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底冷えのする森の中、巨獣が吼える。 ずらりと並んだ乱杭歯の間から漏れるその咆哮はしかし、紛れもない人の言葉だった。 「虎退治とは粋だねえ。清正公でも気取るかい?」 「いずれ妖の類が、よく吠える……」 巨獣、白虎を前に怯むことなく佇む影は、無明幻妖side.。 夜明けの風に靡く髪も美しい、妙齢の女である。 左半身のまま抜刀した長剣を高く掲げ、顔の高さで刃を構える女を見て虎が笑う。 「これはまた、西洋かぶれの清正公もいたものだね」 「―――抜かせ」 短い言葉と共に、女が消えた。 否、一瞬の内に重心を移動させ、加速したのである。 烈風の如き突きが狙うは、身を低く屈めてなお見上げるほどの巨体を誇る虎の前脚、その付け根。 獣と相対したとき、最も恐るべきは筋力よりもまず、その敏捷性である。 単なる体当たりであっても体重差が大きければ致命傷となりかねず、また懐に飛び込まれれば 獣の持つ爪や牙が密着戦においてその真価を発揮するのを身を持って知ることになる。 故に無明幻妖side.が狙ったのは、その足を奪うことであった。 疾、と走る剣先が、虚を突かれた巨獣の関節へと吸い込まれていく。 だが、 「何ッ―――!?」 驚いたように声を上げたのは無明幻妖side.である。 がつり、という手ごたえは獣の肉に食い込むそれではない。 まるで甲冑を相手にするような、金属的な響き。 反射的に剣を引こうとした女の耳朶を、くつくつという笑い声が打った。 「葉鍵の虎に刃は通じず……覚えておくんだね。もっとも―――」 女の至近、踏み込んだ右の足を引くよりも早く、笑う虎の口腔が、がぱりと開いた。 その吐き気を催すような生臭い吐息の源、喉の奥に光が灯るのを見て、女の表情が変わる。 飛び退りながら手にした剣を正眼に構えなおしたか否かの刹那。 「次があれば、の話だけれどね」 言葉と共に、虎の口から真白い霧が迸っていた。 ひょう、と風が吹くや辺りに生えた草の表面が白く染まる。 薄く粉砂糖をふいたようなそれはよく見れば、真冬であるかのように霜が下りていた。 白い霧が、一瞬にして大気そのものの温度すらを下げていたのである。 あらゆるものを凍らせる極寒の吹雪が、女を直撃していた。 女を中心に爆発的に吹き荒れる霧に触れた草が、木が、音を立てて凍り付いていく。 夜明けの森が、瞬く間に樹氷の林立する凍土へと変貌していた。 「……ちょーっと、やりすぎたかな?」 白い霧のたちこめる中、ぶるりと一つ身震いした巨獣が、霧の中心で氷像と化しているだろう女の 最後の表情を思い描いて、苦笑気味に呟く。 「もっとこう、洒落のきいた感じにすべきだったかなあ……キレ的にイマイチっていうの?  けどまあ、いっか……森の中でいきなり氷付けの女の子に会う、ってのも相当カオスだし」 ぶつぶつと呟きながら踵を返す白虎。 凍った草を踏みつけるぱりぱりという音だけが響く、筈だった。 「―――聞いてはいた。刃を通さず、吹雪を吐き、尾に毒を持つ虎がどこかのロワにいると」 「……ッ!?」 獣の顔に精一杯の驚愕を浮かべて振り返ろうとする虎が、声にならない悲鳴を上げた。 白い霧の中心に向けたその尻の先、いつの間にか蠢く蛇と化していた尾が、その根元から切り飛ばされていたのである。 宙を舞う大蛇を包み込むものがあった。 濃く立ち込める白い霧を吹き飛ばすような、鮮やかな緋色。 轟々と音を立てて存在を誇示するそれは、燃え盛る炎であった。 「烈火の将が持つ太刀は焔を纏う……覚えておけ、妖。  もっとも次があれば、だがな」 言いながら、霧を断ち割るように歩を踏み出したのは無明幻妖side.。 その手にした永遠神剣『誓い』の刀身から、赤々と炎が噴出していた。 炎の照り返しを受けて笑んだその眼前に、ぼとりと落ちるものがある。 「……おっと、落し物を返しておこうか」 蹴りつけたそれを、巨獣の牙が受け止めた。 黒焦げになった大蛇の尾を咥えて、虎がもう一度大きく身震いする。 