72話

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アルルのお父さんに連れられてきたのはなんとステージの上だった。 「実はうちの団員が一人病気になってしまってね。急遽人手が必要になったんだ」 「・・・・・・まさか、僕にサーカスの演目をしろと?」 「あはは、それはさすがにムリかな。その人はほとんど裏方ばかりでステージには出てない人なの」 裏方、か・・・・・・それにしても広いなあ。ここまで大きいステージ見たことないや。 「アリウス君と言ったかな。悪いがあそこの女の子に話を聞いて、頼まれたことを手伝って欲しいんだ」 「あ、はい。分かりました」 「団長と私に頼まれたって言えばちゃんと教えてくれると思うから。それじゃあ、また後でね~」 そう言うと2人はその場から離れて行った。どうやら打ち合わせに行くようだ。2人を見送り、僕は例の子に話を聞くことにした。 「えっと、すみません」 「全く、ネジが緩んでるじゃない!誰よここの整備したの!!」 「あの・・・・・・」 「あーもう、備品がぐちゃぐちゃ!ちゃんと整理しとけって言っておいたのにあのバカレイリー!!」 「す・み・ま・せ・ん!!」 「うっさいわね、何よ・・・・・・って、あんた誰?見ない顔ね」 「えっと、はっきり言えば部外者なんですけど、団長とアルルさんにここの手伝いを頼まれて・・・・・・」 そう告げた次の瞬間、女の子の顔がパアッっと明るくなり、そしてその笑顔がなにやらニヤリとした嫌な笑みに変わる。 「ちょうどよかった!一人じゃ片付け切れないのよこれ。ほら、さっさと手伝いなさいよ下僕!!」 「げ、下僕!?」 「ほら、まずはここから。この表の通りに備品を並べて。それが終わったら次はステージの掃除ね。あたしはちょっと席を外すわ。  また掃除が終わるころには戻ってくるから安心して。あ、掃除用具はあそこのロッカーだから。それじゃ、あとよろしく!!」 元気なマシンガントークを繰りだし、女の子はさっさと別の場所へと行ってしまった。 「元気な子だね・・・・・・僕と同じくらいなのにあんなに忙しそうにして」 『確かに。ああいうのを風のような、と言うのだろうな」 風の力と話しながら備品の整理を終え、ステージの掃除をする。 「さすがに広いなあ、これじゃ終わらないよ」 『こういう時のために私がいるのだろう?力を貸すぞ』 「あ、そうだね。風よ、我の導きに応えよ・・・・・・」 僕は風の力を使い、ゴミや埃を外に吹き飛ばした。 「よし、掃き掃除完了。あとはモップがけをすれば終わりだね」 『ああ。さすがにそっちは手伝えそうにはない。掃き掃除をサボった分こちらはしっかりとやるんだぞ』 「分かってるよ。そもそも力を使えって言ったのはキミのくせに・・・・・・」 ぶつぶつと文句を言いながらモップがけを済ませる。 「よし、終わった。次は何をすればいいんだろ?」 「あーもう、忙しいってのにリディはどこ行ったのよ!?」 「あ、ちょうどいいや。終わりましたよ~」 「まあいいや、これは後回しっと・・・・・・」 「・・・・・・仕事の鬼」 「あんですってぇ!?」 「ちゃんと聞こえてるんじゃないか!!」 「整理したいことがあるときは人の話を無視することにしてんの!悪口は別!」 「ハァ・・・・・・それはともかく頼まれた仕事、終わったよ」 「え、もう?」 眉間にしわを作りながら、女の子はステージの床をチェックする。 「ん、合格。あんた仕事早いわね、助かったわ」 今度は普通に笑い、女の子は俺に少し待ってて、と言って場を離れて再び戻ってくる。 「はい、お疲れ様。飲んで」 彼女に勧められるまま、僕は差し出されたジュースを飲む。 「ありがと・・・・・・ブフッ!?」 正直言ってマズい。女の子は平然と僕と同じ飲み物を飲んでいる。 「あ、初めての人はちょっとキツいかもね。それ、あたしが作った特製ドリンクだから」 「先に言ってほしかったよ・・・・・・慣れればそこまでマズくはない、かな?」 「疲労回復、滋養強壮、筋力増加。