Blitzkrieg――電撃戦 (中編)

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Blitzkrieg――電撃戦 (中編)」(2008/04/07 (月) 22:34:21) の最新版変更点

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 ◆ ◆ ◆ セラス・ヴィクトリアは夢を見る。だから、焦ったドラえもんも夢を見る。今さっき見ていたのはこんな夢だった。 「焦ったドラえもんや、焦ったドラえもんや……起きなさい……」 夢の中で目を覚ます。そんな矛盾を実行した焦ったドラえもんの前に一つの小さな影があった。 どこかで見た事があると彼女は考える。 マスター……だったっけ? いや、こんなに小さかったっけ? 「悪いけど、そっちの割り当てをちょっち増やすわ。  こっちの方は……まぁ、面白くってね。状況を動かすにはもう2,3手必要っぽいから」 聞き覚えのある声で語られる。だが、聞き覚えの無い約束に彼女は首を捻る。 「彼女の方は、まぁ……そこそこ順調っぽいんだけどね。  こっちはまだ1つなんだぁ、ノルマ。だからさ、君は5でお願いするよ。――『5』ネ♪」 何が『5』なのか? 全く解らない。ノルマとは何を指す言葉なのかも……。 「んじゃ、用意は上の彼がしてるはずだから。後はそっちでよろしく。戦果はこっちで確認しとくからね♪」 納得したのか。一人勝手に喋っていた影は長い髪を翻し去ってゆく。 焦ったドラえもんにこの夢の意味は全く解らなかった。でも、しかし、解らなかったが――……。 セラス・ヴィクトリアは夢を見る。だから、焦ったドラえもんも夢を見る。今さっき見ていたのはこんな夢だった。  ◆ ◆ ◆ 決心をしたうっかり侍は痛む身体をよろめかせながらも布団の中より立ち上がった。 一度、指の無い手で床を押さえようとして悶絶するといううっかりな一場面もあったが、それは微笑で済んだ。 まるで結婚初夜。寝室に向かう花嫁の様な面持ちで、うっかり侍は焦ったドラえもんの待つ布団へと進む。 その表情は初々しく真っ赤で、ぎくしゃくとした手足の運動は彼女がどれだけ緊張しているのかを物語っている。 周囲の面々は終始無言。 吸血行為とは性行為とよく似ている。だが、似ているだけで必ずしも同一ではない。 それが言い訳だろうか? そこから立ち去る者。目を塞ぐものは一人もいなかった。 誰かは緊張の面持ちで、また誰かは興味深く、そしてまた誰かは顔を赤らめてそれを観察している。 後一歩。焦ったドラえもんまでその距離に達したところで、また彼女も立ち上がった。 相対する2人。どちらの顔も穏やかで、紅く、恥かしげで――……。 「(あの腕。あの手。不便だろう。本当は泣きたくなるぐらい、叫びたくなるぐらい痛いはずなのに……、  なのに笑って。こんなことをしたのは私なに笑って……)」 一本の棒の様に真っ直ぐと立っているうっかり侍。彼女を見て、焦ったドラえもんは思う。愛しいと――。 「(ごめんね。本当にうっかりなのは私の方なのに……本当に御免なさい。  だから、せめての罪滅ぼし。  あなたをその苦痛から解放してあげる。私にしかできない方法で――……)」 焦ったドラえもんはゆっくりと手を持ち上げると、うっかり侍の方へ伸ばした。 真っ直ぐに彼女を見つめるうっかり侍の目が一瞬揺れる。心臓が一際高く鳴ったのか、ぴくりと身体が震える。 そんな、可愛い女の子へと、初心な女の子へと彼女はゆっくりゆっくりと手を伸ばし、その手を――……、 ――彼女の胸に――突き刺した。  ◆ ◆ ◆ うっかり侍は幸せだったかも知れない。