月極トップクリエイターの仕事場 巧舟氏インタビュー

Web archive/2010年6月~7月
消えつつあるネット上の貴重な資料を公開。


【仕事場】ゲーム会社を受けたのは友人のおかげ

★デジペディア 月極トップクリエイターの仕事場

2010.06.11

 ■『ゴースト トリック』ディレクター 巧舟氏 第1回「就職のきっかけ」

 『逆転裁判』や新作『ゴーストトリック』のディレクターを務めました巧舟と申します。さて、1回目は僕の学生時代の話をしたいと思います。

 小さな頃、僕は本が好きなおとなしい少年でした。もっぱらミステリーです。ポプラ社のアルセーヌ・ルパンや江戸川乱歩の小説を読み漁っていました。でも、小学生の頃は藤子不二雄先生になりたかったなぁ(笑)。ベレー帽をかぶっている姿に憧れて…。それもあって、中学では美術部で絵を描いたり、高校に入ってからはギターですね。普通にアコギがやりたかったんですけど、古典ギター部という、バッハを合奏する部に入っちゃって…。で、大学では、マジックサークルに入りました。なんだか節操ないようですが、僕の青春は、ミステリーと音楽とマジックで構成されています。

 それで、就職先はミステリーに関わりたくて、出版社を中心に受けたんですが、軒並み落ちてしまいました。そんなとき、大学の友人で、現在セガでディレクターをしている田中俊太郎くんが、就職活動用にゲームの企画書を作っていたんです。僕はゲームに詳しくなかったんですが、彼がすごく楽しそうなので、ちょっと受けてみようかな、と思ったのが就職のきっかけですね。カプコンは、俊太郎くんのオススメでした。まぁ、当の本人はセガですけど(笑)。そんなわけで、俊太郎くんがいなかったら、僕は今ここにいないですね。

 結局、適当な感じで入ったゲーム業界ですが、よく考えてみると、ゲームには学生時代夢中になった文も絵も音楽も、すべて入っている。総合的な力が発揮できると、当時は生意気にも思ってました。でも、簡単ではなかったですね。続きは来週お話ししましょう。



【仕事場】僕の人生は出会いに支えられています

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2010.06.18

 ■『ゴースト トリック』ディレクター 巧舟氏 第2回 「出会い」

 前回も話に出ましたが、進路を決めてくれた大学の友人、田中俊太郎くんをはじめ、僕は割と出会いに恵まれています。カプコンに入社してからは、『バイオハザード』の三上真司さんと出会ったのが大きかったですね。

 新人の頃、僕は使えないダメなコでした…。当時は空気も読めなかったので、怒られているのに気がつかなかったことも。それでも三上さんに拾っていただいて、『ディノクライシス』という恐竜を撃つゲームでディレクターを任されました。ところが僕、恐竜といえばステゴサウルスしか知らなかったんです。慌てて『ジュラシック・パーク』を見て勉強しました(笑)。

 『ディノクライシス 1』は僕の暗黒時代でしたね。初めてのディレクターだったので、チーム内の役回りがわからず、どうしても孤立してしまう。結局、ディレクターを降ろされてしまいました。

 でもありがたいことに『2』でもう一度チャンスをもらい、そこで満足のいく仕事ができた。僕にとっては、1回派手にコケたのがよかったと思います。

 『2』の制作にメドが立ったある日、三上さんから「恐竜を知らないのに3年間ありがとう。今度は好きなものを作っていいよ」と言われて作ったのが『逆転裁判』です。『逆転裁判』でも、いろいろな出会いがありました。人気のキャラクターは、今はマンガ家をしているスエカネクミコさんが、ポップでライトなテイストにこだわって描いてくれたものですし、作曲家の杉森雅和さんの音楽もとてもよかった。今回の『ゴースト トリック』は原点回帰して、杉森さんと10年ぶりにタッグを組んでいます。どうやら僕の人生は出会いに支えられているようです。


【仕事場】ミステリー小説がゲーム作りに生かされました

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2010.06.25

  ■『ゴースト トリック』ディレクター 巧舟氏 第3回 「ミステリー」

 僕はミステリー小説しか読まないんですが、始まりはちょっとした勘違いからでした。小学生の時、『ルパン三世』のアニメをよく見ていて、小説版と勘違いして買ってもらったのがポプラ社の「怪盗ルパン全集」シリーズ。ところが「ルパン三世が出てこないじゃないか!」と驚きました。でも、そこから『シャーロック・ホームズ』を読むようになって、エラリー・クイーンやディクスン・カーにハマっていきました。海外のものだと、チェスタトンの『ブラウン神父』シリーズが一番ですね。あと、テレビだと『刑事コロンボ』がご多分にもれず大好きです。本格派のミステリーで、どちらかというと、変な発想で驚きを与えてくれるものが好み。