様々な効果がある特別製よ」 「最後のだけ引っかかるなあ・・・・・・そう言えばキミ、名前は?」 「名乗るときは自分からってのが礼儀よ。言い直し」 「あ、うん。僕はアリウス。アリウス=ウェレスティ。キミの名前は?」 「アイリィ=テールベル。呼び捨てでいいわ」 「よろしく。アイリィ、これで僕の仕事は終わりなのかな?」 「ええ、予定より早く済んだし、その分スケジュールも・・・・・・あ、そうだった。リディがいない分少し遅くなるんだっけ・・・・・・。  本当はアホのレイリーの仕事なんだけど、もうすぐあいつと打ち合わせしなきゃならないのよね。最後にあいつの分の仕事だけ頼んじゃっていい?」 「うん、わかった。何の仕事?」 「綱渡りのロープを固定する作業。いい?1回しか言わないから覚えてね。ロープを下から3番目の印の位置で4回巻きつけて、少し上のところについてある  2つの金具のうち『2』の番号が書いてる金具でそれを固定。そして今度はロープを反対向きに3回巻いて、最後に『1』の金具で固定するの」 「うん、分かった。それじゃあ行ってくるよ」 「ん。あんたは時間あるんだから急がなくてもいいわよ~」 少し離れたところにある高い棒。急な階段を登り、広い足場があるところまで移動する。 「うひゃあ・・・・・・高いなあ。落ちたら大怪我で済むかどうか・・・・・・」 下を向いたら怖くなってきたので、さっさと作業を済ませることにした。えっと、下から3番目の印の位置で4回巻きつけて、少し上のところについてる  金具・・・・・・あ、これか。えっと『1』の金具で固定して、反対向きに3回巻いてから『2』の金具で固定・・・・・・だったよね。 「よし、できた。ピンと張れてるみたいだし、これでいいかな。アイリィに報告してこようっと」 この間違いが、後に大きなトラブルを生み出すとは思っていなかったんだ・・・・・・。 #comment [[71話]]へ戻る [[小説]]ページへ戻る [[トップページ]]へ戻る
アルルのお父さんに連れられてきたのはなんとステージの上だった。 「実はうちの団員が一人病気になってしまってね。急遽人手が必要になったんだ」 「・・・・・・まさか、僕にサーカスの演目をしろと?」 「あはは、それはさすがにムリかな。その人はほとんど裏方ばかりでステージには出てない人なの」 裏方、か・・・・・・それにしても広いなあ。ここまで大きいステージ見たことないや。 「アリウス君と言ったかな。悪いがあそこの女の子に話を聞いて、頼まれたことを手伝って欲しいんだ」 「あ、はい。分かりました」 「団長と私に頼まれたって言えばちゃんと教えてくれると思うから。それじゃあ、また後でね~」 そう言うと2人はその場から離れて行った。どうやら打ち合わせに行くようだ。2人を見送り、僕は例の子に話を聞くことにした。 「えっと、すみません」 「全く、ネジが緩んでるじゃない!誰よここの整備したの!!」 「あの・・・・・・」 「あーもう、備品がぐちゃぐちゃ!ちゃんと整理しとけって言っておいたのにあのバカレイリー!!」 「す・み・ま・せ・ん!!」 「うっさいわね、何よ・・・・・・って、あんた誰?見ない顔ね」 「えっと、はっきり言えば部外者なんですけど、団長とアルルさんにここの手伝いを頼まれて・・・・・・」 そう告げた次の瞬間、女の子の顔がパアッっと明るくなり、そしてその笑顔がなにやらニヤリとした嫌な笑みに変わる。 「ちょうどよかった!一人じゃ片付け切れないのよこれ。ほら、さっさと手伝いなさいよ下僕!!」 「げ、下僕!?」 「ほら、まずはここから。この表の通りに備品を並べて。それが終わったら次はステージの掃除ね。あたしはちょっと席を外すわ。  また掃除が終わるころには戻ってくるから安心して。あ、掃除用具はあそこのロッカーだから。それじゃ、あとよろしく!!」 元気なマシンガントークを繰りだし、女の子はさっさと別の場所へと行ってしまった。 「元気な子だね・・・・・・僕と同じくらいなのにあんなに忙しそうにして」 『確かに。