「ご親切にどうも。……君の作品も今度ゆっくりと読んで見ることにするよ」 自らの尾だったものをばりばりと噛み砕きながら、虎が吼える。 対峙する女が、炎の魔剣と化した『誓い』を打ち振るって艶然と笑んだ。 「必要ないさ。貴様にその機会を与えるつもりはない」 「そうかい、残念だ。けど……尻尾の一つくらいで勘違いしてもらっちゃ困るな。  いくらその魔剣でも、俺様の身体は斬れないよ?」 黒焦げの蛇を嚥下して、虎が生臭い息をついた。 白い体毛を誇示するようにゆっくりと身を捩る巨獣を見て、女の笑みが深くなる。 「私の二つ名を言ってみろ、妖」 「何か考えでもあるのかい、無明幻妖side.。……見せてみなよ、面白かったら褒めてやるからさ」 ぐる、と喉を鳴らしながら応えた巨獣の眼前、女が手にした炎の魔剣を天に掲げる。 「よかろう、ならばその眼にとくと焼き付けろ! 九大天王の力を!」 叫ぶと同時。 大地に、文字通りの激震が走っていた。 「な……!?」 戸惑ったように辺りを見渡す巨獣。 轟音と共に地割れが走り、地面が陥没し、また隆起する。 凍り付いていた木々が次々に倒れ、地割れに飲み込まれていく。 次の瞬間、飛び退ろうとした獣が、言葉を失うことになる。 大地が、爆ぜていた。 「……ッ!?」 地中に大量の爆薬でも仕込まれていたかのような、土と石と砂礫の爆発。 天高く舞い上がったそれが放物線を描いて頭上に落ち、ばらばらと身を叩くのにもかかわらず、 巨獣はただ呆然と立ち尽くしていた。 「そ……んな、バカな……」 視線を動かせない。 その見つめる先に、巨大な影があった。 大の大人を丸呑みする獣の巨躯をして、見上げんばかりの高さに積み上げられた見事な石垣。 その上に聳え立つ壮大な建築物を、城塞という。 天主と呼ばれる最上段の屋根、そそり立つ鯱に寄りかかるように立つ影があった。 「見事なものだろう? 日本三名城が一、加藤清正が手になる銀杏城……そして」 遥か頭上に立つ無明幻妖side.の朗々とした声が、巨獣に降り注ぐ。 言葉もなくそれを見つめていた虎が、不意に姿勢を崩した。 慌てて足元を見れば、いつの間にかそこには大きな地割れが走っている。 飲まれてならじと身を捩る巨獣の聴覚が、ふと異質な音を捉える。 轟、という力強い音。 自然の中にいくらもあろう、しかしこの場にあるはずもない音。 違和感に戸惑う巨獣に、無明幻妖side.が告げる。 「この城の内堀を、坪井川という……!」 言うが早いか。 獣の目にも、それは映っていた。 轟々と音を立てて流れくる、大量の水。 「しま、……っ!」 しまった、と言葉にするより、水に飲み込まれるほうが早かった。 土砂を押し流す濁流の中、巨獣が必死に水面へと顔を出そうとする。 体重をかける傍から崩れていく地面に苦労しながら、ようやく鼻から上だけを突き出した巨獣に迫るものがあった。 「聞いているぞ、妖……! 刃を通さぬその毛皮、水に濡れれば神通力を失うと……!」 白み始める東の空に、小さな黒い影。 瞬く間に大きくなっていくそれは、城塞の天主から飛び降りた、炎の剣士の姿であった。 「破ァァァァ―――ッッ!」 たなびく炎の尾を引いて、烈火の将の魔剣が、違いなく巨獣の眉間を刺し貫いた。 /*/ 殺った、と確信する。 灼熱の剣先は濡れた毛皮を容易く貫き、分厚い頭蓋を断ち割り、脳髄を焼き尽くす。 蛋白質の沸騰する手応えに内心で首肯すると、女は巨獣の頭を踏み台にして再び跳んだ。 「名も知らぬ妖であったが……この力までを使うことになろうとは、な」 音も立てずに着地すると、女は堀の向こうに聳える巨大な城を振り返り、呟く。 同時、抜き放っていた刃を鞘に収める、澄んだ音が響いた。 と、奇妙なことが起こった。 遥か高みにある天守閣、その天辺が陽炎に包まれたかのようにゆらゆらと揺れたかと見えるや、 その姿を見る見るうちに薄れさせていったのである。 陽炎は瞬く間に城全体を包み込んでいく。 堀が、石垣が、天守閣が、まるでそこには最初から何もなかったとでもいうように消えていく。 