何故ならその意味を理解する前に絶命できたのだから。 吸血姫の手刀。 それが、胸の真ん中に突き刺さった時点で彼女の意識は――初心な少女のままで途絶え、その後を知ることなく逝ったのだから。 「――――――――――――――――!」 誰かが絶叫した。いや、誰もが絶叫したのかも知れない。 しかしそんな事とはお構いなく、吸血姫は少女の身体に打ち込んだ手刀を真下へと振りぬいた。 すでに少女は絶命していた。なので、もう無駄な行為だったはずだ。しかし、それでも彼女はそうした。 血塗れだったメイド服が身体の中心に沿って真っ二つに裂ける。 そこに現れたのは一糸纏まとわぬ少女の裸体――だが、それはグロテスクなものだった。 胸骨を叩き割られ中央から開き戸の様に外へと開いた24本の肋骨。 その中に見えるのは呼吸をするための、だがもう不要な肺。そして、破られ形を残していない心臓。 真っ赤な血がバタバタと地面で音を立てる。一度に、大量に、零された血が畳の上にぶつかって音を立てる。 その少し後、裂けた腹からズタリズタリと大腸と小腸が零れた。巻いていた縄が解ける様に腹から血溜りへと落ちる。 残った別の臓器がドッタリと落ちると、そこでようやく少女は思い出したかの様に崩れ落ちた。 臭い臭い血の匂い。臭い臭い内臓の匂い。鼻をつまみたくなる様な異臭が部屋の中に立ち込める。 死の匂い。人が物になった匂い。 残りの全員が硬直している中、動くことができたのはやはり最速の彼であった――。 ――再びの爆音。 手刀を振りぬいた直後の吸血姫を、地上最速の足がぶっ飛ばす。 会心の一撃。間違いなく手応えのある一撃。……だが、フリクリ署長の顔は苦渋に満ちていた。 吹き飛んだ吸血姫は壁を突き破り、今度は建物の外へと飛んで行く。 それを彼は迷わず、間髪入れずに追った。 もう理由は問わない。アレは、アイツはこの世から最も速くいなくなるべき存在だと――。  ノルマ――『1』――クリア  ◆ ◆ ◆ フリクリ署長が飛び出した先。石畳の上に彼女は直立していた。 前回の様に無様に這いつくばってはおらず、前回の様にその瞳に怒りはない。 今度は余裕綽々。余裕はたっぷりといった風に、そこに立っていた。 その不気味さに、フリクリ署長の足も一旦止まる。 「説明しなくちゃならないよねぇ……? 何でこんな事を、何でうっかり侍を殺したのかって事を……」 前回とは逆に彼女を射抜く様な目で見るフリクリ署長と、彼の後ろで壁に開いた穴から覗くその他に向かって吸血姫は語りかける。 息を飲む音が耳に届くが、返答はない。しかし、それでもお構いなしに彼女は語りを続けた。 「まず、始めに断っておくと私は『対主催』です」 聞いていた者がそれぞれにピクリと反応する。何故、彼女はこんな事を言うのかと。 妄言なのか? それとも、本当はうっかり侍こそがステルスマーダーだったのか? ……と。だが、誰の想像も当たってはいなかった。 「勿論、あなた達。そして、うっかり侍さんも『対主催』だ――しかし、そのスタンスがちょっと違う」 今風に言えば危険な対主催でしょうか? と、吸血姫はクスリと息を漏らす。 ならばやはり敵対するものなのかと、対峙する者達は動き出そうとするが――……。 その時。 視界が真っ白に染まった。 続けての轟音。しかし、大きすぎて耳はすぐに機能を果たさなくなる。 衝撃。何が起きたのか全く解らない。解ったのは事が終了してからのことだった。 パチリ。パチリ。と、弾ける音の中心。真っ白な衝撃の爆心地に彼女は変わらず立っていた。 変わっていたのはその姿。容姿に変化はなかったが――輝いていた。青白く、『電気』を纏ってバチバチと蛍光灯の様に。  ◆ ◆ ◆ それが……、焦ったドラえもんだったそれが口を聞く。 半分ノイズののった様な声で、遠くから聞こえる様な、それでいてどこまでにも届きそうな声で。 「最初に言っておくと今の私……いや、俺は焦ったドラえもんではない。――『感電』だ」 同一書き手間を介した覚醒。または乗っ取り現象。それは知っているだろう? と、感電はChain-情を見る。 Chain-情。そして、隣りに立つフラグビルドと残月はその現象を確かに知っていた。 King of 脳内補完と同一書き手であったB・D・Nとの融合。記憶と能力の受け継ぎ――覚醒を。 そして、彼らとは違う位置に立つフリクリ署長も考えていた。 同一の書き手が別々の姿を取って存在するということが、目の前で証明された。それは何を意味するのか? この舞台。そしてそこに降り立った書き手達。彼らが織り成す物語。どこまでが作り物で、どこからが本当なのか。 「感電っていったら、あのラジオの感電かい? だとしたらあんた主催者側じゃあないかい。放送は聞いたよっ!」 壁の穴から乗り出した残月が大声で感電に問う。そう、感電=R-0109ならば彼は主催者側のはずだった。 「確かに俺は主催者側にいるよ。けど、だからって『対主催』をやっちゃあいけないってルールはないだろう?」 獅子身中の虫なのさ――と、感電は嘯く。 だが、そんな言葉だけでは誰も納得できなかった様だ。そして、同時に互いの立ち位置も測りかねている。 情報を交換し合うべきなのか、手を組むべきなのか、やはり殺しあうべきなのか。 「とりあえずは、一つずつ説明していこう。  この俺の、いや俺達の目的。そして、貴様らがここで死ななくてはならない理由を――」 いつものラジオの様に、感電は一人滔々と語り始める――……。  ◆ ◆ ◆ 第一に、まずはこの俺の姿。俺の覚醒について説明しよう……。 ただの参加者であるお前達には解らないことも多いだろうが、なぁに……生き延びればいつか解る時も来る。 先程起きた衝撃。あれは天空の城――つまりは主催者の根城からのラピュタの雷だ。 R-0109の分身である焦ったドラえもんが『感電』へと覚醒するのにはよい手段だと思わないか? 何、超展開? そう言うのならば聞くがいい――。 ――『第170話 【書き手ロワ2nd】地図氏を暗殺しにいってみた』 この話の中で、すでに居城は天空の城と形容されている。元々、天上にあったものだし何も問題はない。 そして、アニロワ2ndにおいて天空の城-ラピュタは作品として登場している訳だし、 この城がそのラピュタそのままだとしても……アニロワ2nd出展ということで、やはり問題はないのだ。 ――『第195話 第二回放送』 で、この話の冒頭で我が分身であるR-0109が何かを弄っていただろう――巨大な機械を。 そう、それこそがラピュタの雷。その発射のための装置だったのさ。 意味が解らない……そうだろうとも、意味はこれから生まれるんだから。 俺はお前達を殺す。 だが、何人かは生き残る……課せられたノルマが『5』だから残りは『4』。6人いるから、2人は生き残る計算だ。 その2人はこの情報を抱えて走るがいい。その2人こそがこの場での対主催にふさわしいってことだからな。 ますますもって意味が解らない? 本当に解らないのか? お前は書き手じゃあ、ないのか? ――決まっているだろう! お前達みたいな羊達に意味も無く群れていられちゃあ、進むロワも進まねぇんだよ――っ! だから、間引く! 何様だと? 何様だと言うか貴様らは? ならば言ってやろう。我々は『真の対主催』であると。 そう――! 俺達の目的はこの書き手ロワイアル2ndを――『終わらせること』だ! それがこそが、真の対主催……ふふ、この意味は生き残った後で考えるがいい。 