ああいうのを風のような、と言うのだろうな」 風の力と話しながら備品の整理を終え、ステージの掃除をする。 「さすがに広いなあ、これじゃ終わらないよ」 『こういう時のために私がいるのだろう?力を貸すぞ』 「あ、そうだね。風よ、我の導きに応えよ・・・・・・」 僕は風の力を使い、ゴミや埃を外に吹き飛ばした。 「よし、掃き掃除完了。あとはモップがけをすれば終わりだね」 『ああ。さすがにそっちは手伝えそうにはない。掃き掃除をサボった分こちらはしっかりとやるんだぞ』 「分かってるよ。そもそも力を使えって言ったのはキミのくせに・・・・・・」 ぶつぶつと文句を言いながらモップがけを済ませる。 「よし、終わった。次は何をすればいいんだろ?」 「あーもう、忙しいってのにリディはどこ行ったのよ!?」 「あ、ちょうどいいや。終わりましたよ~」 「まあいいや、これは後回しっと・・・・・・」 「・・・・・・仕事の鬼」 「あんですってぇ!?」 「ちゃんと聞こえてるんじゃないか!!」 「整理したいことがあるときは人の話を無視することにしてんの!悪口は別!」 「ハァ・・・・・・それはともかく頼まれた仕事、終わったよ」 「え、もう?」 眉間にしわを作りながら、女の子はステージの床をチェックする。 「ん、合格。あんた仕事早いわね、助かったわ」 今度は普通に笑い、女の子は俺に少し待ってて、と言って場を離れて再び戻ってくる。 「はい、お疲れ様。飲んで」 彼女に勧められるまま、僕は差し出されたジュースを飲む。 「ありがと・・・・・・ブフッ!?」 正直言ってマズい。女の子は平然と僕と同じ飲み物を飲んでいる。 「あ、初めての人はちょっとキツいかもね。それ、あたしが作った特製ドリンクだから」 「先に言ってほしかったよ・・・・・・慣れればそこまでマズくはない、かな?」 「疲労回復、滋養強壮、筋力増加。様々な効果がある特別製よ」 「最後のだけ引っかかるなあ・・・・・・そう言えばキミ、名前は?」 「名乗るときは自分からってのが礼儀よ。言い直し」 「あ、うん。僕はアリウス。アリウス=ウェレスティ。キミの名前は?」 「アイリィ=テールベル。呼び捨てでいいわ」 「よろしく。アイリィ、これで僕の仕事は終わりなのかな?」 「ええ、予定より早く済んだし、その分スケジュールも・・・・・・あ、そうだった。リディがいない分少し遅くなるんだっけ・・・・・・。  本当はアホのレイリーの仕事なんだけど、もうすぐあいつと打ち合わせしなきゃならないのよね。最後にあいつの分の仕事だけ頼んじゃっていい?」 「うん、わかった。何の仕事?」 「綱渡りのロープを固定する作業。いい?1回しか言わないから覚えてね。ロープを下から3番目の印の位置で4回巻きつけて、少し上のところについてある  2つの金具のうち『2』の番号が書いてる金具でそれを固定。そして今度はロープを反対向きに3回巻いて、最後に『1』の金具で固定するの」 「うん、分かった。それじゃあ行ってくるよ」 「ん。あんたは時間あるんだから急がなくてもいいわよ~」 少し離れたところにある高い棒。急な階段を登り、広い足場があるところまで移動する。 「うひゃあ・・・・・・高いなあ。落ちたら大怪我で済むかどうか・・・・・・」 下を向いたら怖くなってきたので、さっさと作業を済ませることにした。えっと、下から3番目の印の位置で4回巻きつけて、少し上のところについてる  金具・・・・・・あ、これか。えっと『1』の金具で固定して、反対向きに3回巻いてから『2』の金具で固定・・・・・・だったよね。 「よし、できた。ピンと張れてるみたいだし、これでいいかな。アイリィに報告してこようっと」 この間違いが、後に大きなトラブルを生み出すとは思っていなかったんだ・・・・・・。 #comment [[71話]]へ戻る   [[73話]]に進む [[小説]]ページへ戻る [[トップページ]]へ戻る

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