「少し目立ちすぎたな。長居は無用か」 いまや完全にその姿を消しつつある城郭に女が背を向けた、そのときである。 (―――なるほどね。九大天王・無明幻妖斉の名を持つのは伊達じゃないってことか) 声が、響いていた。 思わず目を剥いて振り向くが、そこには誰もいない。 巨獣の死骸は既にただの地割れへと戻りつつある堀の中に落ち、見えなかった。 「莫迦な……! 手応えはあった、確かに仕留めた筈……!」 腰の一刀を抜き放って辺りを見渡すが、気配はどこにも感じられない。 しかし、 (あの城も呪術、幻術の類ってわけだ。……濡れたように感じたのも自己暗示。  いや、見事にしてやられたね) 声を切り裂くように、風が鳴った。 『誓い』の刃が中空を切り裂く音である。 「何処だ! 姿を現すがいい!」 自身にも感じられるほどの、明らかな焦燥と狼狽が口調に浮き出ていた。 全方位に気を張り巡らせても、小兎の気配一つ感じ取れない。 それが女の精神を侵食していく。 (でもね、脳味噌を刺したくらいで勝ったと思い込むのは、少し油断が過ぎるんじゃないかなあ。  まさかその程度で俺様が死ぬとは思ってないよね? ……おっと、そういえば) 声は前後左右、天地のあらゆる方向から響いているように感じられた。 姿なき嘲笑が、女の耳朶に絡みつくように聞えてくる。 (自己紹介が遅れたね。……俺様こそはThe god of chaos。カオちゃんと呼んでくれると嬉しいな) 混沌神。 その名を耳にして、女が総毛立つ。 そうだ、何故気付かなかった。 先程まで戦っていた妖、刃を通さぬ白虎の話。 それこそは葉鍵の混沌が生んだ異形。 数万の意志ある支給品が跋扈し、男が男を犯し抜く世界の主。 「貴様が聖夜の変態か……!」 (褒め言葉として受け取っておくよ、無明幻妖side.―――盛況ロワを支えた力強き一柱。  さて、相互理解も済んだところで……楽しい無茶の時間と洒落込もうか) 「何……!?」 言うが早いか。 名状し難い禍々しさが、女の全身を包んでいた。 五感が最大限の音量をもって警鐘を鳴らす。 「何を……っ!」 (後ろをご覧くださぁい) 思わず言葉通りに振り向いてしまい、女は自らの迂闊さに歯噛みする。 だがその後悔は一瞬にして消し飛ぶことになった。 驚愕と、そして恐慌が振り向いた女の精神の大部分を占めていたのである。 その視界に映る巨大な影は、幻と消えた筈の熊本城。 しかし、白み始めた空の薄明かりに照らされたそれは、 (混沌とは即ち『死』―――) つんとした臭いが、女の鼻を刺す。 思わずこみ上げた嘔吐感を必死に堪えて、女は抜き放った刃を地面に突き立てる。 杖のようにしたそれに縋ることで、ようやくへたり込まずに立っていられるのだった。 それほどに、眼前の光景は異様だった。 「貴、様ァ……!」 震える声を絞り出す。 そこには指が、あった。指の向こうには手が。手の向こうには腕が。腕の向こうには肩が。 肩の向こうに胸、胸の向こうには腹と首。首の横にはそして、無数の首が並んでいた。 (人は石垣、人は壁。名言だよねえ。なので……再現してみました) 武者返しと称された美しい算木積みの石垣は、すっかり失われていた。 代わりとでもいうようにそこに詰め込まれていたのは、人間の屍である。 隙間を埋めるように乱雑に積み上げられた無数の死体が、城の土台を支えていた。 石垣の上にも、死体の首が無数に並んでいる。 死体を積み上げた壁の上に屋根を置き、その上にまた死体を積み上げて屋根を置く。 まるで全体が屍の山であるかのように、その城は存在していた。 吐き気を堪えながら見れば、詰め込まれた死体はすべて少女のようだった。 異様なことに、少女はすべて同じ顔かたちをしているように見えた。 眼鏡をかけた、額の広い少女の死体が何千、何万とそこには積み重なっていた。 (これぞ天下の名城……だよねえ。うん、見れば見るほどカオスだ) 楽しげな声音。 いまだ姿を見せぬ相手に、女が眦を吊り上げる。 「許さん……! 