大いなる意思(前編)

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大いなる意思(前編)」(2008/04/06 (日) 22:43:23) の最新版変更点

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放送が流れる。 脳内補完は倒れていった人数の多さに驚きながらも、密かにほくそえんだ。 特にエースの死は大きい。きっと手ごわいだろう漫画ロワのストライカーは、脳内補完にとって障害でもあったからだ。 残月もまた、放送を聴いて遺憾に思った。 ボンボン系の書鬼。彼は自分よりも多くの作品を投下してくれる人だった。彼の死は痛手に他ならない。 暮れなずむ内面模写もだ。彼らはアニロワ2ndをもっと盛り上げてくれるはずだったのに。 マスク・ザ・ドSやビクトリーム博士も含めて四名が犠牲となった。前者は……少々警戒に値していたりしたのだが、それは置いておく。 だが、悲しむのも喜ぶのも後にするべきだ。 今は目の前に集中せよ、と総員が意識を集中し……目の前の逃亡劇に力を入れていた。 「待てーーーーっ!」 「待つか、このクソ野郎っ……ああくそ、なんでこんなことに……」 追う者と追われる者。 追跡する底上げ中の残月とルーキー、逃走する脳内補完はとっとこ走るよハムゴロー。 「埒が明きませんね……バーンストーム」 ドガンッ!! 「があっ!?」 突如、噴出した火炎が脳内補完を吹っ飛ばした。 二回転、三回転して地面に叩きつけられ、目を回す。火炎自体にはダメージはないようだ。 慌てて起き上がった頃には、バインッと目の前に巨大な何か。残月の大きな胸が視界を塞いでいた。 「あっ、あがががが!?」 「まったく……手間かけさせるんじゃないよ。さあ、一緒に来てもらうからね」 「わ、分かった! 分かったから離れろ! お、お、おう……ぐぉぉぉぉぉ……」 短い逃走劇の果てに脳内補完を捕縛することに成功する。 ルーキーはどのタイミングで残月を葬るかを考えて、今なら二人まとめて大魔法で葬れるかなぁ、と黒い考えを巡らせていたとき。 「く……くっ、くはははははははははは……」 地獄の底から聞こえてくるような、怨嗟の高笑いが聞こえた。 「……なんだい、今のは? アンタ……じゃないねえ」 「俺じゃねえぞ。……ていうか、何か嫌な予感がしやがるなぁ」 「ふむ……とりあえず……」 こんなことをしている場合ではない、と全員が感じた。 よって、踵を返して全員がその場から離れる。脳内補完も、今だけはルーキーたちに追従する形で待機組に戻っていった。 どうせ捕まるぐらいなら、まだ自由の利く状態のままがいいと判断したからだ。 「はっ……ハハハハ、無駄無駄無駄ぁ……テメエらの背後、つかせてもらうぜエェェェ?」 「「「逃げろ~~~~~~~っ!!!」」」 声が脳の中に叩き込まれるような感覚。 封印が、結界が破られるような疑問と予感。とにかく三人は急いで、待機組のほうへと退却するのだった。      ◇     ◇     ◇     ◇ 同じく放送を聴いた待機組。 お姉さまはステルス鬼畜や最速の人の死に崩れ落ちそうになるのを、何とか持ちこたえた。 パンタローネはエースやダイナマイトアンデッド、康一君の名前を心に刻み込む。 速筆魔王は黙して何も語らなかった。ただ、仲間だろう人物の名前を反芻する。特にマスク・ザ・ドSの死には衝撃が大きかったようだ。 Chain-情とフラグビルドも、仲間たちの死を必死に受け入れ、今やらなければならないことをする。 まずは速筆魔王LXに事情を説明、そして情報交換だった。 脳内補完が突然Chain-情を疑いだしたこと、そして突然襲い掛かってきたことを詳細に説明していく。 「なるほど、そういう事情でしたか。とりあえずこれが首輪かな、お姉さまにでも預けておくよ」 「いいの? いや、私としては助かるんだけどね?」 「うん。どうせそこらで調達できそうな気がするし。対主催陣に脱出フラグをたくさん持っていってもらえば、脱出の可能性は増えるかも」 お姉さまに首輪を渡すと、速筆魔王LXは踵を返してしまう。 「ん? ここで皆を待たないのか?」 「うん。ちょっと惜しいなぁ、ってのはあるけど、ひとまず僕は他の首輪を取りにいってくるよ。一波乱ありそうだけどね」 そう言うと、LXはその場から立ち去ってしまった。 本人としても待機するつもりだったのだが、直感がここにいることはまずい、と判断したからだ。 波乱の意味をフラグビルドが小首をかしげて考え、そして理解する。 「波乱……まあ、あの男が捕まったらそうなるでしょうけどね……うぐ……」 「フラグビルドさん、大丈夫かい? 誰か、支給品で治療用のものとか、ないのかな?」 Chain-情の言葉に全員が考え込む。 残念ながらLXはパーティーから離れてしまった。とはいえ、もともと彼にも回復アイテムに類似するものは所持していない。 試しにごそごそとデイバックを漁り、首やら手首やら取り出されたときには驚かれたが、誤解フラグはすでに折られている。 支給品であると説明し、ついでに説明書を見せたことでようやく納得してもらった。あの禁忌の技を使った意味もあるというものだ。 うーん、とパンタローネが首をかしげると、デイバックからひとつのダンゴを取り出した。 「これとかはどうだ?」 「何ですかそれ? ダンゴ大家族?」 「一本しかないのだが……? 確か、ツチノコダンゴって言うらしい。『HPとVPを全回復』って説明書に」 「……VPってなに?」 「さあ……?」 とにもかくにも、回復アイテムらしい。 このままの体力では死にかねないので、フラグビルドは感謝の言葉と共に受け取る。 要するに体力とか完全回復って代物だろう、と結論付けたからだ。 と、フラグビルドが試しに一口食べようと小さな口をあけたところで。 「……あ、帰ってきた。脳内補完も一緒だ」 「だけど、何か様子がおかしくない? 脳内補完を拘束してるわけでもないし、むしろ一緒に逃げてきたかのような……」 そうこうしているうちに、残月たち三名が滑り込むようにゴールイン。 「一位、ルーキー。ビリは残月かな」 「罰ゲームは何がいい? 