分の中に持ち上がる感情に、彼女も理性では血を飲むべきだと解ってはいるのだが……。 「…………はぁ」 何度目かの溜息。冷たく、そして熱くもある溜息。 吸血鬼の身体の内側に篭る、血液を欲するという感情が押し出されてできた溜息。 しだいにそれは頻度を増し、溜息から荒い吐息へと変化してゆく。 「……はぁ、はぁ。…………っ、はぁ、はぁ」 飲めば楽になる。飲めば楽になる。所詮はただの血だ。もう誰のものでもない血。飲めば楽になる。 何も遠慮することなんかない。飲めば楽になる。誰も傷つけない。パックのジュースと変わらない……これを飲めば……。  ◆ ◆ ◆ 息を荒げ、震える足で廊下を彷徨っている若輩の吸血姫。 その姿を発見したのは、彼女のマスターであり、彼女を夜の道へと引きずり込んだ張本人であった。 「やぁ、かがみん☆ …………大丈夫?」 血色のドールドレス――真紅の格好をした泉こなた。その姿をとる地球破壊爆弾No.V-7。 彼女(それとも彼?)の姿を確認して、憂鬱げだったロリスキーの顔が明るくなる。 「それはこっちの台詞よ。……こなたこそ、もう大丈夫なの?」 まぁ、大体はねー……と、こなたはドレスの上から小さなお腹をぽんと叩いた。 ここにはいないもう一人の吸血鬼ミスター・マダオ。そして、ロリスキーの分もあれば、勿論彼女の分の血も用意されていた。 吸血鬼達がランチに選んだこの病院で、彼らは人間にして大体15人分程の血液が保存されているのを発見した。 それはもうほとんど残ってはいない。枯れかけていた地球破壊爆弾がほとんどを飲んでしまったからだ。 ディナーを……、となると彼らはまた場所を探さなくてはならないだろう。 「かがみんは、ソレ……飲まないの?」 じゃあ貰っちゃうね☆ と、地球破壊爆弾は震えるロリスキーの手から血液パックを取ると、ちゅー……っと飲んでしまう。 あまりの勝手にロリスキーの口があんぐりと開き、そこに長い牙が見えた。 しかし、だけどまぁいいかとその口はゆっくり閉じられた。悩みの種も、モノが無くなれば解決だと。 勿論、身体の疼きはそれで消えるわけではない。しかし、葛藤がないなら我慢するだけですむと、彼女は考える。 「――じゃ、ちょっとこっちにきて!」 2000ccの血液パックを5秒ジャストで飲みきると、ロリスキーの主人は彼女の手を引っ張って近くのドアを潜った。  ◆ ◆ ◆ 縦に細長いロッカーが整列し、またその列が並ぶそこは従業員用の更衣室だった。 地球破壊爆弾は混乱するロリスキーを引っ張り、そして入り口からは見えない位置まで進むとその手を放し、 ロリスキーの正面に相対すると、真っ直ぐに立って彼女の顔を見上げる。 「なんなの、こなた? こんな場所に――」 「――血を飲んで、かがみん」 ロリスキーを見上げるこなたの顔は、普段からは考えられぬ真剣さがあった。 それに、ロリスキーの心臓が一際大きく音をたてる。 「……飲むも何も。さっきあんたが――」 「――うん。だから、……私から血を飲んで」 ここで、地球破壊爆弾はこなたの顔をいつもの軽い表情に戻す。 逆にロリスキーのかがみの顔には困惑の表情が浮かんでいた。 「こな……た、から……?」 「こんなのでも、人間の血は飲めないんでしょう?」 言いながら、地球破壊爆弾は空になった血液パックをペラペラと揺らす。 その表情はまた再び真剣なものに、そして少しだけ悲しそうな、または嬉しそうな複雑な表情を浮かべていた。 そんな彼女に、ロリスキーの口から言葉が失われる。 「私からだったら、人からってことにはならないし……。それにね、かがみんにとってお得なことも多いんだよ?」 そう言って、その『お得なこと』を地球破壊爆弾はロリスキーに説明し始めた。 「私の血――高位の吸血鬼の血を飲んだら、かがみんグッとパワーアップするよ。  今私の力が10で、かがみんが1としたら、多分5か6ぐらいにまでは強くなれると思う。  そしたら……、朝日は無理でも、曇り空や夕焼けぐらいになら平気になれると思うし……」 それに、これが重要なんだけどね。と、地球破壊爆弾は更に言葉を続ける。 「……私の血を飲めば。主人の血を飲めば、かがみんは晴れて一人の吸血姫として独立できる。  勿論、主人だからといって私はかがみんに命令とかはしないんだけど……対等になって欲しいなと思うよ。  かがみんには私の後ろじゃなくて、隣りに立っていて欲しいんだ……。  だからこれは命令じゃなくて、『お願い』――、  ――かがみん。いや、クールなロリスキーさん。私の血を吸って、ください」 自分を見上げ頬を染めて告白する主人に、ロリスキーは眩暈の様なえもいえぬ感情を覚える。 これが本当の倒錯というものであろうか? こなたがかがみに……、主人が下僕になんて…………。 「こなたの、血を……吸う…………」 いいの? と呟くロリスキーに、地球破壊爆弾はいいよ、と微笑む。 そして一つだけリクエストだよとこう言った――全部、かがみんが、して――と。 それ以降、まるで供物の様にこなたの姿をした吸血鬼は直立不動。目の前のかがみんが事を始めるのをじっと待つ。 「私、初めてだから……、どうしていいのか……。い、いたくしちゃうかも……知れないよ?」 長い間を経て出てきたそんな台詞に、地球破壊爆弾はいつもどおりの猫口ではにかむと、いいよと頷いた。  ◆ ◆ ◆ 血を吸う。血を飲む。こなたから血を飲む。地球破壊爆弾から血を飲む。血を――飲む。 思い出すのは、そう。かつて血を吸われた時の事。あの時の、あの事。脳が再生し、身体が思い出す。 思い出した身体が、その時に備えてあの時を再現する。胸が高鳴る。身体が準備を完了する。 渇きが、決して水では癒されぬ渇きが心を、身体を後押しする。目の前の少女――としかいえない者。 それを取れと、それを貪れと、血液の足りない心臓が衝動を突き上げる。 怒っている様に鼓動する心臓。ドクン、ドクンという度に、そうしろ。そうしろと、言われているみたいに感じる。 手が伸びる。自分の手のはずなのに、見ている脳はまるで他人事の様に捉えているから不思議だ。 私の手がこなたの首元のリボンの端を掴んで――引いた。シュルリと衣擦れ、カツンとブローチが床に落ちた。 目は、その落ちたブローチとリボンを追いはしない。いや、できない。そこに……釘付けで……。 縛めの解かれた襟を、真っ赤な襟を、ゆっくりと襟を開いて中を覗き見る。 染み一つなく、健康的で見ただけでその張りが想像できる――おいしそうな――肌。 私の、まだ私のものではない様に思える手が開いた襟の内側へ滑り、想像以上に滑らかだった肌に触れる。 自分の心臓の音が五月蝿くてこなたの声が聞こえない。そこに囚われてこなたの顔が見れない。 小さな掌でも、その中に十分に収まる小さな矮躯。両の掌を首にかけ、滑らせ、襟を肩から落とした。 ああ、心臓が、ドクンドクンと続きをせがんで激しくノックしている。激しすぎて目も潤む。 ドクン。こなた。ドクン。こなた。ドクンドクン。こなたこなた。ドクンドクン。こなたこなた…………。 ものすごく荒い息をしている人がいる。こなたかと思ったら、自分だった。 口を、唇を、こなたを噛む牙を、自分自身をこなたに近づけてゆく。少しずつ、ゆっくりとこなたに近づけてゆく。 目の前に広がるこなた、の首筋。とても、とても……これは何だろう? とても、いい匂いがする。 唇が、上唇も下唇もがこなたの肌に吸い付いた。想像していたよりもずっと熱い。思わず隙間より息が漏れた。 頭はずっと狂ったままなのに、身体はどうすればよいのかを知っているみたいに勝手に始めてしまう。 唇の内側を沿って唾液を落とし、舌の先を使ってそれを肌の上に馴染ませ、また唇を使ってそれを広げた。 こなたのくすぐったがる様な声が聞こえた気がする。それが嬉しくて、何度も同じ事を繰り返した。 首筋にいっぱいの唾液を垂らし、今度は舌の腹を走らせ、繰り返し唇で甘噛みし、こなたの声を聞く。 それに夢中になっている内に、両腕はこなたの背中にあり、あんなに恥ずかしかったのに自然と身体を密着させていた。 したい。ほしい。こなたがほしい。血を。飲みたい。こなたの血がほしい。飲みたい。したい。したい……。 唾液でベトベトになった肌の上に2つだけ伸びた長い牙をあてがい、少しずつ顎に力を加えてゆく。 