うん、気になるか? 『我々』が誰を指すのか? そうだろう、そうだろう……焦らしていたからな。 ならば明かそう。主催者も聞いているが、なに問題はない。むしろ、そろそろ聞かせておくべき所だったのだ。 我々は最初からそのつもりで『此処』にいた――……。 ――『第146話 仕事』 この話の中で、語られた3人の仲間とは? 私達はもうこの時にはその目的を明らかにしていたぞ? お前達には解らないだろう。しかし、『これを読んでいるやつ』には解るんじゃないかなぁ……? ――はっきり言おう! 俺こと、『R-0109』。爆弾とドSを擁する『地図氏』。そして、アニロワ2ndのしたらば管理人である『孔明』の3人だ。 もう一度、はっきりと言ってやるぞ。俺達3人はこの書き手ロワ2ndを終わらせるためにこの中へと飛び込んできた。 何故終わらせる事を目的とするのか……、それは今後のお楽しみだ。 まぁ、感電としては固執していないのだがね。これに付き合うのは楽しそうだと俺は判断したのさ。 さぁて、ここから先はお前達にはあんまり関係のないことだが、語らせてくれ。 この後の為、このロワを終焉に導くには必要なことなのでな。『其処』にいるやつはよぉく聞いていてくれよ? ――『第162話 絶対可憐少女達』 この話の中で、地図氏の分身――マスク・ザ・ドSが殺害したのは誰だ? おぼえているかな? 第96話で、次の台詞を言ったやつだぞ。この台詞を覚えているやつはいるか? >だけどさ、その、多少は私のせいでもあるし、何て言うのかな、責任取らなきゃ、って言うのかな? 彼女には、ドS自身が出向いて責任を取ってもらった……。 ――『第63話 紙の子どもたちはみな踊る阿呆に見る阿呆。同じ阿呆なら……?』 この話の中で、ドSは何をした? そう、無垢な少女を無差別マーダーに仕立て上げたな。しかも不死身の。 どうして、そうしたのか? それは、もう語る必要はないはずだ。 ところで重要な事なのだが、ドSは最初、誰と出会った? 誰を苛め続けていた? 誰を抑えていた? 覚えておけよフラグだから。 そしてこの後、ドSは誰を『見逃し』、誰を『見殺し』にしたのか……それも、確認しておいてくれ。 ――『第77話 Zero noise (+l)』 この話。惨劇となった第一歩を刻んだのは誰だろう? 参加した全員をその気にさせてしまった犯人は誰だろう? 全員を散り散りにし、その内の複数の命を奪う結果を作り上げたのは誰だろう? ホテル編を始めたのは誰だろう? アイツが入って来たから。みんなその気になっちゃったんだよなぁ……。 まぁ、アイツはその後、遊びに走ってしまった――故に、俺がこんな役割を背負わされているんだが、まぁいい。 最低限の『仕事』はこなしているしな。 ――『第213話 人蟹姫/闘争制覇者』 最近の話さ。記憶に新しいだろう? さぁて、この話の中で疑心暗鬼の種を蒔き、殺しあうはずのない仲間同士を殺し合わせているのは誰だ? 始まってより、対主催と嘯き。出会うもの皆に戦闘と死を与えているあのチビの名前は誰だ? このまま数え上げたらきりがないからもう御仕舞いにしておくが、興味があったら彼らの軌跡をもう一度辿ってくれ。 そして、できれば『地図氏』が書いた話に気をつけろ。 あの――、 >サービス(気配り)? それともスマイル(笑顔)かな? それともそれともサーべランス(監視者)? >スクリプター(記録係)? サルベージ(回収)?  ――などと言う男は、常に『主催』を狙い、話の中に彼を仕留めるための毒を盛っている。 ちなみに余談だがな。この『私』のキャラがちょい薄めだったのはな、覚醒――つまりは乗っ取りしやすくするためさ。 