「終幕」

最終回です。
『逆転裁判』発売前後の3ヶ月間、時には自慢めいた話もしてしまいましたが、お楽しみいただけたでしょうか。

このゲームには、自分のすべてが詰め込まれているかのような錯覚をおぼえます。
まず、ミステリー。
‥‥小さいころから現在まで、それ以外の小説は1冊しか読んだことがありません。
(その1冊は、ディノクライシスを作るために読んだ『ジュラシック・パーク』)
今回、大好きな“ミステリー”に精いっぱいの愛情表現をしました。

次に、凝り性な性格。
‥‥1話ごとにふくれあがってく、エピソードやトリック。
ぼくには、なんとなく、過去を超えなければイカンという強迫観念があります。
その証拠にホラ。このコラムも、第1回から少しずつ、長くなってきているではないですか!
(‥‥実はこのオチをつけるためにワザとやってたのですが、その時点でヤッパリ凝り性)

そして、コメディー。
‥‥ぼくにとって、最高のエンターテイメントは“笑い”です。
よく笑う人、笑わせるのがうまい人、ヘタでも笑わせようと努力してくれる人‥‥。彼らと、いい笑いを共有していきたいと思います。

‥‥コメディーといえば、ぼくが小学2年生のころ、こんなことがありました。
校庭で遊んでいたぼくは、ゴミ捨て場に落ちていた貯金箱を拾ったのです。
中には、5円玉が1個。何の気なしに、それをポケットにしまいました。

翌日。ぼくは知らないクラスの、知らない女の子の前に立たされていました。
知らない先生が、ぼくに向かって何かどなりつけています。
「ドロボーしちゃダメでしょ! ホラ! きちんとあやまりなさい!」
‥‥どうやら、その子の貯金箱が盗まれたらしい。そしてゴミ捨て場で、その貯金箱をいじっているぼくが目撃された‥‥
あとになって話を総合すると、恐らくそういうことだったようです。

‥‥ちがう! ぼくじゃない! ぼくは、拾っただけなのに‥‥

小さなぼくのアタマの中は真っ白。もう、ワケがわかりません。
「早く、あやまりなさいッ!」
ヒステリックな教師の声。
見知らぬクラス中の視線が、冷たくぼくに突き刺さります。
「‥‥ごめんなさい」
泣きながら、見知らぬ女の子に頭を下げました。何度も。
くそいまいましい5円玉1個のために。

そのクラスに御剣怜侍がいなかったため、ぼくは弁護士にはなりませんでした。
そのかわり、それをネタにしてシナリオを書き上げることができました。
まあ、これでヨシとしましょう。

なるほどくん、真宵ちゃん、千尋さん、御剣検事、そしてイトノコ刑事。
きっと彼らは、あれからも戦いつづけ、そして笑い合っているはずです。
いや、もしかしたら、イトノコあたりが捕まっているかもしれません。

『逆転裁判』のラストシーンがああなったのは、大好きなあの世界が完結することなく、いつまでもいつまでもつづいてほしかったからなのです。

さて。最後はやはり、成歩堂ばりの幕切れでお別れしましょう。

‥‥これで、ぼくの物語はおしまいだ。
新米弁護士たちに別れを告げて、ぼくは今、新しいページをめくり、新しい物語を生きている。
‥‥そう。新しいカオぶれで‥‥

それではこの辺で、コラムを終了したいと思います。
最後までおつきあいくださったみなさま、どうもありがとうございました。