「全力疾走」

完成形が見えてしまえば、あとはもう、ひたすら作るだけです。
2月末に、プロローグが完成。
作業を並行させて“逆転姉妹”のシナリオも書いていたので、ぼくの作業は、残る2話ぶん。

それぞれの締め切りは、3話が4月10日、最終話が5月10日でした。
シナリオに合わせてキャラクターやプログラムを作るので、遅れることはできません。
1話、約1ヶ月。
これが、一般的に速いのか遅いのかはわかりませんが、ぼくにとってはまさに、シャレにならないペースです。

しかもこの頃、ぼくの頭の中では、登場人物たちが互いにうち解けてきて、勝手におしゃべりを始めていました。というか、しゃべりすぎ。
ちょっと自動販売機を調べただけなのに、なんでこいつら、10行も20行も雑談しなきゃならんのだ!
書いてるこっちは、限界まで追いつめられてパニック寸前なのに、カンジンのなるほどくんと真宵ちゃんは、ノンキに運動会の話なんかで盛り上がっている‥‥。おまえら、早く証拠さがしにいけよ!

‥‥あまりに話が進まないので、何かを調べたときの会話は最後に回すことに。
時間の許すかぎり、好きなだけしゃべらせています。

また、1話ごとに、その規模も内容もすべてが前話よりレベルアップしていなければダメだという強迫観念もあって、これにも相当、苦しみました。
当然、物語は後半どんどんふくれあがって、必要なトリックの数もウナギのぼり。最終話なんて、永遠に終わらないのではないかとホンキで冷や汗をかきました。

幸か不幸か、ロムカートリッジの容量とスケジュールの関係から、今回は4話で打ち止め。しかし、あと1話あったら! ‥‥少しウスくなりかけているというウワサの(あくまでウワサの)ぼくの頭髪は、キレイに抜け落ちていたことでしょう。

でも、死にもの狂いで書いたシナリオに、みんなも精いっぱい、こたえてくれました。登場人物たちは表情豊かに動き、音楽や効果音は想像以上に物語を盛り上げています。プログラマーも、細かいシナリオの修正・調整を最後までくり返して、ベストを尽くしています。

3ヶ月間の、全力疾走。
‥‥5月15日、『逆転裁判』はついに、スケジュールどおりに完成しました。
あとは、1ヶ月かけて、プログラムやシナリオのミスを修正・調整するだけ。

ブラックホールのように超高密度で、そして漆黒の3ヶ月でした。