あんまりおいしいキャラだと……その、なんだ……勿体ないだろう? 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 ◆ ◆ ◆ セラス・ヴィクトリアは夢を見る。だから、焦ったドラえもんも夢を見る。今さっき見ていたのはこんな夢だった。 「焦ったドラえもんや、焦ったドラえもんや……起きなさい……」 夢の中で目を覚ます。そんな矛盾を実行した焦ったドラえもんの前に一つの小さな影があった。 どこかで見た事があると彼女は考える。 マスター……だったっけ? いや、こんなに小さかったっけ? 「悪いけど、そっちの割り当てをちょっち増やすわ。  こっちの方は……まぁ、面白くってね。状況を動かすにはもう2,3手必要っぽいから」 聞き覚えのある声で語られる。だが、聞き覚えの無い約束に彼女は首を捻る。 「彼女の方は、まぁ……そこそこ順調っぽいんだけどね。  こっちはまだ1つなんだぁ、ノルマ。だからさ、君は5でお願いするよ。――『5』ネ♪」 何が『5』なのか? 全く解らない。ノルマとは何を指す言葉なのかも……。 「んじゃ、用意は上の彼がしてるはずだから。後はそっちでよろしく。戦果はこっちで確認しとくからね♪」 納得したのか。一人勝手に喋っていた影は長い髪を翻し去ってゆく。 焦ったドラえもんにこの夢の意味は全く解らなかった。でも、しかし、解らなかったが――……。 セラス・ヴィクトリアは夢を見る。だから、焦ったドラえもんも夢を見る。今さっき見ていたのはこんな夢だった。  ◆ ◆ ◆ 決心をしたうっかり侍は痛む身体をよろめかせながらも布団の中より立ち上がった。 一度、指の無い手で床を押さえようとして悶絶するといううっかりな一場面もあったが、それは微笑で済んだ。 まるで結婚初夜。寝室に向かう花嫁の様な面持ちで、うっかり侍は焦ったドラえもんの待つ布団へと進む。 その表情は初々しく真っ赤で、ぎくしゃくとした手足の運動は彼女がどれだけ緊張しているのかを物語っている。 周囲の面々は終始無言。 吸血行為とは性行為とよく似ている。だが、似ているだけで必ずしも同一ではない。 それが言い訳だろうか? そこから立ち去る者。目を塞ぐものは一人もいなかった。 誰かは緊張の面持ちで、また誰かは興味深く、そしてまた誰かは顔を赤らめてそれを観察している。 後一歩。焦ったドラえもんまでその距離に達したところで、また彼女も立ち上がった。 相対する2人。どちらの顔も穏やかで、紅く、恥かしげで――……。 「(あの腕。あの手。不便だろう。本当は泣きたくなるぐらい、叫びたくなるぐらい痛いはずなのに……、  なのに笑って。こんなことをしたのは私なに笑って……)」 一本の棒の様に真っ直ぐと立っているうっかり侍。彼女を見て、焦ったドラえもんは思う。愛しいと――。 「(ごめんね。本当にうっかりなのは私の方なのに……本当に御免なさい。  だから、せめての罪滅ぼし。  あなたをその苦痛から解放してあげる。私にしかできない方法で――……)」 焦ったドラえもんはゆっくりと手を持ち上げると、うっかり侍の方へ伸ばした。 真っ直ぐに彼女を見つめるうっかり侍の目が一瞬揺れる。心臓が一際高く鳴ったのか、ぴくりと身体が震える。 そんな、可愛い女の子へと、初心な女の子へと彼女はゆっくりゆっくりと手を伸ばし、その手を――……、 ――彼女の胸に――突き刺した。  ◆ ◆ ◆ うっかり侍は幸せだったかも知れない。何故ならその意味を理解する前に絶命できたのだから。 吸血姫の手刀。 それが、胸の真ん中に突き刺さった時点で彼女の意識は――初心な少女のままで途絶え、その後を知ることなく逝ったのだから。 