やや急な石段を登り終えると砂利が敷き詰められた境内が見えた 石畳は等間隔に埋め込まれ、まるで横断歩道のような縞模様が出来ていた 最初に見たときは少し変わってるなと思ったが二度三度と見ているうちに慣れてしまった 境内を見回して目的の人物を探す 「あれ・・・いないな。また着替えてるのかな?」 先日は偶然とはいえ着替えをしているところを覗き見してしまった 会うとそのときのことを思い出しそうで恥ずかしいが、まだちゃんと謝ってない気がするし 僕は手土産(街で買ってきた洋菓子)を片手にしつつ境内を見回す 「君は何をしてるのかな〜」 不意に後ろ・・・すごく近くから声が聞こえた 慌てて振り返るとそこには巫女さんの姿があった 「やっほ。また覗きに来たのかな?」 口元に笑みを浮かべつつ言う。なんか余裕があるように見えた。 さすがは年上、とか俺は思いながら言う 「まだちゃんと謝ってませんでしたから、それもかねて来てみました」 「私はそんなに気にしてないけどね。それよりその手に持ってるのは?」 「これはお土産です。昨日はすみませんでしたって意味もこめて」 「じゃあ一緒に食べようか。お茶の用意するからこの間の小屋の中で待ってて。鍵は開いてるから」 僕は言われたとおりに先日の小屋の中で巫女さんを待っていた 小屋の中には戸棚などがたくさんあり、ちょっとした倉庫のような感じになっていた ここで着替えてたんだな・・・僕はそんな事を思いながら自分が覗いていた窓を見る 「たしかにこれじゃあ見てるのは分かっちゃうよな」 目線の高さと窓の高さがほぼ一緒だった 「おまたせー!ってなにしてるのかな?」 「い、いや別に何もしてないですよ」 「本当かなー?まさか箪笥の中とか開けてみたりしてないよね。一応私の下着も入ってるんだけど・・・」 どうしてこの人はこういうことを物怖じせずに言うのだろうか・・・ 「見てませんよ。もういじめるのはやめてください」 「ごめんごめん。君の困ってる顔が可愛くてつい、ね」 そんな理由でいじめられたのではたまったものじゃない 着替えを覗いてしまったことを僕は深く後悔した 「そういえばここの像って狛犬じゃないんですね」 「珍しいでしょう。一応本殿の方には狛犬が置いてあるんだけどね」 鳥居の脇に置いてあった像はウサギだった。普通神社には狛犬が置いてあるものだと僕は思い込んでいたが 実際に狛犬を置いておくのが正しいらしい 「なんでウサギなんですか?」 「んー・・・うちで崇めてるのは土地神でね。八百万とは違うんだって、たぶん自然崇拝に近いと思う」 お茶を飲んで一息吐いて、続けて言う 「伝承なんだけどね。昔話の方が正しいかな?ウサギに救われた子供の話があるんだよ」 「もしかしてそのウサギが神様だったり?」 「そうそう。そのウサギは神様が化けた姿でね。うちはそのウサギの神様を崇め奉ってるってわけ」 「土産屋でウサギ饅頭なんて置いてありましたけど」 「名物にはもってこいな話だし。興味があったら調べてみるといいよ。きっと図書館あたりなら置いてあるから」 ウサギという単語に懐かしさを覚えつつ、今度図書館で探してみるのもいいかなと僕は思った