「トノサマン (1)」
“逆転のトノサマン”‥‥このシナリオには、ちょっとした歴史があります。
ふたたび時はさかのぼって、2000年6月。逆転チーム結成の、約3ヶ月前。
ぼくはそのころ、ディノクライシス2というゲームを必死で作っていました。
『次回作に探偵ものを』という話をいただいたのは、そんなある日のこと。
ディノクライシス追い込みのかたわら、脳のかたすみで、コッソリ物語を考え始めました。
●コミカルな雰囲気
●パッと聞いて、おもしろそうな舞台
●ナマナマしさのない、浮世ばなれした事件
これが、ぼくの理想的な物語のイメージでした。
リアルな事件はニガテです。なんの救いも解決もあり得ない、ひたすら暗いキモチになるばかり。
シナリオ執筆期間中は、いっさいニュースは見ないようにしていました。
さて。イメージに合う舞台を考えて、“これだ!”というシチュエーションを1つ、思いつきました。
お子さま向けヒーローアクション番組の撮影現場。
正義のヒーローが、悪の使者を本当に殺してしまう物語。
‥‥おお、なんかおもしろそうです。というか、これ以外にはあり得ない!
そこまで思ったのには、理由がありました。
ディノクライシス2で、ぼくはあるテレビ監督に大変お世話になっていたのです。
スリムで長身で、ナイスミドルというコトバがピッタリ。
古くは連続ドラマ、最近は主に、子供向けのアクション番組で活躍されている、有名な監督さんです。
モノ作りに対する熱い姿勢や考え方など、さまざまな意味で感銘を受けました。
‥‥なにか、恩返しができたら‥‥
そんなことをチラリと思ったのです。
『監督に捧ぐ』というのも、ちょっとかっこいいかな、と‥‥。
そういうわけで、“ヒーローの殺人(仮題)”。
第一稿は、ニヒルでダンディでクールでスリムな二枚目の監督が活躍する、シブいオトナの物語でした。
主人公の探偵との、激しい頭脳戦。ラストで明らかになる、ほろ苦くも哀しい過去。
そして撮影現場にまばゆく交錯する、愛憎の光と影‥‥。
‥‥やがて、ディノクライシスのほうが大詰めをむかえたので、この物語は、しばらく引き出しにしまわれることに。
ふたたびぼくが構想ノートを引っぱり出したのは、数ヶ月後のことでした。
“逆転姉妹”を書き上げて、残りは2ヶ月しかない危機的な状況。
とにかく、時間がありません。構想メモをたよりに無我夢中で書き上げてみると‥‥。
あれほどニヒルでダンディでクールでスリムな二枚目だった監督は、いつのまにか
「ボク的にはヒット、かなあ(汁)」
とか言ってるし、かぎりなくクールでグッとくる物語は、かぎりなくシュールでゲッとなるものに。
‥‥ということで、監督に捧げるのは、今や永久に不可能。
本当に、それだけが心残りです。
いったい、なぜこんなことになってしまったのか?
‥‥その真相は次回、明らかに。