我輩は――……

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波おだやかで、青く、広く、見ているだけで同じように心も静まってゆくような、そんなしずかな海。 そこに、一本の灰色の線。 水平線の彼方からのびてくるそれは、コンクリートで引かれた一本の防波堤。 その上を一匹の猫が歩いています。 積み上げられたテトラポッドに波が当たる音を聞きつつ、猫は気ままに先を行きます。 小さく黒い鼻をひくつかせ、釣り人が持ち帰り忘れた獲物がないかを探しています。 しかし残念なことに、今日は獲物どころか釣り人の姿も見えません。 一本の防波堤の上にいるのは、一匹の猫。そして、一人の少女。 どこかで見たことのあるセーラー服を着た黒髪の少女は、猫に気付くとゆっくりとそちらへ歩み寄ります。 猫は少し警戒しましたが、結局逃げはしませんでした。少しさびしかったからです。 「……――も、休憩中? わたしも丁度暇をしてたところなんで、会えて嬉しいわ」 少女は猫の近くに腰をおろすと、また視線を海の方へと向けました。 「綺麗な海……。でも、ずっと見てても飽きないってのは嘘ね」 猫も視線を少女から海の方へと向けます。 何かを思い出せそう。しかし、それが何のなのかすら猫の頭の中には思い浮かびません。 「なんで、いつまでもそんな格好をしているのかな?」 猫の横顔に少女はそんなことを尋ねます。 しかしそれでも、やっぱり猫には何のことだかわかりません。ただ、おなかがへったなぁ……とだけ。 「これをあげる」 どこからともなく取り出した皿を、少女は灰色のザラザラの上に置きました。 皿の上には何故かおでんのつみれ。 期待した獲物ではありませんでしたが、猫はそれにむしゃぶりつき、一生懸命に食べはじめます。 「食べたらいくんだよ? もう、危機はそこにあるんだから……」 夢中になっている猫を足元に、少女はそんなことを言い残して去ってゆきます。 一本の防波堤。また、そこには猫が一匹いるだけとなりました。 その猫も、皿の上を綺麗にするとまた来た方向へと向きかえり――、 ――そして、防波堤の上からは誰もいなくなりました。  ◆ ◆ ◆ 「……――きて。…………起きて、軍曹。」 少女の声をした目覚ましに、鬼軍曹はまどろみの中から現実の方へと戻ってくる。 閉じていた目の中に差し込む光は、脳内で結束し自分を覗き込む人形の像を浮かび上がらせた。 何時の間にかに眠っていた。それだけを確認すると、鬼軍曹は小さな猫の顎で大きなあくびをひとつする。 「……もう、放送か?」 「何を言ってるのかしら? そんなものとっくに流れちゃったわよ」 人形――コロンビーヌに言われて、鬼軍曹は前脚にはめた腕時計を確認する。 指し示される時間は、もうおやつを食べる頃合だった。 「本当の猫みたいに寝ているんですもの♪」 クスクスと笑う人形。そして、陽だまりの中で丸くなっている自分に、鬼軍曹は自己嫌悪する。 いったい、自分はどこまで猫なのかと……。 「ずっと見ていたかったんだけど、残念ながらそうもいかないの」 少女はすっと、指を鬼軍曹の背後へと伸ばす。 「帽子屋のお茶会に、ジャバウォックの乱入よ――!」 鬼軍曹が首を回した先。真昼にできる真っ黒な影の上にその怪異は存在していた。  ◆ ◆ ◆ ソレの名前は、デビルシャリダムという。 OC細胞を元とし、ビクトリーム博士とコ・ホンブックを乗っ取った後、承の手により再び分離された存在。 だが、離れ際にコ・ホンブックの身体にあった呪いを引き受けさせられた為、その存在はより不吉なものへと進化していた。 その姿は、強制分離させられたコ・ホンブックの姿を基本としている。 