意外だったのは思いのほか力がいったという事。でも、こなたを壊すのが怖くて私は少しずつしか力を加えれなかった。 牙が肌を破った時、形容もできない小さな音が大きく頭の中に響いて、牙はこなたの中に引きずり込まれた。 ぬるぬるとしたこなたの中を滑る牙の感触に、付け根が疼き脳の中に真っ白いものが広がってゆく。 牙を包み、奥から奥から沸いてくる温かい血が一瞬で口一杯に広がり、香りが鼻腔を抜けて痺れさせてくれる。 口の中の血は、温かくぬめりがあり、何より甘い。それがこなたの血だと思うと、私の心にあった箍は容易く外れた。 ゴプリ。ゴクリゴクリ。おいしい。もっと、欲しい。ゴクリ。あたたかい。こなたがもっとほしい。ゴクリゴクリ……。 今度はこなたの声が聞こえた。小さく、そして短い声だったけど、すごく可愛い声だと思った。 それがもっと聞きたくなって、突き立てた牙をこなたの中へと深く沈める。 今まで触れていなかった部分に触れれば、また新しい声を聞くことができた。嬉しくなり、もっと、そうする。 挿し込んだ牙が肉を掻き分ける度に聞こえてくる新しい声に、自制は効かなくなり私はこなたを蹂躙する。 気付けばこなたを壁に押し付けていた。こなたの悲鳴が聞こえた様な気がしたけど、もう止められない。 突き立てた牙をヌチャヌチャと鳴らし、血を啜ってこなたの声を引き出した。 溢れ出てくる血を溜めて、ズルルルル……と音を立てて啜り取るとこなたが大声で啼きはじめた。 楽しい。楽しい。楽しい。楽しい。楽しい。こなたが愛しくて、愛しくて、楽しくて、嬉しくて、止められない……。 不意に唇の端から零れた血が筋となって落ちてゆく。 目だけで追っていたそれがドレスの端につこうとした時、私の手は勝手にドレスを引き裂いていた。 もったいない。血をたかが布風情に飲ませてしまうなんて、そう思った。これは全部私のものだと思った。 無様も何も関係なく私の舌は血の筋を追いかける。 口を離せばもっと溢れることに気付けないほど、この時の私は馬鹿だった。馬鹿になっていた。可笑しかった。 一つの筋を舐めている内に、2つの筋が、4つの筋が、そして血の筋は雨の様にこなたの肌の上を下る。 唾液を溜めた舌をなだらかで薄い胸の上に、縦横無尽と走らせ降り注ぐ血を舐め取ってゆく。 舌が肌の上を遡る度に、押さえつけられた矮躯が震え、振るい切れなかった分が声となって口から零れる。 血を舐め取るのではなく唇で啄ばむ様に変えると、また反応は変わり、震え方も零れる声も新しくなった。 もう、どうにかなってしまって――いた。初めての血の匂いに酔い。こなたの身体に狂って――いた。 いつの間にそうしたのかは覚えていなかったが、気付けばこなたを床に組み伏せていた。 乱れた前髪が半分は隠していたんだけど、その時初めてこなたの顔を見た。今まで見ていなかったことに気付いた。 真っ赤で、くしゃくしゃで、涙が溜まった眼がすごく潤んでいて――私を見ていた。 その赤ちゃんみたいな顔を見て……、自分の心が蕩ける音が聞こえた様な気がした。 こなた。こなた。こなた。こなた。こなた。こなた。こなた。こなた。こなた。こなた。こなた。こなた…………。 こなたの小さなピンクの唇にキスを、ではなく――噛み付いた。衝突したと言い換えてもいい。 それぐらいに、私の理性も、私の身体もこなたを欲していた。全くの優しさもなく私はこなたをむしゃぶった。 口の中に含んだこなたの血を彼女に返し、代わりに彼女の唾液を私はのばした舌で奪い取る。 歯がガチガチとぶつかり合って、時には折れるほどであったが、血の甘さの前には気にならず、また血がそれを癒してくれた。 こなたと私の間を隔てるものが一つでもあるのがまどろっこしい。 私は血塗れの手をぬるりと這わせ、プレゼントに対してそうする様に、こなたを包むそれを破って捨てた。 少しでもこなたと私がくっついている場所が増えるよう、私も私を包む余計なものを破り捨てる。 この時だけは、この間だけは、私と彼女だけで100%になるよう。不純物を取り除いてゆく。 最早、お互いに血塗れ。甘く甘く決して焦げない砂糖を煮続けた様な、噎せ返る様な空間を、時間を作り、楽しむ。 化物だけに許された、化物同士の咬合――そこから行き着くけらくの交合。 丸く小さな、そして少しだけ膨らんだ子供のお腹。その真ん中にある生物として産み落とされた証である窪み。 そこに溜まった血を啜り取るべく口付け、舌を伸ばし穴の中へと、穴を閉じている捻りを抉じ開け中へと侵入する。 快楽にか、それとも痛みか、または両方か。腹を侵されたこなたが、背骨を弓なりに反らし腰を浮かせる。 今聞こえるこなたの声はそれがどんな種類のものであろと、狂った耳には歓喜のそれとしか届かなかった。 故に私は、一切の戸惑いもなく、疑問も差し挟まず、この後のことなど微塵も考えずに、それを実行した。 こなたの小さな小さな穴。舌の先しか入らない様なその小さな穴を無理矢理に広げ――裂いた。 吹き出した血飛沫を全身に浴びたが、もう血塗れだった私には何も問題はなかった。 こなたが全く未知の獣の様な、聞いたこともないような声をあげたが、私には何も問題はなかった。 私が見ていたのは、真っ赤なそこだけ。皮膚を破られ私の目の前に曝される真っ赤なそこだけ。 血の味が変わった。そこで得られる血の味は他のものよりも甘く、吐き気を催すほどの旨味があった。 それがどうしてかは、すぐに理解できた。破った腹の皮。その裏にうっすらとのっている黄色い脂が混ざったせいだ。 迷わず広げた穴に手を突っ込み、裏返してそこにむしゃぶりついた。 顔が脂でヌルヌルになるのにも構わず、牙の先端でそれをこそいで口の中へと運び味わった。 おいしい。こなたがおいしい。もっと、もっと、ほしい。もっと、こなたがほしい。こなた。こなた…………。 こなたのほっぺた。柔らかいほっぺた。舌でつついて楽しみ、キスしてから食べた。 宝石の用な瞳も、ゼリーの様な唇も、こなたの愛らしさを形成する全てを愛して――食べた。 頂点に乗せられた野苺もちっぽけで、できそこないのプディングみたいなそこも味わって食べた。 小さな小さな、先の丸っこい可愛らしい全部で10本ある指。1本ずつ丁寧にしゃぶり、骨だけをそこに残した。 暴れる脚を押さえつけ、ふとももの内側へと大口で齧り付く。強く強く、肉の中で歯が噛み合わさるぐらいに齧る。 噛んで、噛んで、噛んで、噛んで、綺麗だった脚に歯形を幾つも刻み、ほぐし、溢れる血を音を立てて啜る。 両脚共にそうして味わい、こなたの下半身が肉屋で並んでいる物の様にだらしなく動かなくなったら次へ……。 真っ赤に熟したそこをデザートに。 ダークラムで味付けされた小さくプルプルとしたそこ。 黄金色のシャンパンをパシャパシャと吹き出すそこを。 真っ白な酸味の強いムースでトッピングされたその場所を。 最後に残しておいた、一番甘い場所を――、 ――こなたを、いただきます。 こなたを、ごちそうさまでした。  ◆ ◆ ◆ 冷たい感触を与えてくれるロッカーを背に、ロリスキーは食後の一時を惚けて過ごしていた。 噎せ返る様な血の匂いに酔って、可愛いものの美味しさに脳を蕩けさせ、ただ惚けている。 その酔いは深く、ひんやりとした金属の感触だけでは中々醒めそうにない。 半時程そうしていたであろうか、床に溜まった血の色が真紅より濁った葡萄酒の色に変わる頃、ようやく彼女は帰還した。 いつかの様に体がベトベトと濡れており、そして前以上に酷い臭いがする。 頭の芯が痺れ、焦点の合わない目で辺りを見回しても、中々に状況はつかめず、記憶も戻ってこない。 「………………こ……な、た? …………どこ?」 こなたと一緒にいた。それだけを記憶の海から掬い出した彼女は、こなたを呼ぶ。 ……だが、返事はない。こなたはここにはいない。いや、こなたはここには――無い。 「…………………………………………こな、た?」 不在が不安を呼び、不安が緊張を呼び、緊張が覚醒を促す。 ようやっと焦点の合ったロリスキーの視界の中。ドス黒い血溜りの中に『こなたらしきもの』が沈んでいた。  ◆ ◆ ◆ そう言えば、アフリカを舞台にしたドキュメンタリーで『こんなの』を見たことがある。 