命に対する冒涜、決して許さんぞ、貴様……!」 (おやおや、命を弄ぶロワの書き手が随分とお怒りのご様子で) 「黙れッ!」 女の大喝が響いていた。 「絶望の中を生き抜く強さ、弱さ、命の営みと輝きこそが我々の描くものだ!  我々は、我々の手によって散るすべての命に誇りと愛を持っていると、私は信じている!  貴様の如き外道の嘲弄するを捨て置けるか!」 女の叫びは、心底からの激昂と憤怒に満ちていた。 純粋な怒りが滲み出したとでもいうように、手にした長剣の刃から緋炎が立ち昇る。 「姿を見せろ、外道ッ! その腐り果てた魂、一片たりとも残さず消し炭にしてくれる!」 (……わあ、怖い怖い) 女の怒声に唾するような薄笑いが、死臭の満ちる夜明けの森に響いた。 ぎり、と奥歯を噛み締めた女が長剣を振り上げる。 転瞬、女の姿が掻き消えた。大気を断ち割らんとする勢いの疾走。 刹那の間に、屍の城へと迫る。 「―――紫電、」 振り上げた刃に宿る炎が、一瞬にして膨れ上がった。 真昼の如き光が夜を貫き、森を照らし上げる。 「一閃―――ッ!」 膨大な炎熱を乗せた必殺の一撃が、 (おっと、待った) 必殺の一撃が、屍の城塞を焼くことは、遂になかった。 嘲るような声と共に女へと浴びせられた、ほんの微かな衝撃が、その一刀を止めていた。 「貴、様……」 刀身から炎が消えていく。 からりと乾いた音を立てて、長剣が地面に落ちた。 (いやだなあ、せっかく造ったんだから、すぐに壊されちゃたまんないよ) 痰の絡んだような笑い声も、女は聞いていなかった。 女は、ようやくにして気付いていた。 憎むべき敵が、切り裂くべき悪が何処に潜んでいるのか。 先程の、ほんの僅かな、衝撃。 「まさ、か……」 喉がひりつく。 口の中が、ひどく渇いていた。 (混沌とは即ち『生』―――。やっと、気がついてもらえたみたいだねえ。寂しかったなあ) 声が、響いていた。 それは眼前でも、背後でもなく。 「……この、腐れ外道、が……!」 左右、天地、女を取り囲むありとあらゆる方向、そのすべてでなく。 それは、女の内側から、響く声だった。 (せっかくのマイホームなんだからさあ、少しくつろいでいってよ。  ……ねえ、『お母さん』?) とん、と。 ほんの微かな、やわらかい衝撃が、女の腹を叩いた。 【早朝】【A-5森】 【無明幻妖side.@アニロワ1st】 【装備】永遠神剣「誓い」(気合で炎が出ます) 【所持品】支給品一式(ランダムアイテム残り二つ) 【状態】妊娠。 【思考・行動】基本:ゲームには乗らない。マーダーは積極的に排除 1:愕然。 【備考】 ※容姿はシグナム@リリカルなのは。 ※呪術が使えます。 【The god of chaos@葉鍵3】 【状態】胎児(無明幻妖side.の胎内) 【装備】なし 【道具】なし 【思考・行動】 基本:常に快楽を求める 1:さあ、生を謳歌しようか。ねえ、お母さん? 2:ガチホモ・ガチレズ・陵辱からお笑いまで何でも(楽しめるなら)可! 3:6/を俺様のライバルに認定だ! ※できればカオちゃんと呼んで欲しいようです。 ※アヴ・ウルトリィ(ウルトラマン)、アヴ・カミュ(カミーユ)は別行動。 ※A-5に死体でできた熊本城が築城されました。 ※付近一帯は凍ったり焦げたり地割れがあったり大変なことに。 |116:[[ドラえもん 鬼軍曹のバトルロワイアル…って俺がいねぇ!by影丸]]|投下順に読む|118:[[テイルズからの物体X、もといV]]| |116:[[ドラえもん 鬼軍曹のバトルロワイアル…って俺がいねぇ!by影丸]]|時系列順に読む|118:[[テイルズからの物体X、もといV]]| |084:[[月下の騎士の虎退治]]|無明幻妖side.|137:[[I WANT TO,YOU WANT TO,THEY WANT TO]]| |084:[[月下の騎士の虎退治]]|The god of chaos|137:[[I WANT TO,YOU WANT TO,THEY WANT TO]]| ----
