彼の望んだ天国

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爽やかな朝日が照らす、ちょっとばかり爽やかさの欠けた建物。つまりネットカフェの中。 1人の少年が、鼻歌を歌いながら掃除を進めていた。 いや死者スレの時間の流れと言うのはえてして不可解なものだが、まあ深く突っ込むべき所でもない。 てか情景描写に真顔で突っ込まないで下さい。真顔で考察とかしないで下さい。正直困るんで。 「……ったんぺったんつるぺったん♪ ~~~♪」 まあそれはともかく。 ハーフエルフの特徴でもある尖った耳が、鼻歌が奏でるリズムに合わせピクピクと揺れる。 壊れた端末を片付け、代わりの端末を用意し、天井に開いた大穴を塞ぎ、舞い上がったホコリを掃除して。 ……なんというか、ロワ内にいた時よりも生き生きとしている。身につけたエプロンも妙に馴染んでいる。 「ふぅっ、こっちはこの辺でいいかな。  じゃあ次は、ホテルの掃除と修繕と、ああそうだ、『ドSバー』の開店準備もあるんだっけ。  ああ、忙しい、忙しい……!」 忙しい、と言いながらも顔が笑っている。大変だ、と言いながらも実に楽しそう。 彼こそは死者スレの真の主。死者スレの裏方仕事全般を受け持つ陰の管理者。 ちょっと控えめな性格ではあるが、彼無しにはこの充実しまくった死者スレの設備群は存在しない。 死者たちが好き勝手に暴れてもなんとなく済まされているのも、全ては彼のお陰。 ……あー、そこ、「ハーフエルフな少年なんて書き手ロワに居たっけ?」と言った奴、ちょっと正座しなさい。 彼の名は『深淵』氏。 LSロワの書き手にして、開始早々に自殺という、案外ありそうでない珍しい散り方を決めたお人である。 彼は何よりも死者スレを愛していた。誰よりも死者スレを愛していた。 あまりに愛しすぎて、死者スレ行きたさに自殺するほどだった。 辿り着いた場所はLSの死者ロワではなかったけれど――あの愛らしいロリショタは居なかったけれど。 それでも、ここは彼の望んだ天国だった。幻想郷だった。アルハザードだった。 彼が死んだのは初期も初期。だから最初は何もなかった。可能性しかなかった。 だから、彼は頑張った。とっても頑張った。 ゼロから建物を作り、環境を整え、みんなの居心地のいい空間を作り……。 あまりに頑張りすぎて、彼自身の居場所を作るのを忘れてしまったくらいだ。 「でもいいんだ! ボクは黒幕! ここでは本当に黒幕なんだ!  あの拡声器の叫びは誰にもマトモに受け取って貰えなかったけれど、でも、ここでは黒幕だから!」 黒幕というより黒子のような労働に従事しながら、彼は1人、密かな誇りを噛み締める。 向こうでは活躍どころかほとんど何も残せなかった。 でも、ここではみんなに必要とされている。みんなの役に立てている。それがとても嬉しい。 嬉しいから、どんな辛い仕事でも頑張れる。 「おーい、そこの耳長用務員さーん。ちょっと来てくれー。ボイドさんがラジオでボコボコにされちゃってさー」 「はいはいただいまー、ってちょっと待てー! ボクは用務員じゃなくて黒幕だー!」 だって、この場所こそが彼の望んだ天国なのだから。

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