そんな場違いな感想が、ロリスキーの頭の中に浮かんだ最初のものだった。 肉食動物に襲われ、その日のランチにされる可哀相な草食動物。 死んで『お肉』となったそれは、弱肉強食の掟に従い強いものからその取り分を剥ぎ取ってゆく。 襲い殺した強い獣は腹や太腿などのおいしい部分を喰らい、他を捨て去ってゆく。 次にそこにくる弱い獣達は、彼らが残した部分。内蔵や手足の先を拝借し、去ってゆく。 さらには、小動物。身体が小さく、量を必要としないこいつ達はほっぺたなどの柔らかい部分を持って去ってゆく。 最後にはそれよりも小さい虫達がたかる。虫は他が残した内でまだ柔らかい部分。腸や性器などを糧にする。 そして、一つの『お肉』はサバンナに住む様々な者達によって分かち合われ、自然は循環してゆくのだ。 そんな話を思い出す様な『もの』が、ロリスキーの目の前にあった。 それが元々人の形をしていたのは、手足の数で分かる。逆に言えば、それぐらいしかヒントがなかった。 両脚は辛うじて付け根に付いているが、右腕は肘、左腕は肩の位置から捩り切られていた。 お腹がごっそりと抜け落ちている。まるで人体模型の蓋を無くしてしまったかの様にぽかりと開いている。 腸は残っているが、内臓がいくつか足りないかも知れない……おぼろげな知識でロリスキーは思う。 その下の方。腹というよりも、胎というべき辺りもぽかんと開いていて、ただのグロテスクと化していた。 胸も――無い。胸骨とそこから連なる肋骨が丸見えになっていた。 そこから喉元までも抉られ、汚い喰い散らかしか、それともスープに入れるガラにしか見えない。 そして。 そして……顔。今は虚空となっているそこに当てはまるべき顔をロリスキーは思い浮かべる。 あの顔を、一時前に自分を見上げていた顔をロリスキーは――。 「こ…………こ、な……た……………………嘘、……だ」  ◆ ◆ ◆ 「あいつら、また勝手に二人でどっか行っちまったんじゃねーだろうな……」 大きくスペースのとられた処置室の端。黒い小山の様な男が、誰に向けるでもなくそう零す。 全身に包帯を巻き、今やホラー物の主役さえ張れそうな恐持ての彼の名は――神行太保のDIE/SOUL。 シャワーを浴びに行ったロリスキーと、それを迎えにいった地球破壊爆弾がいつまでも戻ってこないことに愚痴っている。 「やはり、彼には何かあると考えるべきだとは思うんだが……さて、それは何だろうね?」 不機嫌なDIE/SOUL(以下、ダイソウ)の前で、足をブラブラとさせながら少女がそう言う。 口元には笑み、人形の様に綺麗な黒髪。オールドスタイルの体操服。その少女の名前は――ミスターマダオ。 彼女の態度からは、いなくなった二人を心配する気配はない。いや、誰にも安否を気遣う様子はなかった。 「(…………………………ロリスキーさん大丈夫かな? また、あんな……う、いかんいかん、平常心だ)」 マダオの近く、長椅子の上にかけて血液パック……ではなく、ビタミンゼリーを吸っている男がいる。 真っ黒な仮面の隙間にストローを差込み、ズルズル音を立てているのは彼の名は――忘却のウッカリデスだ。 仮面を外さないのは恥かしがりやだから――ではなく、単純に外れないというそういうアイテムだからである。 ロリスキーと地球破壊爆弾がいなくなってより、すでに1時間以上が経過している。 だが、彼らは特別アクションを起こそうとはしない。 それはあの二人が死ぬなどとは露ほども思ってないためだ。 特に地球破壊爆弾の方は、殺しても死なないとう言葉がこれほど当てはまる奴もいないと、全員が認識している。 そして、ロリスキーが彼のお気に入りである以上。彼女の生存も約束されているだろうと。 何より彼らが思っているのは、おそらくあの二人は――遊んでいるだろう。そんなことだった。 十中八九そうに決まっていると、出会って半日程の仲ではあるが、全員が二人をそう評している。 危険と言えば、ロリスキーの貞操関連ではあるが……それは、まぁ一人を除けば、あんまり気にしていない。  ◆ ◆ ◆ 「こんなに時間が空くのであれば、やはり考察でもしておけばよかったな」 ダイソウの前でゆらゆらと白い足を揺らしながら、マダオはそう言う。 「そろそろ、脱出フラグのきっかけでもつくっとかねぇと……、ここからも脱落者が出るかもな」 マダオの幼稚な誘惑攻撃を無視しながら、ダイソウはボソっと呟いた。 確かにこの集団の戦闘力は、通常のロワの基準で考えれば相当に高い。 だが、そんなものが当てにならないのがパロロワの面白さであると彼も知っている。 後に残る意味……つまりは、残すべきフラグ。それがないと、いつ『処理』されてしまうか分からないのだ。 「……フラグ。……と言われても、首輪解除とかよく解んないしなー」 なんか怪しい雲行き。 もしかしたら、いや、この中で脱落するとしたら確実に自分じゃないか? と、ウッカリデスの胸中に暗雲が立ち込める。 でも……と、気付いた。 自分だけにしか見えない、天空に浮かぶ謎の建造物。 あれが主催の本拠地なのだとしたら、これはフラグじゃないのかと……。 そして、地球破壊爆弾からそれを他言せぬよう注意されたことを合わせて思い出す。 一人、物思いに耽るウッカリデスの前ではマダオとダイソウが、その地球破壊爆弾について語っていた。 彼はジョーカーじゃないのか? それとも主催側を裏切った、逆ジョーカーかもしれないなどと……。 それは彼ら二人に任せ、ウッカリデスは自分の中だけの考えを進める。 気になったのは『フラグ』と言う言葉。彼も、書き手の一人であるからには多少なりとも意識している要素だ。 そして今自分の持つ『主催の本拠地?』という情報。これがどういう意味の『フラグ』となりえるのか。 「(――そうか! 僕だからこそ、他の人に喋っちゃいけないんだ)」 物質ではない『情報』という『フラグ』。それは容易く、周囲に広めて何人かで共有することができる。 故に価値が非常に希薄なのである。AもBもCも知っているとなれば、少なくともその内2人は安易に殺せると言う訳だ。 普通の書き手なら、広める様に言うだろう。しかし、逆に広めるなと言った彼の意図は――。 「(僕を、守っていてくれている……のか?)」 そうなのかも知れないと、ウッカリデスは思い至った。 そこまで考えれば、この病院に来てからの『ロリスキーに対するライバル宣言』をすんなり承認してくれたことも、 自分の立ち位置を与えてくれたのでは? ……と、そんな風に思えた。 地球破壊爆弾とロリスキー ――『こな×かが』 地球破壊爆弾とダイソウ ――『孤城の主』 地球破壊爆弾とマダオ ――『Wアーカード』 地球破壊爆弾とウッカリデス ――『ロリスキーを狙うライバル』 このパーティは、地球破壊爆弾を中心に因縁フラグが立てられている。それは、つまりは――……。  ◆ ◆ ◆ 「――遅えぞっ! つか、なんでまた裸になってるんだよお前ら二人は――っ!」 ダイソウの声に驚いてウッカリデスが顔を上げると、部屋の入り口にバスタオルを巻いた二人の姿があった。 こなた、こと地球破壊爆弾のホクホク顔と頭の上の湯気を見れば、どうやら今までお風呂にいってたらしいと分かる。 隣りに立つロリスキーが心なしか半べそっぽいが、どうやら大方の予想通りに彼らは遊んでいたらしい。 「あはは、ごめんねw ちょっとじゃれあってる内に服が破れちゃってさ~☆」 言いながら地球破壊爆弾は部屋へと入ってきて、ロリスキーの鞄を拾い上げるとまた飄々と戻ってゆく。 そして、着替えたら戻ってくるから。と、言うとまた二人で廊下の先へと姿を消した。 ダイソウは苛立ちの混じった重い溜息を、ウッカリデスは気が抜ける長い溜息を、そしてマダオは――、 「(……どうやら、彼女に血を飲ませることに成功した様じゃないか)」 ――溜息ではなく、クスリと小さな笑みを零した。  ◆ ◆ ◆ ぺたぺたっと、裸足でリノリウムの床を進む音が廊下に聞こえる。2つ。しかし1つは半歩遅れて……。 「か~が~み~ん~!」 珍しく不機嫌そうな声を上げて立ち止まると、地球破壊爆弾は後ろを振り向きロリスキーを睨み付ける。 そして、ちょんちょんと指先で自分の隣りを指した。 項垂れるロリスキーはいくらか逡巡した後、諦めるかの様にそこに立つ。 