70話

「さて、話すとは言ったもののどこから話せばいいか・・・・・・俺が14のときに両親を事故で亡くしたのは知ってるよな?」
「ああ。それがどうかしたか?」
「事の始まりはそれからになるな・・・・・・。それから一年間、俺はずっと一人だった。家には誰もいないし、 外に出れば
 親子連れが仲良く街を歩いてる。それが余計に辛かった」
そう・・・・・・元の時代での2年前、俺の心は壊れかけていたんだ。



―――――母さんと父さんが死んでしまってから、もうすぐ1年が経とうとしていた。突然の両親の死を告げられたあの日のことは
今でも忘れられない。それから何日経っても父さんも母さんも帰ってこなくて、それでやっともう2人はいないんだ
と理解した。ただいまと言えば必ず帰ってきた返事ももう聞こえない。それが悲しくて、僕はひたすらに泣いた。
それから経過した長い月日はゆっくりと僕の心を蝕み、口数もそれにつれて少なくなっていった。
『アリウス・・・・・・』
「・・・・・・」
(このままでは遅かれ早かれアリウスの心は闇に飲まれてしまう。私には何もできないのか・・・・・・!)
『・・・・・・昨日は何も食べなかったじゃないか。何か食べないと体に毒だぞ』
「ああ・・・・・・そういえばそうだっけ。お腹すいたな・・・・・・」
本能が感じるままに食べ物を求め、ウェンディに留守番を頼んで家の外に出る。きのう、か・・・・・・きょうは・・・・・・なんにちだっけ。
もう、おもいだせないや。たんじょうびはたぶん、まだ。たんじょうびなんてきても、だれもいわってくれない。
おとうさんもおかあさんも、もう、いないんだから。
                                             ドンッ
知らない内に下を向いて歩いていたらしく、頭と顔に鈍い衝撃が走る。どうやら人にぶつかってしまったらしい。
「あ・・・・・・ごめんなさ・・・・・・」
顔を上げて、ぶつかった人に謝ろうとした僕はそのまま動きを止めた。
「ううん、私こそごめんね。あなたもここの街の人かな?」
「・・・・・・」
「?」
ぶつかったのは僕より少しだけ背の低い女の子だった。両手に紙束を抱えて、まるで太陽のような笑顔で謝ってくれた。
さっき、なにかいってたような・・・・・・そうだ。こたえなきゃいけない。
「あ、えっと・・・・・・うん、この街の人」
「よかった!それなら・・・・・・はい、これをどうぞ!」
女の子は抱えた紙束から一枚を取り出すと、僕に差し出してくる。その紙には色とりどりの風船の絵と一緒に大きな字で
「・・・・・・サーカス?」
「そう!明日この近くで私たちがサーカスをするの!よかったら来てくれない?」
「でも、お金がいるんじゃ・・・・・・」
「うん、おひとりさま200リリーだけ。でもお父さん達と一緒なら子供は無料なの」
「・・・・・・ごめん。僕、お父さんもお母さんもいないから」
「あ・・・・・・」
ばつの悪い顔をする女の子。ごめんね、僕もそんなにお金を持ってるわけじゃないんだ。
お父さんとお母さんが残しておいてくれた大切なお金だし、それもいつかはなくなっちゃうから。
「うーん・・・・・・だったら私がタダで君をゴショータイします!」
「えっ?でも、どうやって?」
「実は、そのサーカスの団長さんが私のお父さんとお母さんなの。だから2人に頼んでみる!」
「悪いよ、そこまでしてもらっちゃ・・・・・・」
「いいの!あなたが私の初めてのお客様だから!」
もう行くことは決まってしまったらしい。結構強引な子だ。だけど、不思議とイヤな感じはしなかった。
「うん、分かった。絶対に行くよ。でも、初めてって?」
「あ・・・・・・うん。あんまり人が通らないし、チラシをもらってくれる人がいなかったの」
「・・・・・・ここじゃダメだよ。着いてきて」
僕は女の子を連れて歩を進める。しばらく進むと、よく知っている光景が視界に入ってきた。
「チラシとかを配るなら、ここが一番いいと思う」
「わあ・・・・・・!」
商店が賑わいを見せるこの街の要、商店街。女の子のほうを見ると目を輝かせて喜んでいる。
「こんなに人がいたんだ!ここならお客さんにチラシを配れるよ、ありがとう!」
「ううん、サーカス代のお返しだから」
「うんっ!それじゃ私、行ってくるね!本当にありがと~!!」
女の子は元気に走って行・・・・・・ったと思いきや、途中で止まって
「あ、そうだ!君、名前は~!?」
「えと・・・・・・アリウス」
「私はアルル!アリウス、また明日、絶対来てね~!!」
「・・・・・・うん。約束」
女の子は元気に走っていき、やがて見えなくなった。僕はそのまま食べ物を買って家に帰る。
今日、僕は久しぶりにご飯をお腹いっぱいに食べた。





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最終更新:2009年07月12日 15:54