残月さん」 「アンタたち、随分余裕そうだねえ!? こっちはホラー体験まっしぐらだってのに!」 そんなこんなでバタバタ。 とりあえず落ち着かせて(脳内補完はChain-情たちと距離を置かせて)何があったか話を聞こうとしているところで。 「くっ、くははははははははァァァァッ!! いいぜいいぜ、餌を求めりゃたくさん釣れたァァアァアアッ!!!」 歓喜の雄たけびが響いた。 何が起こる、と告げる時間はなかった。突如、空間が裂かれるような断裂。空が割れたと形容するのが正しいだろう。 空気に真っ黒な亀裂が四方八方へ、彼らの視界の隅々までひび割れていく。ガラスに弾丸をぶち込んだようだった。 どんどん、どんどん亀裂が広がっていく。 僅かに露になった亀裂の隙間から、腐食した身体が垣間見えた。それは、この世の醜悪な光景を混ぜ合わせたようなもの。 腐った物体がぐちょぐちょと気持ちの悪い音を立てて、眼下に見える七つの餌を見て舌なめずりをする。 唐突に彼らは理解した。 桁違いの何かが現れるのだ、と。理屈も常識もない、圧倒的な何かが封印を破って現世に顕現しようとしている。 彼らの鼻を腐食した匂いが刺激した。 やがて現れたのは怪物。亀裂が完全に破壊され、胎児のように生まれ出た存在は高笑いを続けて生まれ落ちた奇跡を祝福した。 「はははははははははははははっ!!! 過疎スレ? いまさら急ごしらえのスレに閉じ込めた程度で、この俺の衝動を止められるものかァアアアッ!!!」 テイルズロワの四凶、nanasinn。 ジョーカーとして呼ばれ、だが過疎スレに閉じ込められたはずの怪物。 獲物たちは、揃って同じ表情をした。 さぞかし、絶望の表情をしているのだろう、と愉悦にも似た視線を下に向けて見ると。 「……空気の読めてない奴が来たな」(お姉さま) 「この状況で出てくるとか……」(パンタローネ) 「いやぁ、俺も今まで結構見てきたけどよ……ここまでってのはねえな」(脳内補完) 「ていうか、存在自体が空気の読めてない奴じゃありませんでしたっけ……?」(フラグビルド) 「ああ、ここまで台無しってのは、いっそ清々しいねえ……」(残月) 「ええ。ですが……どうやら、内輪もめなどしている場合ではないようですよ。こうなってしまえばね」(ルーキー) 「まあ……そうだね、こうなれば……はは」(Chain-情) 全員が全員、呆れ顔でnanasinnを見上げていた。 もう、凄い歓迎のされ方だった。 それはもう、全員から武器を向けられて絶賛フルボッコ五秒前ぐらいに。 「今だけは、共闘です。書き手ロワの秩序を護るためにも、あのエクスフィギィアはここで葬らなければ」 「ええ……出てくるだけで台無しなのは、ここだけに留めなければ」 完全に邪魔者扱いである。 当然だ。ジョーカーのように参入話は没の可能性すらあったというのに、その翌日に彼は出てきてしまった。 せっかく過疎スレに叩き込んだというのに、様々なフラグを叩き折って乱入。おかげで爆発寸前で不完全燃焼である。 ぶっちゃけると空気嫁。ちなみに作者も同じことを言われることは覚悟済みである。 「ヘハ、グフュヘヘヘヘヘッ!! てめえらが俺を葬る? チート能力も持っていない、てめえらがぁ?」 「覚醒フラグの幕開けかもよ」 「はっ、だったら……てめえら全員、グロ死なっ!!愚者は飲み込む、泥の中に毒の中に! てめえらの身体で俺の肉体を肉付けしてやるよおっ!!」 右腕かられろり、と髑髏の舌を標的たちに向けて固定する。 銃弾の如き毒液。麻痺性の毒液はスナイパーライフルとして活用。一体一体を動けなくして、そこから救いようのないグロ展開にしてやろう、と。 もちろん、そんな奴の思い通りになるつもりはない。 それぞれの意図を胸に秘め、今は邪魔者を排除するために。七人は同時にその場から飛んだ。 書き手ロワの秩序の護るための戦いの始まりである。      ◇     ◇     ◇     ◇ 「ファイアランス」 nanasinnから十数メートル離れたところから、ルーキーは攻撃を仕掛けていた。 炎の槍が放たれ、nanasinnの身体に突き刺さる。ぐちょりと不快な音と共に火が燃え移るが、すぐに鎮火されていく。 身体に埋まっては消えていく幾千もの眼球がぎょろりとルーキーを見た。 返答代わりにルーキーはピストルを構える。他の支給品に比べれば力負けするが、これでも牽制にはなるものだ。 (……さて、と) ルーキーは簡易魔術を唱えながら、考える。 確かにジョーカーは撃破しなければならない。こうもルール違反が続けばこの企画自体が過疎りかねないからだ。 だが、だからといって命を懸けて戦うつもりはない。あくまで後方支援。そしてあくまで自分は優勝狙いのマーダーなのだ。 隙を見て対主催の残月を始末するつもりだったのが、仕方がない。 書き手ロワを廃れさせないためにもジョーカーの撃破は必須だが、それ以前に強大な敵相手に倒されては元も子もない。 (時機を見て、退かせていただきましょうか……もちろん、報酬はいただきますがね) ピストルを放つルーキーの視線はnanasinnに向かっていない。 彼が恍惚の笑みを浮かべながら見つめる先には、青龍偃月刀を構えて勇ましく立ち向かうお姉さまの姿があった。 「くっくっく……クロスエアレイド」 光の弾丸を放ちながら、ルーキーは不気味に笑う。 たとえ想定外のジョーカー乱入だろうが、彼は動じない。ステルスマーダーとして、好青年を装いながら目的の物を手に入れてみせる。 彼の思惑の向こう側、一番安全な地点で静かにルーキーは後方支援をする。 視線は、あくまでお姉さまに固定されたまま。      ◇     ◇     ◇     ◇ 「っ……ディー! 真面目に力を貸して! 力をくれるんでしょう!?」 「むっ……我は空気だと思っていたのだが、ちゃんと人数はカウントされて……ああ、待て! デイパックにまた詰めなおすな!」 「いいから、とっとと力を貸せ、と!」 馬鹿神の尻を蹴っ飛ばしてお姉さまは力を得る。 基本的には身体能力の強化。東方キャラに変身する能力よりも、数少ない前衛として彼の怪物を足止めしなければ。 nanasinnの左の豪腕が振るわれる。