ピンク色をした綿菓子の様な髪の毛と、その下の愛らしい顔。細く白い短躯も彼女のままだ。 そして、彼女の身体に刻まれた22の傷跡もそのまま。 今はそこから流れ出る血が、白い肌の上に複雑で禍々しい紋様を描いている。 触手。触手。触手。触手。触手。触手……。 OC細胞のその象徴とも言える無数の触手。それがその姿を少女ではなく怪異と形容させている。 少女の身体の背面。 首筋より下の方へ……そして股の間を潜ってお腹の真ん中辺りまでと、びっしりと大小の触手が生え揃っている。 その有様は、言うならば――頭の痛い針鼠。(headachy Hedgehog) これもまた、元となった少女が抱えていた他者への恐怖。それからくる攻撃性の現われであった。 片手に引き摺られているのは不幸を齎す黄金の神器――乖離剣・エア。 数々の負荷により、その武器としての脅威を失っている。だが、不幸の象徴という脅威は未だ変わる所はない。 そして、その精神は――空洞。 失い続けた為に、うつろ。何をも得てないその中は渇いたがらんどう。 故に、貪欲に求めている。 満たされたいと願う故に、触れたいと願う故に、安息を欲するが故に――、 デビルシャリダムは何もかもをも憎しみ、恨み、呪い、奪い、破壊して、殺そうとする。  ◆ ◆ ◆ 優雅な午後に乱入してきた怪異を見て、縦長の瞳孔をもった鬼軍曹の目が見開かれる。 「あいつは……、まさかフェムト……いや、コ・ホンブックなのか?」 仇敵の名前を鬼軍曹は零す。 アニタ・キングと良く似た容姿。そして、片手には乖離剣・エア。 彼がそこから連想できる書き手は一人しかいない。 コ・ホンブック。いつかの村で苦渋を舐めさせられたフェムト――その正体は、田老。 「そうか。それは丁度いいじゃねぇか……」 「あら? その様子だと立ち向かうみたいね。猫さん」 鬼軍曹は仇敵を見据え、凶暴な表情を作って唇を捲くり、鋭い牙を覗き見せる。 因縁の相手というなら丁度よい。 そして、その異様な姿。まず、間違いなく目の前の怪異は自分よりも強い。しかも、遥かに。 しかし、だからこそ。そんなシチュエーションだからこそ――、 「俺には……『鬼軍曹』には丁度いい」 猫の柔らかい身体を屈伸させて、鬼軍曹は道路の端へと跳躍する。 そして、短い手足を器用に操り、そこにあった一本のノボリを抜き取り――構えた。 纏わり付いていた旗を捨て、鬼軍曹は一本の樹脂でできた棒を己の武器として怪異に対峙する。 「コロンビーヌ! お前は素敵な恋を探していると言っていたな。  ならば――、俺がお前のシュヴァリエになることを許してはくれないか?」 「あらあら、長靴を履いた猫がプロポーズ? だとしらは、私はお姫様にしてもらえるのかしら?」 黒いゴシック衣装の人形は、猫からの申し入れにクスリクスリと笑う。 だが、それも満更ではなかった様だ。面白半分ではあったが、小さな猫を姫を守る騎士と認めてあげることにする。 「シュヴァリエと言うのならば、私は手を出さないけれど。猫の騎士にジャバウォックが倒せて?」 闇より光の中へと現れたのは、凶悪で狂暴で巨大な力を持った不吉な魔獣。 それと対峙し撃破を狙うのは、武器ではない棒を構えた小さくて非力な一匹の猫。 「ああ、騎士の誓があれば俺は負けない……」 人形の問いに振り向かないままに答えると、 猫はその尻尾で地面を一度打ち、魔獣へと向け、一人の騎士の様に討ちかかった――!  ◆ ◆ ◆ 「(あの時と同じ……、あの時と同じと考えろ――!)」 灰色の地面を一直線に疾走し、鬼軍曹はコ・ホンブック――の姿をしたデビルシャリダムという怪異に迫る。 騎士が掲げる槍を見ても、対する魔獣は虚ろな表情を見せたままで――いや、感知すると同時に蠢き始めた。 