「じゃ、一緒に行こう」 ロリスキーの手を取り、地球破壊爆弾は彼女と並んで歩き出す。 「……あの、こなた。……本当に、本当に御免なさい。……私、わけわかんなくなって。それで……」 声を上ずらせ、先刻よりそうしなっぱなしだった謝罪を再開する彼女に、地球破壊爆弾はまた何度目かとなる溜息を吐いた。 「だから~、それはもういいって。別に、私はアレぐらいじゃあ死なないし……」 でも、かがみんがあそこまでヤってくれるとは思わなかったけどね。とそこだけは顔を緩ませる。 そして、表情をまた引き締めなおすと、足を止め、いぶかしむロリスキーを見つめ――彼女の胸に抱きついた。 「こ、こなたっ! あの、その――」 「――かがみん。いや、ロリスキーさん聞いて。  私達はもう対等なんだよ。ご主人様と奴隷じゃないんだよ。  だから、悪いこともしてないのにそんなに謝らないで。私がシてもいいっていったんだから、――謝らないでっ!  血を吸いあったり、喰らいあったり、そしていつかは殺しあうかも知れない……けど。  これからは、いつも隣同士でいよう? 後ろじゃない。味方でも敵であってもいつも隣り同士……。  手を繋いでてさ、ずっと仲良く喧嘩しあおうよ、ねぇ? ずっと、ずーっと、長く、永く――」 ロリスキーの胸元でバスタオルに顔を擦り付けると、地球破壊爆弾はまた元の位置へと戻る。 顔だけを隣りに向けて、いつもの笑顔を浮かべて互いに見詰め合う。 そして――、 「好きです。ずっと隣りにいてください――」 「――う、うん。私なんかでよければ……ね」 ――手に手を取り合って、二人は一緒に足を踏み出した。  ◆ ◆ ◆ ――永遠なんてないと知っているけど、せめて今だけはそれを信じたい。 【午後】【E-8/病院内】 【アーカードとかは行く】 【地球破壊爆弾No.V-7@アニロワ1st】 【状態】:健康 【装備】:裸にバスタオル 【道具】:支給品一式、着替え用の衣装(複数)、アダルトグッズ(大量)、未定支給品×1(本人確認) 【思考】:  基本:『こな×かが』を死守。けど……  0:とりあえず、次の衣装にチェンジ☆  1:次に何をするか考える  2:ごめんね、ウッカリデス。やっぱりかがみんはこなたの嫁です  3:でも、挑戦は随時受付中だよ、ウッカリデス  ※基本的に中身はアーカードで、CVは平野綾です  ※変化する姿に7つのバリエーションがあるらしいです。  【1:地球破壊爆弾】【2:アーカード】【3:長門有希】【4:泉こなた】  【5:銃撃女ラジカル・レヴィさん】【6:キングゲイナー】【7:1~6とか目じゃないよ?びびるよ、まじで】  ※クーガーの早口台詞が言えます!  ※鎖鎌、鳳凰寺風の剣、ソード・カトラス、ノートPCの投影が可能です。  【スーパーキョンタイム】  地図氏以外の者はゆっくりとしか動けなくなります。一度使うとそれなりの時間使用不可能です。  【地図氏の地図】  参加者の位置、生死を含めた地図を投影できます。※長門有希の状態でのみ可能。  使いすぎるとアレなので、毎晩0時にのみ使うことにします。 【クールなロリスキー@漫画ロワ】 【状態】:不死者、吸血姫、 【装備】:裸にバスタオル 【道具】:支給品一式、着替え用の衣装(複数)、『村雨健二』の衣装、裸エプロン(キュートなシルク仕様)、      日焼け止めクリーム(大量)、未定支給品×?(本人確認) 【思考】:  基本:こ、こなたと一緒に……脱出か対主催  0:とりあえず、何か着替えないと  1:みんなと今後について考えないと  ※容姿は柊かがみ@らき☆すたです。  ※何故か不死身です。  ※地球破壊爆弾No.V-7の血を吸い、独立した吸血姫となりました。 【忘却のウッカリデス@アニロワ2nd】 【状態】:首を捻挫(処置済み)、腰痛(処置済み) 【装備】:ゼロの仮面(蝶高性能)@アニロワ2nd 【道具】:なし 【思考】:  基本:ロリスキーの為に対主催!  0:ロリスキーさん、また……  1:地球破壊爆弾さんって、もしかしていい人……?  2:最速の人との誓いを守る  3:地球破壊爆弾さん、ロリスキーを賭けて勝負だ!  ※容姿はルルーシュ@コードギアスです。  ※ロリスキーへの恋心をしっかり認識。  ※ウッカリデスが見た上空に存在する建物(天空の城)は、今の所彼にしか見えません。 【ミスターマダオ@漫画ロワ】 【状態】:疲労(小)、強い決意、強い仲間意識 【装備】:パニッシャー@トライガン(機関銃:残り弾数100%、ロケットランチャー:残り10発)、運動服(ブルマ) 【道具】:支給品一式、未定支給品×1(本人確認済み) 【思考】:  基本:対主催! 殺し合いには乗らないが、マーダーは犬の餌。しかし……?  1:友情! もっと仲間を探すぞ!  2:努力! 首輪をどうにかするぞ!  3:勝利! 見ていろよ主催者!  ※容姿はアーカード(ロリ状態)@ヘルシングです  ※地図氏(地球破壊爆弾No.V-7)がジョーカーではないかと思っています。    ジョーカーに襲われた事と合わせての考察はまだしていません。  ※自分が本物の書き手なのか疑問が生まれました。他の書き手を殺すのにわずかな躊躇いが生まれました。  【世界(スタンド)】  世界を使用でき、時止めも可能です(3秒まで)。  制限は漫画ロワに準拠――『体力の消耗』『時止めの再使用には10秒必要』『スタンドは見れるし触れる』 【神行太保のDIE/SOUL@アニロワ1st】 【状態】:疲労(小)、全身火傷(処置済み)、右指炭化(処置済み)、核鉄による治癒中 【装備】:竜殺し@ベルセルク、ガッツの装備一式@ベルセルク、核鉄『ブレイズオブグローリー』@武装錬金 【道具】:支給品一式、拡声器 【思考】:  基本:アーカード(地図氏、マダオ)は殺すつもり。(だったのだが……)  0:取り合えず、今後の方針を相談する  1:対主催を集め、機を見計らって『孤城の主』を実現させ、アーカードを打倒する  2:それまでは、Wアーカードとも協力してゆく  3:どこかで義手が見つかれば助かるのだが……  4:ナナシと出会ったら、決着をつける!  ※容姿はガッツ@ベルセルクです。  ※神行太保・戴宗の神行法(高速移動)が使えます。  ※ラディカルグッドスピード腕部限定は、腕だけが速く動きます。  ※地図氏(地球破壊爆弾No.V-7)がジョーカーではないかと思っています。    ジョーカーに襲われた事と合わせての考察はまだしていません。  ※自分が本物の書き手なのか疑問が生まれました。他の書き手を殺すのにわずかな躊躇いが生まれました。 |220:[[したらば孔明の陰謀]]|投下順に読む|222:[[エロス頂上決戦、決着……?!]]| |216:[[あるがままに/君らしく、誇らしく]]|時系列順に読む|222:[[エロス頂上決戦、決着……?!]]| |206:[[蟹座の爪の悪夢]]|忘却のウッカリデス|237:[[trigger]]| |206:[[蟹座の爪の悪夢]]|ミスターマダオ|237:[[trigger]]| |206:[[蟹座の爪の悪夢]]|神行太保のDIE/SOUL|237:[[trigger]]| |206:[[蟹座の爪の悪夢]]|地球破壊爆弾No.V-7|237:[[trigger]]| |205:[[尻といったな?見せてやる!俺の熱い尻への愛情を!]]|クールなロリスキー|237:[[trigger]]|