その一撃を受け流し、青龍偃月刀で全力をこめて斬り付けた。 「ぐっ……」 「はっはあっ! なんだその蚊みてえな一撃は! そんなにその可愛らしい顔、ぐちゃぐちゃにされてえのか、てめえはあっ!!」 身体能力を強化した一撃は確かに奴の身体を切り裂いた。 だが、すぐにその身体は元通りに戻ってしまう。再生能力……それ以前にこの程度では苦痛すら感じないのか。 続けて与えた連撃も結果は同じ。もう一度、蚊を払うように振るわれた豪腕に距離をとる他ない。 (……ダメだ。私の攻撃じゃ効かない。頼りは……魔法や銃撃) 一応最終奥義として、例の母乳があるにはあるが。 さすがにこの衆人環視の中で胸元をはだけさせるなんてことは、性別不明なお姉さまにも出来ない。 だからその奥義は封印するとして、頼れるのは後方支援をしている魔法使いやらの類なのだが。 背後に視線をやる。 ルーキーと目が合った。さっきから何故か舐めまわすような視線を感じていた。 (ううう……? なんだろ、恥ずかしいな……私の顔に何かついてるとか……?) 嫌な感じがしたので、もう一人の後方支援へと視線を向けた。 グーサインを出されたので、一気にお姉さまはnanasinnから距離をとる。さっきまでの牽制ではない、本命が用意されていた。 底上げ中の残月。全裸主義者の熟女は、ロックオンとばかりに敵に狙いを付けていた。      ◇     ◇     ◇     ◇ 「さあ、行くよ! あたしの秘密兵器、九十七式自動砲さあ!」 対戦車ライフル。 残月に支給された兵器だ。重いのでその場に設置する必要があったので、今まで出さなかったが。 彼女にとって初めての戦闘がジョーカー戦。荷が重いとは思わない、彼女もまたロワを愛したもの。だからこそ、祭りの邪魔はさせない。 ドォンッ!! 「ぐはあっ!?」 直撃を受けたnanasinnの口調に初めて苦痛の声が漏れる。 いかに怪物の体をした存在とはいえ、これほどの一撃を受ければ無傷では済まない。先ほどのお姉さまの一撃とは比べ物にならない。 ぐちょり、と千切れた肉が地に落ちた。 まるで腐乱した肉のようなそれは異臭を放ち、穿たれた身体は再生能力のままに失った肉体を補完していく。 「はっはっは、どうだい!? いかにアンタでもこれは辛いだろ?」 「はっ……このクソババアァアアアアアッ!!! てめえはグチョグチョに腐って土に還ってろォォオ……ッ!!」 「アンタにできるのかいっ!?」 「舐めんな、抑えられないグロ模写衝動……スナイパーライフル形態ィィィイッ!!」 右手の髑髏の舌が吼える。 標的を狙い撃ち、完全に腐らせ、ドロドロにしてしまおうという意思の下に毒液という名の銃弾が放たれた。 銃弾のような速度で放たれた一撃は必殺。 残月には避ける術はない。本来ならそのまま一撃を受け入れ、そして異臭を放ちながら地面と同化するはずだった。 「はっ……頼んだよ、お嬢ちゃん!」 「はいっ……」 じゅっ、と肉の溶けた形容詞。 文字通り接触した肉は腐乱し、異臭を放ちながら沈んでいった。 だが、残月は無事だった。何故なら、その隣りには援護役として少女……フラグビルドが、首やら手を持って構えているのだから。 同じアニロワ2ndの仲間だ。 だからこそ、残月はフラグビルドを信じていたい。たとえ疑われていても、皆で信じると決めたのだ。 だから自分の身の安全はフラグビルドに一任して、自分は何度も引き金を引いた。轟音が響く。nanasinnの体を……何度も削っていった。      ◇     ◇     ◇     ◇ (……困りましたね) 表面上はノリノリを演じながら、フラグビルドは内心で舌打ちした。 飛翔してくる毒液は、生命体由来の物質にしか降下がないらしい。だから首やら手首やらに反応して盾となる。 まあ、首やら手首は生きていないので何とも言えないが……フラグビルドはとにかく、今の状況が不愉快だった。 (ぽっと出のジョーカーにフラグは立てられるし、私はここで知らないお婆さん守ってるし……まあ、誤解フラグは真っ二つにできましたけど) 今の状態は本当に摩訶不思議な状態だ。 本来なら避けられない誤解フラグに殺し合うはずの両者が、手を取り合って空気の読めないジョーカーを撃破しようとしている。 だが、付け焼刃だ。全員が全員、このジョーカーを撃破しようとは考えていないだろう。少なくとも自分は考えていない。 ただ、書き手ロワという世界の秩序を守らなければ、という不思議な義務感で行動しているに過ぎない。 (ああ、本当に腹立たしいです。いっそ、このお婆さん捨ててしまいましょうか。タイミングをずらすとか……まあ、意味もないですね) 頭に浮かんだ考えはすぐに打ち消す。 フラグビルドの思考は静かなるChain-情と素敵なフラグを立てることだ。恋愛フラグが一番好ましい。 こんなところでジョーカーと戦うつもりはない。とりあえず、隙を見てChain-情を連れて逃げ出さなければ。 そうして、Chain-情さんに死んでほしくないんです、とでも言えば……更に良好なフラグが立てられるだろう。 (とにもかくにも、今は疲労でボロボロです……様子を見ましょう) 心配なのは、nanasinnと接近戦を挑んでいるChain-情だった。 こんなところで死なれては困る。極上のフラグを、立てて、立てて、立てまくる。それがフラグビルドの生きがいなのだから。      ◇     ◇     ◇     ◇ 「てめえらァァア、うざったいんだよォオオオっ!!」 「いや、君には一番言われたくないかも……『カエルよ、あの毒液から僕の身を護れ』!」 Chain-情はゴールド・エクスペリエンスによって作られたカエルを使い、毒液を反射させる。 隙を突いてカエルを接触させて爆破。こうしてバランスを崩している間に距離をとる。 無理をする必要はない。ヒット&アウェイ。自分ひとりで戦おうとは考えるな、と自分自身に言い聞かせる。 (でも、この後って結局どうなるんだろ?) 今は共通の敵であるジョーカーを殲滅するために手を組んでいるが、脳内補完はまだ疑っている。 戦う理由はこうした事態によって、書き手ロワが荒れる前にジョーカーを始末するためだ。 戦いが終わればさっきの続きかも知れない。