「――シィッ!」 直上より叩きつけられた触手を身を捻って避けると、鬼軍曹はその捻じれを力に変えて棒を怪異へと叩きつける。 柔肌にそれがめり込み、下の骨が悲鳴を上げたことを確認すると、今度はその反動を活かして再び逆回転。 身体を左に傾げていた怪異の側頭部へと棒を叩き込んだ。 パキリ――と、手応え。しかし、それぐらいでは怪異は存在する事を諦めない。 2本、3本と触手を伸ばし、鬼軍曹へ痛みと怨みを返そうとする。 突き出された触手を伏せてやり過ごし、払われた触手を飛び越し、交差して迫る触手を掻い潜って鬼軍曹は次撃を構える。 一本の棒で、怪異の足を払い、内蔵を突き上げ、肩を砕き、脳天を打ち据える。 長く、長く。時計の針が四半周するほどにそれを繰り返したが……、 「全然、堪えてないみたいだな……」 鬼軍曹が作った、白地に蒼く走る痣は見る間に消えてしまう。 そして、その分の痛みを吸い取ったのか、背負った触手を炎の様に震わせ、怪異はよりおぞましいものへと存在を変えてゆく。 翻って鬼軍曹の方はすでに限界が近かった。 その身に抱えた小さな心臓はすでに限界を表明しており、真っ赤な猫毛の中にはじっとりと汗が滲んでいる。 元々、猫というものは瞬発力には長けていても、持久力は一切持ち合わせていないものなのだ。 「コレじゃあ、倒せないのは解っていた……。ただ、ちょっと勘を取り戻す為の時間が欲しかっただけだ」 カラン――と、音を立てて『手』から離れた棒が転がる。 そう。これはただの時間稼ぎ。棒で叩くなんてただの時間稼ぎでしかなかった。しかし、その時間稼ぎが……。 鬼軍曹は、その長い『足』で地を蹴り跳躍する。  ◆ ◆ ◆ 「あららぁ~? あれが私の王子様?」 紅茶のカップを片手にのんびりと死闘を観戦していた人形の目が見開かれる。 その視線の先。そこにいるのは、そこにいた鬼軍曹は――まさに、王子。姫を守るにふさわしい騎士の姿をしていた。 太陽の光を跳ね返すのは黄金の髪。それを被った顔は夢物語の中でしか見れないような眉目秀麗。 標準よりも長く伸びた手足。白く優しそうな指。そして、細身の全身を包むのは穢れのない純白のスーツ。 黒の女王を守護するシュヴァリエ――それが、鬼軍曹の『書き手』としての本来の姿! 「……千年の呪いは解けたってことね。鬼軍曹――いえ、私の騎士様♪」 誓いを立てた姫の目の前。 夜族――翼手の力を取り戻した鬼軍曹が、デビルシャリダムを解体していた。 書き手――九大天王が一人、猫子頭の鬼軍曹としての力を思い出した鬼軍曹が、デビルシャリダムを破壊していた。 鬼軍曹――アニロワの中を走っていた彼の姿を知っている書き手が、彼に覚醒を促した。 ……繰り返そう。 黒の女王を守護するシュヴァリエ――それが、鬼軍曹の『書き手』としての本来の姿だ!  ◆ ◆ ◆ 「――キリがないな」 翼手としての怪力により、デビルシャリダムの身体は一瞬で細切れに解体される。しかし、その次の一瞬でまた戻るのだ。 OC細胞に押し付けられたコ・ホンブックの呪い。妙薬、不死の酒の作用。それが怪異に生を諦めることを許さない。 振られた手刀により、赤い軌跡を描いて怪異の腕が、脚が、首が、飛ぶ。しかし、また一瞬で元通り。 叩き込まれた革靴の裏により、メシャリと音を立てて怪異の肺が、肝臓が、心臓が、潰れる。しかし、また一瞬で元通り。 このままでは無限に闘争は続き永遠に終わらない。 ――いや、鬼軍曹は永き時を生きる翼手と言えども、その存在は永遠ではない。ならば、彼が朽ちて終わるのか? 否。鬼軍曹にはまだ手段がある。鬼軍曹にはまだ力がある。鬼軍曹は怪異に放たなければならない言葉を持っている。 