底冷えのする森の中、巨獣が吼える。 ずらりと並んだ乱杭歯の間から漏れるその咆哮はしかし、紛れもない人の言葉だった。 「虎退治とは粋だねえ。清正公でも気取るかい?」 「いずれ妖の類が、よく吠える……」 巨獣、白虎を前に怯むことなく佇む影は、無明幻妖side.。 夜明けの風に靡く髪も美しい、妙齢の女である。 左半身のまま抜刀した長剣を高く掲げ、顔の高さで刃を構える女を見て虎が笑う。 「これはまた、西洋かぶれの清正公もいたものだね」 「―――抜かせ」 短い言葉と共に、女が消えた。 否、一瞬の内に重心を移動させ、加速したのである。 烈風の如き突きが狙うは、身を低く屈めてなお見上げるほどの巨体を誇る虎の前脚、その付け根。 獣と相対したとき、最も恐るべきは筋力よりもまず、その敏捷性である。 単なる体当たりであっても体重差が大きければ致命傷となりかねず、また懐に飛び込まれれば 獣の持つ爪や牙が密着戦においてその真価を発揮するのを身を持って知ることになる。 故に無明幻妖side.が狙ったのは、その足を奪うことであった。 疾、と走る剣先が、虚を突かれた巨獣の関節へと吸い込まれていく。 だが、 「何ッ―――!?」 驚いたように声を上げたのは無明幻妖side.である。 がつり、という手ごたえは獣の肉に食い込むそれではない。 まるで甲冑を相手にするような、金属的な響き。 反射的に剣を引こうとした女の耳朶を、くつくつという笑い声が打った。 「葉鍵の虎に刃は通じず……覚えておくんだね。もっとも―――」 女の至近、踏み込んだ右の足を引くよりも早く、笑う虎の口腔が、がぱりと開いた。 その吐き気を催すような生臭い吐息の源、喉の奥に光が灯るのを見て、女の表情が変わる。 飛び退りながら手にした剣を正眼に構えなおしたか否かの刹那。 「次があれば、の話だけれどね」 言葉と共に、虎の口から真白い霧が迸っていた。 ひょう、と風が吹くや辺りに生えた草の表面が白く染まる。 薄く粉砂糖をふいたようなそれはよく見れば、真冬であるかのように霜が下りていた。 白い霧が、一瞬にして大気そのものの温度すらを下げていたのである。 あらゆるものを凍らせる極寒の吹雪が、女を直撃していた。 女を中心に爆発的に吹き荒れる霧に触れた草が、木が、音を立てて凍り付いていく。 夜明けの森が、瞬く間に樹氷の林立する凍土へと変貌していた。 「……ちょーっと、やりすぎたかな?」 白い霧のたちこめる中、ぶるりと一つ身震いした巨獣が、霧の中心で氷像と化しているだろう女の 最後の表情を思い描いて、苦笑気味に呟く。 「もっとこう、洒落のきいた感じにすべきだったかなあ……キレ的にイマイチっていうの?  けどまあ、いっか……森の中でいきなり氷付けの女の子に会う、ってのも相当カオスだし」 ぶつぶつと呟きながら踵を返す白虎。 凍った草を踏みつけるぱりぱりという音だけが響く、筈だった。 「―――聞いてはいた。刃を通さず、吹雪を吐き、尾に毒を持つ虎がどこかのロワにいると」 「……ッ!?」 獣の顔に精一杯の驚愕を浮かべて振り返ろうとする虎が、声にならない悲鳴を上げた。 白い霧の中心に向けたその尻の先、いつの間にか蠢く蛇と化していた尾が、その根元から切り飛ばされていたのである。 宙を舞う大蛇を包み込むものがあった。 濃く立ち込める白い霧を吹き飛ばすような、鮮やかな緋色。 轟々と音を立てて存在を誇示するそれは、燃え盛る炎であった。 「烈火の将が持つ太刀は焔を纏う……覚えておけ、妖。  もっとも次があれば、だがな」 言いながら、霧を断ち割るように歩を踏み出したのは無明幻妖side.。 その手にした永遠神剣『誓い』の刀身から、赤々と炎が噴出していた。 炎の照り返しを受けて笑んだその眼前に、ぼとりと落ちるものがある。 「……おっと、落し物を返しておこうか」 蹴りつけたそれを、巨獣の牙が受け止めた。 黒焦げになった大蛇の尾を咥えて、虎がもう一度大きく身震いする。 「ご親切にどうも。……君の作品も今度ゆっくりと読んで見ることにするよ」 自らの尾だったものをばりばりと噛み砕きながら、虎が吼える。 