リノウリムの張られた静かな廊下に、パタリパタリと足音だけが響いている。 どこであっても似た印象を与える病院の中。そこを一人の少女が物憂げに歩いていた。 少女の名前はクールなロリスキー。 看護婦の格好をしているが、決してそうではない。 よく見れば、いやよく見なくとも、それが一般的な看護婦の衣装――ナース服とは違うことが分かる。 薄く柔らかい生地は身体のラインを際立たせ、通常よりも遥かに短い裾は男の視線を誘う。 そう。彼女が着ているナース服はコスチュームプレイ用。 つまりはこの病院の制服ではなく、あの妙に品揃えのよいアダルトショップで調達したものだった。 何故彼女は数ある衣装の中からこれを選んだか……、それは別に説明する必要もないだろう。 ともかくとして彼女は一人俯き歩いている。 その手の中には輸血用の血液パック――彼女の昼食が一つ。 吸血鬼となり人の理を捨てた存在にとって、今まで摂ってきた人の食事はもう栄養にはならない。 夜族の身を潤し、力を与えるのは人間の血液のみ。 だから彼女はコレを飲まなければならない。飲まなければ滅んでしまう。しかし、それでも……。 「………………はぁ」 飲めないでいた。 人として生きて来た間に育んできた常識。化物の理に対する禁忌感が、彼女の決断を押し止めている。 溜息の中には飢えという感情も含まれていた。ただしそれは人間のではなく、吸血鬼の――所謂『渇き』と呼ばれるもの。 人間の空腹よりも遥かに焦燥感を募らせる渇き。 自分の中に持ち上がる感情に、彼女も理性では血を飲むべきだと解ってはいるのだが……。 「…………はぁ」 何度目かの溜息。冷たく、そして熱くもある溜息。 吸血鬼の身体の内側に篭る、血液を欲するという感情が押し出されてできた溜息。 しだいにそれは頻度を増し、溜息から荒い吐息へと変化してゆく。 「……はぁ、はぁ。…………っ、はぁ、はぁ」 飲めば楽になる。飲めば楽になる。所詮はただの血だ。もう誰のものでもない血。飲めば楽になる。 何も遠慮することなんかない。飲めば楽になる。誰も傷つけない。パックのジュースと変わらない……これを飲めば……。  ◆ ◆ ◆ 息を荒げ、震える足で廊下を彷徨っている若輩の吸血姫。 その姿を発見したのは、彼女のマスターであり、彼女を夜の道へと引きずり込んだ張本人であった。 「やぁ、かがみん☆ …………大丈夫?」 血色のドールドレス――真紅の格好をした泉こなた。その姿をとる地球破壊爆弾No.V-7。 彼女(それとも彼?)の姿を確認して、憂鬱げだったロリスキーの顔が明るくなる。 「それはこっちの台詞よ。……こなたこそ、もう大丈夫なの?」 まぁ、大体はねー……と、こなたはドレスの上から小さなお腹をぽんと叩いた。 ここにはいないもう一人の吸血鬼ミスター・マダオ。そして、ロリスキーの分もあれば、勿論彼女の分の血も用意されていた。 吸血鬼達がランチに選んだこの病院で、彼らは人間にして大体15人分程の血液が保存されているのを発見した。 それはもうほとんど残ってはいない。枯れかけていた地球破壊爆弾がほとんどを飲んでしまったからだ。 ディナーを……、となると彼らはまた場所を探さなくてはならないだろう。 「かがみんは、ソレ……飲まないの?」 じゃあ貰っちゃうね☆ と、地球破壊爆弾は震えるロリスキーの手から血液パックを取ると、ちゅー……っと飲んでしまう。 あまりの勝手にロリスキーの口があんぐりと開き、そこに長い牙が見えた。 しかし、だけどまぁいいかとその口はゆっくり閉じられた。悩みの種も、モノが無くなれば解決だと。 勿論、身体の疼きはそれで消えるわけではない。しかし、葛藤がないなら我慢するだけですむと、彼女は考える。 「――じゃ、ちょっとこっちにきて!」 2000ccの血液パックを5秒ジャストで飲みきると、ロリスキーの主人は彼女の手を引っ張って近くのドアを潜った。  ◆ ◆ ◆ 縦に細長いロッカーが整列し、またその列が並ぶそこは従業員用の更衣室だった。 地球破壊爆弾は混乱するロリスキーを引っ張り、そして入り口からは見えない位置まで進むとその手を放し、 ロリスキーの正面に相対すると、真っ直ぐに立って彼女の顔を見上げる。 「なんなの、こなた? こんな場所に――」 「――血を飲んで、かがみん」 ロリスキーを見上げるこなたの顔は、普段からは考えられぬ真剣さがあった。 それに、ロリスキーの心臓が一際大きく音をたてる。 「……飲むも何も。さっきあんたが――」 「――うん。だから、……私から血を飲んで」 ここで、地球破壊爆弾はこなたの顔をいつもの軽い表情に戻す。 逆にロリスキーのかがみの顔には困惑の表情が浮かんでいた。 「こな……た、から……?」 「こんなのでも、人間の血は飲めないんでしょう?」 言いながら、地球破壊爆弾は空になった血液パックをペラペラと揺らす。 その表情はまた再び真剣なものに、そして少しだけ悲しそうな、または嬉しそうな複雑な表情を浮かべていた。 そんな彼女に、ロリスキーの口から言葉が失われる。 「私からだったら、人からってことにはならないし……。それにね、かがみんにとってお得なことも多いんだよ?」 そう言って、その『お得なこと』を地球破壊爆弾はロリスキーに説明し始めた。 「私の血――高位の吸血鬼の血を飲んだら、かがみんグッとパワーアップするよ。  今私の力が10で、かがみんが1としたら、多分5か6ぐらいにまでは強くなれると思う。  そしたら……、朝日は無理でも、曇り空や夕焼けぐらいになら平気になれると思うし……」 それに、これが重要なんだけどね。と、地球破壊爆弾は更に言葉を続ける。 「……私の血を飲めば。主人の血を飲めば、かがみんは晴れて一人の吸血姫として独立できる。  勿論、主人だからといって私はかがみんに命令とかはしないんだけど……対等になって欲しいなと思うよ。  かがみんには私の後ろじゃなくて、隣りに立っていて欲しいんだ……。  だからこれは命令じゃなくて、『お願い』――、  ――かがみん。いや、クールなロリスキーさん。私の血を吸って、ください」 自分を見上げ頬を染めて告白する主人に、ロリスキーは眩暈の様なえもいえぬ感情を覚える。 これが本当の倒錯というものであろうか? こなたがかがみに……、主人が下僕になんて…………。 「こなたの、血を……吸う…………」 いいの? と呟くロリスキーに、地球破壊爆弾はいいよ、と微笑む。 そして一つだけリクエストだよとこう言った――全部、かがみんが、して――と。 それ以降、まるで供物の様にこなたの姿をした吸血鬼は直立不動。目の前のかがみんが事を始めるのをじっと待つ。 「私、初めてだから……、どうしていいのか……。い、いたくしちゃうかも……知れないよ?」 長い間を経て出てきたそんな台詞に、地球破壊爆弾はいつもどおりの猫口ではにかむと、いいよと頷いた。  ◆ ◆ ◆ 血を吸う。血を飲む。こなたから血を飲む。地球破壊爆弾から血を飲む。血を――飲む。 思い出すのは、そう。かつて血を吸われた時の事。あの時の、あの事。脳が再生し、身体が思い出す。 思い出した身体が、その時に備えてあの時を再現する。胸が高鳴る。身体が準備を完了する。 渇きが、決して水では癒されぬ渇きが心を、身体を後押しする。目の前の少女――としかいえない者。 それを取れと、それを貪れと、血液の足りない心臓が衝動を突き上げる。 怒っている様に鼓動する心臓。ドクン、ドクンという度に、そうしろ。そうしろと、言われているみたいに感じる。 手が伸びる。自分の手のはずなのに、見ている脳はまるで他人事の様に捉えているから不思議だ。 私の手がこなたの首元のリボンの端を掴んで――引いた。シュルリと衣擦れ、カツンとブローチが床に落ちた。 目は、その落ちたブローチとリボンを追いはしない。いや、できない。そこに……釘付けで……。 縛めの解かれた襟を、真っ赤な襟を、ゆっくりと襟を開いて中を覗き見る。 染み一つなく、健康的で見ただけでその張りが想像できる――おいしそうな――肌。 私の、まだ私のものではない様に思える手が開いた襟の内側へ滑り、想像以上に滑らかだった肌に触れる。 自分の心臓の音が五月蝿くてこなたの声が聞こえない。そこに囚われてこなたの顔が見れない。 小さな掌でも、その中に十分に収まる小さな矮躯。両の掌を首にかけ、滑らせ、襟を肩から落とした。 ああ、心臓が、ドクンドクンと続きをせがんで激しくノックしている。激しすぎて目も潤む。 ドクン。こなた。ドクン。こなた。ドクンドクン。こなたこなた。ドクンドクン。こなたこなた…………。 ものすごく荒い息をしている人がいる。こなたかと思ったら、自分だった。 口を、唇を、こなたを噛む牙を、自分自身をこなたに近づけてゆく。少しずつ、ゆっくりとこなたに近づけてゆく。 目の前に広がるこなた、の首筋。とても、とても……これは何だろう? とても、いい匂いがする。 唇が、上唇も下唇もがこなたの肌に吸い付いた。想像していたよりもずっと熱い。思わず隙間より息が漏れた。 頭はずっと狂ったままなのに、身体はどうすればよいのかを知っているみたいに勝手に始めてしまう。 