鬼軍曹は、その姿を、じょじょに移し変え、怪異に再度肉薄し、そしてその耳元でそれを言い放った。 「CO(カミングアウト)。鬼軍曹は――狼だっ!」 翼手。それが吸血鬼と呼ばれる正体――鬼の姿でもって、鬼軍曹は怪異を『無残な姿』に変えた。  ◆ ◆ ◆ 無残にばら撒かれ、灰色の地面に赤い斑の海を作っているデビルシャリダム。それは完全に沈黙していた。 流れ出た血が重力に逆らって流動することも、肉の破片同士が磁石の様にくっつきあうことも、もうない。 不死の酒によって齎された力は空間融合の影響により、そのキャパティシィを大幅に減じていたのだ。 そして、その限界を真の力を取り戻した鬼軍曹が越えた。なので、怪異はもうその姿を取り戻すことはない。 怪異は去り、舞台の上には騎士と姫の二人だけとなった。 黒い人形の姫は、手を叩いて騎士の勝利を祝福する。 「素晴らしいわ! 鬼軍曹。あなたは一体どんな魔法を使ったのかしら?」 問われた騎士は、黄金の髪を揺らして振り向き、そして答える。 「何も……、ただ恋をしただけですよ。姫」 騎士と姫。二人は手を取り合うと、太陽の下を歩いてゆく。 午後の紅茶。それが楽しめる素敵な舞台を探して――――…………。 &color(green){【デビルシャリダム  沈黙】} 【午後】【E-6/市街地】 【コロンビーヌ@漫画ロワ】 【状態】:健康 【装備】:ゾナハ蟲@からくりサーカス、腕時計型麻酔銃(残弾1/1)@漫画ロワ 【道具】:支給品一式、ティーセット一式、麻酔銃の予備針×4 、変化の杖、      焦ったドラえもん・うっかり侍・孤高の黒き書き手の服 【思考】  基本:恋愛がしたい。  0:午後の紅茶を楽しめる場所を探す  1:鬼軍曹と恋愛を楽しんでみる(?)  2:そういえば、新生クライシス帝国のみんなはどうしているかしら?  ※容姿はコロンビーヌ(ロリ)@からくりサーカスです。  ※ギャグ将軍にシンパシーを感じています。  ※影の繋ぎ手・仮面ライダー書き手に紅茶を入れてあげたいそうです。 【猫子頭の鬼軍曹@アニロワ1st】 【状態】:健康 【装備】:なし 【道具】:支給品一式、対戦車地雷×17個、ポン太くんスーツ@スパロワ(大破) 【思考】:  基本:コロンビーヌの騎士として行動。主催を打倒する  0:午後の紅茶を楽しめる場所を探す  1:放送の内容をコロンビーヌから聞く  2:アニロワ1stの書き手達と合流  3:お姉さまに会ったら、お仕置きする  ※本来の『書き手』としての姿を取り戻しました。  ※容姿はソロモン@BLOOD+で、能力もそれに準じます。  ※コロンビーヌに対し、シュヴァリエの誓いを立てました。  ※仇敵であるコ・ホンブックを殺害したと勘違いしています。(※実際に殺害したのはデビルシャリダム) ※ E-6の路上に、デビルシャリダムの残骸(OC細胞)が散らばっています。 自力で活動を再開することはありませんが、何らかのきっかけがあれば……もしやすると? ※ デビルシャリダムの残骸の中に、乖離剣・エア(機能停止中)が放置されています。 |202:[[誤解フラグ? ばっきばきにしてやんよ]]|投下順に読む|203:[[働け対主催! 俺?俺に働けって?]]| |219:[[さよならは言わないで。だって――(後編)]]|時系列順に読む|207:[[蟹座の爪の悪夢]]| |175:[[残酷な天使の紅茶]]|コロンビーヌ|206:[[Can You Celebrate]]| |175:[[残酷な天使の紅茶]]|猫子頭の鬼軍曹|206:[[Can You Celebrate]]| |219:[[さよならは言わないで。だって――(後編)]]|デビルシャリダム|206:[[Can You Celebrate]]|
