73話

アイリィに準備が済んだのを報告しにステージに戻ってきたのだが、肝心の彼女の姿が見えない。
「おっかしいなあ・・・・・・まだ打ち合わせは終わってないのかな?」
「打ち合わせならもう済んだわよ」
ふと、どこからか声が聞こえてきた。辺りを見渡すがそこにアイリィの姿はない。
「アリウス、そこから3歩下がりなさい」
「・・・・・・?」
声の通りに3歩後ろに下がると
                                         タタンッ
「うわぁぁっ!?」
「とと・・・・・・あれ?きゃああっ!!」
                                         ズダーン!!
突如目の前に現れた何かにぶつかり、俺とそれは床に倒れこむ。それと同時に、後頭部には鈍い痛み。強く打ったようだ。
「着地点はバッチリね。あとはこの地点に衝撃緩和材を・・・・・・」
「痛ったぁ!アイリィ、いきなり襲い掛かってこないでよ!!」
「失礼ね。あたしは本番の動きの最終確認をしてただけよ。それに、襲ったのはあたしじゃないわ」
「え?じゃあ、もしかしてさっきの声って・・・・・・」
まだ痛む後頭部をさすりながら上半身を起こし、僕の上に乗っている物を確認する。それはアイリィではなく、目を回しているアルルだった。
「あんたがいてくれたおかげでうちの団員がキズモノにならなくて済んだわ。ありがと」
「僕、クッション以下・・・・・・?」
目を回したままのアルルを地面にそっと寝かせてあげながら僕はそう尋ねる。するとアイリィは笑いながら、
「冗談よ。その様子だと縄の固定も終わったみたいね。上出来上出来」
「うん、これで僕の仕事は終わり?」
「ええ、十分よ。レイリーやリディにちゃんと話は通ったしね」
「よかった。そういえば、公演時間はいつ?」
「あと1時間くらい。あたしたちは最終の打ち合わせとか着替えをして舞台へ、って感じ」
「おーい、アイリィ!そろそろ練習とかは終わりにしとけ。本番までに体力使い切っちまうし、時間もあんまねぇぞ・・・・・・あ?誰だコイツ?」
「えっと・・・・・・アイリィ、この人は?」
「こいつがさっき言ってたバカレイリーよ。こんなでも器用さはウチの団員一なのよね」
「人をバカって言うんじゃねえ!んで、こいつは?」
「この子はアリウス。一生こき使ってくださいって志願してきたあたしの奴隷よ」
「マジかよ!?こんなのに魂売るなんてお前、変わりもんだなあ・・・・・・」
「ち、違う!アイリィ、いかにも自然に変なこと言わないでよ!!」
「冗談だってば。んで、こんな話を信じるからあんたはいつまで経ってもバカレイリーなのよこのバカ」
「うるせぃ!とりあえず、そろそろ時間だから行くぞ」
「ええ。ついでにあの子も背負って行きましょ。非力なあたしじゃアルルを運べないもの」
「自分で非力って言うか・・・・・・あの変なドリンクとかも作ってるくせに。あ、アリウスだっけ?よろしくな。こいつに振り回されたときは俺に言えよ」
「あ、うん。よろしく」
僕とレイリーは握手をしようとお互いに手を伸ばす。が、その手が握られることはなかった。
                                        ゲシッ!!
アイリィが思い切りレイリーのわき腹に回し蹴りを喰らわせたからだ。
「失礼ね、あたしがいつ誰を振り回したってのよ!」
「い、いつも誰かをだろうが・・・・・・どこが・・・・・・非力、なんだよ」
「ん?あたしそんなこと言ったっけ?ほら、さっさと行くわよ」
「いだだだだっ!足、足を持って引きずるなぁっ!!」
「アリウス。悪いけどあの子、おぶって来てくんない?あの子は引きずるわけにはいかないし」
「さ、差別だ・・・・・・」
「う、うん。よいしょっと」
ここにいる皆はメチャクチャだな・・・・・・。そう思いながらも僕は嬉しかった。楽しかったから。一人一人が皆、僕が初対面なんて関係ないみたいに
接してくれる。父さんや母さんと一緒の時とは違うあたたかさ。その心地よさに僕は・・・・・・久しぶりに思い切り笑うことができた。





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最終更新:2009年08月11日 00:38