75話


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 いよいよサーカスが始まり、舞台上に衣装を着替えたみんなが出てきた。
「わあ・・・・・・」
その舞台の上にはさっきの3人の姿も見える。みんなさっきのラフな格好とは違い、派手な舞台衣装に着替えていた。
「うわあ、身長高いからレイリーはすごく目立つなあ。アイリィやアルルも美人だから、ああいう格好してると一層目立つし」
3人の他にも、残りの団員やアルルの両親の姿も舞台に見える。
「あれ?」
『どうした、アリウス?』
「いや、なんでもないよ。ちょっと気になっただけだから」
『ふむ。ならば構わないが・・・・・・』
あとで誰かに聞いてみればいいか。僕の気のせいかもしれないし。舞台に再び目をやると、3人が僕の方を見ている。
(頑張ってね、みんな)
小さく手を振ると、3人とも笑顔で返してくれる。それを合図にしたかのようにみんな散り散りになり、演目がスタートした。
「えっと、プログラムによると最初は猛獣の火の輪くぐりだね」
舞台の床から大きめのリングがせり上がってきて、そこに一人の団員が近づく。
「レイリー!いきなり知ってる人の演目なんだね」
レイリーが先ほどのリングに近づき、手元にあるたいまつでリングに火をつける。とたんに火は燃え移り、燃え上がる炎。
そして檻から放たれるライオンを誘導し、リングから少し距離を置いたところで静止させる。
「こ、怖いなあ」
観客からすれば舞台から距離があるだろうが、僕が今いるのは舞台を挟んでレイリーの反対側のソデだ。
つまり、ライオンがこっちを向いていることになる。僕の表情から伺えたのか、レイリーはこっちを見て1度頷く。
(心配すんなって。俺がちゃんと責任持つからよ)
そう言ってくれているような気がした。そして彼が合図をすると同時にライオンが駆け出し
「ハッ!!」
強い一声と共に飛び、見事に火の輪をくぐってみせた。観客席から拍手が飛ぶが、レイリーは礼をせずそのままライオンを呼び寄せる。
「あれ、別のリングが・・・・・・」
先ほどより一回りほど大きなリングが小さいほうのリングと入れ替わり、同じように火がつけられる。
レイリーはライオンの背中を何度か撫でて落ち着けると、そのままライオンの背中に飛び乗った。
「ええっ!?」
観客席から驚愕と歓喜の声が上がる中、レイリーが合図をしてライオンが駆け出す。そして身を屈めたまま
「よし・・・・・・跳べっ!!」
勢いよく跳び、見事に火の輪をくぐってみせた。そしてそのまま一礼すると、先ほどよりも大きな拍手が彼らに向けて鳴り響く。
「す、すごい。格好いいなあ」
そしてレイリーはそのまま僕のところへ・・・・・・って。
「う、うわああぁっ!?た、食べられるっ!!」
「プッ、ハハハハッ!大丈夫だよアリウス、こいつはそんなことしねえから。な、フォグ」
ソデに入ったレイリーがライオンから降りると、そういいながらライオンの喉を撫でてやる。
するとライオンは気持ちよさそうに喉を鳴らし、レイリーに身体を擦りつける。
「ぼ、僕が触っても大丈夫かな?」
「ああ。触ってみるか?」
僕はそのまま恐る恐る手を近づける。すると
                                          グワッ!!
「うわああああっ!?」
ライオンが大口を開け、その鋭い歯を見せつけた。僕は全力で腕を引っ込め、尻もちをつきながら後ずさる。
「はは、悪りぃ悪りぃ。今のは俺が指示したんだ。まさかそんなに驚くとは思わなかったからよ」
「だ、誰だって驚くよっ!!」
「本当に悪かったって。こいつは本当に触っても大丈夫だ」
レイリーの言った通り、僕が再び手を伸ばすとライオンは身体を擦り寄せてきて、おとなしく撫でられてくれた。
「本当だ。レイリー、さっきはすごかったよ。背中はもう大丈夫なの?」
「ああ、心配ねえよ。確かにまだ少しヒリヒリするけど、これくらいじゃ演目に支障は出ねぇ」
「よかった。これでレイリーの演目は終わり?」
「いや、まだ何個か出るぜ。楽しんでいってくれよな」
「うん、ありがとう。頑張ってね」
「おう!んじゃ準備があるからそろそろ行くな」
そういって手を振り、レイリー達は奥へと行ってしまった。それからも演目は続く。他の動物を使ったショーやアイリィ達の空中ブランコ、
巨大な装置を使った派手なものまであった。再びレイリーが登場したときにはその格好に驚かされたが。
次に見たとき、レイリーは観客を笑わせるピエロへと姿を変えていたのだ。
そのおかしな見た目とは裏腹に、そのピエロが行ったジャグリングはとても正確に、そしてたまにわざと面白おかしくとり行われた。
『このようなものは久しぶりに見るが、人が努力をし、その成果を見せるというものには心を打たれるな』
「うん、みんなすごいよ。僕、今日ここにきて本当によかったと思う」
「そう言ってもらえると努力した甲斐があるってもんね」
「っ!?」