波おだやかで、青く、広く、見ているだけで同じように心も静まってゆくような、そんなしずかな海。 そこに、一本の灰色の線。 水平線の彼方からのびてくるそれは、コンクリートで引かれた一本の防波堤。 その上を一匹の猫が歩いています。 積み上げられたテトラポッドに波が当たる音を聞きつつ、猫は気ままに先を行きます。 小さく黒い鼻をひくつかせ、釣り人が持ち帰り忘れた獲物がないかを探しています。 しかし残念なことに、今日は獲物どころか釣り人の姿も見えません。 一本の防波堤の上にいるのは、一匹の猫。そして、一人の少女。 どこかで見たことのあるセーラー服を着た黒髪の少女は、猫に気付くとゆっくりとそちらへ歩み寄ります。 猫は少し警戒しましたが、結局逃げはしませんでした。少しさびしかったからです。 「……――も、休憩中? わたしも丁度暇をしてたところなんで、会えて嬉しいわ」 少女は猫の近くに腰をおろすと、また視線を海の方へと向けました。 「綺麗な海……。でも、ずっと見てても飽きないってのは嘘ね」 猫も視線を少女から海の方へと向けます。 何かを思い出せそう。しかし、それが何のなのかすら猫の頭の中には思い浮かびません。 「なんで、いつまでもそんな格好をしているのかな?」 猫の横顔に少女はそんなことを尋ねます。 しかしそれでも、やっぱり猫には何のことだかわかりません。ただ、おなかがへったなぁ……とだけ。 「これをあげる」 どこからともなく取り出した皿を、少女は灰色のザラザラの上に置きました。 皿の上には何故かおでんのつみれ。 期待した獲物ではありませんでしたが、猫はそれにむしゃぶりつき、一生懸命に食べはじめます。 「食べたらいくんだよ? もう、危機はそこにあるんだから……」 夢中になっている猫を足元に、少女はそんなことを言い残して去ってゆきます。 一本の防波堤。また、そこには猫が一匹いるだけとなりました。 その猫も、皿の上を綺麗にするとまた来た方向へと向きかえり――、 ――そして、防波堤の上からは誰もいなくなりました。  ◆ ◆ ◆ 「……――きて。…………起きて、軍曹。」 少女の声をした目覚ましに、鬼軍曹はまどろみの中から現実の方へと戻ってくる。 閉じていた目の中に差し込む光は、脳内で結束し自分を覗き込む人形の像を浮かび上がらせた。 何時の間にかに眠っていた。それだけを確認すると、鬼軍曹は小さな猫の顎で大きなあくびをひとつする。 「……もう、放送か?」 「何を言ってるのかしら? そんなものとっくに流れちゃったわよ」 人形――コロンビーヌに言われて、鬼軍曹は前脚にはめた腕時計を確認する。 指し示される時間は、もうおやつを食べる頃合だった。 「本当の猫みたいに寝ているんですもの♪」 クスクスと笑う人形。そして、陽だまりの中で丸くなっている自分に、鬼軍曹は自己嫌悪する。 いったい、自分はどこまで猫なのかと……。 「ずっと見ていたかったんだけど、残念ながらそうもいかないの」 少女はすっと、指を鬼軍曹の背後へと伸ばす。 「帽子屋のお茶会に、ジャバウォックの乱入よ――!」 鬼軍曹が首を回した先。真昼にできる真っ黒な影の上にその怪異は存在していた。  ◆ ◆ ◆ ソレの名前は、デビルシャリダムという。 OC細胞を元とし、ビクトリーム博士とコ・ホンブックを乗っ取った後、承の手により再び分離された存在。 だが、離れ際にコ・ホンブックの身体にあった呪いを引き受けさせられた為、その存在はより不吉なものへと進化していた。 その姿は、強制分離させられたコ・ホンブックの姿を基本としている。 ピンク色をした綿菓子の様な髪の毛と、その下の愛らしい顔。細く白い短躯も彼女のままだ。 そして、彼女の身体に刻まれた22の傷跡もそのまま。 