「――――――――――――――――!」 誰かが絶叫した。いや、誰もが絶叫したのかも知れない。 しかしそんな事とはお構いなく、吸血姫は少女の身体に打ち込んだ手刀を真下へと振りぬいた。 すでに少女は絶命していた。なので、もう無駄な行為だったはずだ。しかし、それでも彼女はそうした。 血塗れだったメイド服が身体の中心に沿って真っ二つに裂ける。 そこに現れたのは一糸纏まとわぬ少女の裸体――だが、それはグロテスクなものだった。 胸骨を叩き割られ中央から開き戸の様に外へと開いた24本の肋骨。 その中に見えるのは呼吸をするための、だがもう不要な肺。そして、破られ形を残していない心臓。 真っ赤な血がバタバタと地面で音を立てる。一度に、大量に、零された血が畳の上にぶつかって音を立てる。 その少し後、裂けた腹からズタリズタリと大腸と小腸が零れた。巻いていた縄が解ける様に腹から血溜りへと落ちる。 残った別の臓器がドッタリと落ちると、そこでようやく少女は思い出したかの様に崩れ落ちた。 臭い臭い血の匂い。臭い臭い内臓の匂い。鼻をつまみたくなる様な異臭が部屋の中に立ち込める。 死の匂い。人が物になった匂い。 残りの全員が硬直している中、動くことができたのはやはり最速の彼であった――。 ――再びの爆音。 手刀を振りぬいた直後の吸血姫を、地上最速の足がぶっ飛ばす。 会心の一撃。間違いなく手応えのある一撃。……だが、フリクリ署長の顔は苦渋に満ちていた。 吹き飛んだ吸血姫は壁を突き破り、今度は建物の外へと飛んで行く。 それを彼は迷わず、間髪入れずに追った。 もう理由は問わない。アレは、アイツはこの世から最も速くいなくなるべき存在だと――。  ノルマ――『1』――クリア  ◆ ◆ ◆ フリクリ署長が飛び出した先。石畳の上に彼女は直立していた。 前回の様に無様に這いつくばってはおらず、前回の様にその瞳に怒りはない。 今度は余裕綽々。余裕はたっぷりといった風に、そこに立っていた。 その不気味さに、フリクリ署長の足も一旦止まる。 「説明しなくちゃならないよねぇ……? 何でこんな事を、何でうっかり侍を殺したのかって事を……」 前回とは逆に彼女を射抜く様な目で見るフリクリ署長と、彼の後ろで壁に開いた穴から覗くその他に向かって吸血姫は語りかける。 息を飲む音が耳に届くが、返答はない。しかし、それでもお構いなしに彼女は語りを続けた。 「まず、始めに断っておくと私は『対主催』です」 聞いていた者がそれぞれにピクリと反応する。何故、彼女はこんな事を言うのかと。 妄言なのか? それとも、本当はうっかり侍こそがステルスマーダーだったのか? ……と。だが、誰の想像も当たってはいなかった。 「勿論、あなた達。そして、うっかり侍さんも『対主催』だ――しかし、そのスタンスがちょっと違う」 今風に言えば危険な対主催でしょうか? と、吸血姫はクスリと息を漏らす。 ならばやはり敵対するものなのかと、対峙する者達は動き出そうとするが――……。 その時。 視界が真っ白に染まった。 続けての轟音。しかし、大きすぎて耳はすぐに機能を果たさなくなる。 衝撃。何が起きたのか全く解らない。解ったのは事が終了してからのことだった。 パチリ。パチリ。と、弾ける音の中心。真っ白な衝撃の爆心地に彼女は変わらず立っていた。 変わっていたのはその姿。容姿に変化はなかったが――輝いていた。青白く、『電気』を纏ってバチバチと蛍光灯の様に。  ◆ ◆ ◆ それが……、焦ったドラえもんだったそれが口を聞く。 半分ノイズののった様な声で、遠くから聞こえる様な、それでいてどこまでにも届きそうな声で。 「最初に言っておくと今の私……いや、俺は焦ったドラえもんではない。