信じてくれた人たちが守ってくれるだろうけど、やっぱり誤解だから脳内補完とも和解したい。 勘違いの末に殺しあう……それは嫌だなー、と思うんだけど……他に手段もないし、何より現在進行形でピンチだし。 「うおぉぉおおらぁあああっ!!」 「っ……だから、僕は今は味方だってっ……!」 「おお、わりい! わざとじゃあねえんだ……わざとじゃ……なっ!!」 そう言いながらも脳内補完はChain-情に攻撃を仕掛けてくる。 要するにどうしようもないほど、誤解の溝は出来上がっているわけで。しかも、共通の敵を前にしても狙ってくる執念さ。 たまに怪物にも攻撃をするのだが、五割以上がChain-情を狙ってくる。どう考えてもわざとだ。 まあ、元々がもう一人の自分を殺した、という事実の下に行動している。 Chain-情はただの誤解フラグじゃないよなぁ、などと呟くほかない。もしかしたら彼と仲間同士だったりするんだろうか、同じロワの。 答えは見つからない。ただ、ジョーカー参入においても自分は狙われる立場だった。 「くそおっ! 一体、何だっていうんだあっ!!」 叫んだ直後。 脳内補完が突然、氷を展開させたと思えば……nanasinnごとChain-情に射出してくるのだった。      ◇     ◇     ◇     ◇ 「お、おお? なんだこりゃ?」 ホワイトアルバム。脳内補完すら気づいていなかった力が覚醒していた。 氷を生み出して攻撃するスタンドだ。Chain-情もまた、ゴールド・エクスペリエンスを宿している。 突如、生み出せた一撃は……次の瞬間、力に溺れるように高笑いと共に放たれる。 「はっ……はっはっはっはっは!!!」 脳内補完にとって、このジョーカーは復讐の邪魔をした存在。自重しろ、と言ってやりたい。 信じないあいつらも一緒に皆殺しにしてやってもいいぐらいだ。 だからこそ、脳内補完はジョーカーなど無視してChain-情に攻撃を仕掛けていた。 (あのクソガキを殺す、それだけだぜえっ!!) ガガガガガガガガ、と氷の弾丸が発射される。 当然、nanasinnごとなのだが、それにしても危険すぎる乱射だった。肉が削げる音と沼に石を投げ込むような濁音。 正直に言って、こんな豆粒のような攻撃ではnanasinnは倒れない。だが、それは関係ない。ただ自分を殺した相手への復讐を果たすために。 「……おい、脳内補完! いい加減にしないか! まだChain-情を疑っているのか!」 「うっせえっ! どうせどっちも潰すべき対象なんだよぉ、パンタローネ! てめえも漫画ロワの人間なら熱くやろうぜえっ!!」 「ぬっ……」 きいきい煩いパンタローネの声も聞かない。 脳内補完は自分の激情のままに行動する。Chain-情は少し涙目になりながら、うまく脳内補完の攻撃から逃れていった。      ◇     ◇     ◇     ◇ 「まったく……どうして、あそこまで憎むんだ?」 深緑の手による指からの空気圧縮で作られた銃弾を放つパンタローネ。 主に効果は薄いので、青龍偃月刀を使って前衛を守るお姉さまの援護がパンタローネの役割だ。 自分の支給品に頼ってもいいのだが、やはりそれなりの一撃でなければnanasinnには通じない。ならば、援護に徹するのが上策だろう。 (ああ……お姉さまの手、綺麗だな……勇ましいお姉さまの……) ふと、気づいて思いっきり顔を横に振った。いかんいかん、と。 この吉良吉影の侵食が思ったよりも強力だ。気を抜いたら、お姉さまに何かしてしまいそうで困る。 それにしても厄介なのが脳内補完とルーキーだ。特にルーキーは先ほど使った大魔法を使えば、もっとうまく行くはずなのに。 この脳内補完も、どうしてかChain-情を集中攻撃。せっかく覚醒した力も無意味になっている。 「っ……くっ、空気切れか……」 制限なのか、それとも深緑の手を使い慣れていないのが原因なのかは知らないが、片手を撃ち尽くしたとしても同時に供給はできない。 一時、怒りに狂うnanasinnから距離を取ると、空気の供給作業に入る。 だが、その一瞬の隙がいけなかったのだろう。ふと、嫌な予感がしてパンタローネはお姉さまのほうへと視線を移して。 「っ―――――お姉さま、危ないっ!!」 「え―――?」 援護ができなくなったその刹那の隙をついて。 お姉さまが宙を舞う。nanasinnの野太い左腕の薙ぎ払いの直撃を受けて。 「あぐっ……!?」 「はっははははァァアアッ!!! まずは一人、グロい彫像の完成だァァァアッ!!」 更に毒液のスナイパーライフルがお姉さまを狙いを定めた。 たった一撃を受けるだけで、見るも無残なオブジェに変えられるだろう。誰もが行動が間に合わない。 発射される毒液。そして、直撃する必殺の猛毒。 ジュゥゥウウウッ! 「ぐっ……おのれ。我が敷いた防御壁が……一撃で破られようとはっ……」 ディーの呻きが聞こえた。自身に防御壁を敷き、身を挺してお姉さまを庇った結果だった。 どさり、と倒れるお姉さまと……力を一撃で使い果たしたディーがデイパックの中へと緊急的に避難した。 七人で築いた対ジョーカーの包囲網が破れた瞬間だった。 |196:[[静かなる~Ge-道~]]|投下順に読む|197:[[大いなる意思(後編)]]| |196:[[静かなる~Ge-道~]]|時系列順に読む|197:[[大いなる意思(後編)]]| |194:[[新たなる力☆彡]]|お姉さま|197:[[大いなる意思(後編)]]| |185:[[禁忌の技]]|パンタローネ|197:[[大いなる意思(後編)]]| |185:[[禁忌の技]]|◆yHjSlOJmms(ルーキー)|197:[[大いなる意思(後編)]]| |185:[[禁忌の技]]|静かなる ~Chain-情~|197:[[大いなる意思(後編)]]| |185:[[禁忌の技]]|素晴らしきフラグビルド|197:[[大いなる意思(後編)]]| |185:[[禁忌の技]]|King of 脳内補完|197:[[大いなる意思(後編)]]| |185:[[禁忌の技]]|底上中の残月|197:[[大いなる意思(後編)]]| |185:[[禁忌の技]]|速筆魔王LX|197:[[大いなる意思(後編)]]| |174:[[これが過疎の力だ!]]|nanasinn|197:[[大いなる意思(後編)]]| ----