今はそこから流れ出る血が、白い肌の上に複雑で禍々しい紋様を描いている。 触手。触手。触手。触手。触手。触手……。 OC細胞のその象徴とも言える無数の触手。それがその姿を少女ではなく怪異と形容させている。 少女の身体の背面。 首筋より下の方へ……そして股の間を潜ってお腹の真ん中辺りまでと、びっしりと大小の触手が生え揃っている。 その有様は、言うならば――頭の痛い針鼠。(headachy Hedgehog) これもまた、元となった少女が抱えていた他者への恐怖。それからくる攻撃性の現われであった。 片手に引き摺られているのは不幸を齎す黄金の神器――乖離剣・エア。 数々の負荷により、その武器としての脅威を失っている。だが、不幸の象徴という脅威は未だ変わる所はない。 そして、その精神は――空洞。 失い続けた為に、うつろ。何をも得てないその中は渇いたがらんどう。 故に、貪欲に求めている。 満たされたいと願う故に、触れたいと願う故に、安息を欲するが故に――、 デビルシャリダムは何もかもをも憎しみ、恨み、呪い、奪い、破壊して、殺そうとする。  ◆ ◆ ◆ 優雅な午後に乱入してきた怪異を見て、縦長の瞳孔をもった鬼軍曹の目が見開かれる。 「あいつは……、まさかフェムト……いや、コ・ホンブックなのか?」 仇敵の名前を鬼軍曹は零す。 アニタ・キングと良く似た容姿。そして、片手には乖離剣・エア。 彼がそこから連想できる書き手は一人しかいない。 コ・ホンブック。いつかの村で苦渋を舐めさせられたフェムト――その正体は、田老。 「そうか。それは丁度いいじゃねぇか……」 「あら? その様子だと立ち向かうみたいね。猫さん」 鬼軍曹は仇敵を見据え、凶暴な表情を作って唇を捲くり、鋭い牙を覗き見せる。 因縁の相手というなら丁度よい。 そして、その異様な姿。まず、間違いなく目の前の怪異は自分よりも強い。しかも、遥かに。 しかし、だからこそ。そんなシチュエーションだからこそ――、 「俺には……『鬼軍曹』には丁度いい」 猫の柔らかい身体を屈伸させて、鬼軍曹は道路の端へと跳躍する。 そして、短い手足を器用に操り、そこにあった一本のノボリを抜き取り――構えた。 纏わり付いていた旗を捨て、鬼軍曹は一本の樹脂でできた棒を己の武器として怪異に対峙する。 「コロンビーヌ! お前は素敵な恋を探していると言っていたな。  ならば――、俺がお前のシュヴァリエになることを許してはくれないか?」 「あらあら、長靴を履いた猫がプロポーズ? だとしらは、私はお姫様にしてもらえるのかしら?」 黒いゴシック衣装の人形は、猫からの申し入れにクスリクスリと笑う。 だが、それも満更ではなかった様だ。面白半分ではあったが、小さな猫を姫を守る騎士と認めてあげることにする。 「シュヴァリエと言うのならば、私は手を出さないけれど。猫の騎士にジャバウォックが倒せて?」 闇より光の中へと現れたのは、凶悪で狂暴で巨大な力を持った不吉な魔獣。 それと対峙し撃破を狙うのは、武器ではない棒を構えた小さくて非力な一匹の猫。 「ああ、騎士の誓があれば俺は負けない……」 人形の問いに振り向かないままに答えると、 猫はその尻尾で地面を一度打ち、魔獣へと向け、一人の騎士の様に討ちかかった――!  ◆ ◆ ◆ 「(あの時と同じ……、あの時と同じと考えろ――!)」 灰色の地面を一直線に疾走し、鬼軍曹はコ・ホンブック――の姿をしたデビルシャリダムという怪異に迫る。 騎士が掲げる槍を見ても、対する魔獣は虚ろな表情を見せたままで――いや、感知すると同時に蠢き始めた。 「――シィッ!」 直上より叩きつけられた触手を身を捻って避けると、鬼軍曹はその捻じれを力に変えて棒を怪異へと叩きつける。 