対峙する女が、炎の魔剣と化した『誓い』を打ち振るって艶然と笑んだ。 「必要ないさ。貴様にその機会を与えるつもりはない」 「そうかい、残念だ。けど……尻尾の一つくらいで勘違いしてもらっちゃ困るな。  いくらその魔剣でも、俺様の身体は斬れないよ?」 黒焦げの蛇を嚥下して、虎が生臭い息をついた。 白い体毛を誇示するようにゆっくりと身を捩る巨獣を見て、女の笑みが深くなる。 「私の二つ名を言ってみろ、妖」 「何か考えでもあるのかい、無明幻妖side.。……見せてみなよ、面白かったら褒めてやるからさ」 ぐる、と喉を鳴らしながら応えた巨獣の眼前、女が手にした炎の魔剣を天に掲げる。 「よかろう、ならばその眼にとくと焼き付けろ! 九大天王の力を!」 叫ぶと同時。 大地に、文字通りの激震が走っていた。 「な……!?」 戸惑ったように辺りを見渡す巨獣。 轟音と共に地割れが走り、地面が陥没し、また隆起する。 凍り付いていた木々が次々に倒れ、地割れに飲み込まれていく。 次の瞬間、飛び退ろうとした獣が、言葉を失うことになる。 大地が、爆ぜていた。 「……ッ!?」 地中に大量の爆薬でも仕込まれていたかのような、土と石と砂礫の爆発。 天高く舞い上がったそれが放物線を描いて頭上に落ち、ばらばらと身を叩くのにもかかわらず、 巨獣はただ呆然と立ち尽くしていた。 「そ……んな、バカな……」 視線を動かせない。 その見つめる先に、巨大な影があった。 大の大人を丸呑みする獣の巨躯をして、見上げんばかりの高さに積み上げられた見事な石垣。 その上に聳え立つ壮大な建築物を、城塞という。 天主と呼ばれる最上段の屋根、そそり立つ鯱に寄りかかるように立つ影があった。 「見事なものだろう? 日本三名城が一、加藤清正が手になる銀杏城……そして」 遥か頭上に立つ無明幻妖side.の朗々とした声が、巨獣に降り注ぐ。 言葉もなくそれを見つめていた虎が、不意に姿勢を崩した。 慌てて足元を見れば、いつの間にかそこには大きな地割れが走っている。 飲まれてならじと身を捩る巨獣の聴覚が、ふと異質な音を捉える。 轟、という力強い音。 自然の中にいくらもあろう、しかしこの場にあるはずもない音。 違和感に戸惑う巨獣に、無明幻妖side.が告げる。 「この城の内堀を、坪井川という……!」 言うが早いか。 獣の目にも、それは映っていた。 轟々と音を立てて流れくる、大量の水。 「しま、……っ!」 しまった、と言葉にするより、水に飲み込まれるほうが早かった。 土砂を押し流す濁流の中、巨獣が必死に水面へと顔を出そうとする。 体重をかける傍から崩れていく地面に苦労しながら、ようやく鼻から上だけを突き出した巨獣に迫るものがあった。 「聞いているぞ、妖……! 刃を通さぬその毛皮、水に濡れれば神通力を失うと……!」 白み始める東の空に、小さな黒い影。 瞬く間に大きくなっていくそれは、城塞の天主から飛び降りた、炎の剣士の姿であった。 「破ァァァァ―――ッッ!」 たなびく炎の尾を引いて、烈火の将の魔剣が、違いなく巨獣の眉間を刺し貫いた。 /*/ 殺った、と確信する。 灼熱の剣先は濡れた毛皮を容易く貫き、分厚い頭蓋を断ち割り、脳髄を焼き尽くす。 蛋白質の沸騰する手応えに内心で首肯すると、女は巨獣の頭を踏み台にして再び跳んだ。 「名も知らぬ妖であったが……この力までを使うことになろうとは、な」 音も立てずに着地すると、女は堀の向こうに聳える巨大な城を振り返り、呟く。 同時、抜き放っていた刃を鞘に収める、澄んだ音が響いた。 と、奇妙なことが起こった。 遥か高みにある天守閣、その天辺が陽炎に包まれたかのようにゆらゆらと揺れたかと見えるや、 その姿を見る見るうちに薄れさせていったのである。 陽炎は瞬く間に城全体を包み込んでいく。 堀が、石垣が、天守閣が、まるでそこには最初から何もなかったとでもいうように消えていく。 「少し目立ちすぎたな。長居は無用か」 いまや完全にその姿を消しつつある城郭に女が背を向けた、そのときである。 (―――なるほどね。九大天王・無明幻妖斉の名を持つのは伊達じゃないってことか) 声が、響いていた。 思わず目を剥いて振り向くが、そこには誰もいない。 巨獣の死骸は既にただの地割れへと戻りつつある堀の中に落ち、見えなかった。 「莫迦な……! 手応えはあった、確かに仕留めた筈……!」 腰の一刀を抜き放って辺りを見渡すが、気配はどこにも感じられない。 しかし、 (あの城も呪術、幻術の類ってわけだ。……濡れたように感じたのも自己暗示。  いや、見事にしてやられたね) 声を切り裂くように、風が鳴った。 『誓い』の刃が中空を切り裂く音である。 「何処だ! 姿を現すがいい!」 自身にも感じられるほどの、明らかな焦燥と狼狽が口調に浮き出ていた。 全方位に気を張り巡らせても、小兎の気配一つ感じ取れない。 それが女の精神を侵食していく。 (でもね、脳味噌を刺したくらいで勝ったと思い込むのは、少し油断が過ぎるんじゃないかなあ。  まさかその程度で俺様が死ぬとは思ってないよね? ……おっと、そういえば) 声は前後左右、天地のあらゆる方向から響いているように感じられた。 姿なき嘲笑が、女の耳朶に絡みつくように聞えてくる。 (自己紹介が遅れたね。……俺様こそはThe god of chaos。カオちゃんと呼んでくれると嬉しいな) 混沌神。 その名を耳にして、女が総毛立つ。 そうだ、何故気付かなかった。 先程まで戦っていた妖、刃を通さぬ白虎の話。 それこそは葉鍵の混沌が生んだ異形。 数万の意志ある支給品が跋扈し、男が男を犯し抜く世界の主。 「貴様が聖夜の変態か……!」 (褒め言葉として受け取っておくよ、無明幻妖side.―――盛況ロワを支えた力強き一柱。  さて、相互理解も済んだところで……楽しい無茶の時間と洒落込もうか) 「何……!?」 言うが早いか。 名状し難い禍々しさが、女の全身を包んでいた。 五感が最大限の音量をもって警鐘を鳴らす。 「何を……っ!」 (後ろをご覧くださぁい) 思わず言葉通りに振り向いてしまい、女は自らの迂闊さに歯噛みする。 だがその後悔は一瞬にして消し飛ぶことになった。 驚愕と、そして恐慌が振り向いた女の精神の大部分を占めていたのである。 その視界に映る巨大な影は、幻と消えた筈の熊本城。 しかし、白み始めた空の薄明かりに照らされたそれは、 (混沌とは即ち『死』―――) つんとした臭いが、女の鼻を刺す。 思わずこみ上げた嘔吐感を必死に堪えて、女は抜き放った刃を地面に突き立てる。 杖のようにしたそれに縋ることで、ようやくへたり込まずに立っていられるのだった。 それほどに、眼前の光景は異様だった。 「貴、様ァ……!」 震える声を絞り出す。 そこには指が、あった。指の向こうには手が。手の向こうには腕が。腕の向こうには肩が。 肩の向こうに胸、胸の向こうには腹と首。首の横にはそして、無数の首が並んでいた。 (人は石垣、人は壁。名言だよねえ。なので……再現してみました) 武者返しと称された美しい算木積みの石垣は、すっかり失われていた。 代わりとでもいうようにそこに詰め込まれていたのは、人間の屍である。 隙間を埋めるように乱雑に積み上げられた無数の死体が、城の土台を支えていた。 石垣の上にも、死体の首が無数に並んでいる。 死体を積み上げた壁の上に屋根を置き、その上にまた死体を積み上げて屋根を置く。 まるで全体が屍の山であるかのように、その城は存在していた。 吐き気を堪えながら見れば、詰め込まれた死体はすべて少女のようだった。 異様なことに、少女はすべて同じ顔かたちをしているように見えた。 眼鏡をかけた、額の広い少女の死体が何千、何万とそこには積み重なっていた。 (これぞ天下の名城……だよねえ。うん、見れば見るほどカオスだ) 楽しげな声音。 いまだ姿を見せぬ相手に、女が眦を吊り上げる。 「許さん……! 命に対する冒涜、決して許さんぞ、貴様……!」 (おやおや、命を弄ぶロワの書き手が随分とお怒りのご様子で) 「黙れッ!」 