AKDGへ

【邑神】
里羽さん…里羽さん…


【咲】
ん…?


は!!
私あんな緊急事態だったのに寝てた?!


す、すみません!!


【邑神】
大丈夫ですか?…無理もありませんよ…
色々起こりましたし… 


【咲】
… 


<モノローグ>

私は、昨日の夜からここに
閉じ込められている。

…ここは、王武田のほぼ中央に位置する、
巨大企業アーケイディアグループの本社の
地下室らしい。


矢真田さんにお礼を言ったあと、
私は突然、真枝さんという女性に拘束され、
ここに連れてこられた。

…真枝さんの言うψシステム違法所持というのはよく
分らなかったけど、私はとてつもない犯罪者のように扱われた。


テレビで見るより重々しい手錠も掛けられたし、ここに来るために
載せられた車は大きな鉛色をした金属の塊からくり抜いて作ったか
のような、分厚い壁のコンテナのようなものがついたトラック。

私はそのコンテナに放り込まれたが、そこには鉄格子の窓すらなく、
完全に密閉されているらしく、そのコンテナの中にあった唯一のものは、
中にいる私が窒息しないようにか、酸素ボンベのようなもののみ。


そして放置されて数時間。

何をどうしたらいいかわからず、とりあえず
カバンに入っていた、置き勉として学校においていた、苦手な近代史の
教科書をなんとなく読んでいた。

あまりのめまぐるしい出来事に、頭は日常に逃げたらしい。

こんな緊急事態だったというのに、私はいつの間にか眠っていたようで…今に至る。

</モノローグ>

【邑神】
…社長からお話があるそうです。


あ、これはずしていい許可が出ましたから
外しますね。


…重かったでしょう…すみません 

<モノローグ>

そう言うと邑神さんは、リストバンドについているポケットから、
邑神さんのものらしい生体IDプレートを取り出し、私の手に掛け
られていた手錠の、認識リーダー部分にそれをかざすと、
手錠はバラバラと分解された。


生体IDプレート…

寝る前まで読んでいた近代史にも記述があった…。


これは、都市管理システムを成り立たせるために必要な端末で、
王武田市に住んでいる住民で、過去20年以内に生まれた人間なら
ほぼ99%以上の人が所持している。

何せ、この王武田にのみ定められている特殊な法律で、24時間
必ずこの生体IDプレートを所持していないといけないと定めら
れているのだから。


当然、私や真緒も持っている。

これは、生後一か月以内に申請すると、その個人に割り振られたIDと
そのIDを所有した証の、生体IDプレートというものが発行される。
昔あった住民基本台帳と、運転免許証や生徒手帳を合併したシステムと
言えば分かりやすいだろうか。


それに加えて、このプレートにはもう一つ、都市管理システムに
関連した重要な役割がある。

これを所持しておくと、その所持していた人の身体的なデータや
位置情報や行動の内容などのデータが自動的に記録され、その
ログは市の中央に建てられたメインバンクに保存される。

初めは、国に監視されているようで気味が悪いと、王武田住民の反発も
あったようだけど、そのログは犯罪を起こした時や疑われた時、
巻き込まれた時等非常時にしか閲覧が不可能という事と、
王武田のおえら方もこの生体IDプレート所持を義務付けられた事から、
国は実施に踏み切ったらしい。


そしてそれは絶大な成果を見せた。

まず、犯罪が激減し、それに伴い冤罪もなくなった。ログを調べれば、
一発で真実が分かるのだ。すべての人間の行動ログがとれているため、
市の行政機関等の不正なども少しずつ消えて行った。

生体IDプレートと都市管理システム「DAR」のおかげで、王武田は
犯罪の少ない世界一安全な市として、国内外でも名が知れて行き、
ゴーストタウン寸前だったこの市を生き返らせてくれた…と、
近代史の教科書には書いてあった。

</モノローグ>

【咲】
すごい…!何でプレートをかざしただけで
手錠がばらばらになるんですか?

<モノローグ>

ちなみに今、私はプレートを持っていない。
真枝さんに取り上げられ、私の行動ログを調べているらしい…

</モノローグ>

【邑神】
社長からこれを外していいという「許可」の認証データが、
俺のプレートに入力されたんです。

それに反応して解錠される仕組みでこうなっているんです

【咲】
はー…スゴイ…。
さすが王武田…うんん、日本一の科学技術を
持つとか言われてるアーケイディアグループ
ですねえ… 


【邑神】
…そんなに素直に驚いてもらえると、
作った者として、なんだか嬉しいですね。 


【咲】
え?!これ、邑神さんが作ったんですか?!
こんなややこしそうなものを?! 


