「最終章 (1)」

(今回も、物語のトリックに言及しています。
必ず、最後までクリアしてから読んでください。)



“逆転のトノサマン”執筆中、最後の法廷が最高潮に盛り上がってきた頃、ついに現実を直視せざるを得なくなりました。
最終話‥‥その、まっ白な構想ノート。
決まっているのは、被告にまつわる物語のアウトラインだけです。

さいわい、トノサマンの構想を書いていた際に、湖の殺人トリックは考えてありました。それを使って、最後の物語の組み立てに入ります。

“逆転、そしてサヨナラ”。
今までやりたい放題に広げてきた物語の伏線を、すべて1つの消失点に収束させなければなりません。その焦点がぼやけてしまえば、今までの苦労はすべて水の泡。
それはもう、最低に惨めな失敗作になるでしょう。
昼はトノサマンの執筆、夜は最終話の構想に振りわけて、必死に考えたのですが‥‥。

断片的な物語のイメージは、どんどんやっかいな方向に連想を広げていきました。
‥‥今回は、湖を写した写真が証拠になる‥‥じゃあ、カメラマンが必要だ‥‥湖にカメラマンと言えば、謎の怪獣はゼッタイはずせない‥‥湖の怪獣といえば、なにかヒミツがなくちゃ許せない‥‥

一度思い込んでしまうと、なんとしても謎の怪獣を出現させずにはいられません。
‥‥しかし現実的には、3日以内に書き始めなければ、もう間に合わない!
それなのに、物語はいまだバラバラ。怪獣のトリックもまだ。各法廷のネタをつなぐ方法もわからない‥‥まさに、危機的状況。
成歩堂ばりの冷や汗がホホを伝います。

‥‥ところで、みなさんは覚えているでしょうか。
なんの前ぶれもなく、突然アタマの中がまっ白にスパークして、次の一瞬、今まで考えもしなかったアイデアが、いきなり完成形になって天から降ってくる‥‥そんな瞬間が、シナリオ執筆を通して2回だけあったことを。

まさに、今。混沌を極めた、この最後にして最大のピンチ‥‥。2回目の奇跡が、そのすべての問題に決着をつけてくれたのです。

今度のキッカケは、テレビのお笑い番組でした。
世間で起こったバカバカしいニュースを紹介するコーナーで、ある事故が紹介されていました。
大きな破裂音とともに70メートル飛翔した○○○が、民家の窓につっこんだ‥‥そんな内容です。
たしかに、バカバカしい。バカバカしいが、なにか引っかかる‥‥。

“破裂音”と“飛翔”。2つのキーワードが、妙に脳髄をシゲキします。
次の瞬間、アタマの中がフラッシュ! ‥‥まず、怪獣の問題が解決しました。
そしてそれは、あっという間にすべての要素を1本の物語につなげてしまったのです。
“破裂音”は“銃声”に結びつき、連鎖的に“カメラに仕掛けられた機械”と“矢張の証言の内容”を決定づけました。さらに、その証拠品を見つける際にアレを使えば、最後の見せ場を作る絶好の伏線になる!

‥‥胸がドキドキしました。
ガッシリと重い、ホンモノの手ごたえ。
まちがいない。これなら、書ける! 

“逆転、そしてサヨナラ”。
本当にラッキーなことに、今までで一番の自信をもって書き始めることができました。
‥‥完結に向けて、ついに最後の旅が始まったのです。