唇の内側を沿って唾液を落とし、舌の先を使ってそれを肌の上に馴染ませ、また唇を使ってそれを広げた。 こなたのくすぐったがる様な声が聞こえた気がする。それが嬉しくて、何度も同じ事を繰り返した。 首筋にいっぱいの唾液を垂らし、今度は舌の腹を走らせ、繰り返し唇で甘噛みし、こなたの声を聞く。 それに夢中になっている内に、両腕はこなたの背中にあり、あんなに恥ずかしかったのに自然と身体を密着させていた。 したい。ほしい。こなたがほしい。血を。飲みたい。こなたの血がほしい。飲みたい。したい。したい……。 唾液でベトベトになった肌の上に2つだけ伸びた長い牙をあてがい、少しずつ顎に力を加えてゆく。 意外だったのは思いのほか力がいったという事。でも、こなたを壊すのが怖くて私は少しずつしか力を加えれなかった。 牙が肌を破った時、形容もできない小さな音が大きく頭の中に響いて、牙はこなたの中に引きずり込まれた。 ぬるぬるとしたこなたの中を滑る牙の感触に、付け根が疼き脳の中に真っ白いものが広がってゆく。 牙を包み、奥から奥から沸いてくる温かい血が一瞬で口一杯に広がり、香りが鼻腔を抜けて痺れさせてくれる。 口の中の血は、温かくぬめりがあり、何より甘い。それがこなたの血だと思うと、私の心にあった箍は容易く外れた。 ゴプリ。ゴクリゴクリ。おいしい。もっと、欲しい。ゴクリ。あたたかい。こなたがもっとほしい。ゴクリゴクリ……。 今度はこなたの声が聞こえた。小さく、そして短い声だったけど、すごく可愛い声だと思った。 それがもっと聞きたくなって、突き立てた牙をこなたの中へと深く沈める。 今まで触れていなかった部分に触れれば、また新しい声を聞くことができた。嬉しくなり、もっと、そうする。 挿し込んだ牙が肉を掻き分ける度に聞こえてくる新しい声に、自制は効かなくなり私はこなたを蹂躙する。 気付けばこなたを壁に押し付けていた。こなたの悲鳴が聞こえた様な気がしたけど、もう止められない。 突き立てた牙をヌチャヌチャと鳴らし、血を啜ってこなたの声を引き出した。 溢れ出てくる血を溜めて、ズルルルル……と音を立てて啜り取るとこなたが大声で啼きはじめた。 楽しい。楽しい。楽しい。楽しい。楽しい。こなたが愛しくて、愛しくて、楽しくて、嬉しくて、止められない……。 不意に唇の端から零れた血が筋となって落ちてゆく。 目だけで追っていたそれがドレスの端につこうとした時、私の手は勝手にドレスを引き裂いていた。 もったいない。血をたかが布風情に飲ませてしまうなんて、そう思った。これは全部私のものだと思った。 無様も何も関係なく私の舌は血の筋を追いかける。 口を離せばもっと溢れることに気付けないほど、この時の私は馬鹿だった。馬鹿になっていた。可笑しかった。 一つの筋を舐めている内に、2つの筋が、4つの筋が、そして血の筋は雨の様にこなたの肌の上を下る。 唾液を溜めた舌をなだらかで薄い胸の上に、縦横無尽と走らせ降り注ぐ血を舐め取ってゆく。 舌が肌の上を遡る度に、押さえつけられた矮躯が震え、振るい切れなかった分が声となって口から零れる。 血を舐め取るのではなく唇で啄ばむ様に変えると、また反応は変わり、震え方も零れる声も新しくなった。 もう、どうにかなってしまって――いた。初めての血の匂いに酔い。こなたの身体に狂って――いた。 いつの間にそうしたのかは覚えていなかったが、気付けばこなたを床に組み伏せていた。 乱れた前髪が半分は隠していたんだけど、その時初めてこなたの顔を見た。今まで見ていなかったことに気付いた。 真っ赤で、くしゃくしゃで、涙が溜まった眼がすごく潤んでいて――私を見ていた。 その赤ちゃんみたいな顔を見て……、自分の心が蕩ける音が聞こえた様な気がした。 こなた。こなた。こなた。こなた。こなた。こなた。こなた。こなた。こなた。こなた。こなた。こなた…………。 こなたの小さなピンクの唇にキスを、ではなく――噛み付いた。衝突したと言い換えてもいい。 それぐらいに、私の理性も、私の身体もこなたを欲していた。全くの優しさもなく私はこなたをむしゃぶった。 口の中に含んだこなたの血を彼女に返し、代わりに彼女の唾液を私はのばした舌で奪い取る。 歯がガチガチとぶつかり合って、時には折れるほどであったが、血の甘さの前には気にならず、また血がそれを癒してくれた。 こなたと私の間を隔てるものが一つでもあるのがまどろっこしい。 私は血塗れの手をぬるりと這わせ、プレゼントに対してそうする様に、こなたを包むそれを破って捨てた。 少しでもこなたと私がくっついている場所が増えるよう、私も私を包む余計なものを破り捨てる。 この時だけは、この間だけは、私と彼女だけで100%になるよう。不純物を取り除いてゆく。 最早、お互いに血塗れ。甘く甘く決して焦げない砂糖を煮続けた様な、噎せ返る様な空間を、時間を作り、楽しむ。 化物だけに許された、化物同士の咬合――そこから行き着くけらくの交合。 丸く小さな、そして少しだけ膨らんだ子供のお腹。その真ん中にある生物として産み落とされた証である窪み。 そこに溜まった血を啜り取るべく口付け、舌を伸ばし穴の中へと、穴を閉じている捻りを抉じ開け中へと侵入する。 快楽にか、それとも痛みか、または両方か。腹を侵されたこなたが、背骨を弓なりに反らし腰を浮かせる。 今聞こえるこなたの声はそれがどんな種類のものであろと、狂った耳には歓喜のそれとしか届かなかった。 故に私は、一切の戸惑いもなく、疑問も差し挟まず、この後のことなど微塵も考えずに、それを実行した。 こなたの小さな小さな穴。舌の先しか入らない様なその小さな穴を無理矢理に広げ――裂いた。 吹き出した血飛沫を全身に浴びたが、もう血塗れだった私には何も問題はなかった。 こなたが全く未知の獣の様な、聞いたこともないような声をあげたが、私には何も問題はなかった。 私が見ていたのは、真っ赤なそこだけ。皮膚を破られ私の目の前に曝される真っ赤なそこだけ。 血の味が変わった。そこで得られる血の味は他のものよりも甘く、吐き気を催すほどの旨味があった。 それがどうしてかは、すぐに理解できた。破った腹の皮。その裏にうっすらとのっている黄色い脂が混ざったせいだ。 迷わず広げた穴に手を突っ込み、裏返してそこにむしゃぶりついた。 顔が脂でヌルヌルになるのにも構わず、牙の先端でそれをこそいで口の中へと運び味わった。 おいしい。こなたがおいしい。もっと、もっと、ほしい。もっと、こなたがほしい。こなた。こなた…………。 こなたのほっぺた。柔らかいほっぺた。舌でつついて楽しみ、キスしてから食べた。 宝石の用な瞳も、ゼリーの様な唇も、こなたの愛らしさを形成する全てを愛して――食べた。 頂点に乗せられた野苺もちっぽけで、できそこないのプディングみたいなそこも味わって食べた。 小さな小さな、先の丸っこい可愛らしい全部で10本ある指。1本ずつ丁寧にしゃぶり、骨だけをそこに残した。 暴れる脚を押さえつけ、ふとももの内側へと大口で齧り付く。強く強く、肉の中で歯が噛み合わさるぐらいに齧る。 噛んで、噛んで、噛んで、噛んで、綺麗だった脚に歯形を幾つも刻み、ほぐし、溢れる血を音を立てて啜る。 両脚共にそうして味わい、こなたの下半身が肉屋で並んでいる物の様にだらしなく動かなくなったら次へ……。 真っ赤に熟したそこをデザートに。 ダークラムで味付けされた小さくプルプルとしたそこ。 黄金色のシャンパンをパシャパシャと吹き出すそこを。 真っ白な酸味の強いムースでトッピングされたその場所を。 最後に残しておいた、一番甘い場所を――、 ――こなたを、いただきます。 こなたを、ごちそうさまでした。  ◆ ◆ ◆ 冷たい感触を与えてくれるロッカーを背に、ロリスキーは食後の一時を惚けて過ごしていた。 噎せ返る様な血の匂いに酔って、可愛いものの美味しさに脳を蕩けさせ、ただ惚けている。 その酔いは深く、ひんやりとした金属の感触だけでは中々醒めそうにない。 半時程そうしていたであろうか、床に溜まった血の色が真紅より濁った葡萄酒の色に変わる頃、ようやく彼女は帰還した。 いつかの様に体がベトベトと濡れており、そして前以上に酷い臭いがする。 頭の芯が痺れ、焦点の合わない目で辺りを見回しても、中々に状況はつかめず、記憶も戻ってこない。 