ざくりざくり。 赤い赤い肉を切り刻む。 返り血は気にしない。 ざくりざくり。 皮を剥ぎその身を切り刻む。 めりめりと、食い込む刃に酔いしれる。 それらを一箇所にまとめ置く。 切り刻み終わったそれらに興味は無い。 ざくりざくり、次から次へと。 火を放つ。 炎は踊る、全てを焼き尽くすため。 ぼうぼうと。 ぽたりぽたり。 赤い赤い雫が、一滴また一滴。 白を赤く染め、緑を赤く染め……。 焦げる肉の匂いに、彼女の心は躍る。 まだかまだかと。 まだだまだだと、理性は言う。 ぽたりぽたり。 赤い赤い雫が、一滴また一滴。 全てを赤く染め上げる 白い白い雪が降る。 全てに満遍なく混ざるように。 ぐちゃぐちゃと――。 「……完成」 出来上がった野菜炒めを皿に盛る。 野菜炒めとは思えないほど、タバスコがかかっているが。 夕食の準備を整え彼女は席に着く。 「いただきます」 その声は寂しく夕闇の中へと消えていく……。 もう慣れているから、寂しくは無い。 強烈な匂いが食欲をそそる。 赤いそれを口に運び、白いご飯も口に運ぶ。 「うん……いい出来」 野菜炒めの辛さを、白米が優しく包む。 良いおかずというのは、ご飯と一緒に食べてこそ初めて分かるものだ。 彼女は満足して次々と消化していく。 その間も食器の音だけが響く。 時折聞こえる、風の音も鳥の声も静寂さを増幅させる。 或いは救いだったかもしれないが……。 「ご馳走様」 やはり返ってくる言葉は無い。 寂しくは無いが、たまに考える。 もし誰かが私の傍に居たとしたら……。 例えば頂きますと言えば頂きますと返ってきて。 私は辛党だからその誰かの口に合うとは限らない。 だから私は辛さを押さえて作ったり。 そしてご馳走様といえばご馳走様と返ってくる。 ……だめだ。 もう思い出せない。 普通の食卓なんて10年以上前だ。 それに……私は、普通なんてものとは縁を切った。 分からないもの考えても仕様がない。 私は出かける準備を整える。 私はもう……普通じゃない。 普通の世界にいられない。 ただ―― もしかしたら彼ならば……。 それを思い浮かべる。 朝、彼を起こし朝ごはんを作り一緒に食べる。 そして……例えば学校へ。 昼、眠たい目をこすりながら一緒にご飯を食べる。 そして家へ。 夜、夕食を作り一緒にご飯を食べお風呂に入る。 そして一緒に寝る。 なんだか食べてばかりだけど……。 これはこれで――素敵なのかもしれない。 だからそこ、考えることをやめる。 私にとって期待は、毒……だから。 淡い期待を握りつぶし彼女は闇の中へ溶けていく――。