放送が流れる。 脳内補完は倒れていった人数の多さに驚きながらも、密かにほくそえんだ。 特にエースの死は大きい。きっと手ごわいだろう漫画ロワのストライカーは、脳内補完にとって障害でもあったからだ。 残月もまた、放送を聴いて遺憾に思った。 ボンボン系の書鬼。彼は自分よりも多くの作品を投下してくれる人だった。彼の死は痛手に他ならない。 暮れなずむ内面模写もだ。彼らはアニロワ2ndをもっと盛り上げてくれるはずだったのに。 マスク・ザ・ドSやビクトリーム博士も含めて四名が犠牲となった。前者は……少々警戒に値していたりしたのだが、それは置いておく。 だが、悲しむのも喜ぶのも後にするべきだ。 今は目の前に集中せよ、と総員が意識を集中し……目の前の逃亡劇に力を入れていた。 「待てーーーーっ!」 「待つか、このクソ野郎っ……ああくそ、なんでこんなことに……」 追う者と追われる者。 追跡する底上げ中の残月とルーキー、逃走する脳内補完はとっとこ走るよハムゴロー。 「埒が明きませんね……バーンストーム」 ドガンッ!! 「があっ!?」 突如、噴出した火炎が脳内補完を吹っ飛ばした。 二回転、三回転して地面に叩きつけられ、目を回す。火炎自体にはダメージはないようだ。 慌てて起き上がった頃には、バインッと目の前に巨大な何か。残月の大きな胸が視界を塞いでいた。 「あっ、あがががが!?」 「まったく……手間かけさせるんじゃないよ。さあ、一緒に来てもらうからね」 「わ、分かった! 分かったから離れろ! お、お、おう……ぐぉぉぉぉぉ……」 短い逃走劇の果てに脳内補完を捕縛することに成功する。 ルーキーはどのタイミングで残月を葬るかを考えて、今なら二人まとめて大魔法で葬れるかなぁ、と黒い考えを巡らせていたとき。 「く……くっ、くはははははははははは……」 地獄の底から聞こえてくるような、怨嗟の高笑いが聞こえた。 「……なんだい、今のは? アンタ……じゃないねえ」 「俺じゃねえぞ。……ていうか、何か嫌な予感がしやがるなぁ」 「ふむ……とりあえず……」 こんなことをしている場合ではない、と全員が感じた。 よって、踵を返して全員がその場から離れる。脳内補完も、今だけはルーキーたちに追従する形で待機組に戻っていった。 どうせ捕まるぐらいなら、まだ自由の利く状態のままがいいと判断したからだ。 「はっ……ハハハハ、無駄無駄無駄ぁ……テメエらの背後、つかせてもらうぜエェェェ?」 「「「逃げろ~~~~~~~っ!!!」」」 声が脳の中に叩き込まれるような感覚。 封印が、結界が破られるような疑問と予感。とにかく三人は急いで、待機組のほうへと退却するのだった。      ◇     ◇     ◇     ◇ 同じく放送を聴いた待機組。 お姉さまはステルス鬼畜や最速の人の死に崩れ落ちそうになるのを、何とか持ちこたえた。 パンタローネはエースやダイナマイトアンデッド、康一君の名前を心に刻み込む。 速筆魔王は黙して何も語らなかった。ただ、仲間だろう人物の名前を反芻する。特にマスク・ザ・ドSの死には衝撃が大きかったようだ。 Chain-情とフラグビルドも、仲間たちの死を必死に受け入れ、今やらなければならないことをする。 まずは速筆魔王LXに事情を説明、そして情報交換だった。 脳内補完が突然Chain-情を疑いだしたこと、そして突然襲い掛かってきたことを詳細に説明していく。 「なるほど、そういう事情でしたか。とりあえずこれが首輪かな、お姉さまにでも預けておくよ」 「いいの? いや、私としては助かるんだけどね?」 「うん。どうせそこらで調達できそうな気がするし。対主催陣に脱出フラグをたくさん持っていってもらえば、脱出の可能性は増えるかも」 お姉さまに首輪を渡すと、速筆魔王LXは踵を返してしまう。 「ん? ここで皆を待たないのか?」 「うん。ちょっと惜しいなぁ、ってのはあるけど、ひとまず僕は他の首輪を取りにいってくるよ。一波乱ありそうだけどね」 そう言うと、LXはその場から立ち去ってしまった。 本人としても待機するつもりだったのだが、直感がここにいることはまずい、と判断したからだ。 波乱の意味をフラグビルドが小首をかしげて考え、そして理解する。 「波乱……まあ、あの男が捕まったらそうなるでしょうけどね……うぐ……」 「フラグビルドさん、大丈夫かい? 誰か、支給品で治療用のものとか、ないのかな?」 Chain-情の言葉に全員が考え込む。 残念ながらLXはパーティーから離れてしまった。とはいえ、もともと彼にも回復アイテムに類似するものは所持していない。 試しにごそごそとデイバックを漁り、首やら手首やら取り出されたときには驚かれたが、誤解フラグはすでに折られている。 支給品であると説明し、ついでに説明書を見せたことでようやく納得してもらった。あの禁忌の技を使った意味もあるというものだ。 うーん、とパンタローネが首をかしげると、デイバックからひとつのダンゴを取り出した。 「これとかはどうだ?」 「何ですかそれ? ダンゴ大家族?」 「一本しかないのだが……? 確か、ツチノコダンゴって言うらしい。『HPとVPを全回復』って説明書に」 「……VPってなに?」 「さあ……?」 とにもかくにも、回復アイテムらしい。 このままの体力では死にかねないので、フラグビルドは感謝の言葉と共に受け取る。 要するに体力とか完全回復って代物だろう、と結論付けたからだ。 と、フラグビルドが試しに一口食べようと小さな口をあけたところで。 「……あ、帰ってきた。脳内補完も一緒だ」 「だけど、何か様子がおかしくない? 脳内補完を拘束してるわけでもないし、むしろ一緒に逃げてきたかのような……」 そうこうしているうちに、残月たち三名が滑り込むようにゴールイン。 「一位、ルーキー。ビリは残月かな」 「罰ゲームは何がいい? 残月さん」 「アンタたち、随分余裕そうだねえ!? こっちはホラー体験まっしぐらだってのに!」 そんなこんなでバタバタ。 とりあえず落ち着かせて(脳内補完はChain-情たちと距離を置かせて)何があったか話を聞こうとしているところで。 