――『感電』だ」 同一書き手間を介した覚醒。または乗っ取り現象。それは知っているだろう? と、感電はChain-情を見る。 Chain-情。そして、隣りに立つフラグビルドと残月はその現象を確かに知っていた。 King of 脳内補完と同一書き手であったB・D・Nとの融合。記憶と能力の受け継ぎ――覚醒を。 そして、彼らとは違う位置に立つフリクリ署長も考えていた。 同一の書き手が別々の姿を取って存在するということが、目の前で証明された。それは何を意味するのか? この舞台。そしてそこに降り立った書き手達。彼らが織り成す物語。どこまでが作り物で、どこからが本当なのか。 「感電っていったら、あのラジオの感電かい? だとしたらあんた主催者側じゃあないかい。放送は聞いたよっ!」 壁の穴から乗り出した残月が大声で感電に問う。そう、感電=R-0109ならば彼は主催者側のはずだった。 「確かに俺は主催者側にいるよ。けど、だからって『対主催』をやっちゃあいけないってルールはないだろう?」 獅子身中の虫なのさ――と、感電は嘯く。 だが、そんな言葉だけでは誰も納得できなかった様だ。そして、同時に互いの立ち位置も測りかねている。 情報を交換し合うべきなのか、手を組むべきなのか、やはり殺しあうべきなのか。 「とりあえずは、一つずつ説明していこう。  この俺の、いや俺達の目的。そして、貴様らがここで死ななくてはならない理由を――」 いつものラジオの様に、感電は一人滔々と語り始める――……。  ◆ ◆ ◆ 第一に、まずはこの俺の姿。俺の覚醒について説明しよう……。 ただの参加者であるお前達には解らないことも多いだろうが、なぁに……生き延びればいつか解る時も来る。 先程起きた衝撃。あれは天空の城――つまりは主催者の根城からのラピュタの雷だ。 R-0109の分身である焦ったドラえもんが『感電』へと覚醒するのにはよい手段だと思わないか? 何、超展開? そう言うのならば聞くがいい――。 ――『第171話 【書き手ロワ2nd】地図氏を暗殺しにいってみた』 この話の中で、すでに居城は天空の城と形容されている。元々、天上にあったものだし何も問題はない。 そして、アニロワ2ndにおいて天空の城-ラピュタは作品として登場している訳だし、 この城がそのラピュタそのままだとしても……アニロワ2nd出展ということで、やはり問題はないのだ。 ――『第196話 第二回放送』 で、この話の冒頭で我が分身であるR-0109が何かを弄っていただろう――巨大な機械を。 そう、それこそがラピュタの雷。その発射のための装置だったのさ。 意味が解らない……そうだろうとも、意味はこれから生まれるんだから。 俺はお前達を殺す。 だが、何人かは生き残る……課せられたノルマが『5』だから残りは『4』。6人いるから、2人は生き残る計算だ。 その2人はこの情報を抱えて走るがいい。その2人こそがこの場での対主催にふさわしいってことだからな。 ますますもって意味が解らない? 本当に解らないのか? お前は書き手じゃあ、ないのか? ――決まっているだろう! お前達みたいな羊達に意味も無く群れていられちゃあ、進むロワも進まねぇんだよ――っ! だから、間引く! 何様だと? 何様だと言うか貴様らは? ならば言ってやろう。我々は『真の対主催』であると。 そう――! 俺達の目的はこの書き手ロワイアル2ndを――『終わらせること』だ! それがこそが、真の対主催……ふふ、この意味は生き残った後で考えるがいい。 うん、気になるか? 『我々』が誰を指すのか? そうだろう、そうだろう……焦らしていたからな。 ならば明かそう。主催者も聞いているが、なに問題はない。