「………………こ……な、た? …………どこ?」 こなたと一緒にいた。それだけを記憶の海から掬い出した彼女は、こなたを呼ぶ。 ……だが、返事はない。こなたはここにはいない。いや、こなたはここには――無い。 「…………………………………………こな、た?」 不在が不安を呼び、不安が緊張を呼び、緊張が覚醒を促す。 ようやっと焦点の合ったロリスキーの視界の中。ドス黒い血溜りの中に『こなたらしきもの』が沈んでいた。  ◆ ◆ ◆ そう言えば、アフリカを舞台にしたドキュメンタリーで『こんなの』を見たことがある。 そんな場違いな感想が、ロリスキーの頭の中に浮かんだ最初のものだった。 肉食動物に襲われ、その日のランチにされる可哀相な草食動物。 死んで『お肉』となったそれは、弱肉強食の掟に従い強いものからその取り分を剥ぎ取ってゆく。 襲い殺した強い獣は腹や太腿などのおいしい部分を喰らい、他を捨て去ってゆく。 次にそこにくる弱い獣達は、彼らが残した部分。内蔵や手足の先を拝借し、去ってゆく。 さらには、小動物。身体が小さく、量を必要としないこいつ達はほっぺたなどの柔らかい部分を持って去ってゆく。 最後にはそれよりも小さい虫達がたかる。虫は他が残した内でまだ柔らかい部分。腸や性器などを糧にする。 そして、一つの『お肉』はサバンナに住む様々な者達によって分かち合われ、自然は循環してゆくのだ。 そんな話を思い出す様な『もの』が、ロリスキーの目の前にあった。 それが元々人の形をしていたのは、手足の数で分かる。逆に言えば、それぐらいしかヒントがなかった。 両脚は辛うじて付け根に付いているが、右腕は肘、左腕は肩の位置から捩り切られていた。 お腹がごっそりと抜け落ちている。まるで人体模型の蓋を無くしてしまったかの様にぽかりと開いている。 腸は残っているが、内臓がいくつか足りないかも知れない……おぼろげな知識でロリスキーは思う。 その下の方。腹というよりも、胎というべき辺りもぽかんと開いていて、ただのグロテスクと化していた。 胸も――無い。胸骨とそこから連なる肋骨が丸見えになっていた。 そこから喉元までも抉られ、汚い喰い散らかしか、それともスープに入れるガラにしか見えない。 そして。 そして……顔。今は虚空となっているそこに当てはまるべき顔をロリスキーは思い浮かべる。 あの顔を、一時前に自分を見上げていた顔をロリスキーは――。 「こ…………こ、な……た……………………嘘、……だ」  ◆ ◆ ◆ 「あいつら、また勝手に二人でどっか行っちまったんじゃねーだろうな……」 大きくスペースのとられた処置室の端。黒い小山の様な男が、誰に向けるでもなくそう零す。 全身に包帯を巻き、今やホラー物の主役さえ張れそうな恐持ての彼の名は――神行太保のDIE/SOUL。 シャワーを浴びに行ったロリスキーと、それを迎えにいった地球破壊爆弾がいつまでも戻ってこないことに愚痴っている。 「やはり、彼には何かあると考えるべきだとは思うんだが……さて、それは何だろうね?」 不機嫌なDIE/SOUL(以下、ダイソウ)の前で、足をブラブラとさせながら少女がそう言う。 口元には笑み、人形の様に綺麗な黒髪。オールドスタイルの体操服。その少女の名前は――ミスターマダオ。 彼女の態度からは、いなくなった二人を心配する気配はない。いや、誰にも安否を気遣う様子はなかった。 「(…………………………ロリスキーさん大丈夫かな? また、あんな……う、いかんいかん、平常心だ)」 マダオの近く、長椅子の上にかけて血液パック……ではなく、ビタミンゼリーを吸っている男がいる。 真っ黒な仮面の隙間にストローを差込み、ズルズル音を立てているのは彼の名は――忘却のウッカリデスだ。 仮面を外さないのは恥かしがりやだから――ではなく、単純に外れないというそういうアイテムだからである。 ロリスキーと地球破壊爆弾がいなくなってより、すでに1時間以上が経過している。 だが、彼らは特別アクションを起こそうとはしない。 それはあの二人が死ぬなどとは露ほども思ってないためだ。 特に地球破壊爆弾の方は、殺しても死なないとう言葉がこれほど当てはまる奴もいないと、全員が認識している。 そして、ロリスキーが彼のお気に入りである以上。彼女の生存も約束されているだろうと。 何より彼らが思っているのは、おそらくあの二人は――遊んでいるだろう。そんなことだった。 十中八九そうに決まっていると、出会って半日程の仲ではあるが、全員が二人をそう評している。 危険と言えば、ロリスキーの貞操関連ではあるが……それは、まぁ一人を除けば、あんまり気にしていない。  ◆ ◆ ◆ 「こんなに時間が空くのであれば、やはり考察でもしておけばよかったな」 ダイソウの前でゆらゆらと白い足を揺らしながら、マダオはそう言う。 「そろそろ、脱出フラグのきっかけでもつくっとかねぇと……、ここからも脱落者が出るかもな」 マダオの幼稚な誘惑攻撃を無視しながら、ダイソウはボソっと呟いた。 確かにこの集団の戦闘力は、通常のロワの基準で考えれば相当に高い。 だが、そんなものが当てにならないのがパロロワの面白さであると彼も知っている。 後に残る意味……つまりは、残すべきフラグ。それがないと、いつ『処理』されてしまうか分からないのだ。 「……フラグ。……と言われても、首輪解除とかよく解んないしなー」 なんか怪しい雲行き。 もしかしたら、いや、この中で脱落するとしたら確実に自分じゃないか? と、ウッカリデスの胸中に暗雲が立ち込める。 でも……と、気付いた。 自分だけにしか見えない、天空に浮かぶ謎の建造物。 あれが主催の本拠地なのだとしたら、これはフラグじゃないのかと……。 そして、地球破壊爆弾からそれを他言せぬよう注意されたことを合わせて思い出す。 一人、物思いに耽るウッカリデスの前ではマダオとダイソウが、その地球破壊爆弾について語っていた。 彼はジョーカーじゃないのか? それとも主催側を裏切った、逆ジョーカーかもしれないなどと……。 それは彼ら二人に任せ、ウッカリデスは自分の中だけの考えを進める。 気になったのは『フラグ』と言う言葉。彼も、書き手の一人であるからには多少なりとも意識している要素だ。 そして今自分の持つ『主催の本拠地?』という情報。これがどういう意味の『フラグ』となりえるのか。 「(――そうか! 僕だからこそ、他の人に喋っちゃいけないんだ)」 物質ではない『情報』という『フラグ』。それは容易く、周囲に広めて何人かで共有することができる。 故に価値が非常に希薄なのである。AもBもCも知っているとなれば、少なくともその内2人は安易に殺せると言う訳だ。 普通の書き手なら、広める様に言うだろう。しかし、逆に広めるなと言った彼の意図は――。 「(僕を、守っていてくれている……のか?)」 そうなのかも知れないと、ウッカリデスは思い至った。 そこまで考えれば、この病院に来てからの『ロリスキーに対するライバル宣言』をすんなり承認してくれたことも、 自分の立ち位置を与えてくれたのでは? ……と、そんな風に思えた。 地球破壊爆弾とロリスキー ――『こな×かが』 地球破壊爆弾とダイソウ ――『孤城の主』 地球破壊爆弾とマダオ ――『Wアーカード』 地球破壊爆弾とウッカリデス ――『ロリスキーを狙うライバル』 このパーティは、地球破壊爆弾を中心に因縁フラグが立てられている。それは、つまりは――……。  ◆ ◆ ◆ 「――遅えぞっ! つか、なんでまた裸になってるんだよお前ら二人は――っ!」 ダイソウの声に驚いてウッカリデスが顔を上げると、部屋の入り口にバスタオルを巻いた二人の姿があった。 こなた、こと地球破壊爆弾のホクホク顔と頭の上の湯気を見れば、どうやら今までお風呂にいってたらしいと分かる。 隣りに立つロリスキーが心なしか半べそっぽいが、どうやら大方の予想通りに彼らは遊んでいたらしい。 「あはは、ごめんねw ちょっとじゃれあってる内に服が破れちゃってさ~☆」 言いながら地球破壊爆弾は部屋へと入ってきて、ロリスキーの鞄を拾い上げるとまた飄々と戻ってゆく。 そして、着替えたら戻ってくるから。と、言うとまた二人で廊下の先へと姿を消した。 