「くっ、くははははははははァァァァッ!! いいぜいいぜ、餌を求めりゃたくさん釣れたァァアァアアッ!!!」 歓喜の雄たけびが響いた。 何が起こる、と告げる時間はなかった。突如、空間が裂かれるような断裂。空が割れたと形容するのが正しいだろう。 空気に真っ黒な亀裂が四方八方へ、彼らの視界の隅々までひび割れていく。ガラスに弾丸をぶち込んだようだった。 どんどん、どんどん亀裂が広がっていく。 僅かに露になった亀裂の隙間から、腐食した身体が垣間見えた。それは、この世の醜悪な光景を混ぜ合わせたようなもの。 腐った物体がぐちょぐちょと気持ちの悪い音を立てて、眼下に見える七つの餌を見て舌なめずりをする。 唐突に彼らは理解した。 桁違いの何かが現れるのだ、と。理屈も常識もない、圧倒的な何かが封印を破って現世に顕現しようとしている。 彼らの鼻を腐食した匂いが刺激した。 やがて現れたのは怪物。亀裂が完全に破壊され、胎児のように生まれ出た存在は高笑いを続けて生まれ落ちた奇跡を祝福した。 「はははははははははははははっ!!! 過疎スレ? いまさら急ごしらえのスレに閉じ込めた程度で、この俺の衝動を止められるものかァアアアッ!!!」 テイルズロワの四凶、nanasinn。 ジョーカーとして呼ばれ、だが過疎スレに閉じ込められたはずの怪物。 獲物たちは、揃って同じ表情をした。 さぞかし、絶望の表情をしているのだろう、と愉悦にも似た視線を下に向けて見ると。 「……空気の読めてない奴が来たな」(お姉さま) 「この状況で出てくるとか……」(パンタローネ) 「いやぁ、俺も今まで結構見てきたけどよ……ここまでってのはねえな」(脳内補完) 「ていうか、存在自体が空気の読めてない奴じゃありませんでしたっけ……?」(フラグビルド) 「ああ、ここまで台無しってのは、いっそ清々しいねえ……」(残月) 「ええ。ですが……どうやら、内輪もめなどしている場合ではないようですよ。こうなってしまえばね」(ルーキー) 「まあ……そうだね、こうなれば……はは」(Chain-情) 全員が全員、呆れ顔でnanasinnを見上げていた。 もう、凄い歓迎のされ方だった。 それはもう、全員から武器を向けられて絶賛フルボッコ五秒前ぐらいに。 「今だけは、共闘です。書き手ロワの秩序を護るためにも、あのエクスフィギィアはここで葬らなければ」 「ええ……出てくるだけで台無しなのは、ここだけに留めなければ」 完全に邪魔者扱いである。 当然だ。ジョーカーのように参入話は没の可能性すらあったというのに、その翌日に彼は出てきてしまった。 せっかく過疎スレに叩き込んだというのに、様々なフラグを叩き折って乱入。おかげで爆発寸前で不完全燃焼である。 ぶっちゃけると空気嫁。ちなみに作者も同じことを言われることは覚悟済みである。 「ヘハ、グフュヘヘヘヘヘッ!! てめえらが俺を葬る? チート能力も持っていない、てめえらがぁ?」 「覚醒フラグの幕開けかもよ」 「はっ、だったら……てめえら全員、グロ死なっ!!愚者は飲み込む、泥の中に毒の中に! てめえらの身体で俺の肉体を肉付けしてやるよおっ!!」 右腕かられろり、と髑髏の舌を標的たちに向けて固定する。 銃弾の如き毒液。麻痺性の毒液はスナイパーライフルとして活用。一体一体を動けなくして、そこから救いようのないグロ展開にしてやろう、と。 もちろん、そんな奴の思い通りになるつもりはない。 それぞれの意図を胸に秘め、今は邪魔者を排除するために。七人は同時にその場から飛んだ。 書き手ロワの秩序の護るための戦いの始まりである。      ◇     ◇     ◇     ◇ 「ファイアランス」 nanasinnから十数メートル離れたところから、ルーキーは攻撃を仕掛けていた。 炎の槍が放たれ、nanasinnの身体に突き刺さる。ぐちょりと不快な音と共に火が燃え移るが、すぐに鎮火されていく。 身体に埋まっては消えていく幾千もの眼球がぎょろりとルーキーを見た。 返答代わりにルーキーはピストルを構える。他の支給品に比べれば力負けするが、これでも牽制にはなるものだ。 (……さて、と) ルーキーは簡易魔術を唱えながら、考える。 確かにジョーカーは撃破しなければならない。こうもルール違反が続けばこの企画自体が過疎りかねないからだ。 だが、だからといって命を懸けて戦うつもりはない。あくまで後方支援。そしてあくまで自分は優勝狙いのマーダーなのだ。 隙を見て対主催の残月を始末するつもりだったのが、仕方がない。 書き手ロワを廃れさせないためにもジョーカーの撃破は必須だが、それ以前に強大な敵相手に倒されては元も子もない。 (時機を見て、退かせていただきましょうか……もちろん、報酬はいただきますがね) ピストルを放つルーキーの視線はnanasinnに向かっていない。 彼が恍惚の笑みを浮かべながら見つめる先には、青龍偃月刀を構えて勇ましく立ち向かうお姉さまの姿があった。 「くっくっく……クロスエアレイド」 光の弾丸を放ちながら、ルーキーは不気味に笑う。 たとえ想定外のジョーカー乱入だろうが、彼は動じない。ステルスマーダーとして、好青年を装いながら目的の物を手に入れてみせる。 彼の思惑の向こう側、一番安全な地点で静かにルーキーは後方支援をする。 視線は、あくまでお姉さまに固定されたまま。      ◇     ◇     ◇     ◇ 「っ……ディー! 真面目に力を貸して! 力をくれるんでしょう!?」 「むっ……我は空気だと思っていたのだが、ちゃんと人数はカウントされて……ああ、待て! デイパックにまた詰めなおすな!」 「いいから、とっとと力を貸せ、と!」 馬鹿神の尻を蹴っ飛ばしてお姉さまは力を得る。 基本的には身体能力の強化。東方キャラに変身する能力よりも、数少ない前衛として彼の怪物を足止めしなければ。 nanasinnの左の豪腕が振るわれる。その一撃を受け流し、青龍偃月刀で全力をこめて斬り付けた。 「ぐっ……」 「はっはあっ! なんだその蚊みてえな一撃は! そんなにその可愛らしい顔、ぐちゃぐちゃにされてえのか、てめえはあっ!!」 身体能力を強化した一撃は確かに奴の身体を切り裂いた。 