むしろ、そろそろ聞かせておくべき所だったのだ。 我々は最初からそのつもりで『此処』にいた――……。 ――『第147話 仕事』 この話の中で、語られた3人の仲間とは? 私達はもうこの時にはその目的を明らかにしていたぞ? お前達には解らないだろう。しかし、『これを読んでいるやつ』には解るんじゃないかなぁ……? ――はっきり言おう! 俺こと、『R-0109』。爆弾とドSを擁する『地図氏』。そして、アニロワ2ndのしたらば管理人である『孔明』の3人だ。 もう一度、はっきりと言ってやるぞ。俺達3人はこの書き手ロワ2ndを終わらせるためにこの中へと飛び込んできた。 何故終わらせる事を目的とするのか……、それは今後のお楽しみだ。 まぁ、感電としては固執していないのだがね。これに付き合うのは楽しそうだと俺は判断したのさ。 さぁて、ここから先はお前達にはあんまり関係のないことだが、語らせてくれ。 この後の為、このロワを終焉に導くには必要なことなのでな。『其処』にいるやつはよぉく聞いていてくれよ? ――『第163話 絶対可憐少女達』 この話の中で、地図氏の分身――マスク・ザ・ドSが殺害したのは誰だ? おぼえているかな? 第96話で、次の台詞を言ったやつだぞ。この台詞を覚えているやつはいるか? >だけどさ、その、多少は私のせいでもあるし、何て言うのかな、責任取らなきゃ、って言うのかな? 彼女には、ドS自身が出向いて責任を取ってもらった……。 ――『第63話 紙の子どもたちはみな踊る阿呆に見る阿呆。同じ阿呆なら……?』 この話の中で、ドSは何をした? そう、無垢な少女を無差別マーダーに仕立て上げたな。しかも不死身の。 どうして、そうしたのか? それは、もう語る必要はないはずだ。 ところで重要な事なのだが、ドSは最初、誰と出会った? 誰を苛め続けていた? 誰を抑えていた? 覚えておけよフラグだから。 そしてこの後、ドSは誰を『見逃し』、誰を『見殺し』にしたのか……それも、確認しておいてくれ。 ――『第77話 Zero noise (+l)』 この話。惨劇となった第一歩を刻んだのは誰だろう? 参加した全員をその気にさせてしまった犯人は誰だろう? 全員を散り散りにし、その内の複数の命を奪う結果を作り上げたのは誰だろう? ホテル編を始めたのは誰だろう? アイツが入って来たから。みんなその気になっちゃったんだよなぁ……。 まぁ、アイツはその後、遊びに走ってしまった――故に、俺がこんな役割を背負わされているんだが、まぁいい。 最低限の『仕事』はこなしているしな。 ――『第214話 人蟹姫/闘争制覇者』 最近の話さ。記憶に新しいだろう? さぁて、この話の中で疑心暗鬼の種を蒔き、殺しあうはずのない仲間同士を殺し合わせているのは誰だ? 始まってより、対主催と嘯き。出会うもの皆に戦闘と死を与えているあのチビの名前は誰だ? このまま数え上げたらきりがないからもう御仕舞いにしておくが、興味があったら彼らの軌跡をもう一度辿ってくれ。 そして、できれば『地図氏』が書いた話に気をつけろ。 あの――、 >サービス(気配り)? それともスマイル(笑顔)かな? それともそれともサーべランス(監視者)? >スクリプター(記録係)? サルベージ(回収)?  ――などと言う男は、常に『主催』を狙い、話の中に彼を仕留めるための毒を盛っている。 ちなみに余談だがな。この『私』のキャラがちょい薄めだったのはな、覚醒――つまりは乗っ取りしやすくするためさ。 あんまりおいしいキャラだと……その、なんだ……勿体ないだろう? 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