女の大喝が響いていた。 「絶望の中を生き抜く強さ、弱さ、命の営みと輝きこそが我々の描くものだ!  我々は、我々の手によって散るすべての命に誇りと愛を持っていると、私は信じている!  貴様の如き外道の嘲弄するを捨て置けるか!」 女の叫びは、心底からの激昂と憤怒に満ちていた。 純粋な怒りが滲み出したとでもいうように、手にした長剣の刃から緋炎が立ち昇る。 「姿を見せろ、外道ッ! その腐り果てた魂、一片たりとも残さず消し炭にしてくれる!」 (……わあ、怖い怖い) 女の怒声に唾するような薄笑いが、死臭の満ちる夜明けの森に響いた。 ぎり、と奥歯を噛み締めた女が長剣を振り上げる。 転瞬、女の姿が掻き消えた。大気を断ち割らんとする勢いの疾走。 刹那の間に、屍の城へと迫る。 「―――紫電、」 振り上げた刃に宿る炎が、一瞬にして膨れ上がった。 真昼の如き光が夜を貫き、森を照らし上げる。 「一閃―――ッ!」 膨大な炎熱を乗せた必殺の一撃が、 (おっと、待った) 必殺の一撃が、屍の城塞を焼くことは、遂になかった。 嘲るような声と共に女へと浴びせられた、ほんの微かな衝撃が、その一刀を止めていた。 「貴、様……」 刀身から炎が消えていく。 からりと乾いた音を立てて、長剣が地面に落ちた。 (いやだなあ、せっかく造ったんだから、すぐに壊されちゃたまんないよ) 痰の絡んだような笑い声も、女は聞いていなかった。 女は、ようやくにして気付いていた。 憎むべき敵が、切り裂くべき悪が何処に潜んでいるのか。 先程の、ほんの僅かな、衝撃。 「まさ、か……」 喉がひりつく。 口の中が、ひどく渇いていた。 (混沌とは即ち『生』―――。やっと、気がついてもらえたみたいだねえ。寂しかったなあ) 声が、響いていた。 それは眼前でも、背後でもなく。 「……この、腐れ外道、が……!」 左右、天地、女を取り囲むありとあらゆる方向、そのすべてでなく。 それは、女の内側から、響く声だった。 (せっかくのマイホームなんだからさあ、少しくつろいでいってよ。  ……ねえ、『お母さん』?) とん、と。 ほんの微かな、やわらかい衝撃が、女の腹を叩いた。 【早朝】【A-5森】 【無明幻妖side.@アニロワ1st】 【装備】永遠神剣「誓い」(気合で炎が出ます) 【所持品】支給品一式(ランダムアイテム残り二つ) 【状態】妊娠。 【思考・行動】基本:ゲームには乗らない。マーダーは積極的に排除 1:愕然。 【備考】 ※容姿はシグナム@リリカルなのは。 ※呪術が使えます。 【The god of chaos@葉鍵3】 【状態】胎児(無明幻妖side.の胎内) 【装備】なし 【道具】なし 【思考・行動】 基本:常に快楽を求める 1:さあ、生を謳歌しようか。ねえ、お母さん? 2:ガチホモ・ガチレズ・陵辱からお笑いまで何でも(楽しめるなら)可! 3:6/を俺様のライバルに認定だ! ※できればカオちゃんと呼んで欲しいようです。 ※アヴ・ウルトリィ(ウルトラマン)、アヴ・カミュ(カミーユ)は別行動。 ※A-5に死体でできた熊本城が築城されました。 ※付近一帯は凍ったり焦げたり地割れがあったり大変なことに。 |116:[[ドラえもん 鬼軍曹のバトルロワイアル…って俺がいねぇ!by影丸]]|投下順に読む|118:[[テイルズからの物体X、もといV]]| |116:[[ドラえもん 鬼軍曹のバトルロワイアル…って俺がいねぇ!by影丸]]|時系列順に読む|118:[[テイルズからの物体X、もといV]]| |084:[[月下の騎士の虎退治]]|無明幻妖side.|138:[[I WANT TO,YOU WANT TO,THEY WANT TO]]| |084:[[月下の騎士の虎退治]]|The god of chaos|138:[[I WANT TO,YOU WANT TO,THEY WANT TO]]| ----

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