ダイソウは苛立ちの混じった重い溜息を、ウッカリデスは気が抜ける長い溜息を、そしてマダオは――、 「(……どうやら、彼女に血を飲ませることに成功した様じゃないか)」 ――溜息ではなく、クスリと小さな笑みを零した。  ◆ ◆ ◆ ぺたぺたっと、裸足でリノリウムの床を進む音が廊下に聞こえる。2つ。しかし1つは半歩遅れて……。 「か~が~み~ん~!」 珍しく不機嫌そうな声を上げて立ち止まると、地球破壊爆弾は後ろを振り向きロリスキーを睨み付ける。 そして、ちょんちょんと指先で自分の隣りを指した。 項垂れるロリスキーはいくらか逡巡した後、諦めるかの様にそこに立つ。 「じゃ、一緒に行こう」 ロリスキーの手を取り、地球破壊爆弾は彼女と並んで歩き出す。 「……あの、こなた。……本当に、本当に御免なさい。……私、わけわかんなくなって。それで……」 声を上ずらせ、先刻よりそうしなっぱなしだった謝罪を再開する彼女に、地球破壊爆弾はまた何度目かとなる溜息を吐いた。 「だから~、それはもういいって。別に、私はアレぐらいじゃあ死なないし……」 でも、かがみんがあそこまでヤってくれるとは思わなかったけどね。とそこだけは顔を緩ませる。 そして、表情をまた引き締めなおすと、足を止め、いぶかしむロリスキーを見つめ――彼女の胸に抱きついた。 「こ、こなたっ! あの、その――」 「――かがみん。いや、ロリスキーさん聞いて。  私達はもう対等なんだよ。ご主人様と奴隷じゃないんだよ。  だから、悪いこともしてないのにそんなに謝らないで。私がシてもいいっていったんだから、――謝らないでっ!  血を吸いあったり、喰らいあったり、そしていつかは殺しあうかも知れない……けど。  これからは、いつも隣同士でいよう? 後ろじゃない。味方でも敵であってもいつも隣り同士……。  手を繋いでてさ、ずっと仲良く喧嘩しあおうよ、ねぇ? ずっと、ずーっと、長く、永く――」 ロリスキーの胸元でバスタオルに顔を擦り付けると、地球破壊爆弾はまた元の位置へと戻る。 顔だけを隣りに向けて、いつもの笑顔を浮かべて互いに見詰め合う。 そして――、 「好きです。ずっと隣りにいてください――」 「――う、うん。私なんかでよければ……ね」 ――手に手を取り合って、二人は一緒に足を踏み出した。  ◆ ◆ ◆ ――永遠なんてないと知っているけど、せめて今だけはそれを信じたい。 【午後】【E-8/病院内】 【アーカードとかは行く】 【地球破壊爆弾No.V-7@アニロワ1st】 【状態】:健康 【装備】:裸にバスタオル 【道具】:支給品一式、着替え用の衣装(複数)、アダルトグッズ(大量)、未定支給品×1(本人確認) 【思考】:  基本:『こな×かが』を死守。けど……  0:とりあえず、次の衣装にチェンジ☆  1:次に何をするか考える  2:ごめんね、ウッカリデス。やっぱりかがみんはこなたの嫁です  3:でも、挑戦は随時受付中だよ、ウッカリデス  ※基本的に中身はアーカードで、CVは平野綾です  ※変化する姿に7つのバリエーションがあるらしいです。  【1:地球破壊爆弾】【2:アーカード】【3:長門有希】【4:泉こなた】  【5:銃撃女ラジカル・レヴィさん】【6:キングゲイナー】【7:1~6とか目じゃないよ?びびるよ、まじで】  ※クーガーの早口台詞が言えます!  ※鎖鎌、鳳凰寺風の剣、ソード・カトラス、ノートPCの投影が可能です。  【スーパーキョンタイム】  地図氏以外の者はゆっくりとしか動けなくなります。一度使うとそれなりの時間使用不可能です。  【地図氏の地図】  参加者の位置、生死を含めた地図を投影できます。※長門有希の状態でのみ可能。  使いすぎるとアレなので、毎晩0時にのみ使うことにします。 【クールなロリスキー@漫画ロワ】 【状態】:不死者、吸血姫、 【装備】:裸にバスタオル 【道具】:支給品一式、着替え用の衣装(複数)、『村雨健二』の衣装、裸エプロン(キュートなシルク仕様)、      日焼け止めクリーム(大量)、未定支給品×?(本人確認) 【思考】:  基本:こ、こなたと一緒に……脱出か対主催  0:とりあえず、何か着替えないと  1:みんなと今後について考えないと  ※容姿は柊かがみ@らき☆すたです。  ※何故か不死身です。  ※地球破壊爆弾No.V-7の血を吸い、独立した吸血姫となりました。 【忘却のウッカリデス@アニロワ2nd】 【状態】:首を捻挫(処置済み)、腰痛(処置済み) 【装備】:ゼロの仮面(蝶高性能)@アニロワ2nd 【道具】:なし 【思考】:  基本:ロリスキーの為に対主催!  0:ロリスキーさん、また……  1:地球破壊爆弾さんって、もしかしていい人……?  2:最速の人との誓いを守る  3:地球破壊爆弾さん、ロリスキーを賭けて勝負だ!  ※容姿はルルーシュ@コードギアスです。  ※ロリスキーへの恋心をしっかり認識。  ※ウッカリデスが見た上空に存在する建物(天空の城)は、今の所彼にしか見えません。 【ミスターマダオ@漫画ロワ】 【状態】:疲労(小)、強い決意、強い仲間意識 【装備】:パニッシャー@トライガン(機関銃:残り弾数100%、ロケットランチャー:残り10発)、運動服(ブルマ) 【道具】:支給品一式、未定支給品×1(本人確認済み) 【思考】:  基本:対主催! 殺し合いには乗らないが、マーダーは犬の餌。しかし……?  1:友情! もっと仲間を探すぞ!  2:努力! 首輪をどうにかするぞ!  3:勝利! 見ていろよ主催者!  ※容姿はアーカード(ロリ状態)@ヘルシングです  ※地図氏(地球破壊爆弾No.V-7)がジョーカーではないかと思っています。    ジョーカーに襲われた事と合わせての考察はまだしていません。  ※自分が本物の書き手なのか疑問が生まれました。他の書き手を殺すのにわずかな躊躇いが生まれました。  【世界(スタンド)】  世界を使用でき、時止めも可能です(3秒まで)。  制限は漫画ロワに準拠――『体力の消耗』『時止めの再使用には10秒必要』『スタンドは見れるし触れる』 【神行太保のDIE/SOUL@アニロワ1st】 【状態】:疲労(小)、全身火傷(処置済み)、右指炭化(処置済み)、核鉄による治癒中 【装備】:竜殺し@ベルセルク、ガッツの装備一式@ベルセルク、核鉄『ブレイズオブグローリー』@武装錬金 【道具】:支給品一式、拡声器 【思考】:  基本:アーカード(地図氏、マダオ)は殺すつもり。(だったのだが……)  0:取り合えず、今後の方針を相談する  1:対主催を集め、機を見計らって『孤城の主』を実現させ、アーカードを打倒する  2:それまでは、Wアーカードとも協力してゆく  3:どこかで義手が見つかれば助かるのだが……  4:ナナシと出会ったら、決着をつける!  ※容姿はガッツ@ベルセルクです。  ※神行太保・戴宗の神行法(高速移動)が使えます。  ※ラディカルグッドスピード腕部限定は、腕だけが速く動きます。  ※地図氏(地球破壊爆弾No.V-7)がジョーカーではないかと思っています。    ジョーカーに襲われた事と合わせての考察はまだしていません。  ※自分が本物の書き手なのか疑問が生まれました。他の書き手を殺すのにわずかな躊躇いが生まれました。 |221:[[したらば孔明の陰謀]]|投下順に読む|223:[[エロス頂上決戦、決着……?!]]| |217:[[あるがままに/君らしく、誇らしく]]|時系列順に読む|223:[[エロス頂上決戦、決着……?!]]| |207:[[蟹座の爪の悪夢]]|忘却のウッカリデス|238:[[trigger]]| |207:[[蟹座の爪の悪夢]]|ミスターマダオ|238:[[trigger]]| |207:[[蟹座の爪の悪夢]]|神行太保のDIE/SOUL|238:[[trigger]]| |207:[[蟹座の爪の悪夢]]|地球破壊爆弾No.V-7|238:[[trigger]]| |206:[[尻といったな?見せてやる!俺の熱い尻への愛情を!]]|クールなロリスキー|238:[[trigger]]|

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