 ミステリーを読んできた経験は、僕がディレクターをした推理アドベンチャー『逆転裁判』にもつながっていますね。幸運にも若くして好きなゲームを作らせてもらう機会に恵まれたんですが、この際だから思い残すことがないようにしようとミステリーをテーマに決めました。

 プレイヤーが遊ぶという観点から、どうしたらミステリーが一番面白くなるか…。思いついたのが、犯人がミスしたところに矛盾したアイテムを突きつけるというシステムです。僕は、法廷劇でいうとガードナーの小説『ペリー・メイスン』が大好きなんですが、犯人を暴く瞬間、すごく盛り上がるんですよね。ゲームでは法廷劇はなかったのでこれは狙い目だなと。この時点で、どういうゲームになるかが見えました。

 ただ、ここまでシリーズが続くとは、考えていなかったですね。流行りとは関係なく、自分の好きなものを作ろうと思ったのがよかったんでしょうか。


【仕事場】面接でマジック披露して合格しました

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2010.07.02

 ■『ゴースト トリック』ディレクター 巧舟氏 第4回 「マジック」

 僕の特技はマジックです。ミステリーファンは結構パズルとかマジックとか好きだと思うんですけど、僕も同じですね。驚きがあるというのが好きなんです。今作もミステリーですからその糧となっていますね。

 大学ではマジックサークルに所属していました。合宿して、みんなでハトを消したり、テニスをしたり(笑)。僕は手先を使うスライハンドマジックが得意で、鏡の前でずっとカードを使ってストイックに練習していました。地味ですが、飽きなかったですね。

 マジックには「ルーティン」という考え方があります。お客さんにお辞儀をしてから帰るまでの行動をどう組み立てるか。例えば四つ玉という演目なら、まず玉が1個出てきて、最後は4個になるんですが、途中で2個になったり消えたり、そのすべてに意味があります。見ている人たちをもっとも効果的に驚かせる、というのはもちろんですが、演じるこちら側の都合もあるわけですよ。ここで秘密の仕込みをするためには、観客の視線を反対側に集めなくちゃいけないとか。表の物語と裏の物語が重なり合う。僕はマジックのそういうところが好きなんです。

 これはミステリーを組み立てるときも同じです。みなさんが見ている物語の裏側で、仕込みをする。そこをいかにスムーズにするか。ルーティンの組み立てはマジックをしていて身についたものです。

 実は、カプコンの面接のときも、マジックを披露しました。ネタを仕込んで、面接官の前でやると受けるんですよ。ただ、その後、必ず種明かしを求められる。ネタばらしは御法度なんですが、就職したかったのでちょっとバラしました(笑)。それで合格したわけじゃないと思いたいですが…。


【仕事場】シンプルだけど引き込まれるミステリー

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2010.07.09

  ■『ゴースト トリック』ディレクター 巧舟氏 最終回 「群集劇」

 先日、新作『ゴースト トリック』が発売されました。僕の最終回は、今回のゲームの話で締めたいと思います。

 『逆転裁判』は、事件を調べて解決するミステリーの王道のような話だったんですけど、今回はミステリーの別の面白さ、群集ミステリーを描いています。ゲーム画面にキャラクターが大きく表示されるのではなく、たくさんの人たちがわらわらと同じ画面の中で動くようにしたい。彼らも小さいながら、一生懸命生きていて、謎とか闇を抱えている。そんな話を作りたいと思って考えました。

 今作の『ゴースト トリック』もそうですが、ゲームを作るうえでいつもこだわるのは、なるべくシンプルにすること。例えるなら、実家の母でも遊べるくらいの(笑)。だから、『逆転裁判』でも、セーブやロードという言葉を使わず「記録する」に言い換えるようにしました。『ゴースト トリック』も、「トリツク」と「アヤツル」、この2コマンドで基本的には進めるようになっています。作り手としては挑戦しがいのあるタイトルでしたね。

 シンプルに「トリツク」、「アヤツル」だけで、どれだけ違った見せ方ができるか。プレイした人はいかがでしたでしょうか。僕自身も非常に刺激を受けました。

 もう一つ工夫したのは、キャラクターの動き。あえてリアルではなくマンガっぽくしたかったのでデータ上で3Dの人形を作って、それをドット絵に変換して、一つひとつ手で動きをつけました。滑らかな動きは見ているだけで引き込む力があると思います。

 オリジナル作に時間がかけにくいなかで、07年から制作させていただいてたタイトルです。ぜひ、画面の中の小さな人々の運命を見届けてください。