だが、すぐにその身体は元通りに戻ってしまう。再生能力……それ以前にこの程度では苦痛すら感じないのか。 続けて与えた連撃も結果は同じ。もう一度、蚊を払うように振るわれた豪腕に距離をとる他ない。 (……ダメだ。私の攻撃じゃ効かない。頼りは……魔法や銃撃) 一応最終奥義として、例の母乳があるにはあるが。 さすがにこの衆人環視の中で胸元をはだけさせるなんてことは、性別不明なお姉さまにも出来ない。 だからその奥義は封印するとして、頼れるのは後方支援をしている魔法使いやらの類なのだが。 背後に視線をやる。 ルーキーと目が合った。さっきから何故か舐めまわすような視線を感じていた。 (ううう……? なんだろ、恥ずかしいな……私の顔に何かついてるとか……?) 嫌な感じがしたので、もう一人の後方支援へと視線を向けた。 グーサインを出されたので、一気にお姉さまはnanasinnから距離をとる。さっきまでの牽制ではない、本命が用意されていた。 底上げ中の残月。全裸主義者の熟女は、ロックオンとばかりに敵に狙いを付けていた。      ◇     ◇     ◇     ◇ 「さあ、行くよ! あたしの秘密兵器、九十七式自動砲さあ!」 対戦車ライフル。 残月に支給された兵器だ。重いのでその場に設置する必要があったので、今まで出さなかったが。 彼女にとって初めての戦闘がジョーカー戦。荷が重いとは思わない、彼女もまたロワを愛したもの。だからこそ、祭りの邪魔はさせない。 ドォンッ!! 「ぐはあっ!?」 直撃を受けたnanasinnの口調に初めて苦痛の声が漏れる。 いかに怪物の体をした存在とはいえ、これほどの一撃を受ければ無傷では済まない。先ほどのお姉さまの一撃とは比べ物にならない。 ぐちょり、と千切れた肉が地に落ちた。 まるで腐乱した肉のようなそれは異臭を放ち、穿たれた身体は再生能力のままに失った肉体を補完していく。 「はっはっは、どうだい!? いかにアンタでもこれは辛いだろ?」 「はっ……このクソババアァアアアアアッ!!! てめえはグチョグチョに腐って土に還ってろォォオ……ッ!!」 「アンタにできるのかいっ!?」 「舐めんな、抑えられないグロ模写衝動……スナイパーライフル形態ィィィイッ!!」 右手の髑髏の舌が吼える。 標的を狙い撃ち、完全に腐らせ、ドロドロにしてしまおうという意思の下に毒液という名の銃弾が放たれた。 銃弾のような速度で放たれた一撃は必殺。 残月には避ける術はない。本来ならそのまま一撃を受け入れ、そして異臭を放ちながら地面と同化するはずだった。 「はっ……頼んだよ、お嬢ちゃん!」 「はいっ……」 じゅっ、と肉の溶けた形容詞。 文字通り接触した肉は腐乱し、異臭を放ちながら沈んでいった。 だが、残月は無事だった。何故なら、その隣りには援護役として少女……フラグビルドが、首やら手を持って構えているのだから。 同じアニロワ2ndの仲間だ。 だからこそ、残月はフラグビルドを信じていたい。たとえ疑われていても、皆で信じると決めたのだ。 だから自分の身の安全はフラグビルドに一任して、自分は何度も引き金を引いた。轟音が響く。nanasinnの体を……何度も削っていった。      ◇     ◇     ◇     ◇ (……困りましたね) 表面上はノリノリを演じながら、フラグビルドは内心で舌打ちした。 飛翔してくる毒液は、生命体由来の物質にしか降下がないらしい。だから首やら手首やらに反応して盾となる。 まあ、首やら手首は生きていないので何とも言えないが……フラグビルドはとにかく、今の状況が不愉快だった。 (ぽっと出のジョーカーにフラグは立てられるし、私はここで知らないお婆さん守ってるし……まあ、誤解フラグは真っ二つにできましたけど) 今の状態は本当に摩訶不思議な状態だ。 本来なら避けられない誤解フラグに殺し合うはずの両者が、手を取り合って空気の読めないジョーカーを撃破しようとしている。 だが、付け焼刃だ。全員が全員、このジョーカーを撃破しようとは考えていないだろう。少なくとも自分は考えていない。 ただ、書き手ロワという世界の秩序を守らなければ、という不思議な義務感で行動しているに過ぎない。 (ああ、本当に腹立たしいです。いっそ、このお婆さん捨ててしまいましょうか。タイミングをずらすとか……まあ、意味もないですね) 頭に浮かんだ考えはすぐに打ち消す。 フラグビルドの思考は静かなるChain-情と素敵なフラグを立てることだ。恋愛フラグが一番好ましい。 こんなところでジョーカーと戦うつもりはない。とりあえず、隙を見てChain-情を連れて逃げ出さなければ。 そうして、Chain-情さんに死んでほしくないんです、とでも言えば……更に良好なフラグが立てられるだろう。 (とにもかくにも、今は疲労でボロボロです……様子を見ましょう) 心配なのは、nanasinnと接近戦を挑んでいるChain-情だった。 こんなところで死なれては困る。極上のフラグを、立てて、立てて、立てまくる。それがフラグビルドの生きがいなのだから。      ◇     ◇     ◇     ◇ 「てめえらァァア、うざったいんだよォオオオっ!!」 「いや、君には一番言われたくないかも……『カエルよ、あの毒液から僕の身を護れ』!」 Chain-情はゴールド・エクスペリエンスによって作られたカエルを使い、毒液を反射させる。 隙を突いてカエルを接触させて爆破。こうしてバランスを崩している間に距離をとる。 無理をする必要はない。ヒット&アウェイ。自分ひとりで戦おうとは考えるな、と自分自身に言い聞かせる。 (でも、この後って結局どうなるんだろ?) 今は共通の敵であるジョーカーを殲滅するために手を組んでいるが、脳内補完はまだ疑っている。 戦う理由はこうした事態によって、書き手ロワが荒れる前にジョーカーを始末するためだ。 戦いが終わればさっきの続きかも知れない。信じてくれた人たちが守ってくれるだろうけど、やっぱり誤解だから脳内補完とも和解したい。 勘違いの末に殺しあう……それは嫌だなー、と思うんだけど……他に手段もないし、何より現在進行形でピンチだし。 「うおぉぉおおらぁあああっ!!」 