柔肌にそれがめり込み、下の骨が悲鳴を上げたことを確認すると、今度はその反動を活かして再び逆回転。 身体を左に傾げていた怪異の側頭部へと棒を叩き込んだ。 パキリ――と、手応え。しかし、それぐらいでは怪異は存在する事を諦めない。 2本、3本と触手を伸ばし、鬼軍曹へ痛みと怨みを返そうとする。 突き出された触手を伏せてやり過ごし、払われた触手を飛び越し、交差して迫る触手を掻い潜って鬼軍曹は次撃を構える。 一本の棒で、怪異の足を払い、内蔵を突き上げ、肩を砕き、脳天を打ち据える。 長く、長く。時計の針が四半周するほどにそれを繰り返したが……、 「全然、堪えてないみたいだな……」 鬼軍曹が作った、白地に蒼く走る痣は見る間に消えてしまう。 そして、その分の痛みを吸い取ったのか、背負った触手を炎の様に震わせ、怪異はよりおぞましいものへと存在を変えてゆく。 翻って鬼軍曹の方はすでに限界が近かった。 その身に抱えた小さな心臓はすでに限界を表明しており、真っ赤な猫毛の中にはじっとりと汗が滲んでいる。 元々、猫というものは瞬発力には長けていても、持久力は一切持ち合わせていないものなのだ。 「コレじゃあ、倒せないのは解っていた……。ただ、ちょっと勘を取り戻す為の時間が欲しかっただけだ」 カラン――と、音を立てて『手』から離れた棒が転がる。 そう。これはただの時間稼ぎ。棒で叩くなんてただの時間稼ぎでしかなかった。しかし、その時間稼ぎが……。 鬼軍曹は、その長い『足』で地を蹴り跳躍する。  ◆ ◆ ◆ 「あららぁ~? あれが私の王子様?」 紅茶のカップを片手にのんびりと死闘を観戦していた人形の目が見開かれる。 その視線の先。そこにいるのは、そこにいた鬼軍曹は――まさに、王子。姫を守るにふさわしい騎士の姿をしていた。 太陽の光を跳ね返すのは黄金の髪。それを被った顔は夢物語の中でしか見れないような眉目秀麗。 標準よりも長く伸びた手足。白く優しそうな指。そして、細身の全身を包むのは穢れのない純白のスーツ。 黒の女王を守護するシュヴァリエ――それが、鬼軍曹の『書き手』としての本来の姿! 「……千年の呪いは解けたってことね。鬼軍曹――いえ、私の騎士様♪」 誓いを立てた姫の目の前。 夜族――翼手の力を取り戻した鬼軍曹が、デビルシャリダムを解体していた。 書き手――九大天王が一人、猫子頭の鬼軍曹としての力を思い出した鬼軍曹が、デビルシャリダムを破壊していた。 鬼軍曹――アニロワの中を走っていた彼の姿を知っている書き手が、彼に覚醒を促した。 ……繰り返そう。 黒の女王を守護するシュヴァリエ――それが、鬼軍曹の『書き手』としての本来の姿だ!  ◆ ◆ ◆ 「――キリがないな」 翼手としての怪力により、デビルシャリダムの身体は一瞬で細切れに解体される。しかし、その次の一瞬でまた戻るのだ。 OC細胞に押し付けられたコ・ホンブックの呪い。妙薬、不死の酒の作用。それが怪異に生を諦めることを許さない。 振られた手刀により、赤い軌跡を描いて怪異の腕が、脚が、首が、飛ぶ。しかし、また一瞬で元通り。 叩き込まれた革靴の裏により、メシャリと音を立てて怪異の肺が、肝臓が、心臓が、潰れる。しかし、また一瞬で元通り。 このままでは無限に闘争は続き永遠に終わらない。 ――いや、鬼軍曹は永き時を生きる翼手と言えども、その存在は永遠ではない。ならば、彼が朽ちて終わるのか? 否。鬼軍曹にはまだ手段がある。鬼軍曹にはまだ力がある。鬼軍曹は怪異に放たなければならない言葉を持っている。 鬼軍曹は、その姿を、じょじょに移し変え、怪異に再度肉薄し、そしてその耳元でそれを言い放った。 「CO(カミングアウト)。鬼軍曹は――狼だっ!」 翼手。