街で見掛けた一人の女性の姿に僕の胸は大きく脈打った 腰まで伸びた艶やかな黒髪、凛とした表情はそこいら男性よりかっこよかった 一目惚れ・・・・というわけではない。なにかこう感じるものがあった 運命というものを信じるほど僕はロマンチストじゃない 女性の姿は人並みに紛れて見えなくなった けれど僕の目蓋の裏には彼女の姿が残っていた 目を瞑るだけで思い出せる凛々しい姿 僕は前にどこかで彼女に会ったことがある。そんな気がした 翌日、また会えるのではないかという淡い期待を胸に僕は街に出向いた 一時間ほど散策するが現実はそこまで甘くなかったようで女性の姿はなかった 歩きつかれたので適当に休憩できそうな場所を探す 目に留まったのは喫茶店。遠目から見るに給仕している人の姿はメイド服だった あれが最近流行のメイド喫茶ってやつか、などと思うが見渡した限り他に休めそうな場所もない 仕方なく僕はメイド喫茶に入る 「お帰りなさいませ、ご主人様!」 本当に言われるとは思ってなかった。胸のうちでただいまと律儀に言う 口に出して言えば変態確定だと思うので言うわけにはいかない。律儀というのも問題だと思う 「これとこれお願いします」 「かしこまりました」 適当に紅茶とケーキを頼んで待つ 物珍しそうに店内を見渡してみる 本当にメイド服着てるな・・・・あれ? そこで昨日見掛けた女性の姿があることに気づいた メイド服を着て給仕をしていた 昨日見かけたときは大和撫子っぽい雰囲気があったのだけれど 「これも意外と悪くない気がする」 思わず口に出してしまっていた 小声だったので誰にも聞こえていないようだったのが幸いだった 店の奥から霧崎さんあがってくださいー!という声が聞こえた 女性はそれに返事をして店の奥へと消えた 「お待たせいたしました」 注文したものが運ばれてきた 僕はとりあえずケーキを食べて紅茶を飲み、女性が出てくるのを待っていた しかし一向に出てくる気配はない 裏口から帰った?そう思ったときに窓ガラスの外に目的の人物の姿が見えた 「す、すみません。用事が出来たんで会計お願いします!お釣りいらないですから!!」 千円札を出してそのまま店を出る 後ろからご主人様!という声が聞こえたが無視した 女性の姿を追うも人波に紛れてしまい見失っていた けれどこっちの方な気がするという直感を信じて僕は道を歩いていた 大通りを過ぎ、人気のない裏道を通り、住宅街へ出たかな?というところで大きな屋敷が視界に入った 洋館・・・どこぞのお嬢様が住んでいるのではないかと思うほどに綺麗な屋敷だった ふと二階の窓から視線を感じてそちらを見ると、さっきの女性の姿があった けれどそこには凛々しさはなく、どこか冷たいような雰囲気を纏っていた 睨まれてる気がするのは気のせいではないと思った じっと屋敷を眺めていたのを不審に思ったのか、屋敷の邸内から人が近づいてきた またもメイドだった。ここまでメイドというものは流行っているのだろうか? 「何か御用ですか?」 「あ、いえ・・そういうわけじゃないんですが」 ちらっと屋敷の二階に目を向けるがすでにそこには女性の姿はなかった 「ひょっとして御嬢に何かされました?」 「それはないと思うんですけど・・・睨まれてた気はします」 それに僕の方はストーカーみたいなことをしていたと思うので睨まれるのも無理はないと思う でも・・・それだと後を付いて来ていたことを彼女は知っていたことになるのか? 僕は再度二階の窓を見るが女性の姿はなかった メイドさんは何か考えるような仕草をすると 「よろしければお茶でもいかがですか?」 有無を言わさないような笑顔で僕の手を引きながら続けて言った 「良い茶葉を取り寄せたんです。一緒にお茶にしましょう」 屋敷の中へと僕は連行された