【邑神】
ええ、まあ。
それも俺の仕事の一つですから。 


【咲】
仕事?!…邑神さん、私とあんまり年
違わなさそうなのに…

(ん?邑神さんのその
制服…たしか、蒼愁学園の…中等部…)

て事は、む、邑神さん!!私より年下?!


【邑神】
…そんなに俺、老けて見えます?
これでも俺、十五歳ですよ 


【咲】
(う…ひとつ違いなのに、私より大人びてる…
そういえば、夢によれば矢真田さん、邑神さんと
同僚って言ってたけど…という事は、矢真田さんも
こんな難しそうな仕事を…?
想像できない…)


あ、あのそういえば矢真田さんは…?


【邑神】
さっきまで、貴女を解放しろって、うるさく
社長に掛け合ってましたけど、別の仕事が
入ってしまって、今はそっちに行ってます。


…社長のお話が終わる頃には戻ってくると
思いますよ。 


【咲】
…社長さん…て、真枝さんですよね…?
私にどんなお話があるんでしょうか…? 


(初対面で怒られたし…また何か、きつい事
言われちゃうのかな…)


【邑神】
…話の内容は大体予想付きますが、本人から
聞いて下さい。

…口はキツイ所もある人ですが、慣れれば
多少…マシですから。 


【咲】
(慣れても「マシ」位じゃなあ…)


【邑神】
さ、こちらです。じゃあ俺はこれで。 


【咲】
あ、ありがとう邑神さん。


…すー…はー…


し…失礼します…!! 


【要】
ああ、来てくれたのね。ありがとう。


私の方から行けば良かったんだけど、なかなか
仕事が片付かなくてね…、やっと時間が取れたから、
その間に終わらせようと思って…。


とりあえず、そのソファに座ってて。
秘書に頼んで、西東珈琲店でモーニングの
持ち帰りをしてもらったの。一緒に食べましょ。


【咲】
は、はい… 

<モノローグ>

…西東珈琲店は、私と真緒が、こづかい日には必ず一緒に
ケーキやモーニングを食べに行く、お気に入りの喫茶店だ。

私の好きな、焼き立てパンセットを真枝さんは差し出して
きたので驚いていると、真枝さんはにっこり笑った。
「これ、貴方が好きなやつでしょう?」と目が言っていたように見えた。


何で私の好きなの知ってるんだろう…と思ったけど、
良く考えたら相手は、私のすべてが記されている生体IDを見たんだった。

だったら不思議はないけど、なんとなく嫌な気分だなあと思いつつも、
昨晩から何も食べてなかったので、モーニングに手をつけた。

</モノローグ>

【要】
…昨日はごめんなさい。 


【咲】
え?


【要】
まず、これを返しておくわね。 


『そう言って、真枝さんは私のIDプレートを
返してくれた。

校則では、制服着用中はネクタイの裏に入れるポケットがあり、
そこに入れる規則になっているので、受け取ってすぐ私はそこに直した。』


【要】
規則で調べさせてもらったけれど…

貴方のログを解析した結果、貴方はψシステムのバイヤーや
不正ψシステム開発等に一切関わってないとの結果が出たわ。


ごめんなさいね、疑ってしまって…


あの強盗がψシステム違法所持者だったもの
だから、続けて見つけた貴女も、何かしら
関係があるかも…って先走ってしまったの。


本当にごめんなさいね


【咲】
…い、いえ、濡れ衣って分って頂けたなら
それで…でも… 


【要】
?でも? 


【咲】
さいしすてむ…?とか、何でいきなり、私がここに連行されたのかとか…

何で私が突然、予知ができるようになった
のかとか…わからない事が多すぎて…

昨日からずっと、頭がこんがらがって
しまって… 


【要】
…それもそうよね。
貴女は普通の女子高生…だったんですもの。


…いいわ。
何でもわからない事があったら聞いて頂戴。
答えられる範囲で答えさせてもらうわ。 


【咲】
えーと…じゃあ…


最終更新:2008年10月27日 01:20