それが吸血鬼と呼ばれる正体――鬼の姿でもって、鬼軍曹は怪異を『無残な姿』に変えた。  ◆ ◆ ◆ 無残にばら撒かれ、灰色の地面に赤い斑の海を作っているデビルシャリダム。それは完全に沈黙していた。 流れ出た血が重力に逆らって流動することも、肉の破片同士が磁石の様にくっつきあうことも、もうない。 不死の酒によって齎された力は空間融合の影響により、そのキャパティシィを大幅に減じていたのだ。 そして、その限界を真の力を取り戻した鬼軍曹が越えた。なので、怪異はもうその姿を取り戻すことはない。 怪異は去り、舞台の上には騎士と姫の二人だけとなった。 黒い人形の姫は、手を叩いて騎士の勝利を祝福する。 「素晴らしいわ! 鬼軍曹。あなたは一体どんな魔法を使ったのかしら?」 問われた騎士は、黄金の髪を揺らして振り向き、そして答える。 「何も……、ただ恋をしただけですよ。姫」 騎士と姫。二人は手を取り合うと、太陽の下を歩いてゆく。 午後の紅茶。それが楽しめる素敵な舞台を探して――――…………。 &color(green){【デビルシャリダム  沈黙】} 【午後】【E-6/市街地】 【コロンビーヌ@漫画ロワ】 【状態】:健康 【装備】:ゾナハ蟲@からくりサーカス、腕時計型麻酔銃(残弾1/1)@漫画ロワ 【道具】:支給品一式、ティーセット一式、麻酔銃の予備針×4 、変化の杖、      焦ったドラえもん・うっかり侍・孤高の黒き書き手の服 【思考】  基本:恋愛がしたい。  0:午後の紅茶を楽しめる場所を探す  1:鬼軍曹と恋愛を楽しんでみる(?)  2:そういえば、新生クライシス帝国のみんなはどうしているかしら?  ※容姿はコロンビーヌ(ロリ)@からくりサーカスです。  ※ギャグ将軍にシンパシーを感じています。  ※影の繋ぎ手・仮面ライダー書き手に紅茶を入れてあげたいそうです。 【猫子頭の鬼軍曹@アニロワ1st】 【状態】:健康 【装備】:なし 【道具】:支給品一式、対戦車地雷×17個、ポン太くんスーツ@スパロワ(大破) 【思考】:  基本:コロンビーヌの騎士として行動。主催を打倒する  0:午後の紅茶を楽しめる場所を探す  1:放送の内容をコロンビーヌから聞く  2:アニロワ1stの書き手達と合流  3:お姉さまに会ったら、お仕置きする  ※本来の『書き手』としての姿を取り戻しました。  ※容姿はソロモン@BLOOD+で、能力もそれに準じます。  ※コロンビーヌに対し、シュヴァリエの誓いを立てました。  ※仇敵であるコ・ホンブックを殺害したと勘違いしています。(※実際に殺害したのはデビルシャリダム) ※ E-6の路上に、デビルシャリダムの残骸(OC細胞)が散らばっています。 自力で活動を再開することはありませんが、何らかのきっかけがあれば……もしやすると? ※ デビルシャリダムの残骸の中に、乖離剣・エア(機能停止中)が放置されています。 |203:[[誤解フラグ? ばっきばきにしてやんよ]]|投下順に読む|204:[[働け対主催! 俺?俺に働けって?]]| |220:[[さよならは言わないで。だって――(後編)]]|時系列順に読む|208:[[蟹座の爪の悪夢]]| |176:[[残酷な天使の紅茶]]|コロンビーヌ|207:[[Can You Celebrate]]| |176:[[残酷な天使の紅茶]]|猫子頭の鬼軍曹|207:[[Can You Celebrate]]| |220:[[さよならは言わないで。だって――(後編)]]|デビルシャリダム|207:[[Can You Celebrate]]|

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