「っ……だから、僕は今は味方だってっ……!」 「おお、わりい! わざとじゃあねえんだ……わざとじゃ……なっ!!」 そう言いながらも脳内補完はChain-情に攻撃を仕掛けてくる。 要するにどうしようもないほど、誤解の溝は出来上がっているわけで。しかも、共通の敵を前にしても狙ってくる執念さ。 たまに怪物にも攻撃をするのだが、五割以上がChain-情を狙ってくる。どう考えてもわざとだ。 まあ、元々がもう一人の自分を殺した、という事実の下に行動している。 Chain-情はただの誤解フラグじゃないよなぁ、などと呟くほかない。もしかしたら彼と仲間同士だったりするんだろうか、同じロワの。 答えは見つからない。ただ、ジョーカー参入においても自分は狙われる立場だった。 「くそおっ! 一体、何だっていうんだあっ!!」 叫んだ直後。 脳内補完が突然、氷を展開させたと思えば……nanasinnごとChain-情に射出してくるのだった。      ◇     ◇     ◇     ◇ 「お、おお? なんだこりゃ?」 ホワイトアルバム。脳内補完すら気づいていなかった力が覚醒していた。 氷を生み出して攻撃するスタンドだ。Chain-情もまた、ゴールド・エクスペリエンスを宿している。 突如、生み出せた一撃は……次の瞬間、力に溺れるように高笑いと共に放たれる。 「はっ……はっはっはっはっは!!!」 脳内補完にとって、このジョーカーは復讐の邪魔をした存在。自重しろ、と言ってやりたい。 信じないあいつらも一緒に皆殺しにしてやってもいいぐらいだ。 だからこそ、脳内補完はジョーカーなど無視してChain-情に攻撃を仕掛けていた。 (あのクソガキを殺す、それだけだぜえっ!!) ガガガガガガガガ、と氷の弾丸が発射される。 当然、nanasinnごとなのだが、それにしても危険すぎる乱射だった。肉が削げる音と沼に石を投げ込むような濁音。 正直に言って、こんな豆粒のような攻撃ではnanasinnは倒れない。だが、それは関係ない。ただ自分を殺した相手への復讐を果たすために。 「……おい、脳内補完! いい加減にしないか! まだChain-情を疑っているのか!」 「うっせえっ! どうせどっちも潰すべき対象なんだよぉ、パンタローネ! てめえも漫画ロワの人間なら熱くやろうぜえっ!!」 「ぬっ……」 きいきい煩いパンタローネの声も聞かない。 脳内補完は自分の激情のままに行動する。Chain-情は少し涙目になりながら、うまく脳内補完の攻撃から逃れていった。      ◇     ◇     ◇     ◇ 「まったく……どうして、あそこまで憎むんだ?」 深緑の手による指からの空気圧縮で作られた銃弾を放つパンタローネ。 主に効果は薄いので、青龍偃月刀を使って前衛を守るお姉さまの援護がパンタローネの役割だ。 自分の支給品に頼ってもいいのだが、やはりそれなりの一撃でなければnanasinnには通じない。ならば、援護に徹するのが上策だろう。 (ああ……お姉さまの手、綺麗だな……勇ましいお姉さまの……) ふと、気づいて思いっきり顔を横に振った。いかんいかん、と。 この吉良吉影の侵食が思ったよりも強力だ。気を抜いたら、お姉さまに何かしてしまいそうで困る。 それにしても厄介なのが脳内補完とルーキーだ。特にルーキーは先ほど使った大魔法を使えば、もっとうまく行くはずなのに。 この脳内補完も、どうしてかChain-情を集中攻撃。せっかく覚醒した力も無意味になっている。 「っ……くっ、空気切れか……」 制限なのか、それとも深緑の手を使い慣れていないのが原因なのかは知らないが、片手を撃ち尽くしたとしても同時に供給はできない。 一時、怒りに狂うnanasinnから距離を取ると、空気の供給作業に入る。 だが、その一瞬の隙がいけなかったのだろう。ふと、嫌な予感がしてパンタローネはお姉さまのほうへと視線を移して。 「っ―――――お姉さま、危ないっ!!」 「え―――?」 援護ができなくなったその刹那の隙をついて。 お姉さまが宙を舞う。nanasinnの野太い左腕の薙ぎ払いの直撃を受けて。 「あぐっ……!?」 「はっははははァァアアッ!!! まずは一人、グロい彫像の完成だァァァアッ!!」 更に毒液のスナイパーライフルがお姉さまを狙いを定めた。 たった一撃を受けるだけで、見るも無残なオブジェに変えられるだろう。誰もが行動が間に合わない。 発射される毒液。そして、直撃する必殺の猛毒。 ジュゥゥウウウッ! 「ぐっ……おのれ。我が敷いた防御壁が……一撃で破られようとはっ……」 ディーの呻きが聞こえた。自身に防御壁を敷き、身を挺してお姉さまを庇った結果だった。 どさり、と倒れるお姉さまと……力を一撃で使い果たしたディーがデイパックの中へと緊急的に避難した。 七人で築いた対ジョーカーの包囲網が破れた瞬間だった。 |197:[[静かなる~Ge-道~]]|投下順に読む|198:[[大いなる意思(後編)]]| |197:[[静かなる~Ge-道~]]|時系列順に読む|198:[[大いなる意思(後編)]]| |195:[[新たなる力☆彡]]|お姉さま|198:[[大いなる意思(後編)]]| |186:[[禁忌の技]]|パンタローネ|198:[[大いなる意思(後編)]]| |185:[[禁忌の技]]|◆yHjSlOJmms(ルーキー)|198:[[大いなる意思(後編)]]| |186:[[禁忌の技]]|静かなる ~Chain-情~|198:[[大いなる意思(後編)]]| |186:[[禁忌の技]]|素晴らしきフラグビルド|198:[[大いなる意思(後編)]]| |186:[[禁忌の技]]|King of 脳内補完|198:[[大いなる意思(後編)]]| |186:[[禁忌の技]]|底上中の残月|198:[[大いなる意思(後編)]]| |186:[[禁忌の技]]|速筆魔王LX|198:[[大いなる意思(後編)]]| |175:[[これが過疎の力だ!]]|nanasinn|198:[[大いなる意思(後編)]]| ----

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