突然の声に心臓が跳ねる。振り返ると、汗をタオルで拭きながらアイリィがこちらに向かって歩いてきた。
「き、聞いてたの・・・・・・?」
「聞こえてたわよ。あんたがそこまで喜んでくれるなんて、やりがいがあるわ」
どうやら感動のあまり独り言をつぶやいたと勘違いしているようだ。僕は心の中で安堵の息をつく。
「どう?あたしもバカレイリーも結構やるでしょ?」
「うん、すごいと思った。きっと練習もたくさんしたんだよね」
「まあね。やっぱり日々の積み重ねが物を言うんだろうし」
「とりあえずお疲れ様。プログラムを見る限りだと、アイリィの出る演目はもう終わりかな?」
「ええ、演目が終わったあとはしっかりと身体をほぐしとかないと筋肉痛になるのよ。それが終わってここに来てみたらあんたの声がしたってわけ」
「筋肉痛かあ・・・・・・あ、そういえばさアイリィ。聞きたいことがあるんだ」
「いいわよ、アルルのスリーサイズ以外なら教えてあげるわ」
「じゃあ自分のはいいんだ。って違う!そうじゃなくてさ。ここの人ってアルルの両親以外の人は若い人ばっかりだよね。
 なんでなのかなって思って」
「ああ、そのことね・・・・・・あたしたちはみんな孤児だったからきっとそのせいよ」
「・・・・・・え?」
「言葉の通りよ。あたしを含めてアルルやレイリー、リディや他のみんなも元々は親がいなくて施設に預けられた孤児だった。
 それをあの夫婦が引き取ってくれたの。アルルがあたしのこと、姉さんって呼んだの覚えてる?あたしたちは拾われてからの歳月を
 一時(ひととき)も離れずに共に過ごした。だから皆お互いのことを家族同然に思ってるし、恩人である団長夫妻たちのことを本当の親みたいに思ってる」
「そう、だったんだ」
「ええ。幻滅した?」
「ううん、むしろ逆かな。僕もさ、似たようなものだから」
「逆ってことは、まさかあんたの両親・・・・・・」
「うん。もうすぐ1年くらいになるのかな。父さんも母さんも事故で死んじゃった」
そのまま少しの沈黙。だが、その沈黙はすぐに破られる。
「弱気になっちゃダメ。あんたにはあたし達が知らない『本当の親子の思い出』があるのよ。その分あたし達より強くなれるから」
「・・・・・・!うん、ありがとアイリィ。僕、本当に今日ここに来てよかったよ」
「ん。それじゃあ、あたしはそろそろ行くわ。あの子の・・・・・・アルルの初演技、見てやって」
アイリィは笑いながら舞台の奥に消えていった。僕は心の中でもう一度彼女にお礼を言った。
「そういえば、今までの演目の中ではアルルの姿を全然見なかったっけ。でも演目ってあとはラストの・・・・・・あ、もしかして」
その時、スピーカーから最後の演目の知らせが流れた。今日の舞台、最後の演目である綱渡り。見覚えのある高い足場と
ロープがライトに照らされる。そしてその足場の片側には一人の女の子の姿。
「やっぱり。初舞台が一番注目を浴びる最後の演目なんてすごいなあ」
しかし、遠くから見た少女の姿は本当に小さかった。まるでプレッシャーに押しつぶされてしまいそうに。
(大丈夫、だよね。いざとなると足がすくんできちゃった・・・・・・お、落ち着かないと。でも・・・・・・!)
僕は精一杯に、けど観客には見えないように両手を振る。アルルがこちらに気づいた。
(しまった、気づいてからのこと考えてなかった!えっと、くそ・・・・・・ええい!!)
僕はできる限りの笑顔を見せ、右腕を前に突き出し、親指を立てて見せる。
(あはは、あんなに慌てちゃって。演技するのは私なのにね。うん、一生懸命練習したからきっと大丈夫だよね!)
アルルは僕の様子を見て、大きく深呼吸してみせた。次に見た彼女の表情には、迷いはもうなかった。
『吹っ切れたようだな』
「だね、あれならきっと大丈夫だ。アルル、頑張って!」
 一息おいてから、アルルがスタートする。こういうものは、見ている人も自分が体験しているかのように錯覚する場合がある。
僕はほとんど息をしていないような状態で、アルルの様子を固唾をのんで見守っていた。が、しかし
                                          ギシ、ギシ・・・・・・
(・・・・・・?何だろう、この音)
何かが軋むような鈍い音。ステージを見守る観客や演目に集中しきっているアルルにこの音は聞こえていないようだ。
僕は目を閉じ、音の出所を探して耳を済ませる。
                                          ギシギシギシッ!!
「え・・・・・・!?この音、まさか!?」
僕は目を開け、顔を上げる。次第に大きくなる音の出所は遥か上空・・・・・・ロープを固定している柱からだった。
『まずいぞアリウス!あれは長く保つ様子はない!!』
風の力が叫んだその瞬間、バチンと一際大きな音がしてロープの止め具が外れた。





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